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16 宮廷魔導師団は焦る
しおりを挟むその日、宮廷魔導師団に激震が走った。
「---何? あの餓鬼が倒れた?」
セイリュウよりも10歳ほど年上の魔導師がそう報告を受けたのは、セイリュウが王都の防御結界の魔導具の定期点検と魔力充填に行った日の夕方頃。
本来なら十数名のチームを組んで行う作業だ。
実際、セイリュウが来るまではそうしていた。
そうしなければ修理や充填が賄えないからだ。
だがソレを、ぽっと出の14歳の餓鬼に押し付けたのだ。
嫌がらせのために。
結果、一人で難なく熟してしまったせいでやっかみが酷くなり、そのままセイリュウの仕事として押し付けたのだ。
自分から『無理だから助けてくれ』と言ってくればこちらの自尊心も満たされると。
だが一向に声はかからず、ならばと色んな仕事を押し付けるも、全て熟された。
こうなればほとんど意地である。
たかが平民の孤児の餓鬼一人どうなろうと構わないと、他の貴族籍の魔導師達も一緒になって寄って集って仕事を押し付け、それをセイリュウは黙々と熟し続けた。
そして4年後の今年、1カ月ほど前。
魔導師団団長が高齢の為、あの事故以来空席だった副師団長の席にあの餓鬼を指名してきて・・・。
他の魔導師達は憤った。
我らの方が長く在籍している。
経験も豊富だと。
何故、あんな孤児が、と。
しかし帰ってきた返答は・・・。
『4年前の功績が大きい』
---たったソレだけで?
我らの方が功績をあげているのに?!
大体4年前のそれも本当のところアイツがやったのか疑わしい。
現場はかなり混乱していたと聞く。
それに乗じて何かやったんだろう。
もしくはその事故自体が自作自演だったのかも。
だから我らはアイツを信用していない。
相応しくない!
そう叫んだ魔導師達は、もちろんセイリュウに仕事を押し付け続けてそれを横取りして自分の手柄にしてきた者達だ。
それを棚にあげて・・・否、その事をすっかり忘れるほどセイリュウから搾取するのが当たり前になっている貴族共だ。
---セイリュウは今までの仕事量に加えて副師団長としての仕事、更には高齢の師団長の分までも抱えることになり、ますます睡眠時間は削られ、元々おざなりだった食事までろくに摂る事も出来ず・・・。
補佐もいない。
本来身の回りに気を配るはずの護衛騎士すら職務放棄。
そんな生活の中、セイリュウの体はボロボロで限界だったのだ。
ロザリンドがいなければ死んでいてもおかしくはなかった。
そんなこととは露知らず、呑気に数件の書類や仕事を捌いて休憩時間にお茶を飲んでいた魔導師達。
セイリュウの事を聞いても・・・。
「あ、そう」
「遂にか!」
「やっとかー!」
「良かった良かった」
そんなことを口々に笑いながら言っている。
あまりの異常さに、伝達に来た王宮の事務官はセイリュウの事を伝えるとそそくさと去って行った。
「役に立たなくなれば、私達が次のポストを狙えるな」
「本当に良かった」
「副師団長になってから、思ったよりも早かったな」
はっはっは・・・と笑いながら職場から帰って行く魔導師達は、この後の地獄を知らなかった。
翌日、職場に着いた魔導師達が目にしたのは、自分達の机の上に置かれた書類の山。
それも一つや二つではない。
全ての魔導師達の机に、ペンも置けないほどみっちり積まれているのだ。
「---な、何だこれは?!」
「私達の机もです!」
「一体どういう事なんだ?!」
そう怒鳴っている側から書類の山を運び入れる事務官達。
「はいはい、とりあえずこれが最後かな? あぁ、スペースが足りないなあ。この上に重ねちゃって」
「はい」
テキパキと他の事務官に指示を出す男に魔導師の一人が声をかける。
「---おい、お前! これは一体何なんだ?!」
「何だと言われても・・・これは貴方方の仕事の書類ですよね? ほら、ここに貴方の名前で作成してあります。皆さんのも、まだまだありますから今日中にお願いしますね」
「・・・・・・は?」
差し出された書類には確かに自分の名前が書いてある。
他の魔導師達もそれぞれ目を通すと確かに名前があった。
それを見て漸く、これらが、自分達がセイリュウに押し付けていた書類だと気付いた。
「聞いてないんですか? それとも忘れちゃいました? 副師団長殿が倒れたと昨日言いましたよね? しばらく静養が必要と診断されましたので、その分もお願いしますよ」
「ハア?! 何故あんなヤツの」
「あんなヤツ? え? 聞き間違えました? 副師団長殿の事ですか? 貴方方の上司ですよね? 不敬じゃ無いですか?」
「---え、いや、その」
「---そもそも! 診断書が間違いなんじゃ無いのか?! どうせ適当に書かせてズル休みなんだろう?!」
他の魔導師も唾を飛ばしながら叫んでいる。
それを耳を塞ぐ仕草でしれっと返す事務官。
「診断書はオーディン公爵家の主治医からですが何か? 彼の方は宮廷医師団の元医師団長ですが? お疑いなら公爵家に問い合わせて下さい」
「・・・・・・っぐ・・・」
「---では、よろしくお願いしますね。貴方方は優秀なんですものね。これくらい毎日終わらせていますもんね! では」
最後に強調して出て行った。
あとに残されたのは机を埋め尽くす書類の山と茫然自失の魔導師達。
「---どうすんだ、これ・・・・・・」
「・・・・・・終わるわけ無い・・・・・・」
それでもやるしかないと一度は仕事に取りかかったが・・・。
「---無理に決まってるだろう---!!」
早々に匙を投げて、事務官達に追い立てられる日々が始まるのだった。
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