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本編
20.お返しのお返し
しおりを挟むシルバーは膝枕が好きだ。
俺の膝に顎を乗せて、頭から背中にかけて撫でられるのが気持ちいいらしい。以前は俺の膝の負担を考慮してたまにしかしていなかったが、ベッタリくっついて来るようになってからはほぼ毎日のように膝枕をしている。
そしてそれはヴァルトの姿であっても同じだったようで、頻繁に人間姿で我が家に訪れるようになってから割とすぐに膝枕を要求された。
ヴァルトは俺の家にやって来ると、ソファの端に座り、ちょいちょいと手招きして俺をその反対側に座らせる。そして俺の膝に頭を預けて仰向けになる。そこからはお菓子を摘みながらポツポツと他愛のない話をしたり、そのまま眠ったりというのがここ最近のお決まりコースだ。
最初はガチガチに固まっていた俺だったが、2日に一回は家にやってきて膝枕を要求され続ければ流石に慣れもする。今ではヴァルトの髪を梳いたり撫でたりして、随分とリラックス出来るようになった。順応性って怖いよな。あの掌キッス以降、最初はめちゃくちゃ警戒してたけどあの日以降は友人の枠を超えるようなスキンシップはパタリと途絶えたので、ホッとしたやら拍子抜けしたやら。
そんな訳で今日も俺の膝にはヴァルトの綺麗な銀髪が広がっている。髪が細いのか、指で梳くとまるで絹糸のようにサラサラとこぼれ落ちていく。シルバーの毛並みとはまた違う感触なのが不思議だが、それぞれの良さがあってどっちも好きだ。
「ほんとにヴァルトの髪ってサラサラだよな。俺の髪、跳ねやすいから羨ましいよ」
「そうか?」
ヴァルトは徐に俺の前髪を指先で掬うと、その感触を確かめるようにクルクルと指先で遊びはじめた。
「ケイトらしくていいと思うけど」
「俺らしいって何だよ」
「ふわふわで柔らかい感じ」
「えぇ?それ褒めてんの?」
「褒めてる。俺は好きだけどな、ケイトの髪」
「うっ………そりゃ、どうも……」
お綺麗でクールな面立ちをしているくせに意外と直球っていうか、何の躊躇いもなく好きとか言ってくるから油断してるとこんな感じで不意打ちで心臓が撃ち抜かれる。
俺の照れ臭さを感じ取ったのか、ヴァルトはフッと笑って俺の頭を撫でてきた。それがまるで拗ねる子供を宥める親みたいでちょっとイラッときたので、お返しにグチャグチャに髪をかき回してやった。ボサボサになった頭を見たら溜飲が下がったので元に戻してやる為に再び髪を梳く。すると、次第にシパシパと瞬きが増えていき、少しずつその間隔がゆっくりになっていく。眠い時の合図だ。
その眠いときの癖がシルバーの時と同じで、こういうのを見ると改めてシルバーとヴァルトは同一人物なんだなと実感する。
今日はこのまま昼寝コースかな。
ヴァルトの瞬きに合わせてゆっくりと頭を撫でていると、予想通りヴァルトの瞼は完全に閉ざされた。穏やかな寝息が聞こえてきたので撫でる手を止めて、その寝顔をじっと見つめる。
「まつ毛ながぁ……」
瞼に縁取られた髪色と同じ銀色のまつ毛は、目の下に影を生み出すほどに長い。先っぽのほうを指先でチョチョイと触れるとピクンと瞼が震えたが、また穏やかな寝息を立てる。それが面白くて何度か同じようなことをしていたら、やはり鬱陶しかったらしく眉間に皺を寄せてこっちを睨んできた。
「ごめんって、もう邪魔しないから」
「………」
ジトっとした目で睨まれて苦笑い気味に謝ったが、案の定信用できなかったのだろう。ヴァルトはのっそりと身を起こすと、急に俺の手首を引っ張った。
「うわ!!」
バランスを崩した結果、そのままソファに横になったヴァルトの上に乗っかるような体勢になってしまった。慌てて身を起こそうとしたが、それをヴァルトによって阻まれてしまった。両腕で抱き締めるように胸の中に抱えられて、足も絡めとられて身動きが出来ない状態だ。
「ちょっ、ヴァルト!?」
「……大人しく寝てろ」
俺を抱えたまま眠そうにあくびを零したヴァルトは、俺を宥めるようにトントンと背中を撫でてくる。まるで寝かしつけるような仕草だが、突然の密着度合いに密かにテンパってる俺には全く通用しない。
なんか、いい匂いする……。
シルバーの時に使ってるボディソープとはまた違う匂い。優しくて甘い匂いはヴァルト本人の匂いなのだろうか。ドキドキと心臓は落ち着かないけど、その香りを嗅ぐと何だか安心する。
無意識のうちにすうっと香りを吸い込んで、ヴァルトの首元に額を押し付ける。
すると、背中を撫でていたヴァルトの手が止まった。不思議に思って顔を上げようとしたとき、頭のてっぺんのところでチュッと音がした。
「あ……」
今、頭にキスされた?
そう認識した瞬間、それ以上顔を上げられなくなってしまった。ジワジワと体温が上がっていく。多分今、俺の顔真っ赤だ。鏡を見なくても分かる。
カチンと固まってしまった俺に対して、ヴァルトは気にした風でもなく、再び頭の上でリップ音を鳴らした。スルリと首の後ろに手が回って顔を上げさせられると、今度は額に唇が触れる。柔らかく、微かに濡れた感触が生々しくて、思わず目を瞑った俺は完全に固まってしまった。
フッと空気が動いた気配がした。
多分いま、ヴァルトが笑った。
そして今度は瞼にチュッと口付けをされる。
「ヴ、ヴァルト……!」
「ん?」
「こんなことされると、寝れない……」
もう顔は上げられなくてヴァルトの胸に突っ伏すようにしてしがみ付くと、クスクスと控えめな笑い声が聞こえてくる。
「まぁ、寝かせる気ないからな」
「~~~ッ」
「冗談だ。ほら、もう何もしないから寝ろ」
再びトントンと背中を撫でながら寝かしつけようとしてくるヴァルト。しかし、当たり前だが今の俺に眠気なんてものはやってこない。
とにかく恥ずかしくて心臓が痛い。
ヴァルトに触れられたところ全部が熱をもったように熱い。
ヴァルトはなんでこうも思わせぶりな行動ばかりしてくるのか。おかげで俺の心臓は、毎日の生命活動ノルマ以上に働かされて大忙しだ。
そう考えていると段々腹立たしい気持ちになってきて、何かヴァルトに仕返ししてやりたいと思ってしまった。
俺ばっかり翻弄されててズルイ。
たまにはヴァルトだって、俺にドキドキすれば良いんだ。
意を決して頭を上げると、思ったより至近距離にヴァルトの顔があって怯みそうになる。しかしそれをなんとか耐えて首を伸ばした俺は、ヴァルトの鎖骨あたりにチュッと小さく口付けた。しかしこれは俺も中々ダメージを喰らう作戦だった。一気に恥ずかしくなってまたヴァルトの胸に突っ伏す。しかし、そんな俺を見越してか偶然かは分からないが、両手で俺の頬を掬い上げて、それ以上下を向けないように阻止されてしまった。強制的に目と目が合う。
ヴァルトの銀色の瞳は、どこか熱をもったように潤んで見えた。
「あ……いや、これはその……お返し、みたいな?」
苦しい言い訳で誤魔化してみたが、何とか見逃してくれないだろうか。顔を下に向けられないので必死に視線を逸らしてヴァルトが追求を諦めてくれるのを願っていると、突然身を起こしたヴァルトごと、上半身が起き上がる。
「うお!さっきから急に動くなって……ば、あ!?!」
ヴァルトに抗議を入れようとした瞬間、グッと近づいて来たヴァルトの顔が俺の首元に埋まり、ペロリと軽く舌で舐められた。ゾワっとした感覚が背中を走り抜けていくのと同時に、ジュウッときつく首筋を吸われる。
「うあ……ん、ちょっヴァルト!」
ヴァルトに跨った状態で必死に腕を突っ張るが、ヴァルトが俺を引き寄せる力の方が上だった。ちゅうっと吸われたところを確認するように何度もじっとりと舐められる。悪寒によく似た甘い感覚が走って、思わずヴァルトの肩を掴むと、ようやく満足したのか顔を上げたヴァルトは、最後に俺の頬にキスを落とした。
「お返し」
そんなことを宣ったヴァルトを息も絶え絶えに睨みつける。色々キャパオーバーで生理的な涙が浮かんだ俺の睨みは全く迫力は無いだろうが、そうせずにはいられなかった。
そして思いっきり息を吸い込むと、俺史上多分一番大きな声で叫んだ。
「ヴァルトは1週間俺の家立ち入り禁止!!!!」
絶望に満ちた顔というのはこういう顔をしているのかとヴァルトの顔を見て思ったが、羞恥心諸々が限界突破した俺は勿論絆されてなんかやらなかった。
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