わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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第五王子とクッキー作り、の波紋 1

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 次の日の休日。
 この日もロアナにとっては、ある意味とても試練の多い一日となった。
 昼下がり。厨房に入った瞬間、パッと目を引く金色がロアナの視界に飛び込んでくる。

「……え……? ……フォンジー様⁉」

 そこには輝くようなブロンドの青年。名を呼ぶと、彼はすぐに顔を上げて、明るいオレンジ色の瞳をさらにまぶしく輝かせた。

「あ、こんにちは、ロアナ!」

 壁際のいすに座っていたフォンジーは、ロアナがやってきたのを見るとパッと晴れやかな笑顔になった。
 とたん周りが騒めいて。ロアナは、あれ!? と気がついた。
 ……なんだか厨房に、いつもより人が多いのである。
 なるほど……と、ロアナ。
 みな、王子の訪問に驚いて集まってきていたらしい。
 厨房には料理人たちばかりか、他の場所担当の同僚たちまでもが顔を揃えていて、ロアナに破顔した第五王子を見ると、彼らはさらにざわめきを増した。
 人々にいっせいに注目されたロアナは、思わず及び腰。
 けれどもそんな彼女に子犬のように駆けよってきたフォンジーは、まずは驚いている彼女の背中側を覗き込み、次に下ろされている手を見つめた。
 一晩たって、側妃に踏まれた手は少し腫れが出て、そこには薬を塗って包帯をまいている。それを見たフォンジーは、やはり表情を曇らせた。
 嬉しそうに駆け寄ってきてくれた彼が、しゅんとしてしまったのを見たロアナは、慌てて彼に話しかける。

「で、殿下。いらっしゃったのですね……」
「うん……背中と手はどう? まだ痛むよね? また効きそうな薬をもってきたよ」
「……ええと、あ、ありがとうございます……はい、でも……もうそこまで痛くは……」

 そう応じはするものの。ロアナの脳裏には、昨日その手を踏みつけた側妃の顔が蘇る。不安になったロアナは、周りに警戒の眼差しを巡らせる。

「殿下、あの、またここへお出でになって、大丈夫なのですか……?」

 ロアナは低めた声でフォンジーに訊ねた。
 騒動があった昨日の今日である。
 彼が再び二の宮にきてロアナに会っていると知ったら。昨日あれだけ怒っていた側妃リオニーがどう反応するかと考えると恐ろしかった。

 ──昨日の騒動後。
 側妃イアンガードとウルツの迅速な働きで、騒動に関わった三の宮の者たちは、皆すみやかに罰を与えられることになった。

 問答無用で二の宮に押し入り、ロアナを連れ去った衛兵たちは、減給に加え、イアンガードから一年間しゃべることのできない呪いをかけられたうえでの労役。
 側妃リオニーの命令があったにせよ、彼らは二の宮の主の不在中、許可もなく二の宮に押し入った。
 これは、許されることではない。

 また、ロアナを短鞭で傷つけた侍女は、彼女の倍の回数、鞭打ち刑に処されたあと。
 イアンガードに両頬にそれぞれ“短”“鞭”という意味を表わす文字の魔法烙印を与えられた。
 この烙印は、善行を三百回続けなければ消えない代物らしく。使用人としての階級も下げられてしまった彼女は、恥ずかしさのあまり側妃リオニーの側仕えを辞して実家へ帰る予定とのこと。
 しかし……あのよく目立つ烙印が顔にある限り、おそらく彼女は他の職に就くことも、婚約や結婚も、当分できはしないだろう。
 これには、三の宮の使用人たちは皆、なんと陰湿な罰だと震えあがったらしい。

 ──そして、当の側妃リオニーはというと。
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