2 / 94
1巻
1-2
しおりを挟む
「へ……?」
にこにこと微笑む老婆の言葉にミリヤムの動きが止まる。
「減らないって……なんで……」
「皆さん、お風呂であんまり石けん使わないみたい」
それを聞いた途端、ミリヤムはぞっとして――カチンときた。
無駄なエネルギーは使うまいと思った矢先であったが、先ほど抑えた分の怒りに、怒りの玉突き事故を起こした。そもそもゴミを一つ一つ拾うたびに呪わしい気持ちが溜まっていたのだ。拾って歩いたゴミの数くらいは怒っていいはずだ。そのゴミ達は、既に焼き場でミリヤムの背丈よりも大きな小山と化している。
「ミリーちゃん?」
「……おのれぇ……」
ミリヤムは石けんのカゴを掴むと一目散に走り出した。
窓の外は既に夜闇に包まれている。普通なら、大浴場には一日の汗や汚れを落とそうと隊士達が集まっているはずだ。
まもなく隊士用の大浴場に辿り着いたミリヤムは、その出入り口の傍に立った。柱の陰からこっそり疑り深い視線を向けていると、身体をホカホカさせた隊士達が次々と出てきた。それを見たミリヤムは、よかった風呂場は機能している……と心底安堵した。
だが次の瞬間、あることに気がついて愕然とした。
確かに、その出入り口からは風呂上がりの隊士達がひっきりなしに出てくる。ただ彼等と何度すれ違っても……誰も石けんの香りがしないのである。それどころか強烈に臭かった。辺りには生乾きの獣臭が立ち込めていて、うっと鼻を手で押さえる。とても風呂場周辺の香りではない。
ミリヤムは己の頭の中でぶちんと何かが千切れたような音を聞いた。
「……」
表情のない顔でおもむろにメイド服の裾をたくし上げ、ウエスト部分に挟み込んだ。袖をまくり、靴を放り出してストッキングを脱ぎ捨てると、床に置いておいた石けんのカゴの持ち手をしっかりと握り直す。そしてその中の石けんを一つ、もう一方の手で割れんばかりに握り締め、獣人の大男等がひしめく大浴場へと、ずかずかと乗り込んでいったのだった。
* * *
――その少し前のこと。
「ヴォルデマー様」
「ああ……外はどうだ?」
側近に声をかけられて、執務室で仕事をしていた黒い毛並みの男――人狼のヴォルデマーは机の上から視線を上げる。
彼こそがこの砦の長にして、屈強な隊士達をまとめる隊長だ。
眉目の整った精悍な顔つきではあるが、そこには濃い疲労の色がにじみ出ていた。
部屋に入ってきた豹の顔の側近はため息まじりに答える。
「今朝は天気も安定しておりましたが今晩は厳しそうです。雪もまだまだ降りそうですね」
その言葉に、ヴォルデマーの口から落胆の息が漏れる。
「そうか……ではフロリアン殿に来ていただくのはまだ無理か……」
現在、このベアエールデ砦は人材不足に喘いでいた。
直接的な原因は、つい一月半ほど前に行われた大がかりな盗賊団の討伐作戦だ。
その頃、砦の周辺集落では、襲撃された挙句家屋に火をかけられるという被害が相次いでいた。その討伐に乗り出し、賊を捕らえた彼等の作戦は一応の成功を収める。
しかし――まったくの無傷というわけにはいかなかった。彼等もまた仲間に多くの負傷者を出し、大怪我を負った隊士の中には、長く隊を支えた副隊長の姿もあった。そうして彼を含む負傷者達が療養のため職務を離れると、以前からぎりぎりの人数で運営されていた砦の人材不足は更に逼迫した問題となったのだった。
ヴォルデマーは当然の対策として、彼等の領主たる辺境伯に砦の人員増強を要請した。が、それが政敵達の妨害で未だ派遣されてこないのである。確かに彼等の言うとおり、ここ何年も隣国との国境線は落ち着いている。しかし、だからと言って国境警備を疎かにしていいわけではない。ベアエールデは歴史上、何度も戦が行われた場所である。その国境線が危ぶまれれば領にも脅威が降りかかるだろう。それは砦の面々にとって、腹立たしいで済まされる話ではなかった。
そんな折……困り果てたヴォルデマーに一通の書状が届いた。封蝋の印は隣の領を治める侯爵家のもので、差出人は侯爵の息子フロリアン・リヒターと記されていた。
彼はヴォルデマーとは旧知の仲で、柔和だが賢く気骨のある青年だった。そんな彼がヴォルデマーの窮地を知り、配下と共にベアエールデへ駆けつけてくれると言う。自らのことを〝なんなりとお使いください〟と書かれた手紙に、砦の面々は深く安堵して、その到着を今か今かと待ちわびていたのだった。
しかし、天は彼等に更なる試練を用意していた。その直後、砦周辺は例年よりも早く本格的な冬季に入ってしまう。側近はその不運にため息を落とす。
「人族は雪と寒さに極端に弱いですからねぇ……雪が少なくなるまでお出でになるのは無理でしょう」
ベアエールデ砦周辺は、国の一番北にあり、夏季は短く冬季が長い。冬は雪深くなるこの土地で、人族はその活動を大いに制限される。
隣の侯爵領からは馬を使っても四、五日はかかる距離で、街道は整備されているとはいえ山道も多い。更に雪があるとなれば、旅人にはかなりの負担がかかってしまう。下手をすれば死者も出るだろう。ヴォルデマーは致し方なし、と短い息を吐く。
「しばらくは我等だけでしのぐしかない……それで……他に報告はあるか?」
「はい、重要な件はこちらの書類に。あとは……ああ、そういえば下働きのニーナが退職いたしまして、彼女の紹介で新任の者が入りました。何故か……人族の娘らしいですが……古参の者達からの評判はいいようです。よく働くと」
それを聞いてヴォルデマーが、ああ、と頷く。
「そういえば数日前に人族の娘を見たな。人手不足で掃除も行き届いておらぬからな……汚い汚いと泣き叫ばれた」
雪の舞う中、細い身体に大荷物を背負い、鼻の頭を赤くして、仁王立ちした足は寒さにぷるぷると震えていた。外套をかぶった自分はズングリとして大きいし、剣と牙を備えた隊士相手に初対面でよく怒鳴り散らすものだと、その度胸には感心した。まぁ、鼻水を垂らしながら怒られても面白いばかりで少しも怖くはなかったが。
そういえば、ついでに手ぬぐいを奪い取られたのだったと回想するヴォルデマー。娘はリスのようにちょこまか逃げていって、なんだか笑いを誘う光景だった。その時のことを思い出した男の口から、ふっと笑いが漏れる。
「……人の女は可愛らしいな」
苦笑まじりに呟くと、側近が盛大にギョッとした。
「ヴォ、ヴォルデマー様!? い、いかがなさいましたか!? ヴォルデマー様の口から女人の話題が出るなど……」
体格がよく毛並みも豊かで、剣を持たせても素手で戦わせても恐ろしく強い彼は、獣人族の間では注目を集める存在だ。男女問わず彼を慕う者は多く、妻の座を狙って集まってくる女人も多い。
だがしかし、普段この堅物の人狼隊長からは女の話題など欠片も出てこない。
側近は周辺集落に出向いた時に、彼が美しい雌の獣人から誘惑されるのを幾度も見たが、彼は顔色一つ変えなかった。
仕事ぶりに関すること以外では、お世辞でだって女性を褒めたこともない。そんな彼の口から〝可愛らしい〟などという台詞を初めて聞いて、側近は戸惑い、こう思った。「やはり相当お疲れなのだ……!」と。
黙々と職務に勤しむ上官を見て側近は青ざめる。
彼の執務机の上はいつ雪崩が起きてもおかしくないような書類の山だ。勤勉な彼が粛々と片付け続けていても、次から次へと仕事は舞い込んでくるし、もしそれらが片付いても、実直なヴォルデマーは翌日の仕事に手を伸ばしてしまう。
それなのに隊士達の訓練には欠かさず参加するし、周辺集落の復興にも出向く。夜はいつまでも部屋の灯りがついていて、いつ休んでいるのか……いや、休んでいるのかどうかも怪しかった。疲れない方がおかしい。とにかくこれ以上仕事を続けさせてはまずい、と側近は慌てる。
「……ヴォルデマー様……お願いです、今すぐお休みになられてください!」
「……? いや、時間が惜しい。夜に隊士長達が報告に来るまでに、少しでも仕事を終わらせておきたい。私は平気だ」
「し……しかし……しかし……」
既におかしな言動が出ているではありませんか、と側近は言いたかった。
「……ではせめて気分転換にご入浴でもなさっては? あまり根を詰められるとお身体に障ります。あなた様にまで倒れられたら、この砦は一気に瓦解しかねないのですよ!?」
「……いや、しかし……休んでいる暇など……」
と、長が机の上の書類を手に取ろうとした瞬間、側近の猫目が吊り上がった。
「ヴォルデマー様!!」
しゃー!! と威嚇音が出た。
側近が毛を逆立て牙を剥いて怒るのを見て、さすがのヴォルデマーも思わず手を止める。表情は無表情から変化しなかったが、三角の黒い耳がわずかにしゅんと垂れ下がった。
そうして結局ヴォルデマーは、強制的に部屋から追い出された。
廊下で一人、ため息を零す。側近はいきなり取り乱していたが、自分は何かおかしなことを言っただろうかと首を傾げた。理由がこれっぽっちも分からなかった。
「……これも務め……か……」
さっさと行って、さっさと戻れば済むことだ。意を決して、彼は大浴場に足を向ける。
その浴場で……とんだ災難(?)にあうことを、彼はまだ知らない。
「そこにお座りください、黒の旦那様」
大浴場でお湯をかぶり、脱衣所に戻ろうとした瞬間、視界に飛び込んできた小柄な娘。〝黒の旦那様〟と呼ばれたヴォルデマーは、それを息を呑んで見下ろした。
いるはずのないものを見たせいか、若干目がチカチカした。最近疲れが溜まっているから幻覚かと思い、瞬きしてみたが、その奇妙な娘は消えなかった。
娘は全身がずぶ濡れだ。恐らくそれは、つい今しがた自分が身体を震わせ水を払ったせいであろう――となんとなく察しはついた。
とりあえず「……すまない」と呟いてみる。だが洗い場を指差してこちらを睨んでいる彼女に、ただただ疑問と戸惑いばかりが生まれてきて……ヴォルデマーは成り行きを見守っている部下達に困ったような視線を向けた。
顔を見合わせる者、手ぬぐいを手にしたまま動きが固まっている者。
様々な獣人族の男達――付け加えるならば皆、裸――に囲まれて堂々と仁王立ちする、若いメイド服の女。
ヴォルデマーも部下達も、その不可解さに皆黙り込んでしまう。周囲には体格のいい裸の男達がひしめいているというのに――その躊躇と恥じらいのなさに、男達は束の間、唖然とせざるを得なかった。
そもそもこの砦には使用人を含め、人族、それも若い女人となると、ほとんどいたことがない。内勤が主で外に出ていかない者に至っては、ほとんど幻の生き物レベルで目にしたことがないだろう。
「それがよりによって何故ここに……」と、皆が未だピンとこぬ頭で怪訝に思った時――その浴場にものを取り落としたような音が響き渡った。
カラン、カラン、と反響していく音を聞いて、数名の男達がやっと我に返る。残念(?)なことに、メイド服の娘よりも先に毛むくじゃらの大男達の方が恥じらいやらなんやらを思い出した。
「ぅ……おい!? お前……何やってんだこんなところで!?」
「気は確かか!? ここは隊士用の浴場だぞ!! 女の来るとこじゃねぇ!」
そうなのである。そうだよな、とヴォルデマーも無言で片眉を上げる。
周囲には温かそうな湯気がもくもくと立ち上っていて、その中に見慣れた隊士達の姿がある。もちろん皆、前なんか隠さない。それはいつもどおりの光景だった。
――その娘が仁王立ちしている以外は。
ここは砦内の大浴場で、駐留する隊士は全てが男。というかほとんど雄。使用人にはいくらか女性もいるものの、それも全て獣人族だった。そんな彼女達ですら、使用中の浴場に正面切って乗り込んでくることはない。
その時、一人の隊士が怒鳴って娘の首根っこに手を伸ばした。
「犯されてぇのかてめぇ!」
言葉の荒さにヴォルデマーが眉間に皺を寄せる。だが、彼が隊士を窘めようとした、その瞬間。
すこーん……ッ!! ――と、真新しい石けんが隊士の顔面に当たった。
「ぉお……」
思わぬ反撃だったせいか、隊士が見事に後ろに引っくり返って、ヴォルデマーの口から感嘆の声が漏れる。
「……お黙りあそばせ、この掃除後のモップ様め!! 犯す!? 発情期か!!」
娘は言い放つとヴォルデマーに向き直る。隊士達の威圧など一つも応えている様子はなかった。
「どなたかここを浴場だと言いました!? こんな泥だらけの場所がお風呂ですって? 正気ですか!? 泥美容なんてガラじゃないでしょう!? 見てましたよ黒の旦那様……あなたさっきここに入ってきてお湯かぶって、それでブルブルして、脱衣所に戻ろうとしましたよね!? しましたよね!? 石けんは!?」
「……いや、その……今夜はまだこのあとに仕事が……」
娘の圧に押されて思わずヴォルデマーが仰け反る。彼としては寝る間を惜しむほど多忙な日々がゆえに、入浴も手早く済ませたかったのだが……娘はヴォルデマーの言葉を聞くと腹立たしげに「不衛生でございます!!」と吐き捨てた。その声に込められた並々ならぬ怒りに、ヴォルデマー達は瞳を瞬かせる。
「ここに置いてある石けん全部、使われた痕跡もないままカピカピじゃないですか! しかも全部端っこに捨てられてるし!! あんなに悲しい石けん初めて見ましたよ……一体皆さん、なんのためにお風呂に入ってるんです!? 見てくださいよ! ろくに身体も洗わず湯に浸かるから浴槽のお湯が泥のようです! 汚い! 臭い! 毛が浮いてる!!」
怒りに震える指が差し示す広い浴槽を、一同は思わず無言で見つめる。
確かにそれは濁っていて綺麗だとは言いがたかった。湯は不透明どころか茶色だったし、様々な色、長さの毛がたくさん浮いていた。
しかしこの〝獣砦〟ではこれが当たり前の光景だった。皆、そういえば透明ではないな、とは思ったが、それをおかしいとは思っていない。獣人九割、そして男九割を占める寒さの厳しいこの砦では、身体さえ温まれればいいと、皆がそう考えていた。
――の、だが。
娘は小脇に抱えていたカゴから石けんを掴み取ると、ヴォルデマーの鼻先にそれを突きつけた。顔からは血の気が引き切って、ちょっと正気に見えない。目が据わっていてとても怖かった。
「こんな砦にお勤めしてはフロリアン坊ちゃまがご病気どころか死んでしまう……!! もしそんなことになったら全員、洗濯板で撲殺してやる……お覚悟なさいませ……!!」
「……? ……!? ……!!」
周囲がその不可解な言葉に戸惑いつつ首を傾げている間に――彼女は目の前のヴォルデマー(裸)に突進した。娘を咄嗟に受け止めたヴォルデマーは、洗い場の床に倒れ込む。
「っ……」
「ヴォ、ヴォルデマー様!?」
慌てふためく隊士達の叫びもなんのその。娘はヴォルデマーの黒い豊かな毛並みの上にまたがった。
「よかったですねー、まだ坊ちゃまのご着任前で……ふふふ、いえいえ、大丈夫ですよ、私めが」
みーんな綺麗にしてお日様の香りにして差し上げますからね、と娘は青ざめた顔で不気味に笑うのだった……
一体何故こうなったのだろうか、とヴォルデマーはぼんやり虚空を見つめていた。
彼の耳の傍では、娘が雄々しき叫びを上げていた。
「うぉぉおお!! もう!! どうしてこんなにボサボサなんですか!? 人族よりも毛がたくさんなのに、ちゃんとお手入れしないなんて正気の沙汰か! 皮膚病に……なるっ!!」
「……」
石造りの洗い場に胡坐をかかされ、背後からわしわし擦られて身体がグラグラと前後する。
しかし、そんな娘の叫びを聞きながらも、ヴォルデマーはうとうと目を細めていた。大浴場はほかほか温かいし、何よりここ最近の疲労の蓄積がかなりきていた。そうして睡魔に誘われながらも、ヴォルデマーはどうして今自分が、この己よりもかなり年下だろう人の娘に叱られながら身体を弄られ……いや、洗われているのだろうかと考えていた。それも素っ裸で。
(……そういえば、最近は忙しくて身なりも後回しになっていたか……)
豊かな毛並みの手入れは、丁寧にしようとすると一苦労で時間もかかる。ここ最近は気温が低いのをいいことに、ついつい適当になっていた。
(……自業自得か……)
そうヴォルデマーがぼんやり思っていると、背中を流していた娘がきぃきぃ言いながら今度は腹側にやってきた。ヴォルデマーはしげしげと見つめたが、彼女はしかめ面で彼の毛並みばかりを見ていて、視線はちっともかみ合わない。
娘は波打った栗毛を後ろで一つにまとめ、瞳も同じ色をしていた。肌は白いようだが、今は怒りのせいか紅潮していて、額には汗が光っている。時折「坊ちゃまが……」「暴動が……」と、謎の言葉を呻いていた。
ここまで来ると、さすがのヴォルデマーも、彼女が先日砦の外で泣き喚いていた娘なのだと気がついていた。しかし、娘の方が彼に気づいた様子はない。娘は憎らしげでありつつも懸命に、ヴォルデマーの毛並みの上で石けんを泡立てている。
娘がわっしわっしと彼の身体を揺り動かすたびに、周囲で隊士達がおろおろしているが、彼女があまりに必死なのでヴォルデマーは隊士達を制し、ひとまずされるがままになっていた。
己が裸であり、それが娘の目に晒されている以外、特に害はなさそうだった。そしてヴォルデマーも、それをいちいち恥ずかしいと騒ぎ立てるほど繊細ではない。
(……ふむ……そうか)
先日出会った時、彼女は砦の惨状を見て清潔にしてみせると豪語していたが、手始めに綺麗にされるのは自分だったか。ヴォルデマーはぼんやりそう思った。まぁ砦の代表として、それはそれで相応しいことなのかもしれない。
ただ意外なことに――この娘、気は荒そうだし動きも速いが、手つきだけは丁寧だった。両手の爪も短く清潔に整えられていて、乱暴にしているようで、痛みなどは特にない。むしろととても心地よかった。
他人の世話を焼くことに慣れているのだな、とヴォルデマーは感心する。おかげで彼の疲れもだんだんとほぐれてきて、眠気は抗いにくいところまできていた。
(……そろそろ会議、が……、……、……)
側近が案じていたとおり、彼は何日もまともに眠っていなかった。そんな彼が金色の目を細めてうつらうつらしていると、それを見て周りの隊士達が色めき立つ。皆、この生真面目な上司が仕事に追われ、ろくに休めていないことを知っていた。
「ど、どうする? ここでお眠りになられたらどうすればいい? そっとしとくべきか?」
「馬鹿!! ヴォルデマー様をこんなところで寝かせておけるわけないだろ!」
「いや、大体……あの変な女をどうしたらいいんだ!?」
「しかし……ここは一つお眠りいただいた方が、お身体のためには……」
「よしっ……もう少し……もう少しで落ち……やれ、落とせ!」
――と、隊士達が密かに団結しているのも知らず、ミリヤムは一人泣きたい気持ちになっていた。恐ろしいほどに石けんが泡立たなかったのだ。
「ひぃぃいいっ……! 毛が、毛がいっぱい抜ける!! 換毛期!? 換毛期なの……!? 隊士一人にこんなに時間がかかるなんて、砦の掃除もしなきゃいけないのに……全員終わる前に雪解けして坊ちゃまがお着きになっちゃうじゃないのよぉおお!!」
獣人族の毛量を甘く見ていた!! とむせび泣く娘をよそに、男はほのぼのうつらうつらしている。
そんな浴場内の騒ぎを見て、掃除に来たおじいちゃん同僚は一言。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、ミリーちゃんは頼もしいのぉ」
……下働き仲間からの評価は高まった。
だが――次の日、彼女が隊士達につけられた通り名は……〝痴女のミリヤム〟であったという。
* * *
――翌日。
「や、やめろ! こら! どこに行く気だ!」
「お、お前は……恥じらいもないのか! この、痴女め!! 止まれ!」
と、罵られたミリヤムは、制止しようとする隊士達の足の隙間を潜り抜け、そして叫んだ。
「嫌だ!」
立ち止まって振り返り、ミリヤムは胸を張って言い放つ。
「絶対にっ! 嫌だ!!」
その言い切りように、隊士達が唖然とする。
「な、何故そこまで……」
「人族の女は分からん……何故そうまでして風呂場に侵入したい!? お前、何が見たいんだ!? やはり……」
――と、隊士が言いかけた頃にはもう、ミリヤムは隊士用の脱衣所に侵入していた。
中からいくつもの怒号が上がっているが、そのうちの一つはミリヤムのもので間違いない。
冷酷な顔をした娘は、目をつけた毛深い隊士の腰元にかじりついて、ぐいぐい服を剥いでいく。
「観念してお脱ぎあそばせ!! さぁ! さぁ裸に! 嫌なら服着たままやりますよ……!!」
「お、お前!? 〝痴女〟の……っ、やめろ! 俺には恋人が……!!」
「埃まみれで馬鹿言うな! 綺麗になって彼女様に花でも持ってけ!!」
「ひー!!」
長年使用人として主の服を着せたり脱がせたりしていたミリヤムは、服を剥ぐのがとても上手かった。獣人の隊士はあっという間に裸にされ、周囲では、難を逃れた隊士達がそそくさと逃げていく。そうして今日も幾人かの隊士達が犠牲になり、ふんわふんわの毛並みになって石けんの香りを漂わせ、脱衣所から出てくるのであった。
その表情は皆、とても複雑そうであったという。
「気持ちいいでしょう!? ね? 身体が綺麗って素晴らしいでしょう!?」
清潔さの重要性を説こうとにじり寄ってくる娘に、隊士達の反応は微妙だ。
「いや……まぁ……確かに……な……」
「いや、だが……色々見えて……」
「見えても気にしません! それどころじゃないんですよ!?」
恥じらっている場合か! と娘は容赦ない。だが皆思った。いや、お前が恥じらえと。
そんなこんなで数日も経つと、誰も彼もがミリヤムを見ればコソコソと耳打ちし合い、終いにはあからさまに避けて通るようになった。
洩れ聞こえてくる言葉はもちろん「痴女のミリヤム」である。
噂では彼女は「臭い男(雄)が好きだ」ということになっているという。石けんの匂いがしていないと狙われるという噂がまことしやかに囁かれ、少しずつ石けんの使用率が上がっているらしかった。
「くっそー……腐ってもフロリアン様の侍女である私を痴女呼ばわりとは……なんだ臭い男が好きって! こちとら清らかな坊ちゃまの匂いが死ぬほど好きだわ!」
ぶつぶつ言いながらも、今日も今日とてゴミを拾う。
昼は本職である洗濯番をこなしながらゴミ拾い、もしくは掃除に奔走した。そして夕方から夜にかけてはちょくちょく大浴場を覗き、特に汚れていそうな隊士が来ると突入して飛びかかった。もちろんお湯の入れ替えと湯焚きの手伝いも欠かしていない。
だというのに……いくら入れ替えても、次に様子を見に行くと、お湯はちょっと引くくらい土色で毛だらけなのだった。
それを見たミリヤムが怒り、居合わせた隊士に突撃していくという――負のスパイラル。
そしてそれはただただ、隊士達の間でミリヤムの〝痴女〟ランクが上がっていく結果となるのだった。
この現状を不毛とは思うものの……ミリヤムは愛しい坊ちゃまを思い出すとガタガタ言っていられなかった。せめてもの救いは同僚達が皆一緒に腹を立ててくれたことなのだが……
「うら若いお嬢さんに〝痴女〟だなんて……ミリーちゃんはこんなに頑張ってるのにねぇ」
灰色の犬系獣人のサラが、豊かな毛並みの両手でよしよしとミリヤムの頬を撫でる。彼女達の擁護もあって、悪評が立ちつつも、今のところミリヤムは砦を追い出されずに済んでいた。
「さ、温かいシチューでもお食べなさい」とサラに勧められて、ミリヤムはスプーンを手に取った。
「……使用人がお世話しに入るのは当たり前のことだと思うんですけど……なんで皆さんあんなに気にされるんでしょうか。空気とでも思えばいいのに……」
サラは「あら、随分元気な空気ちゃんねぇ」と笑う。
「あの子達も悪い子じゃないんだけど……なんせ私達は野山を転げ回るのが好きな種族ばかりだから。あまり甲斐甲斐しくされるのには慣れていないのよ、ごめんねミリーちゃん……あ、ら……? ミリーちゃん……おばちゃんお掃除のあと、隊士さん達のお手洗いに老眼鏡を忘れてきちゃったみたい……」
悲しげにそう言われたミリヤムは、スプーンを放り出してすぐさま隊士用の厠までダッシュした。
厠に辿り着くと、使用中の隊士達がたくさんいた。しかしミリヤムは躊躇なくずかずかとそこに入り込む。『使用人は空気よ! いないも同然なのよ!』と、耳にたこができるくらい教育係から言われ続けてきた。その声がミリヤムの頭の中には響いている。
が――件の〝痴女〟の登場で、大騒ぎになったのは言うまでもない。
痴女ランクは、また、アップした。
こうしてミリヤムはまだ砦に勤めて十日も経っていないというのに、廊下を歩いていると「男の裸を求めて徘徊している」などと後ろ指を差され、「いつでも発情している」と品のない笑いを向けられるようになる。
にこにこと微笑む老婆の言葉にミリヤムの動きが止まる。
「減らないって……なんで……」
「皆さん、お風呂であんまり石けん使わないみたい」
それを聞いた途端、ミリヤムはぞっとして――カチンときた。
無駄なエネルギーは使うまいと思った矢先であったが、先ほど抑えた分の怒りに、怒りの玉突き事故を起こした。そもそもゴミを一つ一つ拾うたびに呪わしい気持ちが溜まっていたのだ。拾って歩いたゴミの数くらいは怒っていいはずだ。そのゴミ達は、既に焼き場でミリヤムの背丈よりも大きな小山と化している。
「ミリーちゃん?」
「……おのれぇ……」
ミリヤムは石けんのカゴを掴むと一目散に走り出した。
窓の外は既に夜闇に包まれている。普通なら、大浴場には一日の汗や汚れを落とそうと隊士達が集まっているはずだ。
まもなく隊士用の大浴場に辿り着いたミリヤムは、その出入り口の傍に立った。柱の陰からこっそり疑り深い視線を向けていると、身体をホカホカさせた隊士達が次々と出てきた。それを見たミリヤムは、よかった風呂場は機能している……と心底安堵した。
だが次の瞬間、あることに気がついて愕然とした。
確かに、その出入り口からは風呂上がりの隊士達がひっきりなしに出てくる。ただ彼等と何度すれ違っても……誰も石けんの香りがしないのである。それどころか強烈に臭かった。辺りには生乾きの獣臭が立ち込めていて、うっと鼻を手で押さえる。とても風呂場周辺の香りではない。
ミリヤムは己の頭の中でぶちんと何かが千切れたような音を聞いた。
「……」
表情のない顔でおもむろにメイド服の裾をたくし上げ、ウエスト部分に挟み込んだ。袖をまくり、靴を放り出してストッキングを脱ぎ捨てると、床に置いておいた石けんのカゴの持ち手をしっかりと握り直す。そしてその中の石けんを一つ、もう一方の手で割れんばかりに握り締め、獣人の大男等がひしめく大浴場へと、ずかずかと乗り込んでいったのだった。
* * *
――その少し前のこと。
「ヴォルデマー様」
「ああ……外はどうだ?」
側近に声をかけられて、執務室で仕事をしていた黒い毛並みの男――人狼のヴォルデマーは机の上から視線を上げる。
彼こそがこの砦の長にして、屈強な隊士達をまとめる隊長だ。
眉目の整った精悍な顔つきではあるが、そこには濃い疲労の色がにじみ出ていた。
部屋に入ってきた豹の顔の側近はため息まじりに答える。
「今朝は天気も安定しておりましたが今晩は厳しそうです。雪もまだまだ降りそうですね」
その言葉に、ヴォルデマーの口から落胆の息が漏れる。
「そうか……ではフロリアン殿に来ていただくのはまだ無理か……」
現在、このベアエールデ砦は人材不足に喘いでいた。
直接的な原因は、つい一月半ほど前に行われた大がかりな盗賊団の討伐作戦だ。
その頃、砦の周辺集落では、襲撃された挙句家屋に火をかけられるという被害が相次いでいた。その討伐に乗り出し、賊を捕らえた彼等の作戦は一応の成功を収める。
しかし――まったくの無傷というわけにはいかなかった。彼等もまた仲間に多くの負傷者を出し、大怪我を負った隊士の中には、長く隊を支えた副隊長の姿もあった。そうして彼を含む負傷者達が療養のため職務を離れると、以前からぎりぎりの人数で運営されていた砦の人材不足は更に逼迫した問題となったのだった。
ヴォルデマーは当然の対策として、彼等の領主たる辺境伯に砦の人員増強を要請した。が、それが政敵達の妨害で未だ派遣されてこないのである。確かに彼等の言うとおり、ここ何年も隣国との国境線は落ち着いている。しかし、だからと言って国境警備を疎かにしていいわけではない。ベアエールデは歴史上、何度も戦が行われた場所である。その国境線が危ぶまれれば領にも脅威が降りかかるだろう。それは砦の面々にとって、腹立たしいで済まされる話ではなかった。
そんな折……困り果てたヴォルデマーに一通の書状が届いた。封蝋の印は隣の領を治める侯爵家のもので、差出人は侯爵の息子フロリアン・リヒターと記されていた。
彼はヴォルデマーとは旧知の仲で、柔和だが賢く気骨のある青年だった。そんな彼がヴォルデマーの窮地を知り、配下と共にベアエールデへ駆けつけてくれると言う。自らのことを〝なんなりとお使いください〟と書かれた手紙に、砦の面々は深く安堵して、その到着を今か今かと待ちわびていたのだった。
しかし、天は彼等に更なる試練を用意していた。その直後、砦周辺は例年よりも早く本格的な冬季に入ってしまう。側近はその不運にため息を落とす。
「人族は雪と寒さに極端に弱いですからねぇ……雪が少なくなるまでお出でになるのは無理でしょう」
ベアエールデ砦周辺は、国の一番北にあり、夏季は短く冬季が長い。冬は雪深くなるこの土地で、人族はその活動を大いに制限される。
隣の侯爵領からは馬を使っても四、五日はかかる距離で、街道は整備されているとはいえ山道も多い。更に雪があるとなれば、旅人にはかなりの負担がかかってしまう。下手をすれば死者も出るだろう。ヴォルデマーは致し方なし、と短い息を吐く。
「しばらくは我等だけでしのぐしかない……それで……他に報告はあるか?」
「はい、重要な件はこちらの書類に。あとは……ああ、そういえば下働きのニーナが退職いたしまして、彼女の紹介で新任の者が入りました。何故か……人族の娘らしいですが……古参の者達からの評判はいいようです。よく働くと」
それを聞いてヴォルデマーが、ああ、と頷く。
「そういえば数日前に人族の娘を見たな。人手不足で掃除も行き届いておらぬからな……汚い汚いと泣き叫ばれた」
雪の舞う中、細い身体に大荷物を背負い、鼻の頭を赤くして、仁王立ちした足は寒さにぷるぷると震えていた。外套をかぶった自分はズングリとして大きいし、剣と牙を備えた隊士相手に初対面でよく怒鳴り散らすものだと、その度胸には感心した。まぁ、鼻水を垂らしながら怒られても面白いばかりで少しも怖くはなかったが。
そういえば、ついでに手ぬぐいを奪い取られたのだったと回想するヴォルデマー。娘はリスのようにちょこまか逃げていって、なんだか笑いを誘う光景だった。その時のことを思い出した男の口から、ふっと笑いが漏れる。
「……人の女は可愛らしいな」
苦笑まじりに呟くと、側近が盛大にギョッとした。
「ヴォ、ヴォルデマー様!? い、いかがなさいましたか!? ヴォルデマー様の口から女人の話題が出るなど……」
体格がよく毛並みも豊かで、剣を持たせても素手で戦わせても恐ろしく強い彼は、獣人族の間では注目を集める存在だ。男女問わず彼を慕う者は多く、妻の座を狙って集まってくる女人も多い。
だがしかし、普段この堅物の人狼隊長からは女の話題など欠片も出てこない。
側近は周辺集落に出向いた時に、彼が美しい雌の獣人から誘惑されるのを幾度も見たが、彼は顔色一つ変えなかった。
仕事ぶりに関すること以外では、お世辞でだって女性を褒めたこともない。そんな彼の口から〝可愛らしい〟などという台詞を初めて聞いて、側近は戸惑い、こう思った。「やはり相当お疲れなのだ……!」と。
黙々と職務に勤しむ上官を見て側近は青ざめる。
彼の執務机の上はいつ雪崩が起きてもおかしくないような書類の山だ。勤勉な彼が粛々と片付け続けていても、次から次へと仕事は舞い込んでくるし、もしそれらが片付いても、実直なヴォルデマーは翌日の仕事に手を伸ばしてしまう。
それなのに隊士達の訓練には欠かさず参加するし、周辺集落の復興にも出向く。夜はいつまでも部屋の灯りがついていて、いつ休んでいるのか……いや、休んでいるのかどうかも怪しかった。疲れない方がおかしい。とにかくこれ以上仕事を続けさせてはまずい、と側近は慌てる。
「……ヴォルデマー様……お願いです、今すぐお休みになられてください!」
「……? いや、時間が惜しい。夜に隊士長達が報告に来るまでに、少しでも仕事を終わらせておきたい。私は平気だ」
「し……しかし……しかし……」
既におかしな言動が出ているではありませんか、と側近は言いたかった。
「……ではせめて気分転換にご入浴でもなさっては? あまり根を詰められるとお身体に障ります。あなた様にまで倒れられたら、この砦は一気に瓦解しかねないのですよ!?」
「……いや、しかし……休んでいる暇など……」
と、長が机の上の書類を手に取ろうとした瞬間、側近の猫目が吊り上がった。
「ヴォルデマー様!!」
しゃー!! と威嚇音が出た。
側近が毛を逆立て牙を剥いて怒るのを見て、さすがのヴォルデマーも思わず手を止める。表情は無表情から変化しなかったが、三角の黒い耳がわずかにしゅんと垂れ下がった。
そうして結局ヴォルデマーは、強制的に部屋から追い出された。
廊下で一人、ため息を零す。側近はいきなり取り乱していたが、自分は何かおかしなことを言っただろうかと首を傾げた。理由がこれっぽっちも分からなかった。
「……これも務め……か……」
さっさと行って、さっさと戻れば済むことだ。意を決して、彼は大浴場に足を向ける。
その浴場で……とんだ災難(?)にあうことを、彼はまだ知らない。
「そこにお座りください、黒の旦那様」
大浴場でお湯をかぶり、脱衣所に戻ろうとした瞬間、視界に飛び込んできた小柄な娘。〝黒の旦那様〟と呼ばれたヴォルデマーは、それを息を呑んで見下ろした。
いるはずのないものを見たせいか、若干目がチカチカした。最近疲れが溜まっているから幻覚かと思い、瞬きしてみたが、その奇妙な娘は消えなかった。
娘は全身がずぶ濡れだ。恐らくそれは、つい今しがた自分が身体を震わせ水を払ったせいであろう――となんとなく察しはついた。
とりあえず「……すまない」と呟いてみる。だが洗い場を指差してこちらを睨んでいる彼女に、ただただ疑問と戸惑いばかりが生まれてきて……ヴォルデマーは成り行きを見守っている部下達に困ったような視線を向けた。
顔を見合わせる者、手ぬぐいを手にしたまま動きが固まっている者。
様々な獣人族の男達――付け加えるならば皆、裸――に囲まれて堂々と仁王立ちする、若いメイド服の女。
ヴォルデマーも部下達も、その不可解さに皆黙り込んでしまう。周囲には体格のいい裸の男達がひしめいているというのに――その躊躇と恥じらいのなさに、男達は束の間、唖然とせざるを得なかった。
そもそもこの砦には使用人を含め、人族、それも若い女人となると、ほとんどいたことがない。内勤が主で外に出ていかない者に至っては、ほとんど幻の生き物レベルで目にしたことがないだろう。
「それがよりによって何故ここに……」と、皆が未だピンとこぬ頭で怪訝に思った時――その浴場にものを取り落としたような音が響き渡った。
カラン、カラン、と反響していく音を聞いて、数名の男達がやっと我に返る。残念(?)なことに、メイド服の娘よりも先に毛むくじゃらの大男達の方が恥じらいやらなんやらを思い出した。
「ぅ……おい!? お前……何やってんだこんなところで!?」
「気は確かか!? ここは隊士用の浴場だぞ!! 女の来るとこじゃねぇ!」
そうなのである。そうだよな、とヴォルデマーも無言で片眉を上げる。
周囲には温かそうな湯気がもくもくと立ち上っていて、その中に見慣れた隊士達の姿がある。もちろん皆、前なんか隠さない。それはいつもどおりの光景だった。
――その娘が仁王立ちしている以外は。
ここは砦内の大浴場で、駐留する隊士は全てが男。というかほとんど雄。使用人にはいくらか女性もいるものの、それも全て獣人族だった。そんな彼女達ですら、使用中の浴場に正面切って乗り込んでくることはない。
その時、一人の隊士が怒鳴って娘の首根っこに手を伸ばした。
「犯されてぇのかてめぇ!」
言葉の荒さにヴォルデマーが眉間に皺を寄せる。だが、彼が隊士を窘めようとした、その瞬間。
すこーん……ッ!! ――と、真新しい石けんが隊士の顔面に当たった。
「ぉお……」
思わぬ反撃だったせいか、隊士が見事に後ろに引っくり返って、ヴォルデマーの口から感嘆の声が漏れる。
「……お黙りあそばせ、この掃除後のモップ様め!! 犯す!? 発情期か!!」
娘は言い放つとヴォルデマーに向き直る。隊士達の威圧など一つも応えている様子はなかった。
「どなたかここを浴場だと言いました!? こんな泥だらけの場所がお風呂ですって? 正気ですか!? 泥美容なんてガラじゃないでしょう!? 見てましたよ黒の旦那様……あなたさっきここに入ってきてお湯かぶって、それでブルブルして、脱衣所に戻ろうとしましたよね!? しましたよね!? 石けんは!?」
「……いや、その……今夜はまだこのあとに仕事が……」
娘の圧に押されて思わずヴォルデマーが仰け反る。彼としては寝る間を惜しむほど多忙な日々がゆえに、入浴も手早く済ませたかったのだが……娘はヴォルデマーの言葉を聞くと腹立たしげに「不衛生でございます!!」と吐き捨てた。その声に込められた並々ならぬ怒りに、ヴォルデマー達は瞳を瞬かせる。
「ここに置いてある石けん全部、使われた痕跡もないままカピカピじゃないですか! しかも全部端っこに捨てられてるし!! あんなに悲しい石けん初めて見ましたよ……一体皆さん、なんのためにお風呂に入ってるんです!? 見てくださいよ! ろくに身体も洗わず湯に浸かるから浴槽のお湯が泥のようです! 汚い! 臭い! 毛が浮いてる!!」
怒りに震える指が差し示す広い浴槽を、一同は思わず無言で見つめる。
確かにそれは濁っていて綺麗だとは言いがたかった。湯は不透明どころか茶色だったし、様々な色、長さの毛がたくさん浮いていた。
しかしこの〝獣砦〟ではこれが当たり前の光景だった。皆、そういえば透明ではないな、とは思ったが、それをおかしいとは思っていない。獣人九割、そして男九割を占める寒さの厳しいこの砦では、身体さえ温まれればいいと、皆がそう考えていた。
――の、だが。
娘は小脇に抱えていたカゴから石けんを掴み取ると、ヴォルデマーの鼻先にそれを突きつけた。顔からは血の気が引き切って、ちょっと正気に見えない。目が据わっていてとても怖かった。
「こんな砦にお勤めしてはフロリアン坊ちゃまがご病気どころか死んでしまう……!! もしそんなことになったら全員、洗濯板で撲殺してやる……お覚悟なさいませ……!!」
「……? ……!? ……!!」
周囲がその不可解な言葉に戸惑いつつ首を傾げている間に――彼女は目の前のヴォルデマー(裸)に突進した。娘を咄嗟に受け止めたヴォルデマーは、洗い場の床に倒れ込む。
「っ……」
「ヴォ、ヴォルデマー様!?」
慌てふためく隊士達の叫びもなんのその。娘はヴォルデマーの黒い豊かな毛並みの上にまたがった。
「よかったですねー、まだ坊ちゃまのご着任前で……ふふふ、いえいえ、大丈夫ですよ、私めが」
みーんな綺麗にしてお日様の香りにして差し上げますからね、と娘は青ざめた顔で不気味に笑うのだった……
一体何故こうなったのだろうか、とヴォルデマーはぼんやり虚空を見つめていた。
彼の耳の傍では、娘が雄々しき叫びを上げていた。
「うぉぉおお!! もう!! どうしてこんなにボサボサなんですか!? 人族よりも毛がたくさんなのに、ちゃんとお手入れしないなんて正気の沙汰か! 皮膚病に……なるっ!!」
「……」
石造りの洗い場に胡坐をかかされ、背後からわしわし擦られて身体がグラグラと前後する。
しかし、そんな娘の叫びを聞きながらも、ヴォルデマーはうとうと目を細めていた。大浴場はほかほか温かいし、何よりここ最近の疲労の蓄積がかなりきていた。そうして睡魔に誘われながらも、ヴォルデマーはどうして今自分が、この己よりもかなり年下だろう人の娘に叱られながら身体を弄られ……いや、洗われているのだろうかと考えていた。それも素っ裸で。
(……そういえば、最近は忙しくて身なりも後回しになっていたか……)
豊かな毛並みの手入れは、丁寧にしようとすると一苦労で時間もかかる。ここ最近は気温が低いのをいいことに、ついつい適当になっていた。
(……自業自得か……)
そうヴォルデマーがぼんやり思っていると、背中を流していた娘がきぃきぃ言いながら今度は腹側にやってきた。ヴォルデマーはしげしげと見つめたが、彼女はしかめ面で彼の毛並みばかりを見ていて、視線はちっともかみ合わない。
娘は波打った栗毛を後ろで一つにまとめ、瞳も同じ色をしていた。肌は白いようだが、今は怒りのせいか紅潮していて、額には汗が光っている。時折「坊ちゃまが……」「暴動が……」と、謎の言葉を呻いていた。
ここまで来ると、さすがのヴォルデマーも、彼女が先日砦の外で泣き喚いていた娘なのだと気がついていた。しかし、娘の方が彼に気づいた様子はない。娘は憎らしげでありつつも懸命に、ヴォルデマーの毛並みの上で石けんを泡立てている。
娘がわっしわっしと彼の身体を揺り動かすたびに、周囲で隊士達がおろおろしているが、彼女があまりに必死なのでヴォルデマーは隊士達を制し、ひとまずされるがままになっていた。
己が裸であり、それが娘の目に晒されている以外、特に害はなさそうだった。そしてヴォルデマーも、それをいちいち恥ずかしいと騒ぎ立てるほど繊細ではない。
(……ふむ……そうか)
先日出会った時、彼女は砦の惨状を見て清潔にしてみせると豪語していたが、手始めに綺麗にされるのは自分だったか。ヴォルデマーはぼんやりそう思った。まぁ砦の代表として、それはそれで相応しいことなのかもしれない。
ただ意外なことに――この娘、気は荒そうだし動きも速いが、手つきだけは丁寧だった。両手の爪も短く清潔に整えられていて、乱暴にしているようで、痛みなどは特にない。むしろととても心地よかった。
他人の世話を焼くことに慣れているのだな、とヴォルデマーは感心する。おかげで彼の疲れもだんだんとほぐれてきて、眠気は抗いにくいところまできていた。
(……そろそろ会議、が……、……、……)
側近が案じていたとおり、彼は何日もまともに眠っていなかった。そんな彼が金色の目を細めてうつらうつらしていると、それを見て周りの隊士達が色めき立つ。皆、この生真面目な上司が仕事に追われ、ろくに休めていないことを知っていた。
「ど、どうする? ここでお眠りになられたらどうすればいい? そっとしとくべきか?」
「馬鹿!! ヴォルデマー様をこんなところで寝かせておけるわけないだろ!」
「いや、大体……あの変な女をどうしたらいいんだ!?」
「しかし……ここは一つお眠りいただいた方が、お身体のためには……」
「よしっ……もう少し……もう少しで落ち……やれ、落とせ!」
――と、隊士達が密かに団結しているのも知らず、ミリヤムは一人泣きたい気持ちになっていた。恐ろしいほどに石けんが泡立たなかったのだ。
「ひぃぃいいっ……! 毛が、毛がいっぱい抜ける!! 換毛期!? 換毛期なの……!? 隊士一人にこんなに時間がかかるなんて、砦の掃除もしなきゃいけないのに……全員終わる前に雪解けして坊ちゃまがお着きになっちゃうじゃないのよぉおお!!」
獣人族の毛量を甘く見ていた!! とむせび泣く娘をよそに、男はほのぼのうつらうつらしている。
そんな浴場内の騒ぎを見て、掃除に来たおじいちゃん同僚は一言。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、ミリーちゃんは頼もしいのぉ」
……下働き仲間からの評価は高まった。
だが――次の日、彼女が隊士達につけられた通り名は……〝痴女のミリヤム〟であったという。
* * *
――翌日。
「や、やめろ! こら! どこに行く気だ!」
「お、お前は……恥じらいもないのか! この、痴女め!! 止まれ!」
と、罵られたミリヤムは、制止しようとする隊士達の足の隙間を潜り抜け、そして叫んだ。
「嫌だ!」
立ち止まって振り返り、ミリヤムは胸を張って言い放つ。
「絶対にっ! 嫌だ!!」
その言い切りように、隊士達が唖然とする。
「な、何故そこまで……」
「人族の女は分からん……何故そうまでして風呂場に侵入したい!? お前、何が見たいんだ!? やはり……」
――と、隊士が言いかけた頃にはもう、ミリヤムは隊士用の脱衣所に侵入していた。
中からいくつもの怒号が上がっているが、そのうちの一つはミリヤムのもので間違いない。
冷酷な顔をした娘は、目をつけた毛深い隊士の腰元にかじりついて、ぐいぐい服を剥いでいく。
「観念してお脱ぎあそばせ!! さぁ! さぁ裸に! 嫌なら服着たままやりますよ……!!」
「お、お前!? 〝痴女〟の……っ、やめろ! 俺には恋人が……!!」
「埃まみれで馬鹿言うな! 綺麗になって彼女様に花でも持ってけ!!」
「ひー!!」
長年使用人として主の服を着せたり脱がせたりしていたミリヤムは、服を剥ぐのがとても上手かった。獣人の隊士はあっという間に裸にされ、周囲では、難を逃れた隊士達がそそくさと逃げていく。そうして今日も幾人かの隊士達が犠牲になり、ふんわふんわの毛並みになって石けんの香りを漂わせ、脱衣所から出てくるのであった。
その表情は皆、とても複雑そうであったという。
「気持ちいいでしょう!? ね? 身体が綺麗って素晴らしいでしょう!?」
清潔さの重要性を説こうとにじり寄ってくる娘に、隊士達の反応は微妙だ。
「いや……まぁ……確かに……な……」
「いや、だが……色々見えて……」
「見えても気にしません! それどころじゃないんですよ!?」
恥じらっている場合か! と娘は容赦ない。だが皆思った。いや、お前が恥じらえと。
そんなこんなで数日も経つと、誰も彼もがミリヤムを見ればコソコソと耳打ちし合い、終いにはあからさまに避けて通るようになった。
洩れ聞こえてくる言葉はもちろん「痴女のミリヤム」である。
噂では彼女は「臭い男(雄)が好きだ」ということになっているという。石けんの匂いがしていないと狙われるという噂がまことしやかに囁かれ、少しずつ石けんの使用率が上がっているらしかった。
「くっそー……腐ってもフロリアン様の侍女である私を痴女呼ばわりとは……なんだ臭い男が好きって! こちとら清らかな坊ちゃまの匂いが死ぬほど好きだわ!」
ぶつぶつ言いながらも、今日も今日とてゴミを拾う。
昼は本職である洗濯番をこなしながらゴミ拾い、もしくは掃除に奔走した。そして夕方から夜にかけてはちょくちょく大浴場を覗き、特に汚れていそうな隊士が来ると突入して飛びかかった。もちろんお湯の入れ替えと湯焚きの手伝いも欠かしていない。
だというのに……いくら入れ替えても、次に様子を見に行くと、お湯はちょっと引くくらい土色で毛だらけなのだった。
それを見たミリヤムが怒り、居合わせた隊士に突撃していくという――負のスパイラル。
そしてそれはただただ、隊士達の間でミリヤムの〝痴女〟ランクが上がっていく結果となるのだった。
この現状を不毛とは思うものの……ミリヤムは愛しい坊ちゃまを思い出すとガタガタ言っていられなかった。せめてもの救いは同僚達が皆一緒に腹を立ててくれたことなのだが……
「うら若いお嬢さんに〝痴女〟だなんて……ミリーちゃんはこんなに頑張ってるのにねぇ」
灰色の犬系獣人のサラが、豊かな毛並みの両手でよしよしとミリヤムの頬を撫でる。彼女達の擁護もあって、悪評が立ちつつも、今のところミリヤムは砦を追い出されずに済んでいた。
「さ、温かいシチューでもお食べなさい」とサラに勧められて、ミリヤムはスプーンを手に取った。
「……使用人がお世話しに入るのは当たり前のことだと思うんですけど……なんで皆さんあんなに気にされるんでしょうか。空気とでも思えばいいのに……」
サラは「あら、随分元気な空気ちゃんねぇ」と笑う。
「あの子達も悪い子じゃないんだけど……なんせ私達は野山を転げ回るのが好きな種族ばかりだから。あまり甲斐甲斐しくされるのには慣れていないのよ、ごめんねミリーちゃん……あ、ら……? ミリーちゃん……おばちゃんお掃除のあと、隊士さん達のお手洗いに老眼鏡を忘れてきちゃったみたい……」
悲しげにそう言われたミリヤムは、スプーンを放り出してすぐさま隊士用の厠までダッシュした。
厠に辿り着くと、使用中の隊士達がたくさんいた。しかしミリヤムは躊躇なくずかずかとそこに入り込む。『使用人は空気よ! いないも同然なのよ!』と、耳にたこができるくらい教育係から言われ続けてきた。その声がミリヤムの頭の中には響いている。
が――件の〝痴女〟の登場で、大騒ぎになったのは言うまでもない。
痴女ランクは、また、アップした。
こうしてミリヤムはまだ砦に勤めて十日も経っていないというのに、廊下を歩いていると「男の裸を求めて徘徊している」などと後ろ指を差され、「いつでも発情している」と品のない笑いを向けられるようになる。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
