(仮)攫われて異世界

エウラ

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89 バー『月虹』の店主…だよね?

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囮作戦発言で散々お小言を食らった僕は、セリウム様達の邪魔にならないように、今日はもう帰ることにした。

「何かやれることがあれば、いつでも連絡をください」
「うむ、そのときは遠慮なく。ああ、危ないから、勝手に動かないように。オスクリタ殿と一緒にいるのだぞ」
「分かりました」

そう言って心配するセリウム様にちょっと照れながら、伯爵家をあとにした。
僕の戦闘力を知っているだろうに、当たり前のように心配してくれて、心がほわっとする。

「何か、気が抜けたらお腹空いた。そういえば、ナハトの用事は済んだの? ギルマスに呼ばれてたんだよね」
「ああ、大丈夫だ。そんなに急ぎではなかったし、ひと言断ってから席を外したから。腹ごしらえしてから、また行けばいい」
「うん、じゃあ、ラヴァのところに行こう」

すっかり常連と化したラヴァのお店に突撃。

「……あれ、今日は辺境伯様のところじゃなかったか?」

キョトンとしたラヴァにご飯を頼みながら、午前中のことを話した。

「へえ、ユラを、ねえ。ソイツら情報不足だな。どうみても無茶な依頼だろうに」

呆れたように言いながら、おっきなお肉の塊をフライパンで焼いていくラヴァに、僕も同意する。

「だよねぇ。余所者だとしてもさ、ナハトって有名人なんでしょ? 噂くらいは知ってるんじゃないのかな。僕がその人の番いってことも、すでに知れ渡ってるでしょうに」
「それが分かってて、一人になるときを狙ったのだろう。まあ、見通しが甘かったんだろう。ユラの言うとおり、暗殺者ソイツらは余所者だ」

ラヴァが確信をもってそう言うので、僕は首を傾げた。

「どうしてハッキリ分かるの?」

それにラヴァが、ん? と同じように首を傾げてから、ああ、と呟いた。

「実は俺、かなりの人脈を持ってて、裏黒いこととかたくさん知ってるんだぜ。だからあの魔石人のこととかも情報が集まってる」
「へえ、そうなんだ。確かに酒場って噂話とか情報収集凄そうだよね。向こうでも裏社会の取引とか色々とあったなあ」

僕は未成年ということもあって酒は飲まないけど、他の人に付いて護衛とかしてたから、よく知ってる。

酔うと口も軽くなるもんね。

「そうか、ラヴァはなんだね」
「ふ、格好よく言えばな。別にそれを生業にしてるわけじゃねえよ。情報屋から情報をもらうこともあるし。需要と供給で、必要なところには提供するがな。それに俺は、自分がイヤだと思う相手に情報は売らん」

そう言ってウインクするラヴァは、いつものお母さんっぽさはなくて、頼れるイケオジだった。

出来上がった料理を並べながら、ラヴァは教えてくれた。

「あの暗殺者を雇った子爵が手に入れた、例の魔石人の魔石な。闇オークションで手に入れたモノらしいぜ」
「おお、闇オークション。こっちもやっぱりあるんだねえ」

向こうでも法の抜け道を使ってよく開かれていたな。僕も護衛で行ったことが何度もある。あの独特の、高揚した空気感には、ついぞ慣れることはなかったが。

「基本、違法だがな。この街は領主様、つまり辺境伯様が幅を利かせてるから、ねえけどよ。子爵は商売してるから、自ら買い付けにも行くわけで」
「ああ、その行った先でたまたまか狙ったのか、闇オークションに参加して競り落としちゃったんだ。でも、よくあんな禍々しい状態のを出品できたね」

近寄りもできないほどの魔石だ。客の前に並べることなんてできないだろうに。

「それが出品者はどうやら、かなり腕のいい魔導師に魔石を結界で囲ってもらったらしい。で、子爵が購入したあとに結界を解除したら──」
「あの怨嗟の魔力ね。それで慌ててマジックバッグにでも放り込んだのかな」

マジックバッグの中なら、遮断されるもんね。まあ、見たり触ったりはできないけど。

「そうだろうな。子爵は当然、説明がなかったとか詐欺だと言って返品しようとしたが、相手は歴戦錬磨の闇オークションの支配人。勝てるはずもなく、新たに結界を張ってくれるような魔導師も見つからず、途方に暮れた挙げ句、森にぽいっ」

そう言ってカウンターの中から、モンブランみたいなケーキを僕の前に置いた。ぽいっと。

「やけに詳しいね。まるでその目で見てきたみたい。──ラヴァって、酒場の店主なんだよね?」

酔っ払いの噂話からの情報にしては、限度があるだろう。ガチで詳しすぎる。情報屋としての人脈があるって言ったって、絶対普通じゃない。
だからちょっとカマをかけたんだけど。

「ふふ、俺の語り、上手かっただろう? おっと、大根役者って言うなよ?」

ニヤリと笑ってはぐらかされた。うん、僕よりも一枚も二枚も上手だ。ツッコんでも何も話さないだろうな。
人生経験は僕の十倍以上あるもんね。僕なんか、ひよっこだよねぇ。

「ふふ、とーっても上手かったよ。役者になれるんじゃない? 転職したら?」
「俺は酒が飲みたくて酒場やってるから、絶対イヤだね。今はユラの飯炊きアニキだしな」
「アニキって……オカンの間違いでしょ」
「いやあ、一度はオカンで妥協したけど、やっぱり若く見られてぇ」
「無理だね」

美味しい料理と心配からのお小言で、これでオカンじゃなかったら何?

そう言って笑う。

ナハトは勝手に開けた赤ワインをグラスに注いで飲みながら、静かに微笑んで聞いていた。




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