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1 深い森に住む異世界人 1
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僕はこの深い森に現在、一人で住んでいる。
俺の名はユーリ・シャンティ。一五年前にここに住む魔法使いのエルリオ・シャンティという青年に拾われて育てられた異世界転移者だ。
日本人特有の黒髪黒目で、真っ直ぐな髪は腰よりも下までの長さがある。顔も日本人ぽくあっさりした堀の浅い顔だ。
当時は五歳で現在二〇歳。様々な魔法や薬草の知識を教えられ、今は息をするように錬金術で薬や魔導具を錬成できるようになった。
不思議なことにこの家の周辺、半径五〇キロくらいの範囲には結界が常時発動していて、いわゆる魔物は近寄らない。
拾われたばかりの頃にエルリオがそう教えてくれた。
エルリオいわく、この家の後ろに生えている、それはそれは大きな樹が自ら結界を張っているのだとか。
『へえ、まるで世界樹みたい』
『……ユーリはどこでそんな言葉を知ったんだい?』
『絵本で読んだの。すごく大きくて世界を護る聖なる力を持つ大樹だって』
齢五歳の子供がそんなことを言ったのでエルリオはふと、あることを思い出したらしい。
『もしかして、君はこことは違うところから来たのかな。伝承にはごく稀に異世界から人が落ちてくるとあったけど。ええと、他に何か知っていることはあるかい?』
そんな問いに僕は思いつく限りのことを話した。
自分は幼稚園の年中さんだとか、車や電車や飛行機のこと。病院の注射が嫌いなこと。好きな食べ物はカレーライスとオムレツだとか、どうでもいいようなこともたくさん話した。
『あとはね、パパとママが大好きでね、二歳になる弟がいてね、弟が可愛くてね……ぼく……帰れないの? お家にもう、戻れない? 会え……ない?』
話しているうちに自分の置かれている状況が何となく分かってきて、僕は涙ぐんでいたと思う。
『おそらくは。そうだ、君は、えっと何ていう名だい?』
『……っぅ……ぼく、優理……やさしいとことわりって意味の名前だって言ってた』
『ユゥリィ……ユーリ……すまない、この世界では発音しにくいようだ。優しい理──君がここに来たのは、呼ばれたんだろうな、この聖樹に』
エルリオがものすごく申し訳なさそうにそう言うので、僕は首をブンブンと振った。だってエルリオのせいじゃないんでしょ?
『これからは僕がユーリの親代わりになるよ。大丈夫。こう見えても僕はハイエルフでとても長生きだから、知識はすごいんだ』
そう言ってふんわりと笑うエルリオは綺麗な新緑色の優しい瞳を細め、薄い金色の長い髪を揺らしながら僕を抱き上げた。
『ハイエルフ……すごぉい! 物語の中でしか見たことない。初めて見た! そういえばお耳も長い!』
『……ふふ、よかった。涙が止まって。じゃあこれからよろしく、ユーリ』
『うん、よろしく。えりゅりお……うう、難しい』
『ああ、言いにくいか。僕のことはエルでいいよ』
『うん、エル』
こうして二人三脚での生活が始まり、怖くて寂しい気持ちがエルリオのおかげで薄れて、僕は前向きに生きられた。
森は結界もあったから悪いものは近寄れない。それ以前に森が深くて、ここまで辿り着けるような人はよほど力のある人か、もしくは唯一の番いだけなんだそうだ。
『番いって何?』
『うーん、自分にとって大切な唯一の相手、かな』
『好きな人ってこと?』
『好きがもっと、もーっと大好きで、離れたくないって思うことかな? ユーリにはまだまだ難しいかな。まあ、出会えば分かるよ』
当時の僕はそのとき小学生低学年くらいで、恋愛とかよく分からない子供だったから、エルリオの言葉に『家族の好きとは違うのかな』くらいしか思わなかったけど。
そして僕が二〇歳になったときに、エルリオの元に一人の青年が訪れた。エルリオ以外初めて会う、この世界の人。
エルリオがたまたま森の巡回中に出会ったらしいその青年は、二十代後半くらいの見た目のハイエルフでライトリーフと名乗った。
そしてエルリオを自分の唯一、番いだと言った。そのエルリオも同じことを言った。
──ああ、出会ったんだ。
さすがにこの歳になれば番いの意味も分かる。二人は僕の存在を忘れるくらいイチャイチャしていて、やがてエルリオが僕に言った。
『僕はこれからライトリーフの住む森に引っ越す。そちらで彼と一生を過ごすから、ユーリ、君とはお別れだ。ごめんね、たった一五年ほどでお別れなんて』
『ううん。エルのおかげで一人でも十分生きていけるから。何も恩返しできていないけど、エルには幸せになってほしいから、気にしないで』
僕がそう言って祝福すると、番いのライトリーフがすまなそうに言った。
『ごめんね。番い以外を連れてはいけないから、君を一人にしてしまうけど』
『いいえ。あの、たぶん僕がここに来たのってエルが貴方に出会うためだったかもしれないし』
そう、きっとエルリオが番いに出会ってこの森から去ったあとの代わりになるように僕が呼ばれたんじゃないかなって、今ならそう思う。
聖樹のお世話をする代わりの人が欲しかったんじゃないのかって。
だから大丈夫。僕はずっとここで暮らすから。
『だから気にしないでください。エルリオをよろしくお願いします。幸せにしてあげてください』
『ああ、もちろん』
『──っありがとう、ユーリ。時々、様子を見に来るね』
こうして慌ただしく引っ越しの荷をまとめると、エルリオを抱きしめてライトリーフは転移魔法で消えた。
転移魔法は制約があり、一度訪れた場所にしか転移できないんだって。だから彼はエルリオに会うためにこの森を歩いてきたらしい。
帰りは番いとともに転移で戻れるからと、気合いできたらしいよ。根性すごいな。
……こうして唐突に、前触れもなく、僕は一人きりになったわけだ。
俺の名はユーリ・シャンティ。一五年前にここに住む魔法使いのエルリオ・シャンティという青年に拾われて育てられた異世界転移者だ。
日本人特有の黒髪黒目で、真っ直ぐな髪は腰よりも下までの長さがある。顔も日本人ぽくあっさりした堀の浅い顔だ。
当時は五歳で現在二〇歳。様々な魔法や薬草の知識を教えられ、今は息をするように錬金術で薬や魔導具を錬成できるようになった。
不思議なことにこの家の周辺、半径五〇キロくらいの範囲には結界が常時発動していて、いわゆる魔物は近寄らない。
拾われたばかりの頃にエルリオがそう教えてくれた。
エルリオいわく、この家の後ろに生えている、それはそれは大きな樹が自ら結界を張っているのだとか。
『へえ、まるで世界樹みたい』
『……ユーリはどこでそんな言葉を知ったんだい?』
『絵本で読んだの。すごく大きくて世界を護る聖なる力を持つ大樹だって』
齢五歳の子供がそんなことを言ったのでエルリオはふと、あることを思い出したらしい。
『もしかして、君はこことは違うところから来たのかな。伝承にはごく稀に異世界から人が落ちてくるとあったけど。ええと、他に何か知っていることはあるかい?』
そんな問いに僕は思いつく限りのことを話した。
自分は幼稚園の年中さんだとか、車や電車や飛行機のこと。病院の注射が嫌いなこと。好きな食べ物はカレーライスとオムレツだとか、どうでもいいようなこともたくさん話した。
『あとはね、パパとママが大好きでね、二歳になる弟がいてね、弟が可愛くてね……ぼく……帰れないの? お家にもう、戻れない? 会え……ない?』
話しているうちに自分の置かれている状況が何となく分かってきて、僕は涙ぐんでいたと思う。
『おそらくは。そうだ、君は、えっと何ていう名だい?』
『……っぅ……ぼく、優理……やさしいとことわりって意味の名前だって言ってた』
『ユゥリィ……ユーリ……すまない、この世界では発音しにくいようだ。優しい理──君がここに来たのは、呼ばれたんだろうな、この聖樹に』
エルリオがものすごく申し訳なさそうにそう言うので、僕は首をブンブンと振った。だってエルリオのせいじゃないんでしょ?
『これからは僕がユーリの親代わりになるよ。大丈夫。こう見えても僕はハイエルフでとても長生きだから、知識はすごいんだ』
そう言ってふんわりと笑うエルリオは綺麗な新緑色の優しい瞳を細め、薄い金色の長い髪を揺らしながら僕を抱き上げた。
『ハイエルフ……すごぉい! 物語の中でしか見たことない。初めて見た! そういえばお耳も長い!』
『……ふふ、よかった。涙が止まって。じゃあこれからよろしく、ユーリ』
『うん、よろしく。えりゅりお……うう、難しい』
『ああ、言いにくいか。僕のことはエルでいいよ』
『うん、エル』
こうして二人三脚での生活が始まり、怖くて寂しい気持ちがエルリオのおかげで薄れて、僕は前向きに生きられた。
森は結界もあったから悪いものは近寄れない。それ以前に森が深くて、ここまで辿り着けるような人はよほど力のある人か、もしくは唯一の番いだけなんだそうだ。
『番いって何?』
『うーん、自分にとって大切な唯一の相手、かな』
『好きな人ってこと?』
『好きがもっと、もーっと大好きで、離れたくないって思うことかな? ユーリにはまだまだ難しいかな。まあ、出会えば分かるよ』
当時の僕はそのとき小学生低学年くらいで、恋愛とかよく分からない子供だったから、エルリオの言葉に『家族の好きとは違うのかな』くらいしか思わなかったけど。
そして僕が二〇歳になったときに、エルリオの元に一人の青年が訪れた。エルリオ以外初めて会う、この世界の人。
エルリオがたまたま森の巡回中に出会ったらしいその青年は、二十代後半くらいの見た目のハイエルフでライトリーフと名乗った。
そしてエルリオを自分の唯一、番いだと言った。そのエルリオも同じことを言った。
──ああ、出会ったんだ。
さすがにこの歳になれば番いの意味も分かる。二人は僕の存在を忘れるくらいイチャイチャしていて、やがてエルリオが僕に言った。
『僕はこれからライトリーフの住む森に引っ越す。そちらで彼と一生を過ごすから、ユーリ、君とはお別れだ。ごめんね、たった一五年ほどでお別れなんて』
『ううん。エルのおかげで一人でも十分生きていけるから。何も恩返しできていないけど、エルには幸せになってほしいから、気にしないで』
僕がそう言って祝福すると、番いのライトリーフがすまなそうに言った。
『ごめんね。番い以外を連れてはいけないから、君を一人にしてしまうけど』
『いいえ。あの、たぶん僕がここに来たのってエルが貴方に出会うためだったかもしれないし』
そう、きっとエルリオが番いに出会ってこの森から去ったあとの代わりになるように僕が呼ばれたんじゃないかなって、今ならそう思う。
聖樹のお世話をする代わりの人が欲しかったんじゃないのかって。
だから大丈夫。僕はずっとここで暮らすから。
『だから気にしないでください。エルリオをよろしくお願いします。幸せにしてあげてください』
『ああ、もちろん』
『──っありがとう、ユーリ。時々、様子を見に来るね』
こうして慌ただしく引っ越しの荷をまとめると、エルリオを抱きしめてライトリーフは転移魔法で消えた。
転移魔法は制約があり、一度訪れた場所にしか転移できないんだって。だから彼はエルリオに会うためにこの森を歩いてきたらしい。
帰りは番いとともに転移で戻れるからと、気合いできたらしいよ。根性すごいな。
……こうして唐突に、前触れもなく、僕は一人きりになったわけだ。
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