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第三王子の極端な糖分摂取 4
しおりを挟むウルツにとってロアナとのささやかなやり取りの繰り返しは、もはや日常にかかせないものとなっていた。
手紙では、時に異性としては難解な相談事をされた(※ウルツ、当初は呆然とした)が、そこは、真面目なこの男。
懇切丁寧に書斎で解決策を調べ、ときには母や幼い頃からの付き合いである侍女頭に相談し、(母親たちの生温かい視線に耐えながらも)ロアナの相談に乗ってきた。
そのかいあって、ウルツは彼女にとても感謝されたのだが……。
こうしてロアナのなかでは、いつの間にか“ステキな文通相手のお姉様像”が出来上がってしまったというわけだった。
だが、それは、彼にはあずかり知らぬこと。
そしてさらに、悲しいかな。
初めにあのようなガサツな糖分摂取の場面を目撃されたせいで、ロアナは、あのぼさぼさ頭で砂糖つぼの砂糖を豪快にあおった青年が、あんなにきれいな便せんと封筒に美しい文字を記し、手紙を贈ってくれているとは思いもしなかった。
ウルツは、いつもロアナが喜びそうな淡い春色の便せんと封筒を手配して、中の手紙も、他国の王侯貴族に出す手紙よりもていねいに、お抱え教師仕込みの美しい字で言葉をつづったが……それがよけいに、ロアナの文通相手は女性、という思い込みを強め、あの夜の青年との結びつきを遠くした。
ゆえに、彼女は今でも出会った青年の正体を知らない。
出会った黒髪のウルツのことは、衛兵か誰かだと思っていた。
(あんなに夜中まで髪を振り乱して働いておられるなんて……夜勤の衛兵さんだったのかしら……フランツさんもご存じの方だったみたいだし……)
もうあんな乱暴な糖分のとりかたはしてないといいが……と。
その後も、彼女の中で、彼と、ステキな手紙の送り主が結びつくことはなく。ふたりは何通も手紙のやりとりをしたが、互いに名前は書かぬままだった。
彼女としては、見返りを考えていないおすそ分け。
ウルツのほうは、出会いが出会い過ぎて。未熟だった自分の行いが今となってはさらに恥ずかしく、いまだに名乗れてはいないという有様。
しかし、名乗り合わずとも手紙のやり取りはとても楽しかった。
彼女が作りおいてくれている菓子も、いつも忙しい彼の癒しとなってくれていて。ウルツはただ、このささやかな関係がずっと続けばいいと思っていた。
淡いものはこころに感じていたが、慌ただしい生活を送る彼は、しっかりそのことについて考えることもなく、自覚のないままここまできてしまう。
……そこへきての、今回の騒動である。
ウルツはひたすらにリオニー妃が許せない。
あれこれと復讐の手立てを思い浮かべるが……それは、息子の心をしっかり読む母に、
『そちは……どんだけ残虐行為を働くつもりだ、やめろ』と、厳しく釘を刺されてしまった。
だが、意外だったのは、腹違いの弟フォンジー。
確かに、二の宮のフランツに懐いている弟が、彼のところに密かにやってきているのは知っていたが……。
まさか、弟とロアナに接点があったとは思わなかった。
しかも弟は、母親に逆らってまでロアナを助け出した。これは、彼にとってはかなり意外なこと。
(まあ……彼女が窮地を脱したのなら、それでいいが……)
なんとなく、ロアナの傍によりそっていたフォンジーを思い出すと、ウルツは複雑である。
気難しい顔の男は首をかしげる。
(? 胸が……苦しい……?)
だが、なぜ苦しいのかはよくわからなかった。
「………………っぅおい! 誰ぞあの朴念仁を思い切りからかってこい! ちょっとは自覚も芽生えようぞ!」
冷淡な顔のウルツが去ったあと。
イアンガードの部屋では、冷静なはずの二の宮の主が大いなる憤りを訴えて吼えていた。
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