11 / 42
11 王立騎士団長(sideフルクベルト)
しおりを挟む半年前、世界樹を定期巡回中の団員から齎された報告に一瞬耳を疑った。
世界樹の傍に高濃度の魔力を感知したと。
どうやら人らしいと。
それを受け、調査をする事数回。
危険はなさそうだが状況把握は必要と、我が団所属のアイントラハトを向かわせることになった。
アイントラハトは私、騎士団長の三番目の息子でもある。
何故か小さい頃から世界樹の結界にすんなりと入れる体質で、その為今回も満場一致で選ばれた。
「世界樹の結界に受け入れられている者だ。危険はないだろうが十分注意するように」
「は、任務遂行に尽力致します!」
格式ばった挨拶をしたあと、頭を撫ぜて、気を付けるように言う。
父親として無事を祈る。
ワイバーンで去って行ったアイントラハトを見送ってから執務室に戻った。
「───お疲れさん、フルクベルト団長」
「・・・ああ、書類整理すまなかった。助かった」
執務室では留守にした私のかわりに書類整理を手伝ってくれていた副団長のエンドルフィンが出迎えてくれた。
私とは幼馴染みの腐れ縁である。
気心が知れて気安い間柄だ。
「・・・今回の調査は、初めての案件だな」
「ああ、アルトなら問題なく遂行出来るだろうが・・・何か、予感めいたモノがあるんだよな」
お互い、手を動かしながら雑談をする。
「お前の予感って良くあたるよな。大丈夫なのか?」
「・・・悪い感じでは無いんだ。どちらかというと、アルトに対してプラスに働くような・・・?」
「ふーん。なら良いんじゃないか?」
「そう、だな」
歯切れ悪く言う私にエンドルフィンはニヤリと笑って言った。
「お前もいい加減子離れしろよ?」
「───良い度胸だ。午後の訓練を覚えておけよ」
「うわ、藪蛇だった!」
賑やかな声が執務室の外にまで響いていた。
「またやってるよ、団長達」
居合わせた団員達は聞こえた声に苦笑していたとか。
宣言通り午後の訓練でエンドルフィンを叩きのめした後、シャワーを浴びて着替え直した私はピンピンしているエンドルフィンと共に執務室に戻った。
休憩でお茶を飲んでいるときに腕輪がアルトからの通信を受信した。
エンドルフィンに目配せをして人払いをし、執務室の防音結界の魔導具を作動させると同時に、自分達の周りにも魔法で防音結界を張る。
「・・・はい、ああアルトか。守備はどうだ、接触出来たか?」
〔はい。すでに接触済みです。彼の家にいます〕
「・・・彼? 家に?」
エンドルフィンと顔を見合わせる。
アルトはすでに対象と接触していた。
その上、家にいる?
世界樹の傍に家を持っているのか?
〔名をジェイド・カムイと。見た目は俺より年下の森人でした〕
エルフ?!
詳しく話を聞くと、どうやら記憶喪失らしいことが分かった。
そのカムイと言う彼に乞われて、泊まる約束をしたと・・・。
「・・・分かった。数日間滞在していい。だが最低でも一日一度は連絡を入れろ。何か危険があれば・・・お前だけでも帰ってくること。良いな?」
〔・・・・・・了解しました〕
そう言って通信を切ったが。
「アレは、放って一人で帰ってくる感じじゃないね」
「だろうな」
───しかし森人か・・・・・・。
世界樹に滞在を許されているなら危険人物ではない。
そこに住んでいる方が逆に安全だ。
・・・・・・過去の森人達の悲惨な末路を思い出し、頭を抱える。
その彼も何か辛いことに巻き込まれて記憶を失ったのか・・・・・・?
「とにかく、アルトの報告を待つしか無いな」
魔法を解除し、残りの書類を捌いていると、フルクベルトの腕輪が再びアルトの通信を受信した。
慌てて人払いと防音結界を張って応答する。
立て続けに連絡など、何かあったのか?!
〔・・・高位森人だった〕
「───は?!」
〔彼、ハイエルフだった。希少種どころの話じゃ無かった〕
本当に希少種も希少種。
エルフの中でもほんの一握りしかいないというハイエルフ。
〔俺、エルフは性奴隷になりやすいから気を付けろって、脅かしちゃって・・・・・・彼、真っ青に・・・・・・〕
「・・・・・・それは、当然だろう。危険を減らすために私だって教える」
〔・・・・・・俺、どうしよ・・・・・・父さん、どうしたら良い?〕
任務中にも拘わらず、私を父さん呼びするときは家族として助言を求めている時だ。
無意識なのだろうが・・・。
「───アルト、きちんと向き合って気持ちを通わせなさい。信頼を得るんだ。・・・頑張れ」
〔・・・・・・はい〕
「次は良い報告を待ってる。ではな」
通信を切って深い溜息を吐く。
───問題が一段と上がってしまった。
「ハイエルフ、だって?」
「・・・・・・王族になんて言えば・・・」
「まだ調査中なんだから、聞かれたら『まだ詳しいことは分かりません』でいいんだよ」
「・・・お前な・・・まあ、それでいいか。まだまだ情報不足だし」
「それよか、アルトは大丈夫なのか? ずいぶん肩入れしてる感じだったが」
先ほどの通信での落ち込みよう・・・。
思うところはあるが。
「まあ、大丈夫・・・・・・たぶん・・・・・・きっと・・・」
「───そこは言い切って欲しかったかな!」
わはははと賑やかな声が再び響いて、今日も平和だなと団員達は思った。
146
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に巻き込まれた料理人の話
ミミナガ
BL
神子として異世界に召喚された高校生⋯に巻き込まれてしまった29歳料理人の俺。
魔力が全てのこの世界で魔力0の俺は蔑みの対象だったが、皆の胃袋を掴んだ途端に態度が激変。
そして魔王討伐の旅に調理担当として同行することになってしまった。
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています
水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。
一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。
前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。
これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる