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1 魔導師は憂う
しおりを挟む「あー・・・・・・癒しが欲しい・・・」
誰もいない真っ暗な一室に静かに響き渡る声。
返ってくる返事なんて、当然、無い。
当の本人も分かっている。
だってこの執務室は彼専用で、彼以外誰もいない。
それに今は深夜をとうに過ぎて、あと数時間もすれば薄らと朝日が拝めるだろう。
---これが元旦なら、初日の出、ラッキー・・・なんて思うんだろうが・・・。
生憎とここは日本じゃない。
更に言えば地球でもない。
そう。
ここはアルナイルと言う異世界で、今いる場所は宮廷魔導師団がある王城の敷地内。
この執務室が今現在、俺の仕事場兼仮眠室。
攫うように無理矢理入団させられてはや4年。
激務で連日泊まり込み。
宿舎に帰ったのって、もはや何時だったか思い出せない。
・・・そう、どうやら俺は巷で溢れていた小説なんかの異世界転生というものをしたらしい。
---前世は真っ黒な会社と知らずに入社しひたすらサービス残業。
毎日終電にも乗れずに、当然家にはほとんど帰っていない。
・・・・・・今と大差ないな。
三十路を迎えた頃の深夜、パソコンの前で意識が途絶えたのを最後に記憶が無いので、おそらく過労死したんだろう。
そうして次に意識がはっきりしたのが、生後半年頃。
それまでは赤ん坊としてぼんやりとしていた意識が急に目が覚めたようにはっきりして、自分が孤児で、ここが神殿に併設された孤児院だと知った。
修道女や神官にお世話をされながらすくすくと育ち、色んな情報を集めた結果、俺の母親は俺の出産直後に儚くなったそう。
どうやら訳ありっぽいが、神官達はそういう個人情報は外部に漏らさないようだ。
神様の教えで、助けを求めてきた者には救いの手を差し伸べるとか。
それって悪人でもそうなの?
偽善って言われない?
そう思っていたら、どうやら神殿には結界があって、特に神様を奉るところには悪意ある者は入れないんだそうだ。
魔法?!
なにそれ、すげえ!
それをきっかけに魔法に興味を持った俺は、神殿にある書庫にこっそり潜り込んでは魔導書を読み漁った。
もちろん他の本も読んだけど。
転生チートなのか、文字は教わっていないのに読めたし書けた。
ラッキー!くらいの感覚で夢中になって読んでいたら神官長に見つかって、困った顔で『お勉強するかい?』って聞かれて即答した。
・・・その時、俺は2才だった。
よく考えれば、2才で絵本じゃなくて魔導書読んでたら気味悪がられるよな。
なのに困った顔で頭を撫でるだけで、何も言われなかった。
暫くあとで、神官長は俺の母親の素性を知っていて、更には俺が歳のわりに気味悪いほどに物分かりが良いことに理解があったことを知った。
そんなわけで神官長を始めとする皆が暇を見つけては俺に色々と教えてくれた。
やがて5才になり、神様から祝福を授かることになった。
この世界では小さい子供の生存率が低いため、5才になる前に亡くなる子供が多いらしい。
それで5才になってから祝福を授かることになったんだとか。
その日はたまたま俺しかいなくて、神官長が俺一人のために祝福の儀を執り行ってくれた。
『神様、俺、前世で楽しいこと何にも出来なかったから、今世では色々と楽しく生きたいです。この世界で頑張って生きていきます!』
【我が愛し子、セイリュウ。その気持ちのままに幸せに過ごすことを願いますよ】
そんなことを心の中で祈っていたら、神様のような威厳があって、でも優しい声が聞こえた。
どうやら何か祝福を受けたようで、神官長が驚いていた。
「? 神官長様?」
どうしたのかと声をかけたら、ハッとして俺に詰め寄ってきた。
「セイリュウ、『神の愛し子』。この祝福は隠しなさい。知られればお前を利用し、傷つける者が大勢現れるだろう。私は・・・私達はお前を苦しませたくはない」
「・・・神官長様がそうおっしゃるのなら、僕はその通りにします」
そう言うと、神官長は体から力を抜いてほっとした。
「・・・セイリュウは賢い子だから話そう。そもそも【神の愛し子】は数百年に一人現れるかどうかというとても稀少な祝福なんだよ。そこに存在するだけで周りを豊かにする。作物は育ち、天候も良く穏やかに、魔物の活発化も抑えられる・・・」
・・・・・・うわあ、それって、なんてチート。
「ここで重要なのは、【神の愛し子】が幸か不幸かなんて関係がないことなんだよ。祝福を持つ者がただ存在すれば良い。意識が無くても生きてさえいれば良いということなんだ。・・・セイリュウならこの意味、分かるよね?」
神官長は真剣な顔で言った。
俺は顔を真っ青にした。
だって、それで言ったら、例えば植物人間状態でも良いって事だよね?
殴る蹴る、凌辱したって四肢損壊したって、心臓が動いていれば良いんでしょ?!
囲われたら一生、飼い殺し・・・。
最悪の未来を想像して思わず神官長に泣きながら抱きついた。
「---いや、そんなのいや!」
「うん、だから私達も精一杯護るから、セイリュウも他言無用だよ」
「ん!! 絶対に言わない!」
そうして落ち着いた頃、セイリュウは別室で全裸になっていた。
「---んー・・・・・・あ、あった! ありました」
祝福を授かると体の何処かに紋様が浮かび上がるんだって。
俺のは左首筋、耳の下に魔法陣のような紋様が出た。
コレは魔法が使える祝福なんだって。
---俺、前世で30過ぎても童貞処女だったから・・・・・・って事っすか?
で、もう一つの【神の愛し子】の祝福は特別で、お城の文献と神殿の文献に残っている紋様で神様を表す桔梗の花が五芒星の中心にあるんだって。
それが何処かにあるはずなんだけど・・・・・・。
下着姿になっても見つからなくて、最後はええいとすっぽんぽんに。
恥ずかしいけど、俺は5歳児、神官長はお父さんみたいなものって思って足を抱えて見せたら・・・。
なんと、右太腿の付け根の内側辺りにひっそりと。
なんてエライところにつけとるんじゃ---!
「神の御配慮だろうね、見つかりにくいところにって。これなら一緒にお風呂に入っても目立ちにくい。色も肌に近いしね」
良かった、とホッとする神官長に、こっちも良かった良かったとひと安心。
とにもかくにも、こうして俺の異世界チート(全く望んでいなかったが)生活が始まった訳だ。
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