わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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第三王子の極端な糖分摂取 5

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 吼える美しき側妃に、侍女頭マーサは冷静にいった。

「……イアンガード様……おやめを。殿下の心をお読みになってはなりません」

 座っていた長椅子を立ち、いきなりワナワナしはじめた側妃。その理由を、侍女頭は正確に読み取った。

「そのようなことをしているとウルツ様に知られたら、また雹のつぶてで三日三晩攻撃されますよ?」

 と、イアンガードはふんっと憮然。

「なにを言う。あやつはなぁんにも自覚しておらぬ。ゆえに、こなたが心を読んでいると知っても、どうせ『別に読まれて困ることなどございません』と、こうじゃ!」
「…………」

 憤慨していい捨てる側妃の言葉に。まあ、確かにそうかもしれないなとマーサも思った。
 と、そんな婦人に、イアンガードは今度は両手ですがりつく。

「おいマーサよ……! そもそもあれは読まずとも駄々洩れではないか……⁉ なんとかならんのか、あの鈍感息子は……!」

 大げさにため息をつくイアンガードは、普段の冷静さが崩壊している。
 鈍すぎる息子のこととなると、彼女はいつも密かにこうである。
 そんな側妃に、侍女頭マーサもため息で諭す。

「そもそも、からかったとて、ウルツ様に通用するわけがないではありませんか……いったところで完全無視。『意味の分からぬことをいうな』と、冷たい目で、おしかりを受けるのが関の山にございます」

 その言葉には、イアンガードはさらに落胆。

「ああ……どうして我が息子は、ああも恋愛ごとに鈍いのだろう!? 二年もロアナにつきまとっておいて、なぜ……⁉」
「つき……まとってはおられないかと。文通でのやりとりしかしておられませんから……」
「それがなんとも情けない!」

 イアンガードは、きぃっ! と、思い切りのいい吐き捨て。

「今日の一件を見ただろう!? このままではあやつは第五王子にロアナをかっさらわれるぞ⁉」

 そう悔しげに侍女頭に訴える顔の迫力は……まるで、戦に敗れた将を一喝するがごときである。

「……」※マーサ、呆れ。
「そもそもウルツがあれでは、もしあやつがロアナを射止められなんだ場合にも、見合いもさせられぬ! 絶対に冷淡な目でしか女性を見ぬ男に、どうしてよそ様のご令嬢をさしだせようか……! あんなことでは対面した時点でお相手を怯えさせてしまう……おのれ……ま、まずは……あの顔面をしっかり感情と連動させるところからか……⁉ だがなマーサよ! あれでもあの子は、心の中にはかわいいところも持ち合わせておるのじゃぞ⁉」
「わかっております、わかっておりますから。イアンガード様……ちょっと落ち着いてくださいませ」

 よよよ……と、よろめきながら。大げさに嘆く主を侍女頭はなだめようとするが、ひさびさに息子の無自覚さを目の当たりにしたイアンガードは、どうにもおさまらない。

「いや……落ち着いてなどおられぬぞ……」

 目を据わらせた側妃は、急に邪知深い冷徹なまなざしとなり、息子が出て行った出入口を睨む。

「あのような堅物が一人で一生を送るなど憐れすぎて、こなたの気の遠くなる……! ここは……どうにかあの朴念仁を色づかせねば……そのためには……やはりロアナに頑張ってもらうしか手はないのか……」

 そうして獲物を狙うようなまなざしでどこかを見ているイアンガードに、侍女頭はきっぱり。 

「……そのような重責をロアナに背負わせないでください」


 ……こんな騒々しいやり取りが──。

 冷静沈着なはずの母親の部屋で行われているとは。もちろんウルツはなにも知らなかった……。


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