【完結】悪役令嬢のカウンセラー

43．シルヴィア様

　ようこそいらっしゃいませ、シルヴィア様。わたくしエリザベートと申しますわ。

　ホッケの開き定食とウーロンハイですね。かしこまりました。

　あら、コーレリア様のお知り合いですのね。コーレリア様はお元気でいらっしゃいますか？　まぁ、配信が絶好調で、毎週末に礼拝後の配信イベントが大人気なんですの？　もはや筋トレ奉納舞がメインで、教会への礼拝はついで扱い？　教皇より力を持っている？　まぁまぁ、さすがですわぁ。ほほほほ、ご活躍されていらっしゃるようで、何よりですわ。


　まぁ、シルヴィア様は転生してもう二十二年になりますの？　ホントですわ、ベテラン転生者ですわねぇ。十五のときに覚醒し、どこの世界か分からず、無我夢中で生きてきて、二十歳でご結婚、二十二歳で双子をご出産、まあ男女の双子で……そしてお子様方がつい最近学園に入学されて、娘さんが悪役令嬢と判明した。ええええーーー

　
　あの、どうして今頃気付かれたの……？　えぇ、名前も違うし、双子設定なんてなかったからまさかと……入学式後に、娘さんが無礼な平民上がりの男爵令嬢がいたとおっしゃられて……。なんとまぁ。


　え、もう記憶がおぼろげでフラグが定かではない？　……そうですわね、二十二年もたってますもの、無理はありませんわ。えぇ、ですがこういうものは一定のパターンがございますから。有力貴族のご子息から距離を取ればなんとかなりますわ、きっと。


　えぇ、学園で大人気で常に男女の取り巻きに囲まれている？　はぁ、なるほど、おふたりとも瓜二つで、見た目が大変麗しく、一対の至宝と称えられているのですね……。ええっと、おふたりはもう婚約者がいらっしゃる？あぁ、まだですのね。才色兼備なかたわれがいるため、無駄に目が肥えている……。


　え？　はい、もちろん過激なことでも、倫理にもとることでも、ご自由におっしゃってくださいな。あらーあらまぁ、そうですの、ヒロインにトラウマが？　あぁ、学生時代はヒロインの登場を恐れていて、悪夢にうなされることが多く……子供が産まれてすっかり安心していたのに今さら出てきやがってと……。手塩にかけて育てたかわいい我が子たちの邪魔をするなど、考えても血が煮えたぎる……いっそ物理的に葬り去ってしまえば後腐れもなかろう……

　
　よし、ちょっと落ち着こうか。

　はーい、どうどう、息を吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。

　シルヴィア様、処すのは最後、最終手段に取っておきましょう。ね。その前にできることがたくさんあるはずですわ。

　
　んんーそうですわね、資金を貯めておくとか……金ならある、うなるほどな、ですか……武力も余裕ですか、そうですか。うう、王家や有力貴族に根回ししておくとか……王家も貴族も恐るるに足らず、しょせん我の傀儡よ、ってええーホントにー。国外に伝手を作っておくとか……周辺諸国は全て我が公爵家の影響下にあるわと、わー覇王がいるー。


　えーっと、もうそこまで準備が整っているなら、何も恐れる必要はないのでは？


　えぇー、ヒロインはGみたいなもの？　一匹みつけたら千匹はいると思え？　いやいや、さすがにヒロインは一人でしょうよ。汚らわしい虫ケラは即刻叩きのめすべき、同じ空気を吸うのも許し難いって、反応が過剰では……。



　えー、シルヴィア様、母親たるもの、子供の成長を見守るべきではございませんか？　子供の前の障害物を全て取り除いていては、子供は強くなるきっかけを得られませんよ。モンスターペアレント、ヘリコプターペアレントは子供を不幸にいたします。


　いやいやいや、だからって出家する必要はないから。バランス、ほどよいバランスが大事。

　
　そっと遠くから見守って、大惨事になりそうなら、少しほんのすこーしだけ手助けすればよろしいですわ。えぇ、シルヴィア様の場合はオーバーキルになりがちですから、我慢が重要ですわ。


　そもそもですわねぇ、シルヴィア様のお子様がヒロインに遅れを取りますかしら？　瞬殺では？ええーやっぱりー？


　わが生涯に一片の悔いなし!!