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137 カイル⑦
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「凄く可愛い部屋だね、兄様。」
「…変?…サイカに、ぴったりだと…思った、けど。」
「ううん、僕も姉様にぴったりだと思うよ。あ、まだ姉様は早いか!」
「…別に、…いいと、思う。結婚は、絶対…するから。…何があっても。
……あと、…アレク、今日、手伝ってくれて…ありがと。」
「どういたしまして!」
俺と、サイカが暮らす為の新しい我が家の内装が今日、遂に完成した。
サイカの驚いた顔、喜ぶ顔が見たくてサイカの部屋だけは先に完成させていたけど、後からやっぱりこうしよう、ああしようという考えが浮かび物も増えていった。
俺は人と話すのが得意ではないから、使用人たちを雇うのは難儀しそうだと思っていたけれど、俺の所に来てくれる使用人は父さんが手配してくれた。
知ったのは手紙で。その手紙には“これまで父親らしい事をして来なかったから”と、これくらいはさせて欲しいと書かれてあって、正直とても有り難かった。
使用人たちと一緒に家具を運んで、アレクも手伝いに来てくれて。
やっと今日、俺とサイカの家が完成した。
もうこれで、サイカがいつ来ても大丈夫。
「兄様…よく、笑うようになりましたね。」
「……?」
「あれ?気付いてなかったんです?
…僕にもよく笑いかけてくれるようになって…嬉しいなぁって思ってたんだよ。
それに…今日も、とっても楽しそうです。」
「……ん。…楽しい。」
もうずっとずっと、楽しい日が続いてる。信じられない日々が、続いてる。
しんどい事も多いけど、辛い事も多いけど、でも前に比べたら全然苦じゃなくなった。
それは多分、生きるのが楽しいからだ。
楽しみがあるから、希望があるから、辛い事にもしんどい事にも耐えられる。
一人で抱えなくちゃいけない昔とは違って、俺の事を心から思って、泣いてくれる大好きな女がいるから。
それに…今は父さんやアレクも。ちゃんと、家族だって思えるから。
「それにしても…人生、どんな事が起こるか分からないですよね!
兄様にも僕にも、父様にも。」
「…ん。」
「家を買ったのも驚きましたけど…兄様が帝国騎士団の団長になるなんて…!
エターリャ騎士団でしたよね!女神の名前の!」
「…そう。リクテン騎士団と、エターリャ騎士団。…団長と、決めた。」
「帝国の神話に出てくる神様から取ったんですね。
リクテンは雄々しい男神。剣の神であり戦の神として有名ですし…エターリャは盾の神で守りの神…そして美しい女神でしたよね。ぴったりじゃないですか!
でも…ふふ、団長さんと兄様が一緒に考えたんだって想像したら……ぷ、はは!二人ともロマンチック…!」
「…む。…笑うな。」
「あはは、ご、ごめんなさ、ふふ、」
拐われたサイカを取り戻してから、騎士団は二つに分けられた。
団長がトップの騎士団と、俺がトップの騎士団。
騎士団の名前、旗色、紋を決めろと陛下に言われ…散々悩んだのは団長も同じだった。
俺も何日も何日も悩んで、ふと、子供の頃読んだ本に出てきた二柱の神の名前が浮かんで、団長にどうかな、と聞いてみた。
戦の神と守りの神。騎士という職であれば関わりが深い。
騎士や兵士が戦場に赴く時は、リクテン神に勝利を願い、エターリャ神には国や大切な者、はたまた自分を守ってくれと各々が祈る。
“リクテン騎士団とエターリャ騎士団!いいじゃねぇか!紋も剣と盾で決まる!カイル!お前の案採用な!!”
そうして二つの騎士団の名前、紋と旗色も決まって陛下へ報告しに行った。
『男神と女神の名か。はは、ちょうど良い。
ではダミアン率いるリクテン騎士団から俺の護衛を選び、カイル率いるエターリャ騎士団からサイカの護衛を選ぶように。』
二つの騎士団の役割が決まった瞬間だった。
リクテン騎士団は国と陛下の為に存在し、エターリャ騎士団は国と王妃の為に存在する。大まかに言えばそういう事だけど、戦争なんかの有事の際は二つの騎士団は一つになる。
それから…一番の変化は、二つの騎士団の長に立つ者に軍事に関わる全ての権利、権限が与えられた事。
要は有事の際、陛下の決定を待たずとも、俺たち長の、己が判断で騎士団を動かす事が出来る。
国の頂点は陛下で、陛下の決定がなくては動けない事も多々あった。
団長や俺、二つの騎士団長は軍事に関わる何かしらの出来事が起こった際に、陛下の分身として騎士団を動かす事が出来る、という事だった。
「勿論、兄様は姉様…王妃殿下の護衛になったんでしょう?」
「…なったけど、…長としての仕事、沢山あるから……あんまり、会えてない。」
「…そっか。…中々、ままならないんですね。」
「…でも、前よりは……顔、見れるから。まだいい、かな。それに……今度、サイカと会う…約束、してる。」
「へえ!良かったですね!」
「ん。…俺、サイカの婚約者、だから。」
サイカは俺の恋人で、婚約者でもあるけど。でも、城にいる間はやっぱり『王妃』っていう肩書きが強く出てしまう。
もう、どれくらいサイカを抱き締めてないだろう。
どれくらい、キスしてないだろう。
サイカが陛下と結婚してからは確実に触れてない。…会話とかは、してるけど。
今度二人でお茶する時は…いちゃいちゃ出来るかな。
「姉様と会ったらいちゃいちゃしたいなー。」
「!?」
「って顔してますよ兄様。当たりですか?」
「……アレク、凄いね。」
「ふふ。兄様の考えている事が分かってくるようになりました。
僕が凄いんじゃなくて、兄様の表情が豊かになってきたからですよ。」
これも姉様のお陰ですね。って言いながら、子供の頃と何一つ変わらない、純粋な好意のこもった笑顔を浮かべるアレク。
その変わらない笑顔に胸が温かくなって、アレクが俺の弟で良かったと、心から思った。
家族って何だろう。血が繋がっていれば、家族なんだろうか。
家族って何だろう。一緒に暮らしていれば、家族なんだろうか。
父さんと血が繋がっていても、父さんが俺の事を“息子だ”と言ってくれても、その言葉を信じる事が出来なかった。
兄として俺を慕ってくれるアレクの心も、信じられなかった。
家族ってなんだろう。血が繋がっていても、一緒に暮らしていても、一つも信じる事が出来ないのに、言葉や気持ちを疑うばかりしか出来ないのに。
だけど今は違う。家族っていうのが何なのか、それを言葉で表すのは難しいけれど、父さんと俺とアレクは家族なんだって胸を張って言える。
サイカが初めて俺の実家に来た時、言ってた。
俺たちの間にあったのは、家族っていう器だけ。
これから家族っていう器を、満たしていけばいい。
あの時のサイカの言葉を、今、強く実感する。
中身のなかった、家族っていう器。
あの日から少しずつ、少しずつ満たされていった。
思い出という思い出は少ない。家にいても、一人でいる事が多かったから。
だけど、何もなかった器の中に満ちていく。
期待が一つ。
喜びが一つ。
気恥ずかしさが一つ。
もどかしさが一つ。
勇気が一つ。
希望が一つ。
理解して欲しい、理解したい、分かり合いたいと思う心一つ。
そういうものが器の中に入って、そうして少しずつ、父さんと俺とアレクは本当の家族になっていく。
まだまだ歪な形をしているけれど、もう、空っぽじゃないって強く思える。
言葉では言い表せないけど、前よりもうんと強い感情が、胸の中にあるから。
「ふふ。じゃあ、アレク様だけじゃなくて、お義父様とも良好な関係を築けてるんですね。」
「ん。……会った時は、あんまり会話、ない。…俺も、父さんも、話すの得意じゃない…から。…でも、手紙だと、よく話すよ。」
予定していたサイカとの逢瀬。
城の庭園にある東屋で使用人たちに下がってもらい、二人でお茶を飲みながら話す。
「カイル、嬉しそうですね。」
「……そ、かな。」
「うん。嬉しそうな顔してる。」
「…そう、かも。…嬉しい、の、かも。前と、全然…違うんだ。まだ戸惑いも、あるけど。でも…ちゃんと、家族…みたいだって、実感出来てるから…嬉しい。…と、思う。」
俺を見るサイカの目はすごく優しい。
大きな目が柔らかく細まって、俺に向けられている。
サイカも嬉しそうだって思うのは、きっと気のせいじゃない。
だってこの女は、俺の事を大切にしてくれているから。
俺が泣くと一緒に泣いて、俺が笑うと一緒に笑ってくれる、そういう女だから。
本当に、夢みたいだ。
全部、嘘みたいに上手くいってる。だからちょっとだけ恐いって思うのは仕方ない。
「…俺のお嫁さん、…なってね。」
「?」
「俺が、一番最後…だけど。俺のお嫁さん、絶対、なってね。…約束…して。」
「うん。約束する。」
約束しても、サイカが俺の奥さんになる当日を迎えるまでは不安。
でもサイカの言葉なら信じられるから。
「サイカ、…庭、歩こう?」
「あ、うん!」
「…抱っこしても…いい?」
「……えっと、」
「……ダメ?…恥ずかしい…?…でも、お願い…。」
「…う、……い、いよ。」
「やった…。」
サイカをじっと見てお願い、と首を傾けるとサイカは大概俺のお願いを聞いてくれる。
優しく、丁寧な手付きでサイカを横抱きに抱えるとぐっと距離が近くなった。
サイカは吃驚するくらい細くて、小さくて可愛い。とっても可愛い。可愛すぎてどうにかなりそうなくらい可愛い。
俺よりうんと小さいサイカと隣を歩くのも好きだけど、サイカの可愛い旋毛を見るのも大好きだけど、やっぱり近くで目が合う方が嬉しい。
「…歩くのもいいけど、…サイカ、小さいから…。こうすると、顔、近いでしょ…?」
「カイルが大き過ぎるの。カイルだけじゃなくて皆もだけど。…160㎝は小さくはないし…あっちでは平均身長をちょっと越してるくらいなんだけどなぁ…。」
「…でも、俺からしたら、小さい。…小さくて、可愛い。
…あのね、サイカ。」
「うん?」
「…出会った時から、思ってた。
可愛い、守ってあげなくちゃって。
女の人は…俺からしたら、皆小さいけど…初めて、可愛いって、守ってあげたいって思ったの、…サイカだけ、だった。もう、ね、…初めて会った時も、サイカ…何をしてても、可愛くて…。」
「………ひょえ…」
「ちょこちょこ動いてるのも、俺と視線、合わせようとして、上目使いになるのも、…立ってキスする時、ちょっと背伸びしてるのも、…もう、全部可愛いなぁって、最初の頃は、余裕なんてなかったけど、でも、…会った時から、思ってたよ。」
もう可愛い。サイカっていう存在が全部可愛い。可愛くて可愛くて、恋人になる前から胸がぎゅってしてた。
出会った時から、ずっとサイカは特別だったんだ。
「父さんと、アレクと。…今みたいな、いい関係になれたのも…サイカのお陰。
サイカが、いてくれたから。
サイカが、いるから、頑張ろうって思える事…沢山ある。」
ずっとずっと、側にいて。
ずっとずっと、俺を愛し続けて。
君が側にいてくれるなら、俺はどんな壁だって乗り越えていける。
どんな事だって、耐えてみせる。
勇気を出して、立ち向かえる。
サイカが側にいてくれるから、俺はどんな場所でだって立っていられるんだ。
「俺の全部、サイカのものだよ。
サイカがいるから、俺は生きてる。
…サイカ。…俺を特別にしてくれて、ありがとう。誰にも望まれてないと思ってた。母さんにも、父さんにも、アレクにも。家族の言葉さえ、信じられなかった。」
「…それは、前の事だよね?」
「うん。…サイカが、俺を…正してくれたから、今が、あるんだよ。」
同じように父さんたちと話し合ったって、サイカと出会ってない俺はきっと、父さんたちの言葉や気持ちを信じなかった。
俺たち家族という器が歪な形をしていたように、俺の心も歪んでた。
疑って疑って、信じようとしない。
そういう風に、歪んでた。
「サイカが…俺を、抱き締めてくれたから。伸ばしてた手、取ってくれたから。足りないものも、分からなかった俺に、沢山教えてくれたから。」
大人になっても、成長しない心。
ずっとずっと、小さい頃のまま。
ううん、子供の頃より酷くなってた。
人が恐くて、人が憎らしくて、人が嫌い。そういう風に、酷くなっていって、狭い世界で自分の殻に閉じ籠ってた。
陛下も団長も、各々違いはあるけれど…差別されてきたもの同士。
だから周りの人たちよりずっと信用出来た。
「サイカがね、俺を、幸せにしてくれたからだよ。
サイカは、最初から、特別だった。
誰とも、違ってた。」
この女は大丈夫かな。
信じて大丈夫なのかな。
言っている事は本当かな。
目は…嘘を吐いてない。
凄く、綺麗な目をしてる。
どこにも負の感情がない…澄んだ、綺麗な瞳だ。
見せかけだけの優しさじゃない。
俺を理解しようとしてくれた。
その場しのぎでもない。
俺が、どんな人間なのか、分かろうとしてくれてた。
知ろうと、努力してくれてた。
「出会ってから、俺はずっと、幸せ。
…父さんとも、アレクとも、もうどうにもならないって、思ってた。…でも、いい関係になれた…。」
今の俺を形作ったのは、全部、全部サイカだ。
胸にあった寂しさをサイカが埋めてくれた。
感じていた沢山のやるせなさや憤りを、サイカが癒してくれた。
物心が付いてからずっと抱えていた孤独を、サイカが埋めてくれた。
俺の、人として足りなかったもの、必要な何もかも、サイカが今も満たしてくれている。
「サイカが…、俺の心を、育ててくれたんだよ。」
世界で一番大好きな君が、俺の心を支えて、育ててくれたんだ。
サイカは俺の人生だ。
この先だって、それは変わらない。
「…早く、サイカと家族になりたいな…。」
恋人になった。婚約者になった。
旦那さんと奥さんになるのが待ち遠しい。
それから子供にも恵まれて、お父さんとお母さんになって、幸せが詰まった日常になるんだ。
父さんとアレク、クライス侯、それから陛下にリュカにヴァレリア、その子供たち。
すごくすごく賑やかで、煩いくらい賑やかになっていると思う。
俺の子、各々の子供たちが成長して、俺たちも年を取っていく。
きっとサイカはおばちゃんになっても、お婆ちゃんになっても可愛いんだ。
目尻の皺さえ愛しくて、俺はおじさんになっても、お爺ちゃんになっても、絶対サイカが大好きで堪らないはず。
そうやってサイカと一緒に年を取って、仲睦まじいままの、お爺ちゃんとお婆ちゃんになって…そうして、カイル・ディアストロという人生を終えたい。
「…ね、サイカ。また一つ…成長、してたみたい。」
「?」
自分の人生、すぐ先の事じゃなくて、ずっとずっと先の事は想像も出来なかった。
十年先、二十年先、そのずっと先もサイカは一緒にいてくれるかな。いなかったらどうしよう。
未来の事を考えると不安しかなかったのに、今はサイカが俺の奥さんに、俺の家族になった後の、ずっとずっと先の自分の人生、その未来が、当たり前のように、自然に思い浮かんでいた。
「…変?…サイカに、ぴったりだと…思った、けど。」
「ううん、僕も姉様にぴったりだと思うよ。あ、まだ姉様は早いか!」
「…別に、…いいと、思う。結婚は、絶対…するから。…何があっても。
……あと、…アレク、今日、手伝ってくれて…ありがと。」
「どういたしまして!」
俺と、サイカが暮らす為の新しい我が家の内装が今日、遂に完成した。
サイカの驚いた顔、喜ぶ顔が見たくてサイカの部屋だけは先に完成させていたけど、後からやっぱりこうしよう、ああしようという考えが浮かび物も増えていった。
俺は人と話すのが得意ではないから、使用人たちを雇うのは難儀しそうだと思っていたけれど、俺の所に来てくれる使用人は父さんが手配してくれた。
知ったのは手紙で。その手紙には“これまで父親らしい事をして来なかったから”と、これくらいはさせて欲しいと書かれてあって、正直とても有り難かった。
使用人たちと一緒に家具を運んで、アレクも手伝いに来てくれて。
やっと今日、俺とサイカの家が完成した。
もうこれで、サイカがいつ来ても大丈夫。
「兄様…よく、笑うようになりましたね。」
「……?」
「あれ?気付いてなかったんです?
…僕にもよく笑いかけてくれるようになって…嬉しいなぁって思ってたんだよ。
それに…今日も、とっても楽しそうです。」
「……ん。…楽しい。」
もうずっとずっと、楽しい日が続いてる。信じられない日々が、続いてる。
しんどい事も多いけど、辛い事も多いけど、でも前に比べたら全然苦じゃなくなった。
それは多分、生きるのが楽しいからだ。
楽しみがあるから、希望があるから、辛い事にもしんどい事にも耐えられる。
一人で抱えなくちゃいけない昔とは違って、俺の事を心から思って、泣いてくれる大好きな女がいるから。
それに…今は父さんやアレクも。ちゃんと、家族だって思えるから。
「それにしても…人生、どんな事が起こるか分からないですよね!
兄様にも僕にも、父様にも。」
「…ん。」
「家を買ったのも驚きましたけど…兄様が帝国騎士団の団長になるなんて…!
エターリャ騎士団でしたよね!女神の名前の!」
「…そう。リクテン騎士団と、エターリャ騎士団。…団長と、決めた。」
「帝国の神話に出てくる神様から取ったんですね。
リクテンは雄々しい男神。剣の神であり戦の神として有名ですし…エターリャは盾の神で守りの神…そして美しい女神でしたよね。ぴったりじゃないですか!
でも…ふふ、団長さんと兄様が一緒に考えたんだって想像したら……ぷ、はは!二人ともロマンチック…!」
「…む。…笑うな。」
「あはは、ご、ごめんなさ、ふふ、」
拐われたサイカを取り戻してから、騎士団は二つに分けられた。
団長がトップの騎士団と、俺がトップの騎士団。
騎士団の名前、旗色、紋を決めろと陛下に言われ…散々悩んだのは団長も同じだった。
俺も何日も何日も悩んで、ふと、子供の頃読んだ本に出てきた二柱の神の名前が浮かんで、団長にどうかな、と聞いてみた。
戦の神と守りの神。騎士という職であれば関わりが深い。
騎士や兵士が戦場に赴く時は、リクテン神に勝利を願い、エターリャ神には国や大切な者、はたまた自分を守ってくれと各々が祈る。
“リクテン騎士団とエターリャ騎士団!いいじゃねぇか!紋も剣と盾で決まる!カイル!お前の案採用な!!”
そうして二つの騎士団の名前、紋と旗色も決まって陛下へ報告しに行った。
『男神と女神の名か。はは、ちょうど良い。
ではダミアン率いるリクテン騎士団から俺の護衛を選び、カイル率いるエターリャ騎士団からサイカの護衛を選ぶように。』
二つの騎士団の役割が決まった瞬間だった。
リクテン騎士団は国と陛下の為に存在し、エターリャ騎士団は国と王妃の為に存在する。大まかに言えばそういう事だけど、戦争なんかの有事の際は二つの騎士団は一つになる。
それから…一番の変化は、二つの騎士団の長に立つ者に軍事に関わる全ての権利、権限が与えられた事。
要は有事の際、陛下の決定を待たずとも、俺たち長の、己が判断で騎士団を動かす事が出来る。
国の頂点は陛下で、陛下の決定がなくては動けない事も多々あった。
団長や俺、二つの騎士団長は軍事に関わる何かしらの出来事が起こった際に、陛下の分身として騎士団を動かす事が出来る、という事だった。
「勿論、兄様は姉様…王妃殿下の護衛になったんでしょう?」
「…なったけど、…長としての仕事、沢山あるから……あんまり、会えてない。」
「…そっか。…中々、ままならないんですね。」
「…でも、前よりは……顔、見れるから。まだいい、かな。それに……今度、サイカと会う…約束、してる。」
「へえ!良かったですね!」
「ん。…俺、サイカの婚約者、だから。」
サイカは俺の恋人で、婚約者でもあるけど。でも、城にいる間はやっぱり『王妃』っていう肩書きが強く出てしまう。
もう、どれくらいサイカを抱き締めてないだろう。
どれくらい、キスしてないだろう。
サイカが陛下と結婚してからは確実に触れてない。…会話とかは、してるけど。
今度二人でお茶する時は…いちゃいちゃ出来るかな。
「姉様と会ったらいちゃいちゃしたいなー。」
「!?」
「って顔してますよ兄様。当たりですか?」
「……アレク、凄いね。」
「ふふ。兄様の考えている事が分かってくるようになりました。
僕が凄いんじゃなくて、兄様の表情が豊かになってきたからですよ。」
これも姉様のお陰ですね。って言いながら、子供の頃と何一つ変わらない、純粋な好意のこもった笑顔を浮かべるアレク。
その変わらない笑顔に胸が温かくなって、アレクが俺の弟で良かったと、心から思った。
家族って何だろう。血が繋がっていれば、家族なんだろうか。
家族って何だろう。一緒に暮らしていれば、家族なんだろうか。
父さんと血が繋がっていても、父さんが俺の事を“息子だ”と言ってくれても、その言葉を信じる事が出来なかった。
兄として俺を慕ってくれるアレクの心も、信じられなかった。
家族ってなんだろう。血が繋がっていても、一緒に暮らしていても、一つも信じる事が出来ないのに、言葉や気持ちを疑うばかりしか出来ないのに。
だけど今は違う。家族っていうのが何なのか、それを言葉で表すのは難しいけれど、父さんと俺とアレクは家族なんだって胸を張って言える。
サイカが初めて俺の実家に来た時、言ってた。
俺たちの間にあったのは、家族っていう器だけ。
これから家族っていう器を、満たしていけばいい。
あの時のサイカの言葉を、今、強く実感する。
中身のなかった、家族っていう器。
あの日から少しずつ、少しずつ満たされていった。
思い出という思い出は少ない。家にいても、一人でいる事が多かったから。
だけど、何もなかった器の中に満ちていく。
期待が一つ。
喜びが一つ。
気恥ずかしさが一つ。
もどかしさが一つ。
勇気が一つ。
希望が一つ。
理解して欲しい、理解したい、分かり合いたいと思う心一つ。
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予定していたサイカとの逢瀬。
城の庭園にある東屋で使用人たちに下がってもらい、二人でお茶を飲みながら話す。
「カイル、嬉しそうですね。」
「……そ、かな。」
「うん。嬉しそうな顔してる。」
「…そう、かも。…嬉しい、の、かも。前と、全然…違うんだ。まだ戸惑いも、あるけど。でも…ちゃんと、家族…みたいだって、実感出来てるから…嬉しい。…と、思う。」
俺を見るサイカの目はすごく優しい。
大きな目が柔らかく細まって、俺に向けられている。
サイカも嬉しそうだって思うのは、きっと気のせいじゃない。
だってこの女は、俺の事を大切にしてくれているから。
俺が泣くと一緒に泣いて、俺が笑うと一緒に笑ってくれる、そういう女だから。
本当に、夢みたいだ。
全部、嘘みたいに上手くいってる。だからちょっとだけ恐いって思うのは仕方ない。
「…俺のお嫁さん、…なってね。」
「?」
「俺が、一番最後…だけど。俺のお嫁さん、絶対、なってね。…約束…して。」
「うん。約束する。」
約束しても、サイカが俺の奥さんになる当日を迎えるまでは不安。
でもサイカの言葉なら信じられるから。
「サイカ、…庭、歩こう?」
「あ、うん!」
「…抱っこしても…いい?」
「……えっと、」
「……ダメ?…恥ずかしい…?…でも、お願い…。」
「…う、……い、いよ。」
「やった…。」
サイカをじっと見てお願い、と首を傾けるとサイカは大概俺のお願いを聞いてくれる。
優しく、丁寧な手付きでサイカを横抱きに抱えるとぐっと距離が近くなった。
サイカは吃驚するくらい細くて、小さくて可愛い。とっても可愛い。可愛すぎてどうにかなりそうなくらい可愛い。
俺よりうんと小さいサイカと隣を歩くのも好きだけど、サイカの可愛い旋毛を見るのも大好きだけど、やっぱり近くで目が合う方が嬉しい。
「…歩くのもいいけど、…サイカ、小さいから…。こうすると、顔、近いでしょ…?」
「カイルが大き過ぎるの。カイルだけじゃなくて皆もだけど。…160㎝は小さくはないし…あっちでは平均身長をちょっと越してるくらいなんだけどなぁ…。」
「…でも、俺からしたら、小さい。…小さくて、可愛い。
…あのね、サイカ。」
「うん?」
「…出会った時から、思ってた。
可愛い、守ってあげなくちゃって。
女の人は…俺からしたら、皆小さいけど…初めて、可愛いって、守ってあげたいって思ったの、…サイカだけ、だった。もう、ね、…初めて会った時も、サイカ…何をしてても、可愛くて…。」
「………ひょえ…」
「ちょこちょこ動いてるのも、俺と視線、合わせようとして、上目使いになるのも、…立ってキスする時、ちょっと背伸びしてるのも、…もう、全部可愛いなぁって、最初の頃は、余裕なんてなかったけど、でも、…会った時から、思ってたよ。」
もう可愛い。サイカっていう存在が全部可愛い。可愛くて可愛くて、恋人になる前から胸がぎゅってしてた。
出会った時から、ずっとサイカは特別だったんだ。
「父さんと、アレクと。…今みたいな、いい関係になれたのも…サイカのお陰。
サイカが、いてくれたから。
サイカが、いるから、頑張ろうって思える事…沢山ある。」
ずっとずっと、側にいて。
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…サイカ。…俺を特別にしてくれて、ありがとう。誰にも望まれてないと思ってた。母さんにも、父さんにも、アレクにも。家族の言葉さえ、信じられなかった。」
「…それは、前の事だよね?」
「うん。…サイカが、俺を…正してくれたから、今が、あるんだよ。」
同じように父さんたちと話し合ったって、サイカと出会ってない俺はきっと、父さんたちの言葉や気持ちを信じなかった。
俺たち家族という器が歪な形をしていたように、俺の心も歪んでた。
疑って疑って、信じようとしない。
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だから周りの人たちよりずっと信用出来た。
「サイカがね、俺を、幸せにしてくれたからだよ。
サイカは、最初から、特別だった。
誰とも、違ってた。」
この女は大丈夫かな。
信じて大丈夫なのかな。
言っている事は本当かな。
目は…嘘を吐いてない。
凄く、綺麗な目をしてる。
どこにも負の感情がない…澄んだ、綺麗な瞳だ。
見せかけだけの優しさじゃない。
俺を理解しようとしてくれた。
その場しのぎでもない。
俺が、どんな人間なのか、分かろうとしてくれてた。
知ろうと、努力してくれてた。
「出会ってから、俺はずっと、幸せ。
…父さんとも、アレクとも、もうどうにもならないって、思ってた。…でも、いい関係になれた…。」
今の俺を形作ったのは、全部、全部サイカだ。
胸にあった寂しさをサイカが埋めてくれた。
感じていた沢山のやるせなさや憤りを、サイカが癒してくれた。
物心が付いてからずっと抱えていた孤独を、サイカが埋めてくれた。
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「サイカが…、俺の心を、育ててくれたんだよ。」
世界で一番大好きな君が、俺の心を支えて、育ててくれたんだ。
サイカは俺の人生だ。
この先だって、それは変わらない。
「…早く、サイカと家族になりたいな…。」
恋人になった。婚約者になった。
旦那さんと奥さんになるのが待ち遠しい。
それから子供にも恵まれて、お父さんとお母さんになって、幸せが詰まった日常になるんだ。
父さんとアレク、クライス侯、それから陛下にリュカにヴァレリア、その子供たち。
すごくすごく賑やかで、煩いくらい賑やかになっていると思う。
俺の子、各々の子供たちが成長して、俺たちも年を取っていく。
きっとサイカはおばちゃんになっても、お婆ちゃんになっても可愛いんだ。
目尻の皺さえ愛しくて、俺はおじさんになっても、お爺ちゃんになっても、絶対サイカが大好きで堪らないはず。
そうやってサイカと一緒に年を取って、仲睦まじいままの、お爺ちゃんとお婆ちゃんになって…そうして、カイル・ディアストロという人生を終えたい。
「…ね、サイカ。また一つ…成長、してたみたい。」
「?」
自分の人生、すぐ先の事じゃなくて、ずっとずっと先の事は想像も出来なかった。
十年先、二十年先、そのずっと先もサイカは一緒にいてくれるかな。いなかったらどうしよう。
未来の事を考えると不安しかなかったのに、今はサイカが俺の奥さんに、俺の家族になった後の、ずっとずっと先の自分の人生、その未来が、当たり前のように、自然に思い浮かんでいた。
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