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四、魔道手品師ヨーコ
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ヨーコの親は士族の家柄で、非合法の呪術師として国内で暗躍していたが、明治政府の平民政策により身分を剥奪されると、中国へ渡った。この父、母、娘の三人親子はアジアを経由して地球を半周しアメリカ西部まで来たが、娘のヨーコが二十歳になったころ両親は病死し、一人になった。もともと魔力の強かった彼女は、親の意思を受け継いで魔術師として食いつないだが、その力は徐々に衰えていった。
「時代に影響されるのよ」
ニノーチカに会ったとき、彼女は皮肉な笑みで言った。
「いまやガソリン自動車なるものが生まれてしまったでしょ。科学の時代が来たから、魔法はそろそろ引退よ。神秘の力は、誰も信じなくなったら効かないの。魔法使いなんて、お城やドラゴンの時代のお話よ」
ヨーコは後ろに四角く盛り上がるまげに、両側から耳かきみたいな長いかんざしをさしており、さながら高い塔のてっぺんから突き出すレーダーのようだ。服装はモンゴルあたりの民族衣装のような黒を基調とした着物だが、肩の部分がプロテクターのように左右に向けてとがっており、日本の武士が公式につける肩ぎぬを思わせる。じっさい彼女の家は前述のように元武士であるが、その伝統的才によって呪術をなりわいとする家系になった。だから生粋の日本人ではあるが、その見た目はかなり中国風である。
いま三十歳になるヨーコは、顔は典型的東洋のうりざね美女で、細くつりあがった目と控えめな鼻は狐っぽさをかもし、その奇特な格好も手伝って、つねに容易ならぬ雰囲気である。額で切りそろえたおかっぱふうの前髪、肩から腰までさらさらの黒髪が流れ落ちて、このほこりっぽい西部ではひたすら神秘のたたずまいだが、そのわりには本人の言うように、肝心の魔法の腕はかなりお粗末だった。全然ないわけではないが、かつての祖先が持っていた、世間から恐れられるほどの魔道の霊力はない。
この透き通るような白い肌をしたロシア系美女、ニノーチカとの馴れ初めは、中米のある小さな町のテント小屋で、ガキ相手の手品を披露したあとのことだった。仕事を終えて楽屋に戻ったヨーコはぎょっとした。黒ずくめの美女ガンマンがテーブルに両足を投げ出して組み、額に乗せたカウボーイハットで目を隠したまま、椅子の背にうなじをもたれ、顎を突き出して一服していたら、誰でも驚く。入ってきたのに気づくと、美女はハットをずらして横目で相手を見た。ヨーコはきらきらした目だと思った。
「あれ、本当に種も仕掛けもないでしょ」
言って巻きタバコをくわえなおして顔を向け、口元を吊り上げる。ヨーコはあきれたように目を閉じて息をはいた。
「ええ、あんなふうに『種も仕掛けもございません』と言って、実は本当にそうだってことが、これの唯一のやりがいなの」
「ほかに何ができる?」
「なぁに、仕事? ああ、魔法で手伝えってんでしょ。だめだめ」とシルクハットだのステッキだのを隅の箱に放りながら、「手品以上のことはできないわよ。なんせ三流魔道士ですからね。もっとも、三流以上の魔法使いが、この世にまだいるとは思えないけど」
「べつに相手をカエルにしろとか、山を動かせとか、天気を変えろってんじゃないのよ」
ニノッチは卓から足をおろし、真剣なまなざしで見つめた。口元は変わらずスマイルだが悪意は感じられない。
「私の仕事では、手品以上のことはしなくてけっこう。メインはこっちでやるから、あなたはちょっと手伝ってくれればいいの」
とりあえずふざけたつもりではなさそうなので、ヨーコは向かいの椅子に座った。そしてしげしげと見ながら、
「見た目で判断して悪いけど、どうせヤバい仕事でしょ」
「賞金稼ぎ。バウンティハンターだからね」
「じゃ、あなたが賞金首を殺すのを、私が魔法で助けるってこと?」
「ふだんはいいわ。でかい仕事のときだけね。たとえば――バリアくらい張れるでしょ、防弾の」
「張れるけど――」と卓に頬杖をつき目をそらす。「私だけしか守れないわよ」
ガンギャルは、けらけらと笑った。
「いいわいいわ、その意気よ。図太い神経だと思った。見た目で判断して悪いけどね」
「バカにしてる?」
「とーんでもない」
卓にひじをついて両手をふる。
「じゃ、とりあえず……何が出来るか聞かせてもらおうかしら」
こうしてコンビを組んでかれこれ一年になるが、ヨーコは賞金稼ぎ以外の「でかい」仕事のときだけ呼び出される。それらは金塊の強奪だの、軍の依頼による橋や施設の破壊だの、ぶっちゃけ危険な犯罪行為のオンパレードだった。もっとも、ぶっちゃけ日本でも裏家業ばかりだったから、ヤバさはたいして変わっていないが。だがヨーコのお粗末な魔法で失敗しかけても、ニノッチはなぜか縁を切ろうとはしなかった。
いちおう成功はしたものの、例によって魔法のショボさで、かなり危ない目にあった仕事の翌日だった。ヨーコが落ちこんで「辞めたい」と言うと、ニノッチは薄笑いした。
「次はヤバいブツを運ぶ仕事で、樽の幻覚を出せる奴がいるの。銃の山を酒に見せかける。これは、どんな凄腕のガンマンにも無理。あなたにしか出来ない」
そして肩をぽんと叩いて言った。その言葉をヨーコは生涯忘れなかった。
「私にはね、人のできないことをできる奴が必要なのよ」
「時代に影響されるのよ」
ニノーチカに会ったとき、彼女は皮肉な笑みで言った。
「いまやガソリン自動車なるものが生まれてしまったでしょ。科学の時代が来たから、魔法はそろそろ引退よ。神秘の力は、誰も信じなくなったら効かないの。魔法使いなんて、お城やドラゴンの時代のお話よ」
ヨーコは後ろに四角く盛り上がるまげに、両側から耳かきみたいな長いかんざしをさしており、さながら高い塔のてっぺんから突き出すレーダーのようだ。服装はモンゴルあたりの民族衣装のような黒を基調とした着物だが、肩の部分がプロテクターのように左右に向けてとがっており、日本の武士が公式につける肩ぎぬを思わせる。じっさい彼女の家は前述のように元武士であるが、その伝統的才によって呪術をなりわいとする家系になった。だから生粋の日本人ではあるが、その見た目はかなり中国風である。
いま三十歳になるヨーコは、顔は典型的東洋のうりざね美女で、細くつりあがった目と控えめな鼻は狐っぽさをかもし、その奇特な格好も手伝って、つねに容易ならぬ雰囲気である。額で切りそろえたおかっぱふうの前髪、肩から腰までさらさらの黒髪が流れ落ちて、このほこりっぽい西部ではひたすら神秘のたたずまいだが、そのわりには本人の言うように、肝心の魔法の腕はかなりお粗末だった。全然ないわけではないが、かつての祖先が持っていた、世間から恐れられるほどの魔道の霊力はない。
この透き通るような白い肌をしたロシア系美女、ニノーチカとの馴れ初めは、中米のある小さな町のテント小屋で、ガキ相手の手品を披露したあとのことだった。仕事を終えて楽屋に戻ったヨーコはぎょっとした。黒ずくめの美女ガンマンがテーブルに両足を投げ出して組み、額に乗せたカウボーイハットで目を隠したまま、椅子の背にうなじをもたれ、顎を突き出して一服していたら、誰でも驚く。入ってきたのに気づくと、美女はハットをずらして横目で相手を見た。ヨーコはきらきらした目だと思った。
「あれ、本当に種も仕掛けもないでしょ」
言って巻きタバコをくわえなおして顔を向け、口元を吊り上げる。ヨーコはあきれたように目を閉じて息をはいた。
「ええ、あんなふうに『種も仕掛けもございません』と言って、実は本当にそうだってことが、これの唯一のやりがいなの」
「ほかに何ができる?」
「なぁに、仕事? ああ、魔法で手伝えってんでしょ。だめだめ」とシルクハットだのステッキだのを隅の箱に放りながら、「手品以上のことはできないわよ。なんせ三流魔道士ですからね。もっとも、三流以上の魔法使いが、この世にまだいるとは思えないけど」
「べつに相手をカエルにしろとか、山を動かせとか、天気を変えろってんじゃないのよ」
ニノッチは卓から足をおろし、真剣なまなざしで見つめた。口元は変わらずスマイルだが悪意は感じられない。
「私の仕事では、手品以上のことはしなくてけっこう。メインはこっちでやるから、あなたはちょっと手伝ってくれればいいの」
とりあえずふざけたつもりではなさそうなので、ヨーコは向かいの椅子に座った。そしてしげしげと見ながら、
「見た目で判断して悪いけど、どうせヤバい仕事でしょ」
「賞金稼ぎ。バウンティハンターだからね」
「じゃ、あなたが賞金首を殺すのを、私が魔法で助けるってこと?」
「ふだんはいいわ。でかい仕事のときだけね。たとえば――バリアくらい張れるでしょ、防弾の」
「張れるけど――」と卓に頬杖をつき目をそらす。「私だけしか守れないわよ」
ガンギャルは、けらけらと笑った。
「いいわいいわ、その意気よ。図太い神経だと思った。見た目で判断して悪いけどね」
「バカにしてる?」
「とーんでもない」
卓にひじをついて両手をふる。
「じゃ、とりあえず……何が出来るか聞かせてもらおうかしら」
こうしてコンビを組んでかれこれ一年になるが、ヨーコは賞金稼ぎ以外の「でかい」仕事のときだけ呼び出される。それらは金塊の強奪だの、軍の依頼による橋や施設の破壊だの、ぶっちゃけ危険な犯罪行為のオンパレードだった。もっとも、ぶっちゃけ日本でも裏家業ばかりだったから、ヤバさはたいして変わっていないが。だがヨーコのお粗末な魔法で失敗しかけても、ニノッチはなぜか縁を切ろうとはしなかった。
いちおう成功はしたものの、例によって魔法のショボさで、かなり危ない目にあった仕事の翌日だった。ヨーコが落ちこんで「辞めたい」と言うと、ニノッチは薄笑いした。
「次はヤバいブツを運ぶ仕事で、樽の幻覚を出せる奴がいるの。銃の山を酒に見せかける。これは、どんな凄腕のガンマンにも無理。あなたにしか出来ない」
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