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プロローグ
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閑散とした住宅街の一角、ひとつの一軒家から母娘が軽自動車に乗り込んだ。
積み込まれた旅行鞄。5歳児ほどだろう娘は涙でマスクを濡らしていた。
母親は化粧けもなく髪もぼさぼさでとても急いていた。
やがて走り始めた車の窓から、歩道に倒れた人が見えた。
母親はアクセルを踏んだ。その光景はすぐ遠ざかっていった。
人を助ける余裕なんてないのだ。
それが命取りになりかねない。
「パパぁ・・・」
涙声で娘が我慢していた言葉を吐いた。
夫は彼女たちに”逃げてほしい”と願った。
あの家に置いてきたのだ、あの人を。
夫を。娘の父親を。
悪い夢を見ているようだった。
ーほかの病気かもしれないじゃない
家族一緒に逃げようと彼女は夫にすがった。
だが、彼は頑なだった。
もし回復したら追いかけるから、っと笑った。
その右目が血走っていた。
もう立ち上がるのも難しくなっていた。
ー実家の母に娘を預けたら、夫の元に戻ろう
車も人通りも少ないが、彼女は律義に信号で止まった。
右斜め前の家から、全身銀色のシートでできた防護服を着た集団が出てきた。
4人がかりでもっているあの密閉された袋。
自分の甘さに吐き気を感じた。
彼女にできることはもう、自分たちが感染していない幸運を信じて
ただとにかくこの場から遠ざかることしかなかった。
20XX年に起こった大規模パンデミックは人類を滅ぼしかねない勢いだった。
致死性の高いそのウィルスはさらに突然変異を起こし、
より効率的に感染し人々を死に至らしめた。
だが、さらなる地獄はまだ先だったのである・・。
積み込まれた旅行鞄。5歳児ほどだろう娘は涙でマスクを濡らしていた。
母親は化粧けもなく髪もぼさぼさでとても急いていた。
やがて走り始めた車の窓から、歩道に倒れた人が見えた。
母親はアクセルを踏んだ。その光景はすぐ遠ざかっていった。
人を助ける余裕なんてないのだ。
それが命取りになりかねない。
「パパぁ・・・」
涙声で娘が我慢していた言葉を吐いた。
夫は彼女たちに”逃げてほしい”と願った。
あの家に置いてきたのだ、あの人を。
夫を。娘の父親を。
悪い夢を見ているようだった。
ーほかの病気かもしれないじゃない
家族一緒に逃げようと彼女は夫にすがった。
だが、彼は頑なだった。
もし回復したら追いかけるから、っと笑った。
その右目が血走っていた。
もう立ち上がるのも難しくなっていた。
ー実家の母に娘を預けたら、夫の元に戻ろう
車も人通りも少ないが、彼女は律義に信号で止まった。
右斜め前の家から、全身銀色のシートでできた防護服を着た集団が出てきた。
4人がかりでもっているあの密閉された袋。
自分の甘さに吐き気を感じた。
彼女にできることはもう、自分たちが感染していない幸運を信じて
ただとにかくこの場から遠ざかることしかなかった。
20XX年に起こった大規模パンデミックは人類を滅ぼしかねない勢いだった。
致死性の高いそのウィルスはさらに突然変異を起こし、
より効率的に感染し人々を死に至らしめた。
だが、さらなる地獄はまだ先だったのである・・。
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