パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

文字の大きさ
13 / 42

13 温もり

しおりを挟む

※後半、凌辱を匂わす言葉が出ます。苦手な方、不快に思われる方は自衛をお願いします。





どうやら俺の言葉を噛み砕いて呑み込むのに必死な様子のアルト君。

年下だから君付け。ああ、でも呼び捨てでいいかな。
今のうちにおつまみを出しておこう。

「───取りあえず、えげつない部分は後にしよう。うん」
「あはは・・・じゃあ後は、何がヘン?」
「・・・それ、本気で言ってる?」
「うん」

キリッとした顔で言ってみたが、胡乱な目で見られた。
何故に?!

「はあ、あのね、称号って余程のことがないと付かないの。それなのに4個も付いてる。まだ26歳なんでしょ? 何をどうやったらこんなに付くんだ?」

えええ・・・。
だからそれがえげつないエルフE・Eなんだってば。

「でも、天涯孤独っていうのは分かってる。俺、今独りじゃん?」

これははっきりと言えるわ、ドヤ!

「・・・それ、胸張って言う事じゃないよね?」

ははは。
そうですね!

「精霊王って──」
「──それは精霊魔法コンプリートしたから?」
「・・・そうなんだ。生産王は……」
「たぶん物作りが好きで作りまくったから?」
「・・・へえ。じゃあ魔導王って──」
「──うーん、取得出来るだけ魔法を覚えまくったからだと思う」
「・・・はあ・・・」

聞かれたそばから返事を返すと、ぐったりしたアルトにシャンパンを勧める。

「ほらほら、美味しいうちにお酒もおつまみも食べようよ。俺、初めて飲むんだ。アルトと一緒で嬉しい!」
「・・・そうなんだ。うん、そうだね。楽しく飲もう。忘れて・・・」

にもの凄い含みを感じるが・・・。
取りあえず。

「かんぱーい」

ふふふ、誰かと一緒ってこんなに心が温かい。
向こうにいた頃も独りが多かったけど。

ここには誰も知り合いがいなくって、俺は本当の意味で孤独だった。

ネットもスマホもない。
気軽に連絡を取れるモノも無い。
人がいない。


寂しさを紛らわすように飲んで、どのくらい飲んだのか分からないほど・・・。

俺は酔い潰れて、いつの間にか優しい温もりに包まれていた。



「───はぁ・・・。初めてって言う割にはかなり飲んでたなあ」

酔い潰れて眠ってしまったカムイを抱き上げて一階のカムイの部屋に運ぶ。

見た目通りに軽いカムイは、力が抜けていても重さを感じさせない。

そっと下ろすと掛け布団をかけた。

生きているのか心配になるほど静かな呼吸で。

思わず口元に顔を寄せていた。

ちゅ。

カムイは起きない。

───これで26歳とか、見た目詐欺だろう。
口にしたお酒を思わず噴き出すほどに驚いたが、その後のステータスにも突っ込みどころ満載だった。

・・・ってなんだ。

めちゃくちゃ気になるが他も片付けねばと聞けば、疑問形ながら説明が入った。

一応納得の体を取って、早々に諦めた。
持ち帰り案件だな。


去りがたくてさらさらな青銀の髪を梳いていると、カムイが不意に身じろいだ。
そして魘されるように顔を顰めて呟く。

「・・・痛い・・・・・・止めて・・・やだっ・・・いや・・・助け・・・・・・」
「・・・カムイ?」
「いたい・・・いれないで・・・いや、くるし・・・・・・も、やめ・・・・・・っ死なせて・・・・・・っ」
「ッカムイ!!」
「───っ?!」

思わず体を揺すって起こしたら、ハッとしてカムイが目覚めた。

酷く怯えている。

だが、その目は虚ろでアルトを見ていない。
アルトの後ろに別の誰かを見ているようだった。

「───や、離して!! 帰りたい! 死にたい! 死なせて!!」
「カムイ!」

腕を振り上げて暴れるカムイ。
怪我をさせたくなくて手首を掴んで拘束する。
カムイの細い腕はアルトが軽く掴んでいるだけなのに直ぐに動かなくなった。

───これくらいの力で無力化される程か弱いのか・・・。
こんなんじゃ、あっと言う間に捕まって奴隷にされてしまう。

「俺、なんで生きてるの・・・・・・っいやだ! 触んなって・・・死なせて!! 俺をっ今すぐ、殺して・・・なんで、誰か、助けて・・・・・・誰か俺を殺して・・・・・・!」
「『眠れスリープ』・・・・・・カムイ、ごめんね」
「───? ぁ・・・る、と?」
「おやすみ」

錯乱して暴れるカムイを止めるために、強制的に魔法で眠らせた。
効くかどうか心配だったが、精神が弱っていたんだろう。
レジストされずに済んでホッとした。

酷い汗と涙で張り付いた髪を避けて額に口づけると浄化魔法で綺麗にする。


「───カムイの失った記憶、か?」

眠りに落ちる直前、俺を認識したようだったが、それまでの錯乱具合が酷い。

「殺してくれ・・・か」

『触るな、痛い、死にたい、殺して・・・』
悲痛な叫び・・・。

「虐待や性的暴行を受けた者がソレを思い出すたび、ああいった精神状態で暴れたり怯えたりしていたが・・・」

まさか、それで記憶を封じたのか・・・?

もしカムイが奴隷にはなっていなくても秘密裏に囲われて凌辱されていたら、周りは徹底的に隠すだろう。
森人の奴隷化や凌辱は大陸中で極刑に処される犯罪行為なのだから。

「───確認のしようがないか・・・父さんに聞いてみよう」

独りごちてふと見ると、カムイがアルトの服をぎゅっと掴んでいた。
ひとまず今は手を離して貰えそうもないので、カムイと一緒にここで寝させて貰おう。

朝、不安にならないように・・・・・・。





しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれた料理人の話

ミミナガ
BL
 神子として異世界に召喚された高校生⋯に巻き込まれてしまった29歳料理人の俺。  魔力が全てのこの世界で魔力0の俺は蔑みの対象だったが、皆の胃袋を掴んだ途端に態度が激変。  そして魔王討伐の旅に調理担当として同行することになってしまった。

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています

水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。 一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。 前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。 これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。

処理中です...