たとえ世界が滅んでも -未来人から命を狙われたアイドルと彼女を守るオタクたち

cotori

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エピソード4 認めたくない戦いがここにある! 断じて似てない、俺はこんなにダサくない 前編

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期末テストが終わり、佐倉奈都さくらなつは笑みをこぼした。
出来は問題ではあったが、メンバーに学生が多いため
テスト期間は芸能活動を自粛しているのだ。
かなり長期間 襲撃もなく、幸せな日々が続いていた。
ー今日は久しぶりに梨花たちと遊べる。
奈都を呼ぶ声が聞こえた、軽やかな足取りで奈都は彼女たちと合流した。

満田里香みつだりかとは今年の春に知り合った。
愛想がよくて世話焼きで、よく合コンを主催している。
ボブカットでくりっとした目のかわいい女の子だ。
『今日は〇△町でクラスメイトとボーリングp(^ー^)qがんばるぞー』
奈都はツイッターに書き込んだ。
すぐにイイネと『〇〇で待機します!』などと返信がついた。
「奈都、誰とラインしてるの?」
クラスメイトが覗き込んできて、さっと画面を閉じた。
「お母さん。いろいろあったから心配するの」
ちょっとうざいお母さんが増えた、という設定で奈都は耐えていた。
例の元東大生発案のダサい名前のストーカーシステムが実用化されていた。
ストーカー同士の監視にもなり、暴走したファンを見張りたちで押さえるなど、
違った面でも機能し、安心した生活を送ることができた。


「田郷くーん、おまたせー」
梨花が手をふった先、男性のグループの一人が手をあげた。
奈都は梨花の手を引っ張り、みなに聞こえないよう話しかけた。
「ちょっと、男子がいるって聞いてないよ」
「おねがい奈都!今回だけ!」
「ダメだよ、うちのグループ恋愛禁止だし」
「奈都がくるなら井出くんつれてきてくれるって言うからさぁ」
梨花が目くばせした。
「東〇〇高校ミスターコン優勝の井出くんだよ。
 奈都も前カッコイイっていってたじゃん」
男性グループのなか、後ろを向いてスマホをいじっていた井出孝之いでたかゆきが振り返った。
学ランの中にビジュアル系バンドのパーカーを着て、
ちょっと眠そうな顔をした男の子。
高身長をいかしてバスケをしている。ファンも多い。
「・・・今回だけだよ」
「奈都に譲ってあげるけどさ、いけたらいく予定だから。よろしくね」
梨花がイタズラっぽく笑った。
「あっ」
男の子と遊んでるのがバレるとまずい。
「ボーリングじゃなくてXX駅のカラオケに変更してくれる?
 別々に入店して合流でいい?バレるとヤバイし」
OKっと梨花はラインをはじめた。目の前にいるというのに。
ーちょっとはめられた気がする。
でも、井出くんには奈都も興味があるし、実際見るとカッコイイのだ。
今日だけ!今日だけ襲ってくる奴らも、アイドルである自分も忘れよう。
何かあったら待機してるとかいう所まで逃げればいい。
そもそももう襲撃はないかもしれない。
「奈都ぅ、いっくよー」
ごきげんな梨花が腕を組んで歩き始めた。奈都の心もウキウキした。


カラオケボックスで男子は奈都に、女子は井出に殺到した。
話すことすらできやしない。
当然といえば当然の結果のようで、無理に道を切り開く勇気も奈都にはなかった。
井出の隣で笑っている梨花が羨ましい。
最初から計算のうちだったのかもしれない。
「お花摘みに」と、奈都はお手洗いにたった。

戻る道すがら、自販機の前に井出が一人でたっていた。
飲み物を選んでいるようだ。
「なに飲むの」
奈都は思い切って声をかけた。
井出は奈都をちらりと見て、すぐ自販機に視線を戻した。
無言でボタンを押す。
ピー ガタンッ
「んっ」
「! ・・・ありがとう」
差し出された紅茶を奈都は受け取った。
あたたかい缶、少しだけふれた彼の冷たい手。
「あのさ・・・」
なかなか続きを言わない。
お互い目もあわせずに黙っていた。
顔が熱い。胸の鼓動が止まらない。
「あいつらといたら・・話せそうにないしさ、バックレね?」
すぐに返事が出来なかった奈都は井出を見上げた。目があった。
心臓の音がうるさい。
井出がかすかに微笑んだ。



その彼の笑みが、驚き、そして苦痛の表情に変わった。
「邪魔なところにいると思ってたけど、本当に邪魔だったのねアナタ」
未来からの襲撃者モヒカンが背後から井出の腕をひねり固めていた。
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