あの湖で、君と

kiwi(キウイ)

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エリック

5.

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 エリックがいつものように湖で遊んでいると、ふと目を離した隙にオリバーがいなくなった。
 
 「オリバー?」

 エリックが周囲を見回していると、木陰から大きな影がぬっと姿をあらわした。

 「お前かぁ、エリックってのはよぉ~」

 その男、アベルは片足義足にも拘わらず、小さなオリバーを羽交い絞めにしてガッチリ拘束していた。オリバーの喉元にはキラリと光る刃が押し付けられていた。

 「こいつのおかげで、簡単に忍び込めたぜぇ」

 アベルは卑しい笑みを浮かべながら、オリバーを指さした。彼はなぜか眼鏡をかけていなかった。アベルは眼鏡を奪いオリバーの力を解放させて、張り巡らされた結界を壊したのだった。
 
 オリバーは抵抗しようとしたのか、苦しそうにうめいた。

 「オリバーを、離せ!」
 
 エリックはオリバーを人質に取られ、一瞬、動きをためらった。そのわずかな隙を、アベルは見逃さなかった。彼は隠し持っていた魔道具を取り出し、不気味な呪文を唱え始める。

 「うわっ!」

 エリックの体が突如、炎に飲み込まれた。肉が焼け焦げる匂いが周囲に立ち込め始める。

 強烈な熱さにエリックはもだえ苦しんだ。

 「エリック!」

 オリバーが悲痛な叫びを上げた。

 (まだだ、まだ殺せてねえ!)

 アベルは、まだ呪詛がエリックの核心まで届いていないことを察した。彼はオリバーを乱暴に放り投げ、両手で魔道具をしっかり持ち、そして自らの持てる力の全てを呪術に注ぎ込む。

 (俺の魔力だけじゃ足りねえな!ここの湖にある魔力も借りるぞ)

 アベルの足元から、湖の水面にまで、禍々しい魔力の波紋が広がっていく。とどめの一撃が完成しようとした、その瞬間だった。

 「もうやめて、お父さん!」

 突如、オリバーの目が青白く光った。

 彼の視線は炎に包まれるエリックの背中に、くっきりと浮かび上がった巨大な魔術陣を捉えていた。

 オリバーの小さな手が、宙に浮かぶ術式――アベルがエリックにかけた呪いの核――を掴み、引き剥がそうとする。

 「うぎゃああああ!」

 アベルは突然の灼熱に咆哮した。

 オリバーが術式に直接干渉し、未完成の魔術を弄ったことで、呪詛は術者に反転し、強大な魔力がアベル自身を襲ったのだ。

 「クソッ、クソッ、このガキ!」

 アベルは怒りに震え、狂ったように暴れ、オリバーを吹き飛ばした。オリバーは悲鳴を上げる間もなく、そのまま湖の中に落ちていった。

 「っ、お前、よくも!」

 エリックは全身を包む炎の痛みを忘れ、アベルをきっ、と睨みつけた。

 それだけで、アベルの体内の水分が全て奪われ、肉体は燃え尽き、あっという間に彼は灰になって風に消えた。

 「オリバー!」

 エリックの背中はまだ呪詛の炎に焼かれていたが、そんなことは構わず、彼は湖に飛び込んだ。
 
 水中のオリバーは意識を失いかけていた。エリックは急いで彼を抱き寄せ、口から魔力を送り込み、オリバーを助ける。

 何とか二人で水から這い上がり、湖のほとりで、互いを抱きしめたまま意識を失った。呪詛の炎は消えたが、エリックの背中には火傷の痕がくっきりと残っていた。

 そして、その痕は消しても消しても何度もよみがえり、その後ずっとエリックを苦しめることになるのだった。
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