【完結】悪役令嬢のカウンセラー

みねバイヤーン

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79.エリザベート

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 ただいま。……フィー、ここに座って。

 わたくし、あなたに話さないといけないことがあるわ。

 わたくしね、前世の記憶があるの。前世でね、この世界を知っていたの。

 わたくしは、わたしの記憶に基づき、この世界を改ざんしたの。

 わたくしのやったことは、打算と計算による、欺瞞に満ちたものよ。

 本当のわたしは、臆病で下世話で計算高い女なの。

 あなたの好きなエリザベートはどこにもいないの。

 わたしはあなたの愛するエリザベートではないの。

 ごめんなさい。

 

 ベネディクト様は、前世でわたしが好きだった方なの。

 ベネディクト様のことは遠くから見ているだけで幸せだったの。

 ベネディクト様に会って、わたしではないエリザベートを好きになられるのが怖かったの。

 ベネディクト様に他の女ができるのがいやで、ずっと監視してたの。

 ベネディクト様に浅ましい本当のわたしを知られるのが怖かったの。

 
 
 フィー、ごめんなさい。あなたの思いにこたえられないわ。
 だってわたしはニセモノだもの。


 
 お嬢は俺の瞳が晴れた夏の空の色だと教えてくれた。

 お嬢は俺の髪は夜明け前の海の色だと教えてくれた。

 お嬢は熱が出たとき額にのせる、冷たい布の気持ちよさを教えてくれた。

 お嬢は咳が苦しいときに撫でてくれる、背中の手の温かさを教えてくれた。

 お嬢は俺に名前をつけてくれた。

 お嬢がフィーと呼ぶとき、俺は幸せの意味を知る。

 


「お嬢……お嬢の本当の名前を教えて?」

「えりって言うのよ。ふふふ、すごい偶然でしょう? 似た名前を持つ女の子に憧れていたのよ」

「お嬢、俺にとってお嬢は最初からずっと、えりだった。覚えてる? 俺が初めてお嬢の家で目を覚ましたとき、お嬢は『わたしはえりよ』って言っただろ? 俺にとってお嬢はずっとえりだった。俺の好きなお嬢はずっとえりだ」

「フィー……わたし……どうしたらいいか分からないわ……」

「オグちゃんに相談したら?」




「もしもしオグちゃん。どうしよう。え、なんで小声かって? いや、すぐそこに人がいるから。そうそうそう、いつもの部屋じゃないからさ。え? 日本語だからどうでもよくない? あ、ほんまや。

 あのさ、あのあの、妖精みたいな美少年に告白されちゃって、どうしたらいい? わたしのこと美化してるっつーか、神格化してるっつーか、あんたの好きなの本当のオレじゃねーみたいな。

 え? そう、推しとは違う人。推しとは会ってない。いや、怖くて。はいー、そうですー、ヘタレですー。人には偉そうに言ってるくせにー、ぎゃー。推しの本当の姿知らん? そうね、まーねー、推しって自分の中の理想だもの。ああ、なるほど、そうですね、その通りですね。本当の自分とかどうでもいいですね。

 ああ? カウンセラーだったらどう返事するかって? ユーたち、試しにつき合っちゃいなよ?」




「フィ、フィー。……試しにつき合ってみる?」
「うん」





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