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断片の記憶
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南海村に来て初めての仕事の日が終わった。斑鳩さんは教え方が上手で都会で働いていた時と同じ会社とは思えないぐらいだ。斑鳩さんは冷たそうに見えて熱い部分があり、不明な点があれば何度でも教えて定着させようとしてくれた。それが俺としてもかなり助かった。
新天地での初仕事で疲れた俺は癒しを求めるように帰路についた。家では紗衣佳が待っていると思うと少し元気が出るようだ。家に近づいてくると美味しそうな匂いが家から漂っていた。疲れによって忘れかけていた空腹が匂いによって思い出してきた。
「なんか、すげぇ良い匂いがする....」
鼻に伝わる良い匂い。それは香ばしく、食欲を増進させてくれるような匂いだ。ニンニクの香りも伝わってくるのが分かった。
「ただいま 」
「あっ、おかえりなさい!....です! 」
家に入ると、エプロン姿に菜箸を手に持った紗衣佳がキッチンから出てきた。奥から油が跳ねる音が聞こえてくる。
「天王寺さん。今日は....お疲れだと思って、回復のためにも唐揚げを作っています! 」
「おお! それは楽しみだ! 」
俺は着替えを軽く済ませて丸いテーブルについた。紗衣佳は食事を既に準備して待ってくれていた。唐揚げがこれでもかというぐらい大量に盛られている。これは作るにも苦労しただろうと思った。
「紗衣佳大変だっただろ。ありがとう 」
「私、料理作るの凄く好きなので、平気ですよ! 」
俺が知っている紗衣佳はお菓子作りは得意だが、料理にはあんまり手を出していなかった。学生の頃のバレンタインは手作りのチョコとお店で買ったチョコの両方があった事を思い出した。
「さ、食べましょうー! 」
「ん、ああ 」
俺は箸を持ち唐揚げを掴み口の中に運んだ。先ずは、衣が前奏を流し、次にジューシーな油と肉の質感が口の中で広がり多様な曲を奏でてくれる。美味しいという言葉では表現できない芸術の味を感じた。芸術の味というと奇抜で美味しくなように聞こえるかもしれないが、寧ろ常識の美味しいを通り越していた。
「美味しい....ですか? 」
「ああ、美味しいよ 」
「この鶏肉は南海村の近くにあるお肉屋さんで購入したものなんです 」
「そうだったのか。こんなに美味しい肉は初めてかもしれないな 」
「さっ! 沢山食べてくださいねっ! 」
俺は唐揚げを幾つ食べたのだろうか。白米と唐揚げを口の中にかき込むように食べた。気付けば白米が盛られていた茶碗は空になり、唐揚げを口の中で噛んでいる最中に一杯盛られていた。その繰り返しがしばらく続き、大量の唐揚げと白米を完食したのだ。限界まで食べたのは久しぶりだった。
「天王寺さん....私....昨日一緒に夕食を食べた時から少し感じていた事があったんです 」
「感じていた事? 」
「はい....誰かもう一人と一緒にご飯を食べていた事がある記憶が微かに奥の方である気が....します 」
紗衣佳は少しずつ過去の記憶を思い出そうてしている。俺はそれが本来の目的でもあったが少し戸惑いもあった。思い出してしまったら、それは俺たちのこの生活の終了を意味するのではないかと。新しい関係性が見えてきている今の生活と、記憶を取り戻し本来の紗衣佳に戻る生活と俺はどちらがいいのか分からない。自分の感情が優先されてしまう気がした。
「......そうだな。もう一人居たんだよ。俺の親友でもある男が居たんだよ 」
「そうだったんですね....その人は.....どんな人だったんですか? 」.
「........また教えるよ......」
今の俺は迷走していない。昨日まで紗衣佳の記憶を取り戻すと意気込んでいたのに、心のどこかでそれに対しての恐怖だったり嫌悪感があったりしている。俺はどうしたいのか分からない。心の中に一抹抱えながら浴室へと向かった。
新天地での初仕事で疲れた俺は癒しを求めるように帰路についた。家では紗衣佳が待っていると思うと少し元気が出るようだ。家に近づいてくると美味しそうな匂いが家から漂っていた。疲れによって忘れかけていた空腹が匂いによって思い出してきた。
「なんか、すげぇ良い匂いがする....」
鼻に伝わる良い匂い。それは香ばしく、食欲を増進させてくれるような匂いだ。ニンニクの香りも伝わってくるのが分かった。
「ただいま 」
「あっ、おかえりなさい!....です! 」
家に入ると、エプロン姿に菜箸を手に持った紗衣佳がキッチンから出てきた。奥から油が跳ねる音が聞こえてくる。
「天王寺さん。今日は....お疲れだと思って、回復のためにも唐揚げを作っています! 」
「おお! それは楽しみだ! 」
俺は着替えを軽く済ませて丸いテーブルについた。紗衣佳は食事を既に準備して待ってくれていた。唐揚げがこれでもかというぐらい大量に盛られている。これは作るにも苦労しただろうと思った。
「紗衣佳大変だっただろ。ありがとう 」
「私、料理作るの凄く好きなので、平気ですよ! 」
俺が知っている紗衣佳はお菓子作りは得意だが、料理にはあんまり手を出していなかった。学生の頃のバレンタインは手作りのチョコとお店で買ったチョコの両方があった事を思い出した。
「さ、食べましょうー! 」
「ん、ああ 」
俺は箸を持ち唐揚げを掴み口の中に運んだ。先ずは、衣が前奏を流し、次にジューシーな油と肉の質感が口の中で広がり多様な曲を奏でてくれる。美味しいという言葉では表現できない芸術の味を感じた。芸術の味というと奇抜で美味しくなように聞こえるかもしれないが、寧ろ常識の美味しいを通り越していた。
「美味しい....ですか? 」
「ああ、美味しいよ 」
「この鶏肉は南海村の近くにあるお肉屋さんで購入したものなんです 」
「そうだったのか。こんなに美味しい肉は初めてかもしれないな 」
「さっ! 沢山食べてくださいねっ! 」
俺は唐揚げを幾つ食べたのだろうか。白米と唐揚げを口の中にかき込むように食べた。気付けば白米が盛られていた茶碗は空になり、唐揚げを口の中で噛んでいる最中に一杯盛られていた。その繰り返しがしばらく続き、大量の唐揚げと白米を完食したのだ。限界まで食べたのは久しぶりだった。
「天王寺さん....私....昨日一緒に夕食を食べた時から少し感じていた事があったんです 」
「感じていた事? 」
「はい....誰かもう一人と一緒にご飯を食べていた事がある記憶が微かに奥の方である気が....します 」
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「......そうだな。もう一人居たんだよ。俺の親友でもある男が居たんだよ 」
「そうだったんですね....その人は.....どんな人だったんですか? 」.
「........また教えるよ......」
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