あの湖で、君と

kiwi(キウイ)

文字の大きさ
6 / 14

5.告白

しおりを挟む
 オリバーは困っていた。

 いつもはベンジャミンが睨みながら、監視してくる中での居心地の悪い往診だった。だが、今の状況は別の意味でそれ以上につらかった。

 (どうして、こう、なった)

 今現在、オリバーはふかふかのソファに押し倒されていた。そして、逃げられないようにエリックが、がっしりとオリバーの上に覆いかぶさっている。

 今日は珍しく、ベンジャミンが不在の日だった。オリバーは内心ほっとしながら、いつものように冷静に治療を施し、何事もなく終えるはずだったのだ。

 しかし、気が付いた時には、エリックに組み敷かれていた。

 エリックは上半身裸のままで、先ほどからオリバーの顔や髪を、まるで愛おしいものに触れるかのように撫で続けている。オリバーはなす術もなくされるがままだ。
 
 「なあ、エリック、放してくれよ、どうしちゃったんだよ!お前」

 オリバーは手足をバタバタさせながら言った。

 「……別にどうもしないよ。今まで我慢してきただけだ」

 一段と低くなった硬い声でエリックがぼそりと言った。そして、オリバーの顎をつかむと、自分の方に向けさせる。

 「ーーーーー君は僕の気持ちなんかとっくに気付いているくせに、無邪気に誘惑して煽ってくるんだ。いつだってそうだ!今日はベンジャミンがいないから、歯止めが効かない、もう気持ちを抑えられない!!」

 エリックは、一気に巻し立てると、大きな声で叫んだ。瞳には、大粒の涙が溢れていた。

 「君が好きなんだ!ずっと前から愛している!」

 オリバーは驚愕に目を見開き、息を飲んだ。

 その間にもエリックの片手が妖しく動き続け、ゆっくりと首筋、そして鎖骨を伝って、だんだんと下へ滑り落ちていく。

 「ちょ、やめ、やっ、」

 オリバーは身をよじって抵抗するが、エリックの体躯は重く、びくともしない。エリックの手は、オリバーの抗議をお構いなしにシャツの下へと入っていき、胸の頂を何度かかすめた。

 「っ!」

 変な声が出そうになり、オリバーは奥歯を噛み締め、何とかこらえた。羞恥と驚愕とわずかな快感が、ないまぜになり頭が真っ白になる。

 「いや、ちょっと待てよ、お前、オレのこと好きなのか!?」

 突如として放たれた、オリバーの率直な一言に、今度はエリックが動揺する番だった。彼は動きを止め、鳩が豆鉄砲を食らったような、間の抜けた表情をしていた。

 「……気づいてなかったの?嘘……あれだけ僕、好きだって君に伝えていたのに」

 言われてみれば、確かに何度か「好きだ」と言われた気がする。けれど、いつも冗談っぽい軽い口調だったので、まさか恋愛的な意味だとは思っていなかった。

 (マジかよ!?)

 めちゃくちゃ嬉しい。オリバーは頬が緩むのを止められなかった。

 「オッ、オレも好きだ!お前のこと!」

 エリックの顔がぱあっと明るくなった。

 「だけど、俺達は医者と患者という関係だ。本来なら、付き合うことはできない」

 今度はエリックは悲壮感あふれる顔になった。
 
 「……けど、ひとつ条件を呑んでくれるなら、オレは今日からでもお前の恋人になる」

 オリバーの言葉に、エリックの顔が再び明るくなった。

 「本当!?どんな条件でも呑むよ!」

 「なら、エリック。湖であったことを全て教えてほしい。お前の背中の火傷ーーーーー呪いも、それが原因なんだろ?」

 その質問を聞いた瞬間、エリックの表情が固まった。そして彼はオリバーの上から退き、まるで打ちのめされたかのようにソファの端に座り込む。

 「……それが、君の条件……」

 エリックはしばらく真剣に考え込んでいた。やがて覚悟を決めたらしく、沈黙を破った。

 「……分かったよ。話す。湖でのことを。あの事故は……あれは、湖で、ある男が僕を殺そうとしたことが発端だった。
 男は、僕の母に雇われた呪詛使いだった」

 さっきまでとは打って変わって落ち着いた口調で、エリックはゆっくりと語りだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

大事な呼び名

夕月ねむ
BL
異世界に転移したらしいのだが俺には記憶がない。おまけに外見が変わった可能性があるという。身元は分からないし身内はいないし、本名すら判明していない状態。それでも俺はどうにか生活できていた。国の支援で学校に入学できたし、親切なクラスメイトもいる。ちょっと、強引なやつだけどな。 ※FANBOXからの転載です ※他サイトにも投稿しています

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...