たとえ世界が滅んでも -未来人から命を狙われたアイドルと彼女を守るオタクたち

cotori

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エピソード1 塩対応のアイドル、ファン(ストーカー)に命を助けられる

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わたくし佐倉奈都さくらなつは自慢じゃないけど美少女だ。
小鹿のような脚、引き締まったウェスト、バストはそれなり16歳。
そこに黒目がちでつやぷるくちびるの美少女の顔がのってるんだから、
そりゃあ声もかけちゃうよね?アイドルになっちゃうよね?


ーなのに!なによこの差は!
奈都は隣の在原優花ありはらゆかの行列を見て、心の中で舌打ちをした。
市の体育館だからそれほど大きくはないが、優花の列は出入口より先まで続いている。

ーこの乳オバケ、枕でもしてんじゃないのぉ
バストアピールの強い今回の衣装、サイズEだともう零れ落ちんばかりである。
「きてくれてありがとうxxさん、ゆかうれしい!かんげき~!」
「おぼえててくれたんだね ゆかた~ん 僕もかんげきだおー」

ーあんな脂ぎったオタク相手によくやるわ
「なっつん、手でハートつくろぉ~」
”そうなんですか” ”ありがとうございます” 
を駆使して上の空で対応していた相手が近づいてきた。写真撮影をするらしい。
「は、はい」
脂ぎってはいないがセットもされていない髪、こ汚い顔面が真横にやってくる。
ーまじ、むり
奈都はそっと顔を反対側にひいた。
「なっつんもっとちゃんとやってよー。そんなんじゃゆかたんに浮気しちゃうよ?」
「えええ、そんなマタキテクダサイヨー」
ーそもそもお前さっき優花の列に並ぼうとして人多いからこっちきたんだろうが!
心の中で毒づきながら、我慢する。

ーあぁ早くおわんないかな
実際、奈都は学内では屈指の美人であったし、ちやほやされて過していた。
ちょとほほえんで手をふれば、同級生は奈都に夢中になった。
だからまず、男の機嫌をとらないといけないということがわからない。
ーアニメ研究会のオタクくんたちはかわいいもんだったんだわ
学生のオタクと、社会人のオタクはパワーが違う。
お金がある分、見返りを求める力が強いのだ。


奈都とて、アイドルにそこまで夢を見ていたわけではないし
ちょっとしたステータスをゲットするぐらいの感覚だった。
ー読者モデルぐらいでやめておけばよかったーそれが奈都の正直な気持ち。
限度を知らない欲求を聞いていてはきりがない。
流して、かわして、時には妥協しつつ。
わりとすぐ奈都はオタクに対して猛烈に嫌悪感を抱いた。
そしてアイドルになったことを大いに後悔した。

ただ、奈都がアイドルになったのは彼女にとってとても幸運なことだったのである。




11月にその日はやってきた。
日が沈むのがかなり早くなり、18時だというのにあたりは真っ暗だ。
帰宅途中、コンビニを過ぎたあたりの住宅地。
人通りのない道から路地へと引きずり込まれたのだ。
咄嗟に捩った身体を2,3人に押さえつけられる
見下ろすようにモヒカンの女性が立っていた。
体のラインがあらわな革のボディースーツ。
銃のようなものを奈都につきつけた。
「騒がないでね。余計な人は殺したくないの」

足音が近づいてくるのが聞こえた。
天の助けだ。が、口元をおさえられて呼ぶことができない。
しかし、幸運なことにその人と目があった。

ー優花
帽子を深く被り、地味な服を着ているが確かに優花だ。
ー助けて!!
出せない声にかわって目で訴えた。

信じられないことに優花はついと目を背けて歩き去っていった。
何事もなかったかのように。
ーウソでしょ!完全に目があったじゃない!!

突きつけられた銃口が冷たかった。
「悪く思わないでね」
絶望で胸がいっぱいになる。
女はなかなか引き金を引かなかった。
震えているのは私じゃなくて銃を持つ彼女なんだろうか。


「なっつんをうつなら僕をうてえええええええ」
叫びながら何か巨大なものが突進してきた。
ーなんかベタっとした・・・
「うぉおおおおおおおお」
なにかが吠えながら小刻みに震えながら自分に覆いかぶさっている。
弾き飛ばされたらしいモヒカンと、男たちが見えた。
全員が覆面をしていて怪しさ満載だ。
「困るわぁ」
モヒカンは再び奈都ーと覆いかぶさっているでかい男ーに銃口を向けた。

「やめろ!」
新たに登場したイケメン風の男性がモヒカンを制した。
「それは殺してはならない」
助けがきたのだろうか、奈都は少し安堵した。
「いや、データ的にオタクだとは思いますけど、違うでしょ、コレは」
「そもそもターゲット以外は削除対象外だ」
「・・・」
「そしてオタクは殺してはいけない!絶対だ!」
ー話がおかしい気がする・・
イケメン風は私ではなく、このデブを助けに来たように聞こえるんだけど・・。

「オタクをひっぺがして」
軽くため息をついたあとモヒカンが覆面たちに顎で支持をした。
必死に奈都を抱きしめ抵抗するオタク。100kgは超えるであろう巨体。
ムチムチした感触(デブの)汗と体臭(オタクの)荒い息遣い。
助けてもらっておきながら奈都はちょっと卒倒しそうになっていた。

「エイイチ、もう時間がない」
いつのまにか増えていた覆面が声をかけた。赤いラインが入っている。
覆面にも階級があるのかもしれない。
「予定時間はまだあるはずだ」
「思ったより時空トンネルが安定してないんだ。早く戻らないと」
「帰還準備!」モヒカンの一声で覆面たちが奈都とオタクから離れ走り去った。
エイイチと呼ばれたイケメン風は奈都をにらみつけて去っていった。
「さようなら佐倉奈都。また会おう」
赤ラインが手を振りながら去っていった。


しばらくしてパトカーのサイレンと多くの足音が聞こえた。
「あそこだ!!」
警察官と刑事らしき人物が駆け寄ってきた。
「男性に襲われている少女を発見。保護します」
「はなれなさい!」
警察官たちが奈都とオタクを引き離した。
いまだ呼吸の整わないオタクは勃起していた。

憔悴しきっていた奈都はそのまま病院に運ばれた。
そしてオタクは強姦未遂で逮捕されてしまったのであった。
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