騎士になりたい令嬢は、妖精のような令嬢に恋をする

歩芽川ゆい

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令嬢の変化

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  その日からベアトリーチェは変わった。令嬢教育にしっかりと向き合うようになったのだ。午後の剣と馬の練習は相変わらず続けているが。
 どういう風の吹きまわしだと長兄が聞くと、ベアトリーチェは先日の茶会で思う事があった。次も参加したいと思っていると答えるではないか。
 これを聞いて周りは、ベアトリーチェが皇太子に一目ぼれをした、いやいや周りの令嬢に影響されたのではと勝手に推測していたが、なんにせよベアトリーチェが令嬢教育を受け入れてくれるのは良い事だ。余計な事は言わずに見守ろう。皆がそう思っていた。

 
 婚約者選びは、2度の茶会参加で半数が落とされる。3度目で少数が残る。それ以降は皇太子のさじ加減一つだ。
 ベアトリーチェは2回目の茶会で、皇太子のいるテーブルに短時間だが同席した。少しでも顔を売っておかないと、ここで落ちたら二度とあの令嬢に会えないと考えたからだ。

 ベアトリーチェの強みは、自分が侯爵令嬢であるという事だけだ。皇太子の好みで選ばれるとはいえ、下位貴族ではよほどのことがないと残ることはない。逆に言えば上位貴族であれば、普通に振る舞っていればそれだけで残れる確率が高い。そうは言っても一度も皇太子と言葉も交わさなければ、残る気がないものとして落とされてしまうだろう。だからベアトリーチェは、話したくもない皇太子と言葉を交わすことにしたのだ。

 前回の茶会では、ろくに顔も見ていなかった皇太子だが、向き合ってみると実に静かな人だった。まだお互いに10歳と11歳だが、男の子なのに線も細い。兄を見慣れているからか余計に細く見えて、こんなに細くて大丈夫なのかと心配になる位だ。そして顔も小さい。自分よりも小さいかもしれない。そして伏せ目がちの目元には、とても長いまつ毛。
 色も白いし、ベアトリーチェと違ってそばかすなどない。プラチナゴールドの前髪がそよ風に揺れて、伏目がちの緑の目が時折見える。後ろ髪は肩よりも長いようだ。首の後ろで括っているから、正確な長さは分からないが。
 カップを持つ指も細く白い。ベアトリーチェは自分の彼よりも色の濃い、剣だこのある手と思わず見比べてしまった。その目線に反応したのか、ベアトリーチェと目が合った皇太子が口を開いた。

「あなたはインフェルボラート侯爵家の令嬢だったと記憶しています」
「覚えていていただいて光栄です。インフェルボラート侯爵家の娘、ベアトリーチェと申します」
「あなたはもしかして、剣を扱うのですか?」

 やはり皇太子にもベアトリーチェの手が見えたようだ。周りの令嬢が引きつった顔をしている中、ベアトリーチェは堂々と頷いた。

「はい。騎士に憧れていまして、兄に剣の手ほどきを受けています」

 そう答えると、周りの令嬢たちがクスクスと笑い出した。ベアトリーチェが周りをそっと伺うと、令嬢たちは笑うか呆れるかのどちらかの表情をしていた。その中の一人、ベアトリーチェの隣に座った令嬢が、無邪気を装って言う。

「ベアトリーチェさまはずいぶんと乱暴なのですね」
「乱暴、とは?」
「剣を振り回しているのでしょう?」

 ベアトリーチェには見覚えのない令嬢だが、ベアトリーチェの名前を知りながらいきなり話しかけてくると言う事は、上位貴族の令嬢なのだろう。

「振り回しているわけではありません。手ほどきを受けているのです」
「でも女性が剣を持つなんて、野蛮ですわ」
「そうですわ」
「ならば、女性は何をしていろと?」

 話しかけてきた令嬢の椅子の後ろに立っていた令嬢も、彼女に同意してくる。それに対してベアトリーチェは質問をしてみた。すると話しかけてきた令嬢が、にっこり笑って答えた。

「わたしたちは、旦那様となる人をお支えし、癒せるようにするのが仕事でしょう?」
「それはどんなものなのですか?」
「楽しくお話したり、家の管理をして、旦那様の負担を軽くすること、とお母様が言っていますわ」

 どうやら具体的な事は彼女にもわからないらしい。

「そうですか。でも女だから家でおしとやかに。男は外で活発にというのは、違うのではないかと私は思っているのです」
「なにが違うのですか?」

 令嬢たちが眉を顰める。

「私は刺繍を刺すのはとても苦手です。ですが刺繍職人は見事な刺繍を刺します。その中には男性もいます。わたしたちのドレスも、デザイナーは女性ですが、縫製には男性も加わっています」
「……それは、庶民は仕事だから」
「庶民は各家庭で女性が料理をする場合が多いと聞きます。ですが私たちの家の料理人は、ほとんどが男性です」
「……」
「私が淹れるお茶よりも、うちの執事が淹れるお茶の方がおいしいです」
「それは……」
「何が得意で何が不得意なのかは、男も女も関係ないと私は思います。どちらでも自分が得意なものを伸ばしていけば良いのではないでしょうか」
「その得意な物が、あなた様の場合は剣だと言うのですか?」
「そうです」
「そんなのは言い訳だわ。苦手な物から逃げているだけよ。私たち女性は優雅でなければいけないの。刺繍の出来だけが問題ではないのですよ。一つの事に集中して、何かを仕上げる過程が大切で、それが将来につながるの」

 きっと家でそう言われているのだろう。ベアトリーチェも家庭教師にそれに似たような事を毎日言われている。

「それも一理あります。しかし集中して何かを仕上げるのが大切ならば、それが剣の練習でも良いでしょう? 自分の身体を思い通りに動かすことは、踊りにも歩き方にも通じると、私は思います」
「そんな事はないわ!」
「そのくらいにしませんか?」

 令嬢との会話を止めたのは、皇太子だった。途端に令嬢たちが静かになる。
 皇太子は二人を穏やかな顔で見つめていった。

「なかなか面白い話でした。しかしながらお二人とも考え方が違うから、自分の意見を押し付けていても相手の考え方は変わりません」
「……その通りですね」

 皇太子に言われて、ベアトリーチェは素直に頷いた。家庭教師が何と言おうと、ベアトリーチェの考えは変わらない。それと同じで、令嬢の考えも変わらないだろう。だが彼女の方は納得できないようで、頬を膨らませている。

「得意なものを伸ばしていけばよい、という考え方は良いですね。僕も参考にしたいです」
「ありがとうございます」
「そ、そんな……」
「しかし苦手なものを努力して克服する、と言うのもまた、素晴らしい考えです」
「そうですよね!」
「ええ。お二人とも、それぞれに素晴らしい考え方をしていると思いますよ」

 流石は皇太子だ、とベアトリーチェは思った。二人の言い分を否定せずにその上で肯定してくれる。現に令嬢はとてもうれしそうだ。
 その後は他の令嬢たちも、自分の得意なことを話し始めたので、ベアトリーチェは茶を飲み干してから、そっと立ち上がってその場を離れた。

 一応話は出来た。きっと印象にも残っただろう。これでもし次回呼ばれなかったら、ベアトリーチェの考え方は皇太子には受け入れられないと言う事だ。
 それは別に構わないが、彼女に会えなくなったら嫌だなあと思いながら、ベアトリーチェは庭園を後にした。


 
**

 今度もまた、ベアトリーチェは令嬢用の控室で、侍女に手伝ってもらいながらパパっと着替えた。前回を踏まえて髪型も簡単にまとめてきただけだったので、手早く降ろしてポニーテールニしてもらう。
この国では貴族は男でも髪を長く伸ばしているものは珍しくない。皇太子も肩よりも長い髪を一つにまとめていた。

 ポニーテールも少年少女共通だ。ただ毛先を丸める男の子はいないので、男装に近い形になる場合はなるべく丸めない方が良いと、ベアトリーチェは考えたのだ。

 身支度を終えた茶会に出席している令嬢たちが戻らないうちに急いで控室を出て、侍女には前回同様馬車で待つように伝えて、前回と同じ庭に飛び出て行った。


  草原には誰もいなかった。そうだろうなと思いながらも、ベアトリーチェは非常にがっかりした。そしてそのむしゃくしゃを晴らそうと、また途中で拾った棒を剣に見立てて、仮想の相手と戦いながら走り回り、転げまわって、いつの間にか奥の森のそばまで行っていた。
 そこで息を切らせながら、もう一度周りを見回すが、人の気配はない。

「ふぅ」

 ため息をつきながらその場に寝転がる。敷き詰めるように生えている草のお陰で、地面が柔らかい。本当に手入れが行き届いている草原だ。どれだけの人が働いているのだろうか。

 目をつむると、そよ風で揺れる葉の音と鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 静かだ。それ以外の音がない。侯爵家だと訓練中の警備兵の声などが聞こえてくるが、ここでは人の声がない。静かだ。それだけ広いと言う事か。
 こんなところに住んでいる王族は、寂しくないのだろうか。
 先ほど会った皇太子は、非常に静かな人という感じがした。やはりこういう静かなところに住んでいるから、静かになるのだろうか。
 そんな静かな人とは、自分は合わないだろう。家の庭なら大声を張り上げながら練習しているし、家族とも声を上げて笑うこともあるのだから。
 
 彼女に会うためなら、もうしばらくはあの皇太子との茶会に参加しなければいけないが、最終的に選ばれることはないようにしよう。
 いざとなったらこの姿を見せれば大丈夫だろう。こんな令嬢らしくない人を、皇太子妃にしようなんてだれも思わないはずだから。

 しばらく風を感じながら休んでいた。そろそろ茶会も終わり、令嬢たちも帰った頃だろう。彼女がいないのなら長居をしても仕方がない。帰るか、と立ち上がり、手にした棒で草を払いながら城に戻ろうと歩く。

 会えないとなるとますます会いたくなる。
 しかしあれは本当にあった出来事だったのだろうか。もしかしたらあの時も自分は疲れて休んでしまい、その夢で見たことだったのではないだろうか。
 そんな事はない、と断定はできない。令嬢たちに囲まれるという慣れない環境に緊張して、しかも相手を蹴落としてでも自分が、という彼女たちの気迫に疲れてしまい、そういうものとはかけ離れた、自分の理想像のような彼女を夢に見てしまったのかもしれない。

 そんな風に考えながらトボトボと歩いていると、ふと人の気配を感じ、素早く目を向けた。

 居た! 彼女だ!
 この間とは違う木の下だが、おなじように座っている!

 ドクンドクンと心臓の音がうるさい。目は釘づけだ。

 ああ、夢ではないだろうか。思わず両頬を手でパンと叩く。ちゃんと痛いし、彼女はいる。
 しかも今の音で気が付いたのだろうか。彼女がこちらを見た。

 まだ遠目なので、表情などは分からないが、こちらを見ているのはわかる。そしてその場から動かない事も。ベアトリーチェに気づきながら逃げないということは、彼女が自分を邪魔とは思っていないと言う事だ。

 嬉しくなって、棒を放り出して、早足で彼女の方に歩き出す。本当は走り出したいけれど、彼女が実は困惑しているだけだったりしたら困る。彼女が逃げるという選択を出来る時間がある程度にしておかなければ。
 そう考えて、走り出したい足を必死に押さえて、抑えきれずに早足ではあるが歩み寄った。

 
 結構な近さになっても、彼女は逃げるどころか動くそぶりさえ見せなかった。もちろんベアトリーチェには気が付いていて、ずっとこちらを見ている。
 これなら、嫌がられていることはなさそうだ。思わずにっこりと笑いながら、ベアトリーチェは十分に距離を保った場所で、片膝と片手を付いた。

「おくつろぎのところ、失礼いたします。またお会い出来て嬉しいです」

 彼女は本を持って、木の下に座っていた。
 今日もまた白っぽいドレスを着用していた。アフタヌーンドレスのようで、首回りと袖にレースを使い、前身ごろにはリボンとレースを重ねて可愛らしく、スカート部分はほどよくふんわりと。シンプルだが生地に疎いベアトリーチェにもその素材の良さがわかるほどに上等な生地を使っている。
 白は汚れが目立つからこうして外に出る時はコートを羽織る事が多いのだが、彼女はそれを使用していない。

「たしか、ベネデッタでしたね?」
「はい。名前を憶えていていただけたとは、光栄です」
「ここで会う人は少ないですから」

 彼女は本を閉じると裾を少し直して、ベアトリーチェを見てくれた。それだけで胸がドキドキする。

「今日もお綺麗ですね。ドレスも素敵です」
「ありがとう。今日もあなたは森まで走ってきたのですか?」
「はい」

 心から貴族のそう思ったのだが、貴族の挨拶だと思われたのか、ベアトリーチェの心からの賛辞はあっさりと流された。

「本当に走るのが好きなのですね」
「はい。それに将来は騎士になりたいので、体を鍛える意味もあります」
「騎士に? そう……。頑張ってください」
「はい!」

 彼女にそう言ってもらえた。それだけでベアトリーチェは心が弾んだ。もし騎士になれたらあなたの護衛にしてもらえないか、と言おうとしたとき、彼女はふと振り返り、顔を戻すとため息をついた。

「もう戻らなくては」
「そうですか……。またお会いできますか?」
「あなたがここへ来る時と、私の時間が合えば」

 そういうと彼女が立ち上がろうとしたので、ベアトリーチェは咄嗟に片手を差し出す。しかし触れていいものか、と一瞬戸惑ったが、彼女も手を重ねようと伸ばしてくれたところだった。
 慌てて近づいて、その手をそっと取る。

 白くて奇麗な手だ。指も長く細い。

 くっ、と力を入れて支えてやれば、彼女はふわりと立ち上がった。

「お送りいたしましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。それじゃあ」
「……お気をつけて」

 ベアトリーチェは姿勢を正し、騎士の礼を取った。彼女はそれをみてふんわりと笑い、少しだけ手を振ってくれてそのまま城の方へ去っていった。

 ベアトリーチェは、礼儀正しく彼女の姿が見えなくなるまでその場を動かずに見送り、見えなくなってから、ようやく自分も帰るべく、動き始めた。
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