そんな未来はお断り! ~未来が見える少女サブリナはこつこつ暗躍で成り上がる~

みねバイヤーン

文字の大きさ
20 / 30
【第三章】おいしいお菓子を食べたいな

20. 新たな決意

しおりを挟む
 クリスティーネ・フェルデ伯爵令嬢は、サブリナをうっとり眺めている。
 なんておもしろいお嬢様なのかしら。愛らしくておもしろい。理想の女性像ですわ。ああ、どうか。お友達になってくださいませ。我が家を救ってくださった、女神様。

 クリスティーネはおずおずとサブリナの隣の席に座った。

 サブリナさんって、見れば見るほどかわいらしいですわ。サブリナさんが考案して仕立て直してくださったおばあさまのドレス。きっとサブリナさんも似合うわ。わたくしとお揃いで着てくださったら、大評判になるわ。同じ型で色違い。ふたりで着たら五倍ぐらい売れそうです。わたくしと共に、服飾店の広告塔になってくださると嬉しいのですが。でも、お忙しいですもの、無理ですわよね。

 クリスティーネはため息を吐き、小鳥のように小さく震えた。

 同い年ですのに、どうしてこれほど才能豊かなのでしょう。不思議でなりません。お母さまに、決して失礼のないようにって何度も言われましたが。もちろんですわ。我が家の恩人ですもの、何千回お礼を言っても足りないぐらいですわ。あら、直接お礼を申し上げたこと、一度もなかったですわ。まずいですわ。早速申し上げましょう。

「サブリナさん、我が家を救ってくださり、ありがとうございます。フェルデ伯爵家一同、心から感謝しております」
「なななな、なんのことかしら。あれは、あれやこれやは全て、アッフェン男爵がされたことです。アタシはなにひとつ知りませんわ」

 頬を髪と同じようなピンク色に染めて、慌てていらっしゃいます。わたくし、やらかしてしまいましたでしょうか。目立ちたくない、謙虚なお人なのですね。クリスティーネ・フェルデ、一生の不覚ですわ。

 クリスティーネが自己嫌悪に陥っていると、先生が入って来た。

「本日は刺繍です。ご自由に好きなものを刺繍してみてください」

 好きなものですか、何にしましょうか。好きなものと言えば、やっぱり、服飾店の看板の──。

「できました」
 ほぼ同時に、四人全員が刺繍を終えた。四人はそれぞれの刺繍を見て、一瞬目を見開き、わっと笑い出す。鉄仮面先生も上品に笑った。

「クリスティーネ様がウマとサルの紋章。ロザムンド様がヘビとサル。ミシェル様がトラとサル」
「アタシはヘビとトラとウマとサルですわ」
「サブリナさんのサルはおもしろい恰好をしていらっしゃいますね。どういう意味がございますの?」

 サブリナのハンカチの中ほどに、サルが三つ刺繍されていて、サルの外側にウマ、ヘビ、トラが配置されているのだけれど。サルが、手で目をふさぎ、耳を押さえ、口を覆っている。

「これは、見ザル、言わザル、聞かザルを意味するのです。アッフェン男爵家もアタシも、秘密を決して漏らしません。そういう決意です」
「そうなんですね。サブリナさんの気持ち、よくわかりました。わたくしも、フェルデ伯爵家も、サブリナさんとアッフェン男爵家の秘密を決して口外などいたしませんわ」

 クリスティーネは手を胸に当てて、厳粛に誓った。

「わたくしもパイソン公爵家も同じく、誓いますわ」
「もちろん、私もティガーン子爵家も右に倣い、誓います」

 四人は胸に手を置いた。

「素晴らしい絆です。ではわたくしも誓いましょう。わたくし並びにウォルフハート王家一族はここにいる皆さんと、皆さんの一族の秘密を守りましょう」

 先生が言うと、みんなポトリとハンカチを落とす。

「えっ、先生って王家の人なんですか?」
「ええ、まあ、そのようなものです。ホホホ」
「えええー」

 少女たち全員が声を上げた。

***

「どうしてみんなあんなに優しいんだろう」

 休憩時間、庭園を歩きながら不思議に思った。未来の三人は、アタシを大嫌いだった。同じ轍を踏まないよう、敵対しないよう、注意深く生きてきた。それにしても、だからといって、好かれるはずがないのに。おかしい。王子ふたりといい、なにがなんだか意味がわからない。

 ふと見ると、木の下に誰かが座っている。王子だったら即座に逃げよう。目を凝らすと、違った。

「ジョーさん」

 本から顔を上げたジョーさんが、ネイトとこっちを見る。黒髪に黒目で黒ぶちメガネのジョーさん。安心安全の色。カラフルな髪と瞳を持つ令嬢たちに囲まれていたから、ジョーさんを見るとホッとする。目が休まる感じがする。

「サブリナがそろそろ疲れる頃だと思って、差し入れを持ってきた」
 ジョーさんが紙袋から取り出したのは──。

「クッキー!」
「甘いぞー」

 ジョーさんと一緒に木の下に座ってクッキーをかじる。サクッとして、しっかり甘い。上にのった香ばしいナッツも楽しい。クッキーを味わいながら、ジョーさんに王子妃教育のことを話す。

「ジョーさん、どうしてみんなあんなに優しいんだろう? 夢で見た未来では、みんなアタシのこと嫌ってたのに」

「そうだなー。今まで聞いた話を総合すると、夢で見たサブリナは、孤児院で世間知らずに育って、十四歳ぐらいで美少女ぶりが評判になって貴族の養子になったんだろう。貴族社会の常識を知らないから、学園で平民ぽさを全開にしたと」

 ジョーさんたら、アタシがチラッと言ったことをよく覚えている。

「貴族がほとんどの学園で、平民らしい飾らない態度のサブリナは注目の的になる。貴族令息には無邪気で愛らしい少女に、貴族令嬢には無礼で秩序を乱す無法者に、そう見えただろう。貴族令息からはチヤホヤされ、貴族令嬢からはイジメられる。無理もない話だ」
「そっか、そうだね」

「でも、今のサブリナは、貴族が、大人が思わず頭を下げたくなるほどの働きぶりだろう。小さい子が、身を粉にして働いている。かわいさを武器にせず、みんなが嫌がる仕事を率先してやっている。そんなサブリナを嫌いになるわけがないじゃないか。君はよくがんばってるよ」
「そっか。そうなんだ」

 ジョーさんに言われると、素直に信じられる。アタシ、間違ってなかったよね。

「君より先に大人になった俺からのアドバイス。聞いてくれるかな?」
「うん、聞きたい」
「未来のことはちょっと忘れて、今そこにいる令嬢たちを見てみたら? 怖がらずに、友だちになってみればいい。過去にも、未来にもとらわれすぎず、今を生きるんだ、サブリナ」

 過去にも、未来にもとらわれすぎず、今を生きる。できるかな。今のロザムンド様、ミシェル様、クリスティーネ様を見る。心を、開く。

「やってみようかな」
「ああ、やってみなよ。もしそれで傷つくことがあったら、俺がクッキーを持ってくるし、ネイトがなめてくれる」

 ネイトが、任せろと言わんばかりに、アタシの手をなめた。

「クッキー、まだたくさん入ってるから、みんなで食べたら?」
「うん、そうする。ジョーさん、いつもありがと」
「どういたしまして」

 クッキーの入った紙袋を持って、アタシはゆっくり歩きだした。今を楽しむために。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

大切にされないなら、大切にしてくれる人を選びます

南部
恋愛
大切にされず関係を改善できる見込みもない。 それならいっそのこと、関係を終わらせてしまえばいい。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

公爵家の侍女見習い、王宮の帳簿を黙らせます―

鍛高譚
恋愛
没落寸前の子爵家に生まれたキャル・キュレイションは、公爵家で侍女見習いとして働くことになる。 高位貴族から見れば、子爵令嬢など平民と大差ない。そんな弱い立場の彼女には、ただひとつ、とんでもない才能があった。 それは――暗算。 市場の会計をごまかす商人を見抜き、屋敷の帳簿の乱れを整え、誰も気づかなかった数字の歪みを拾い上げる。 その力はやがて公爵家の中だけに留まらず、領地経営、王宮財務局、そして国そのものを動かす大きな数字へと繋がっていく。 「魔法? ただの暗算です」 けれど、数字が見えるということは、見なくていいものまで見えてしまうということでもあった。 貴族社会の冷たい現実、王宮に渦巻く思惑、そしてなぜか彼女を放っておかない王太子。 立場は弱い。権力もない。 それでもキャルは、数字を武器に、自分の居場所を切り開いていく。 これは、公爵家の侍女見習いから始まった子爵令嬢が、暗算ひとつで王宮の帳簿を読み解き、成り上がっていくお仕事成長ファンタジーです。

処理中です...