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エルフィの言い訳 11
しおりを挟む我が家はとても古い家だった。築百年はとうに過ぎていて、一見相当ガタが来ているように見える。
でも実は、柱などはかなり頑丈に造られていて、おまけに精霊魔法が得意だった祖母が守りの魔法を残してくれているから、嵐くらいではびくともしない。
ドラゴンの重みが掛かっても屋根が落ちたりしないところを見ると……私が思っていた以上に、祖母は優秀な精霊魔法の使い手だったらしい。
……ありがとう、おばあちゃん。
さて、そんな我が家に今は私一人。
昔はこの家には総勢十名の家族が住んでいた。
祖父母に叔父叔母、そしてその子供たちと、私たち親子である。
けれどもそんな祖母や祖父は十年ほど前に亡くなった。その時に、叔父叔母は子供たちを連れて便利な街のほうへ移り住んで行った。
そしてその後、私の両親が亡くなると……この家には私だけが取り残された。
両親の葬儀の時には叔父達も帰ってきてくれたが、子供達が騎士学校に入り、すぐに王都に戻らなくてはならなかったようだ。
一緒に王都で暮らさないかとも誘われたし、従兄にはかなり真剣に求婚されて共にいかないか、……なんてことも言われたけれど……。
正直、田舎暮らし……というより僻地育ちの私は、都会でなんて今更怖くて暮らせない。
従兄には丁重にお断りをして、私は一人を選んだ。
私としては、本能で動く魔物や獣より、感情が複雑で何を考えているのかわからない人間のほうが苦手。
ここは周りには民家もなく、木ばかりで人気はないが、私は別に困りはしなかった。
アルセイデス家は、代々ここで畑を耕し、猟をして、時折村やその向こうの街へ収穫物を売り、対価で必要なものを買ったりして生計を立てていた。
その技術を私はもうすっかり叩き込まれていて、一人でもどうってことはない。
幸い周りは恵豊かな森であり、近くには清流も流れる。
森からはさまざまな木の実やキノコや野草が採れるし、獣もいる。川には魚もいて、食べるには困らない。
もちろん危険な場所もあるが、その避け方も心得ている。
だからこの家に一人でも、私は以前と同じように気ままな生活を続けている。
数日に一度、村のほうまで出向いて、必要なものを売り買いするついでに、教会に寄って司祭様に勉強を教わる。
ど田舎暮らしの私の対人関係といえばそんなものだったのだが……。
まさかここで、ドラゴンなんていう同居人(?)ができるとは思っていなかった……。
人生とは数奇なものである。
家の周りの柵には魔物よけの魔法が施してあるし、堀もめぐらせてあるのだが……なるほど、きっとドラゴンは上空から来たんだな。
柵も堀も無駄だったわけだ……。
ま、それはいいとして。
ドラゴンが巣を作ったのは、なんと、私の寝室の真上。これは本当にやめてほしかった。
図太いと評判の私も、さすがにドラゴンが寝息を立てている真下の部屋では眠れない。
だから今は、その反対側の端っこ。つまりは台所に布団や衣類などを引っ張ってきて、寝起きのほぼすべてをここで行なっている。
そうすると、うちは長細い平家だから、私の生活エリアは屋根を隔ててドラゴンの間合いからは完全に外れる。これで安心かと言われると……正直心許ない気もするが……距離が確保できるだけマシといえた。
これが、一人暮らしの小さな家とかだったらドラゴンの真下で寝なければいけないところ。
台所の床は寝起きするには冷たくて硬いけれど、冬の前までにはなんとかもう少し過ごしやすいように改善する予定である。(←全然まだまだ暮らすつもり)
まあ、この現状を誰かに言えば正気かやめろと言われるかもしれないが、だってドラゴン大人しいし。
ずっと寝ているし。起きていても、あまり私のことも気にしている様子もない。
一度こっそり屋根の上をのぞいたら、黄金色の瞳と目があったことはあったが……。
ふんっと鼻を鳴らされ、そのまま目を逸らされた。
……多分あれはきっと、敵意はないという意味だな。と、私は前向きに、好意的に受け取ることにした。
なんなら、巣の下に住むミミズかモグラくらいに思われているんじゃないかと思う。
「──だって、私たちだって、家の下に住んでいるミミズとかモグラなんて気にしないじゃない? きっとそれとおんなじなんだと思う」
ドラゴンなんか、どうあっても私が倒せるわけないわけで……。
鋭い牙、全身を覆った硬い鱗、鋭い爪のどれをとっても、叶う気がしない。
「戦意なんか持つだけ無理っていうか……」
ドラゴンも、私なんか脅威でないことくらいわかっているのだろう。
だから、森の奥の一人暮らしだと、家の中で口をきく必要すらないんだから、物音にさえ気をつければ。
「なんとかなるかなぁ……って」
と、笑うと間髪入れず呆れきった声が返ってくる。
「……、……、……な、ならないですよ……」
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