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42 穏やかな日常と少しの変化
しおりを挟むシュルツと番いになって、自身の前世などをカミングアウトしたあの日からひと月。
シュルツが相変わらず過保護な事以外は、特に変わり映えすることも無く穏やかな日々が過ぎていた。
その反面、樹希が知らないだけで精霊の森に干渉する輩は増え続けていた。
ソコはしかし、さすがというべきか精霊の森の結界がしっかり機能している上にシュヴァルツ公爵家の影警護達が排除&尋問で黒幕を吐かせて追い詰め、潰しまくっている為に今のところ被害は無い。
「しかしさすがに鬱陶しいな」
「・・・何か言った?」
「いや、何でもない」
樹希は森の巡回と浄化で草木達を癒し、精霊達にも揶揄われながらシュルツとのんびり歩いていた。
最近は危なく無さそうな場所だとシュルツが地面に下ろしてくれるので、一応気を付けながら歩く。
それでもふらふらするときがあり、そうすると転ぶ前にシュルツが手を繋いでくれるので転ぶ頻度はだいぶ減った。
シュルツが不在時には相変わらず転けるけども。
「今日はこの辺を浄化するね」
「ああ、無理はするなよ」
「これくらいは日常茶飯事だから大丈夫だってば」
そう樹希が言ったが、精霊達は心配そうにふよふよ翔んでいた。
『でもイツキ、今日はあんまり元気無いよね?』
『うん。なんとなーく、ぼーっとしてる気がする』
『いっつもぼーっとしてるけどね』
『ちょっとふらふらし過ぎ?』
精霊達の言葉にも今日はあんまりぷりぷり怒らない。
やっぱりぼーっとしているのだろうか。
首を傾げてぽつんと呟いた。
「・・・そう?」
「ああ、ちょっと体温も高い気がする。気のせいかと思ったが、精霊達がそう言うんだ。今日は止めておいたらどうだ?」
シュルツがそう指摘したからか、自覚したからか、何か急にふらふら目眩がしてきた気がする。
もしかして熱が出たかも?
「───うん、じゃあ、帰ろっかな・・・。ごめんね、木々達。また来るね?」
そう言って樹希がシュルツに振り返ると、ふっと力が抜けて崩れ落ちそうになった。
「イツキ!」
「・・・ぅあ・・・ごめん、シュルツ・・・急にキタ・・・」
「転移ですぐに戻ろう」
「・・・ん・・・」
抱きとめたシュルツが樹希を横抱きにして瞬きのうちにロッジに転移した。
急いでベッドに寝かせて衣服を脱がせて寝間着用のシャツを着せる。
おでこを触ると、先ほどよりも熱くなっていた。
「───ああ・・・何か、久しぶりに辛い・・・」
エルフに転生してから、こんなに具合悪くなったのって初めてかもしれない・・・。
「寒い・・・シュルツ・・・」
「ああ、抱き締めてやるからな」
そう言ってシュルツは装備を外してラフな格好になると、ガタガタ震えだした樹希を抱き込んだ。
「・・・シュルツ・・・ここに、いて、ね」
「ああ、ずっといるよ。安心して眠ると良い」
「・・・シュルツ・・・シュルツ・・・・・・」
「イツキ、大丈夫、大丈夫。側にいるから・・・・・・」
震えながらシュルツの胸元にしがみつく樹希をそっと撫でてやる。
しばらく震えていたが、今度は熱が上がりきったのか汗をかいてきたのでタオルで拭いて着替えさせた。
『・・・・・・イツキ、大丈夫?』
『今までこんなに具合悪くなったことなくて・・・』
『やっぱり無理してたのかな?』
『だからゆっくり、のんびりねって言ったのに・・・』
「・・・気が弛んだんだろう。幾ら精霊達がいるとはいえ、他に頼れる人はいなかったのだから。気を張っていたところに俺が現れて甘やかしているからな。・・・これは良い傾向だと思う」
テキパキと身支度を整えてやると、ホッと息を吐いて再びシュルツのシャツを掴んだ樹希。
「どのみち休息は必要だ。今がその時なんだろう。大丈夫、ゆっくり休めば落ち着くだろう」
『ソレなら良いけど・・・』
『竜の人、イツキをよろしくね』
『任せた』
『お願いね』
「ああ、任された」
そう言って笑うシュルツに安心して、精霊達はひとまず帰って行った。
そうして次の日には熱も下がったが、ソレから一週間ほど、前回の時のように軟禁生活が続いたのだった。
───その間もちょっかいをかける輩が大勢いたのは樹希には内緒である。
「・・・・・・鬱陶しい」
影警護達もそう思っているだろう。
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