【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり

文字の大きさ
94 / 194

93 グステル、走り去る

しおりを挟む

 

「ど、どうしよう……」

 使者が去ると、ヴィムは真っ青になった。
 あの男がヘルムートを嘲笑ったことは本当に腹が立つが、このままではヘルムートに命じられた任務を果たせない。困ったヴィムは、助けを求めるようにグステルを振り返る。と、娘は思案顔のまま。
 顎に指をかけて沈黙する彼女に、ヴィムは使者がいた時には訊けなかった疑問をぶつける。

「ス、ステラさん! どうしてあの人に手紙がないなんて言ったんですか⁉︎ ヘルムート様から──預かっていたでしょう⁉︎」

 ──そう、実はグステルは母の手紙を所持している。
 その手紙はラーラのもとへ戻るヘルムートが持っていても無意味なもの。何かの時には交渉材料になるようにと、ヘルムートはそれをグステルに託して行った。
 ヴィムの泣きの指摘に、グステルは「ああ」と、やっと彼のほうを見て平然と答える。

「使者の高慢な態度が気に入らなくて?」
「えっ⁉︎」

 ヴィムがギョッと目をまるくして、途端グステルは苦笑。

「……と、いうのはまあ、半分冗談ですが」
「は、半分……?」
「ちょっと、あの方の強気な態度が気になりまして…………」

 言ってグステルは再び沈黙し何かを考えている。
 彼女は使者の横柄さを見て、ある危機感を覚えていた。

(これはちょっと……もしかしたらヘルムート様を待っている場合ではないかも……)

 少し気持ちがざわめいて。と、黙り込んで考える彼女に、ヴィムが気落ちしたように言う。

「でも……侮られるのは仕方ないんじゃありませんか? あの方の言った通り、ヘルムート様の代理とはいえ僕は使用人風情ですし……」

 使者に言われたことを気にしているのか、うまく交渉できなかった自分を情けなく思っているのか。ヴィムはしょんぼりと肩を落としている。
 そんな青年に気がついて、「あら」とグステル。

「なんですか風情って。ヴィムさん、あなたはヘルムート様の代理として使者に対応したんですから、あなたを侮るのは大変失礼な行いなんですよ? ちゃんとした使者なら、侯爵家嫡男の代理人を、あんなふうに貶したりしません。ましてや、ヘルムート様を嘲笑うなんて……というか……侯爵家だろうが子爵家だろうが、市民だろうが。初対面の相手に対する態度がなってない。いったいどういう教育を受けているやら……」

 グステルは男が出て行った玄関を軽く睨みながら、ため息をつき、若者の頭に手を伸ばし、慰める。

「大丈夫、ああいうのは、私みたいな太々しいおばちゃんがなんとかしますから」
「ステラさん……」

 グステルによしよしと頭をなでられて。ちょっと励まされたのか、ヴィムは落ち着きを取り戻し、やっと少し笑顔を見せた。
 どうやら素直すぎるヴィムはもう、若いはずのグステルの『おばちゃん』発言には完全に違和感を失っている。
 ラーラから彼女を見張れと言われたこともうっかり忘れたのか。彼女を見る青年の目は、すっかり頼もしい姉を見るような眼差しであった。

 ──が、青年は現状を思い出してさっと顔色を変えた。

「い、いえっ、あの、そ、それより……い、いったいこれからどうするんですか⁉︎ これでは公爵閣下に面会ができないじゃないですか!」
「あはははは」
「⁉︎」

 訊ねると、グステルはなぜか空虚に笑う。その不穏な響きに、ヴィムは……なんだかとても嫌な予感がした。

「え……ス、ステラさん……?」

 どうしたんですかとヴィムが恐れるような顔で訊ねると、グステルはにやりと彼を見る。
 微笑む焦げ茶の瞳には愉悦が浮かび、同時に強烈な闘志が満ちていた。そのみなぎるもの強さにヴィムは困惑を深め、咄嗟に察した。

 ──これは……明らかに何かよからぬことを考えている顔である。ヒェッとヴィム。

「ス……ステラさん……? もしかして……本当は結構怒ってます……?」
「あらーいえいえ、ふふふ。だって久々に思い切り喧嘩を売られちゃったんですもの、怒るというより、なんだか楽しくって。ふふ、目障りだとおっしゃるなら仕方ありませんよねぇ……」

 グステルは、しおらしく消沈したふうに言って──直後にかっと笑う。

「あの方の目につかぬところでコソコソしてやろーっと♪」
「⁉︎」

 グステルはそう言うと、足取り軽くるんるんしながら宿屋の外へ出て行こうとする。
 その後ろ姿に、ヴィムが慌てた。

「ちょ……ステラさん⁉︎ ど、どこにいくんですか⁉︎」
「ほほほほほ、心配しないでねヴィムさん。ぜぇったい、ただ罵られたままじゃいませんからね! おほほほほほ」



 ……そしてその数時間後。
 青年は、ぁあああああ……‼︎ と、その光景にうろたえた。
 ここは領都市中のあるあばら家の中。
 もう何年も誰も住んでいないらしい家の中で、その少し薄汚れた壁にヴィムば張り付いて悲壮な顔。そんな青年の目の前で……グステルが──ある中年男に涙目ですがりついている……。

「ロイヒリン様……ど、どうかこの哀れな娘をお助けください……っ」

 う、う……と、嗚咽混じりに言葉をつかえさせ、ホロホロと頬に涙を滑り落とし、さめざめと涙する姿は何も知らない者から見ると手弱女然として哀れみを誘う。
 ──が。
 内情を知るヴィムからすると、あまりにも大袈裟。見ていてハラハラし過ぎて胃がいたい。
 グステルにしくしくとすがられた商人風の男も、とても困惑しているらしく……ヴィムは……ちょっと……いやとても。気が──遠くなった。



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~〈本編完結済〉

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

処理中です...