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エピソード5 認めたくない戦いがここにある! 断じて似てない、俺はこんなにダサくない 後編

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「いってぇ、なんだよアンタ!」
腕を固められながら井出孝之いでたかゆきがモヒカンにつっかかった。
「威勢がいいわね。ボウヤ」

ゴキッ

鈍い音がした。
「う、うわあああああ」
右腕を押さえながら、井出が崩れ落ちた。
「井出くん!!」
佐倉奈都さくらなつはとっさに彼のそばに座り込んだ。
奈都を見た井出は苦痛をかくせない表情で、もがき、
彼女を自分の背後にかばった。

モヒカンの背後に覆面’sとイケメン風の男性があらわれた。
イケメン風が言った。
「佐倉奈都、大人しく我々と来るがいい!
 ・・・それともそいつと一緒がいいか」
奈都は震えが止まらなかった。

ーどうして今日に限って・・・
バカなことをした。ウソをついてオタクを遠ざけた。
絶望感と諦め。とにかく行くしかない。
ここにいても井出が巻き込まれるだけだ。
奈都は彼のシャツを握りしめていた手を少しずつ緩めた。
立ち上がろうとした、その時
井出が奈都の手をつかんだ。
肩で息をしながら奈都を見ていた。
ー私、ここで死んじゃうかもしれない。そういう運命だったのかもしれない。
最後に彼の胸に飛び込みたい、と体が傾いたその時、奈都は気づいた。




井出の向こう側、柱の陰から3人ほどオタクらしき輩が覗いていた。
「えっ」
思わず真顔になった奈都に、モヒカンがすぐさま反応した。
オタク達をみつけて舌打ちをする。
「移動はなしよ」
モヒカンが銃を奈都たちに向けて構えた。
ここで撃つ気だ。
ーダメ!もうダメ!どうしようどうしようどうし・・・


パァンッ


奈都は渾身の力をこめて、井出を平手打ちした。
井出が床に崩れ去り、うめき声をあげた。
「この男も、こいつらの仲間よ! 助けて私の聖騎士パラディン
「なっつん!!!」
背後のトイレから社会の窓が全開の男が奈都の前に回り込んだ。
覆面(赤ライン)が あっと小さく声をあげた。

「そうだと思ってたよ なっつん」
全開男は前を向いたまま器用に執拗に 握手を求め手を差し出した。
ー手を洗ってないんだろうな・・・
引き気味になりながらも握手は交わされた。
なかなか手を離そうとしない。
なんとかして匂いをかごうとしてるような動きをする。

軍師ぐんし殿!」
柱の陰にいたオタクたちも合流してきた。
全員が握手を求めてくる。それどころではないのに。
握手を終えて満足げなオタクの一人がつぶやいた。
「あいつ、軍師殿になんか似てません?」
「え、そう?似てないよ」
グンゼのパンツをチラ見せ男、軍師が否定した。
「あー・・・ホントだ似てるでござるな」
「そうかなぁ」
軍師がうざそうな前髪をかきわけた。
「似てる!似てますよ」
ーそんなどうでもいい話を今しなくてよいのに
と奈都は思った。
だが、覆面たちは目を見張って固まっていた。

「似てると思います・・・」
覆面Aがボソっと言った。
「黙れ・・・!」
イケメン風の男が真っ赤になって肩を震わせていた。
「ん、んっふ、ぶはははは」
「貴様は笑うな!」
笑い死にしそうな赤ラインに、イケメン風が怒鳴りつけた。
「エイイチ、今日は引きあげましょ」
モヒカンが優しく語りかけた。
フンッとエイイチはドスドスと怒りながら去っていった。
モヒカンが手をあげ、全員撤収をはじめた。


「いまだ!ラブフォーメーションだ!」
練習したものを見せつけたかったオタクたちは勝手に謎の踊りをはじめた。
奈都を中心にくるくると回る。途中途中に変なポージングが入る。
赤ラインが振り返っては噴き出すのを咳でごまかしながら去っていった。

「奈都・・・なにやってんの」
どうも全員で様子を伺っていたらしい、梨花が部屋から出てきて話しかけてきた。
悲鳴が聞こる。井出をみんなが囲んでいた。
奈都は変な踊りの真ん中で、下手な受け答えもできず、ただ力なく笑った。









「あの男の髪の毛かなにかを手に入れてくれ」
時空の狭間の基地。薄暗いメインコンピューター室。
エイイチが誰かと話していた。
「ご先祖様か調べるのか?」
「からかうな」
「からかうさ」

パンッ

いつのまにかエイイチの横腹に銃が突きつけられていた。
「キミとの最後の会話だ。楽しく終わりたい」
何か言おうとしたエイイチが相手を掴もうとした手のまま倒れた。
「確認しなくてもわかる。アレはアタリだ」


「うごかないで!!」
部屋の出入口でモヒカンが銃をかまえた。
「おっと、撃たないでくれ。麻酔銃だ。死んでない」
銃口を相手にかまえたまま、横走りで、モヒカンがエイイチにかけよった。
たしかに息がある。
「何が目的なの。
 答えなさいよ・・・モモ!」
そこには赤ラインが立っていた。

「僕の目的は世界を救うこと」
「そぉ?そんな風に見えないけど」
「彼はね、全世界を道連れにした自殺をする予定だったんだ」
「理解しがたいウソをつくのね」
「そんなことないさ キミは賢い」
モモが覆面を外した。
エイイチより多少若そうだが、ほんの時折みせる彼の笑顔に似ていた。
いや、似すぎていた。


「彼が目覚めるまで 時間は十分ある。
 さぁ、僕たちの話をしようか。
 小学校の教科書に載っているような話だがね。
 ほんの30年前までは」
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