たとえ世界が滅んでも -未来人から命を狙われたアイドルと彼女を守るオタクたち

cotori

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未来編1 ぼくたちが生まれた理由

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コポッ コポポッ

そこは大きな工場だった。
水耕栽培のような、浅く広い水槽の中にたくさんの大きなガラス鉢がならんでいた。
ガラス鉢の中に胎児がいた。
赤いへどろのようなものに包まれ、へその緒のかわりにチューブが伸びていた。
循環し排水する水音、呼気の音しかない部屋に
めずらしく複数人の足音が聞こえた。

「こちらです」
案内人がひとつの鉢を示した。
     『C70F0A0』
鉢に貼られたラベルにはそう書かれていた。
「ふむ」
博士は鉢に顔を近づけ、その胎児を確認した。

コツッ

小さな音に、博士は音の方に顔を向けた。
隣の鉢の中で、胎児の手が鉢にあたっていた。
「ふむ」
博士はその胎児をまじまじと見つめた。
「こっちにしてくれ」
「・・勝手をされては困ります」
「ふむ」

博士はその鉢のラベルを剥がし、最初に案内された鉢のラベルの上に張り付けた。
     『C70F0A1』
「これで問題ない。さあ、運んでくれ」
胎児の入った鉢が引き上げられ、運ばれていく。
「あのっ」
何かを訴えようとした案内人の肩を博士が叩いた。
「案内ごくろうだったね、キミ。ありがとう」
去っていく足音だけが室内に響いた。

ガチャン

重厚なドアが閉まる音がしても 案内人はその場に呆然と立ち続けていた。
C70F0A0が得た僥倖を気まぐれで変更した。
それが信じられない。
ー神かなにかのつもりか・・・!
心の中で老人の傲慢さを毒づきながらも、
自分の愚かさに気づき苦悶の表情を浮かべた。
名前をつけ、語り掛け、その成長に一喜一憂した。しかし
ー自分にも、この子を愛する資格なんてないんだ

「・・・ごめんな」
案内人は ごめん ごめん と言いながら崩れ落ち、慟哭した。
水音と呼気の音だけが聞こえた。





鉢から取り出されたC70F0A1が産声をあげた。
A1エイイチ ぼくらの世界へようこそ」




20XX年のことだった。
突如現れたEBORAウィルスの突然変異型に人はなすすべもなかった。
笛のような呼吸音をおこす患者は最終的には内臓が溶解し、膨らんだ風船のように破裂した。
隔離、滅菌、焼却あらゆる手段がとられた。
その努力をあざ笑うかのように何度も各所で発生し、
人はその数を確実に減らしていった。

第1パンデミックの地であるとされた都内某所で
唯一重篤な症状を起こさず生き残った青年がいた。
彼がのちの検体 N-OT9、人類最後の希望だ。


まず、彼の血液から抗体が作られた。
これは一定の効果をあげた。投与から数日、患者を生きながらせた。
生きるためには定期的に抗体を打ち続ける必要があった。

N-OT9に対して特例措置が認められた。
クローン製造である。
抗体製造のために、人類初のクローンがここに認められた。

さらに研究が進んだ結果、N-OT9の特定の臓器がウィルスへの完全耐性を生むことがわかった。
総人類臓器移植時代の幕開けである。
当初は臓器のみを生成する方法が模索されたが、これは確立しなかった。
クローンたちは日々製造されては、その短い生涯を終えることとなった。



しかし、クローンとは言っても人を殺しながら生きることに
人々は耐えることが出来なかった。
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