60 / 101
59 ギルミアとぬいぐるみ
しおりを挟むノンノンがある意味生んだと言える子ウサギのぬいぐるみを、ゼクスの許可の元、イツキに魔法の付与を頼んで送り出してからおよそ30分後。
『ただいま戻りました』
そう言って影がぬいぐるみの片方をゼクスの執務室に持ってきた。
「おや、早かったね?」
『無事に付与して貰えたん?』
『恙無く。もう片方はイツキ殿が抱き枕にして午睡しております』
「何?! ソレは・・・・・・めちゃくちゃ可愛いヤツ!!」
『うん!! 絶対可愛いヤツー!! 見たい見たい見たい見たい見たい---っ!!』
ノンノンが興奮のあまり、手足をばたばたさせる。
思わず距離を取るゼクスと影。
うっかり当たろうモンなら怪我は必至。
最悪、窓や壁をぶち破って飛んでいく。
最凶の破壊神の二つ名は伊達じゃ無いので。
「落ち着きなさい、ノイン」
距離を取りつつゼクスが窘めると、ノインは我に返った。
『---ハッ!! 思わず・・・ごめんなー』
「気持ちは分かるよ。だけど向こうには気軽に行けないから、コッチで欲求を満たそう!!」
『---!! ギルミアちゃん!! そうだ、早くコレ持っていって渡そう! そんでもってぎゅってしてるとこ目に焼き付けよう!』
「アハトがソレを許してくれたらね? じゃあギルミア君の部屋に行こうか」
『らじゃ!!』
『・・・では私はこれで』
「『ご苦労様』」
万歳のポーズでウッキウキなノインと子ウサギぬいぐるみを抱えて、ゼクスは蕩ける瞳でノインを見つめながら部屋をあとにした。
少しして、現在ギルミアが使っている部屋・・・アハトの隣の部屋に着いたゼクスは扉をノックした。
「---はい」
「ああ、アハト、私だ。ゼクスとノインだ」
「・・・少々お待ち下さい」
そう言ってアハトが扉を開けてくれた。
片腕には眠そうなギルミアを抱えている。
「すまない。お昼寝の時間だったか」
「まあ、ちょっとなら平気ですが・・・母上、どうされました?」
「・・・・・・うたぎたん・・・」
寝惚けているのと、長年声を『はい』以外封じられていたために舌っ足らずな発音で、ギルミアは年の割に幼い感じがする。
そしてうさぎさん、と上手く言えていないところが、3人をめちゃくちゃ萌えさせた。
『うん。うさぎさんだけど、ゼクスの奥さんでアハトとシュルツのお母さんなんだよ。ノインって言うの。ノンノンって呼んで』
「・・・うー? ・・・のんのん? あはとのおかーたん?」
『---!! かわっ! うんうん、そーなのよ。だからアハトの番いのギルミアちゃんもノンノンとゼクスの子供なのよー! おかーたんって呼んでも良いのよー!』
「・・・おかーたん?」
「「ああー! 可愛過ぎるー!!」」
ギルミアとノインのやり取りをポカンと見ていたアハトは、我に返るとゼクスに詰め寄った。
「父上?! 母上が喋ってるんですが?! 何時からぬいぐるみを辞めたんですか?! ていうかやっぱり母上なんですか!! めちゃくちゃややこしいけれども!!」
「・・・うん。お前も落ち着こうね? ・・・そういうところ、ノインにそっくりだよねえ・・・」
苦笑してアハトを宥めるゼクス。
その間にノインはギルミアに子ウサギぬいぐるみを渡していた。
『コレねえ、おかーたんからのプレゼント。イツキちゃん・・・ギルミアちゃんの義理の弟になる子にもあげたの。君を護ってくれるからね、一緒にいてあげてね?』
「・・・・・・ふああ・・・・・・やらかい・・・・・・ありあと、おかーたん」
そう言ってもふっと顔を埋めてうとうとし始めたので、ゼクスとノインはそっと離れた。
「アハト、ノインの手作りだ。性能はノインよりも劣るが、魔法と物理耐性、状態保存の魔法がイツキによって付与されてる。常に側に置くように。もっとも自力で動くけどな」
そう言って苦笑した。
『ソレもだけど、可愛い子が可愛いぬいぐるみ抱っこって可愛いよね---!!』
再び興奮のノインに引きつつ、アハトはギルミアを抱き直した。
「・・・・・・ソレは、感謝します。ありがとうございます。じゃあ寝かせるので、これで・・・・・・」
アハトが扉を閉めようとして、ゼクスが思い出したように告げた。
「あっ、イツキが今度ウチに来てお茶しながらギルミアに会いたいそうだ。可能なら調整するから、彼に確認してくれ」
「---! 分かりました。後ほど・・・」
「ああ、じゃあな」
今度こそ扉が閉まり、ゼクスとノインは去って行った。
寝室のベッドにギルミアを寝かせて、アハトは溜息を吐く。
「お茶会・・・。命令とは言え、一度は攫った相手だからなあ。イツキは気にしてないだろうが・・・ギルは・・・どうだろうか」
それにしても・・・。
「悔しいが母上の言うとおり・・・メタクソ可愛い・・・!」
ぎゅってされている子ウサギぬいぐるみが、イツキのところのフェアグリンと同じく、親指を立ててグッとした。
「---そういうところも母上そっくりだな」
アハトもシュルツのように笑った。
ギルミアはこのぬいぐるみにどんな名前を付けるんだろうな。
しっかり護ってくれよ。
アハトは穏やかに眠る愛しい番いの頬を撫ぜた。
632
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません
ミミナガ
BL
この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。
14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。
それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。
ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。
使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。
ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。
本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。
コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる