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穏やかな護送 ーアルトの気持ちー
しおりを挟む日が沈みかける時刻。昼番の俺は、何事も無く終わろうとしている空を眺め一つ息を吐き出す。
何処の街でも、魔物の襲来を察知しやすいように森を切り開いており、このシュルツの街でも5㎞程の草原が森と街の間に広がっている。
そんな中よく知る者が門に辿り着いた。
「身分書を」
「よろしくお願いします」
お互いに慣れた物で、お決まりの手順を踏み確認作業をする。
個人カードを受け取り、慣れた確認作業。
マーク・ドジャース シュルツの商人 犯罪歴無し
この小さなシュルツの街では『無くては困る店』の一つに数えられる。
「護衛は如何しました。【銀の翼】と一緒だったでしょう?」
「其れが、昼前に向こうの森を抜けようと走っていましたら、盗賊に襲われ戦闘になりまして」
盗賊と言う言葉を聞き、周りの兵士達の間に緊張が走る。
「被害は! 【銀の翼】は全滅したのか!」
「いえいえ、多少怪我をしましたが彼らは無事です。確りと守って頂き事なきを得ました。盗賊達も捕えています。ただ人数が多く私達では連れて来られなかったのです」
その言葉にホッと胸をなで下ろす。隊長に報告する為に詳しく聞くと、17名の盗賊達を【銀の翼】と通り掛かった若者と少女が助太刀し、討伐済みだと言う。たった6人でよく無事に済んだな…
「そうか。報告感謝する。明日一番で迎えに行くとしよう」
しかしこんな近くに盗賊がいたとは、なんてことだ・・・ 他の街から、尋ね人の問い合わせがいくつかあったな。
ちくしょう!
朝、門を開ける前に10人の兵士と共に出発し、昼前には森で待つ【銀の翼】の元に着いた。
キチンと治療がなされたようで、全員顔色も良い。
「【銀の翼】で間違いないか?」
「ああ、そうだ。って、知ってんだろ!わざわざ済まないな」
元気な顔を見れたせいか、ついオチャラケてしまう。軽い会話を交わし、助っ人に入ってくれた人物ロッカとリュシウォンを紹介してくれた。
だが…紹介してくれたのは良いが… 確かに少女だと聞いてはいたが…… 未成年では無いのか?
「お嬢ちゃんお手柄だったなぁー でも危ないから次からは逃げような。ローリー達は悪運強いから滅多には死なないから大丈夫だよ」
「おい!悪運は余計だ!💢 大体その根拠は何処から来ているんだ!」
「あ?其れ本気で聞くか? 確かに悪運では無いがあれ以来俺達の間じゃ【超福パーティー】と密か呼んでいるぞ?」
俺は新顔の2人に【銀の翼】が恥ずかしく思っている過去をばらし、暫しおちょくった。
「でッ、盗賊どもは何処に居るんだ?」
俺は周りを見回すが17人もの盗賊の1人も見当たらない。ローリーに視線を向けると皆で足下を指さした。街道沿いに幾つかの小山が有り、其れを指差している様だ。
「殺ったのか… えっ?生き埋め??」
なんと一つの穴に複数突っ込んだ上に、飲まず食わずで寝るどころか座る事が出来ない状態だとか…
「はぁ!これ土魔法なのか!」
こんな魔法見たこと無いぞ。これ刑罰にも使えるんじゃ無いか?
少女ロッカの魔法だそうで、感心している側から順番に盗賊達を出していく。盗賊の手首に魔力封じの枷を付けるが抵抗もせず、順番に縄を掛け檻の中に詰めていくが凄く楽だった。
しかし臭えなぁ~ この状態で街に入れて良いものか?連れて行くまでも嫌なんだが。そう思っていたら。
「キチャ無い😰…【クリーン】・【クリーン】・【クリーーン】!」
ロッカちゃんが不愉快な表情で【クリーン】を掛けていた。
サーシャに抱きしめられ、リュシウォンには頭を撫でられ、他の奴らも頻りに褒めていた…
街までの数時間は非常に平和だった。時たま街から出てきた者と擦れ違ったが、皆が手を叩き俺達に笑顔を向けてくる。今回俺達は何も為してい無いが、人々の明るい笑顔を見るのは矢張り気持ちが良いな。
そして空腹と疲労で抵抗する気力の無い盗賊は実に扱いやすかった。
「あっ!蕎の花が咲いてる」
柔らかな子供の声に癒やされる。ソバというのか、其処ら中に咲いている雑草だと気にも為てい無かったが可愛らし花に見えてきた。
「素朴でおいしんだよ」
えっ?これを食べるのか??腹の足しにもならん様な花だぞ?
可哀想に、今まで苦労したんだろうな。こんな少女が被害に合わないように街道の巡回を考えたほうが良いな。周りの街にも呼びかけよう。
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