187 / 198
二周年のお礼話 中編
しおりを挟む
「…民衆の間ではサイカ妃殿下の更なる活躍に期待が高まっている。……流石サイカお嬢様ぁ…!」
「レナード、読むか食べるかどっちかにしな。ったく。あんたがサイカ様を敬愛してるのは知ってるけどね、折角の料理が冷めちまうよ。」
「あ、ごめんごめん!」
週に一度ある休みの日。
俺は馴染みの食堂で昼ご飯を食べていた。
食堂のおばちゃんは子供の頃から知っているからか、お互いに家族のように気安い間柄だ。
「おばちゃんの料理はやっぱ絶品だな!
サイカお嬢様にも食べてもらいたいよ!」
「ばぁか言うんじゃないよ。
こんな所にサイカ様を呼べるかい。全く。」
「はは。まあ年季が入って小汚ないけどさ!落ち着くよ、この店。一番はおばちゃんの料理が旨い!だから皆来るんだ。
それにさ、お嬢様は店が小汚なかろうが気にしない方だよ。絶対。」
「小汚ないとは何だい!毎日きちんと掃除してるんだよ、失礼だね!」
「あははは!ごめん!」
サイカお嬢様が陛下に嫁がれてそろそろ一年が経とうとしていた。
陛下に嫁がれてからのお嬢様は積極的に政務に参加したり、他国との友好を深めたり色んな町や村に行って国民の声を聞いたりと忙しくされている。
お側にいられない俺は新聞の情報でサイカお嬢様の様子を得ては安堵する日々を送っている。
サイカお嬢様の情報を得る為に毎日毎日新聞を読んでいる訳なんだけど……読んでいると、色んな情報が目に入ってくるんだ。
何処かの国で続いている戦争の状況だとか部族同士の争いが多発しているだとか、それはもう色々と。
戦争なんて物騒だよな…と何処か他人事のように思うのはレスト帝国が大国であるが故だろう。
だけど、余所の国の戦争は全く他人事じゃなかった。
それは最近、このクライス侯爵領でのちょっとした問題と関わっている。
「おばちゃん、御馳走様!お金ここに置いとくね。」
「はいよ。…そうだ、レナードちょっといいかい?」
「ん?」
「あんたの所に新しいのが入っただろう?
…あれは何とかならないのかい?」
「…何があった?」
困ったように眉を下げるおばちゃんに事情を聞こうとしていたその時、店の外から悲鳴が聞こえ、慌てて外に出る。
クライス侯爵領に住む人たちは穏和な人が多く、仲間意識も強い。
困った事があればお互い様、助け合い協力し合って暮らしている。
それもこれもクライス侯爵が領地を正しく治め、守ってくれているからだって言い切れる自信がある。
皆このクライス侯爵領という自分の故郷を愛していて、そして自分たちの故郷を守ってくれるクライス侯爵が大好きな人たちだから、滅多な事では問題事なんて起こさないけれど、余所から来た人たちは違う。
今、俺の目の前では二人の男が一人の女性の腕を乱暴に掴み、言い寄っている様に見える。
「止めて下さい…!」
「ちょっとくらい相手してくれてもいいじゃねぇかよぉ!」
「俺たち寂しいんだ。姉ちゃんが相手してくれたら大人しくなるぜ?」
男たちはつい最近クライス侯爵領に移住してきた難民。
このレスト帝国は大国というお陰で今も平和だけど、世界の何処かでは戦争中の国も多々あって、大国の庇護を受けたいとこの国を目指す難民は多くいる。
彼らも国が敗戦してしまい生活に困った為、レスト帝国で生活しようとやって来たらしい。
故郷で暮らせなくなった事は同情するし、気持ち的には彼らが穏やかに、平穏に暮らせるように協力したいんだけど……この難民の一部が問題児だったんだ。
「そこまで。」
『ああ?』
「クライス侯爵領で暮らし続けたいなら問題を起こすのは止めた方がいいよ。
クライス侯爵はこういう揉め事を特に嫌う方だ。
か弱い女性を怯えさせるなんてみっともない。」
「…チッ。へいへい、悪かったですよ~。」
「すいませんねぇ。寮に戻って反省しまーす。」
なんて。ちっとも反省なんてしてない謝罪の言葉。
これさ、俺絶対舐められてるよな?知ってたけど。
「あの、ありがとうございます…。」
「こっちこそごめん。怖かったよな。」
それからすぐに町を巡回している奴らが来たので後は彼らに任せて食堂に戻る。
おばちゃんの相談というのは、さっきみたいな事が増えてきたって話だった。
幸い、物を壊したり人を殴ったりはまだないらしいけど、態度が悪いし乱暴だしで皆いい気持ちはしてないって。当然だと思う。あんな奴らがうちの領地にいるなんて俺だって嫌だ。
兵士になりたいと志願した彼らを受け入れたのは雇い主であるクライス侯爵だけど、優しいだけの方ではないとも知っているから、ただ無条件に受け入れたわけじゃないはず…と思いたい。
折角の休日なのに何だか憂鬱な気持ちだ。
切実にサイカお嬢様に会いたい。
お嬢様の笑顔を見ればこんな憂鬱な気持ちなんてすぐに吹っ飛ぶのに…と脳内でお嬢様の笑顔を何度も思い返しながらこの日は帰宅した……んだけど、俺の憂鬱な日は続いた。
「いい加減ぶん殴ってやろうかと思ってるんだが。」
「あー…、あいつら?」
「レナードなら分かるけど完全に僕たちの事舐めてるよね、あれ。」
「んん?俺お前たちからも舐められてる?俺たち仲間だよね?毎日共に切磋琢磨してる仲間だよねえ!?」
「なあシグルド。手っ取り早く俺たちが相手するってのはどうよ?
コテンパンにしてやったら生意気な事も言わなくなるだろ?」
「……止めておけ。」
「え、無視?ねえ俺の疑問は無視なの?」
先日の休日から数日経っても、奴らの態度は変わらないので仲間たちの苛々は日々募っている。
うちは基本的に兵士の経験があろうと新人は体力作りや筋力を増やすトレーニング、剣術の基礎を三ヶ月程やってから実力を判断するんだけど、問題児たちはここに来る前に自警団にいたりだとか自分たちの領地の兵士だったらしく…まあ態度がデカい。
そんな態度の悪い連中が当然俺たちに馴染む訳がないので、奴らは問題児同士で親しくしているんだけど、リーダーっぽい男が一番偉そうなんだよな。
確かに八人の中では一番強いとは思うけど、あくまでも“八人の中で”ってだけ。
これは一緒に鍛練していた時に帝国騎士たちが言ってたんだけど、ほんの十年そこら前までは帝国騎士全体の実力はそこまでじゃなかったらしい。
変わったのは王太子だった頃の陛下が騎士たち一人一人の能力、実力の質を上げる為の政策を打ち出してから。
そこから騎士たちの質はぐんと上がったそう。
『クライス侯爵様は友人であり、様々な事を教えてくれた師だとも陛下は仰っていた。
お前たちの質が俺たち同等に高いのも、クライス侯爵様の元にいるからだろう。』
この時は良く分からずに“へえ”と返事をするだけだったけど、今になってこの言葉の意味が分かったんだ。
つまり、奴らのいた国の騎士や兵士の色んな水準が帝国騎士に比べてうんと低いという事。
体力だとか技術だとか、個々の能力だけの話じゃなくて、資質も含めて。
回想は“ダン!”とアレスが机を叩いた事で終了した。
「ああいう奴らは手っ取り早く絞め上げた方がいいんだ。
大した実力もないくせに粋がってる連中だぜ?」
問題児たちが来て一月と少し経つけれど、何かあるたび形だけの謝罪をするだけで反省もしてないから評判も頗る悪いまま。
少しも態度を改めない奴らに俺たちも町の皆も嫌な感情ばかり大きくなっている。
「あいつら多分、クライス侯爵の事も舐めてるよ。」
「侯爵様の容姿で、だろ?俺もそう思ってたんだ。」
「クライス侯爵様が優しいからそこも勘違いしてるんだろうね。
侯爵様の優しさが、自分たちに下手に出ている風に見えてるんだ。」
「はあ?下手ぇ?ジェイク、どういう事だ?」
「容姿の醜さも差別の対象だからだよ。
ここではマシだけど差別はどこにでもある。あいつらがいたのは小さな国だよ?閉鎖的な場所で暮らしている人たちは“異物”を嫌う。狭い世界でしか生きてないから。」
「…あー…?」
「大勢が集まっている所ならまだ他にも目が行くんだろうけど、小さな村なんかはそうじゃない。一点に集中してしまう。
差別されてきた人はさ、小さくなって生きようとするじゃない。怖いから。
一日一日をなるべく平穏に過ごせるように人の言いなりになったり、抵抗だとか反論なんてしない。そういう人が多いでしょ?」
「ああ…なる程。
つまりなんだ?あいつらは侯爵様が周りの人間を怖がっている奴らと同じ…と思ってんのか?いや馬鹿だろ。領主だぞ?大国の、しかも国の中でも一、二を争う広大な土地を治めてんだ。そんな柔な人間じゃねぇって分からねぇもんかね。」
「だから馬鹿なんじゃない?俺だってずっとここで暮らしてるけど、ああまで酷くない。
きっと余程狭い世界で生きてたんだよ。」
「…クライス侯爵様はお優しいだけの方ではない。
何事にも過程がある。
過程を通り結果が生ずる。…とのお言葉だ。
察するに。今はまだ、過程なのだと思う。」
『…?』
翌日、俺たちはクライス侯爵に呼ばれ執務室に集まっていた。
「新しく入った者たちはどうだ?」
「…今は新人が行う基礎メニューしかしていないからだとも思いますが…同職の経験があるからか、やる気というものを感じません。」
「怠いって感じで態度も悪い。その癖自信だけはあるって顔してやがりますよ。」
「町でも評判良くないですね。僕も休みの日に町に行くと色んな人からどうにか出来ないのかって言われます。」
「窃盗だとか暴力沙汰とかは今の所ないみたいだけど…時間の問題じゃないですか?」
「クライス侯爵様、処罰しないんですか?」
俺がそう聞くと、クライス侯爵はふう…と溜め息を吐いて、『まだ弱い』と呟いた。
「お前たちも知っているだろう。未だそこかしろの国で戦争がある世の中において、難民の対処はデリケートな問題だ。
難民とは戦で平穏な暮らしを奪われた弱者。大国であるレスト帝国では難民を積極的に受け入れている。」
「はい。存じております。」
「だが、無条件に受け入れれば元々この国で暮らしている多くの者たちへ大きな負担がいく事は明らかだ。
救済というのはただの言葉の綾で、国としては人手が欲しい。
労働力が増えれば生産性も上がる。当然、人が増える分のデメリットも多々あるがな。」
「……。」
「国を発展させていくには労働力が必要不可欠だが難民の全てが労働力になるかと言うとそうではない。
新天地へやって来たものの…大切なものを失った現実に向き合えず無気力になる者もいれば、単純に何をすればいいのか分からないという者も。
…奴らのような放漫な者も決して少なくない。」
「なら…!」
「だが。建前でも救済という言葉を使っている以上は無下には出来ん…というのが国の方針だ。何故なら、難民という言葉の根本が“弱者”であるからだ。
処罰するにも処罰に値する過程が必要であり、今はその時ではない。」
「町の皆が困っている事は理由にならないんですか?
あいつらがここで暮らし始めてからまだ一月程度しか経ってないですけど…迷惑しか掛けてないじゃないですか…。
俺は、今すぐにでもあいつらを追い出して欲しいと思ってます。」
「レナード…。」
あの日の女の人が頭に過った。
俺や巡回している兵が間に合わなかったら、周りも気付かなかったら、あの女は強姦されていたかも知れない。
それだけじゃなくて、誰かが怪我をするだけじゃなく死ぬかも知れない。
なら、大変な事が起こる前にここからいなくなって欲しいと思った。
ここからあいつらを追い出して欲しいと思っている事をクライス侯爵に伝えてみたけれど、侯爵は左右に首を振った。
「レナード。お前の気持ちも良く分かる。
ここがお前の故郷であるように、俺の故郷で俺の治める地だ。領民は皆守るべき存在だ。
俺とて民の苦しむ姿は見たくない。取り返しのつかない事が起こる前に追い出せというお前の言葉も尤もだ。」
「なら…」
「だがな、レナード。
この地から追いやったとしても、他の地で同じ事が起こるだろう。
そして恐らく、他の所であれば尚、奴らの蛮行は酷くなるはず。
領主という立場にいる人間も様々だ。
皆が皆、厳しい目で見るとは限らない。分かるか、レナード。」
頭の良くない俺でも今の話は流石に理解出来た。
ここから追い出しても、絶対に他の所で同じ事をする。
クライス侯爵が領地を正しく治めようとしてくれる領主な分、ここはとても恵まれているけれど、そうでない所は沢山ある。
多くの貴族は平民の事なんて気にしちゃいない。
自分たちさえ良ければ平民がどうなろうと構わない、そんな貴族もいる。
クライス侯爵と行動を共にしている内、そういう貴族を何人も見た。
そんな貴族たちが治める領地にもし、あいつらが行ったとしたら…。
ここではクライス侯爵や俺たちが目を光らせているけれど、それがない分枷が外れて何をするか分からない。
その場で取り押さえる事が出来たらいいけど、そうでなければまた別の場所に逃げて、繰り返し問題を起こすだろう。
クライス侯爵は罰を下すなら徹底的にと考えているんだ。
ただ追い出すだけじゃなく、どうしようもないと判断したその時には厳しい罰を。
「俺はクライス侯爵領の領主だ。
だが、同時に国を守る貴族の一人で、サイカの父だ。
この地だけを守れば良いという訳ではない。
ああいう輩を放っておくという事はその分国の犯罪率を上げてしまう事になる。
犯罪が増えれば当然、国母となったサイカにも何かしらの負担が掛かるだろう。」
「あ…、」
「只でさえ大変な立場にいるんだ。
貴族としてもだが、一人の親として…ここで摘める芽は摘んでおきたい。
いいか。過程を積み重ねていく事でまた結果が変わってくるんだ。
大義名分のない戦はただの殺戮になる。
厳しく罰するには、まだ理由が弱い。」
「…なら、数が集まれば…。
小さな事でも沢山の数が集まれば…厳しい罰を与えられるんですよね…?」
「その通り。集まるにはまだ時間が必要だろう。取り返しのつかない事が起こらないよう目を光らせておく労力もだ。」
「この話を他の者たちに伝えても宜しいでしょうか。」
「構わん。但し、気付かれんように気を配る必要はある。」
「ならば問題ありません。
暫くの間は犯罪が起こる前に対処すべく少しばかり町に人員を増やし、厳しい罰という結果を下せるよう過程を集めたいと思います。」
シグルドの言葉に、クライス侯爵は“大変宜しい”と頷いた後、まだ別の話があると笑顔を見せた。
「実はな。今年は別荘で一月、休暇を取ろうと思っている。
大きな川と湖がある西の別荘だ。今年はルイーザや子供たちがいるからな。何処かに連れて行ってやりたいと思っていたんだ。」
「きっと喜ばれましょう。」
「え…でも、大丈夫なんですか?」
「ベンジャミン、寧ろその方がいいんだよ。
何かしないかって俺たちに見られてるのは分かってると思うんだ、あいつらも。
気を付けないといけないのは自分たちに重い罰が下るかも知れないって警戒される事だから、侯爵様と一緒に俺たちも屋敷を離れるのは警戒心を下げるって意味で丁度いいと思う。」
「なるほど~!ジェイクって意外に頭いいよね!」
「…それ褒めてる…?」
「何名程同行致しましょうか。」
「西の別荘にある宿舎は大きいから大人数で行っても問題ないだろう。過程を集める為の人手と屋敷の警護も必要…と考えると四十程か。二十ずつ交互に休憩を取るなりしてお前たちも気分転換をするといい。」
「気分転換…!」
「うおお…!ありがてえ!!」
「そ、それって!別荘にはお嬢様も来られるんですか!?」
『!!!』
「…レナード……お前という奴は…。
先程までの真面目なお前は何処に行ったんだ。申し訳御座いません、侯爵様…。」
「ははは!シグルド、構わん。
喜べレナード。流石に一月は無理だが十日程度であれば予定を空けると返事があったぞ。」
「いやったああああああああ!!
神に感謝ーーーーーー!!!」
「これ誰が行くかで絶対揉めるやつ。
…絶対下痢にならないように気を付けなきゃ。」
「よっしゃあ!!俺たちは同行決定だな!」
「わあ…わああ…!久しぶりにお嬢様に会えるんだ…!」
「…俺もレナードの事を悪く言えないな…。」
サイカお嬢様に会える!!
それだけでここ最近の鬱々だとか苛々が一気に吹っ飛んだ。
お嬢様!お嬢様に会える!お嬢様に会えるーー!!もう限界だったんだ。色々本当に限界だったんだ俺は!!
新聞に載っている姿絵を切り抜いてお嬢様不足をどうにかしようとしたけど姿絵は動いたりしないんだ。俺の名前を呼んでくれたり表情が変わる事もないんだ。それに姿絵より実物の方が何倍も美しいし可愛い。
俺は!動いている!お嬢様を!見たい!!
そりゃ妄想の中のお嬢様は動くし色んな表情を見せてくれるけど。
本物!の!お嬢様が!一番に!決まってる!!
自給自足も楽じゃないんだ。自給自足じゃ足りないんだ。
現物の!お嬢様を!寄越してくれ!!
「まあ、漏れなくマティアスも着いてくるだろうが。」
「陛下が一緒でもいい!陛下と一緒にいるサイカお嬢様は可愛いの権化!!
照れてるサイカお嬢様は最高に可愛い!!大好きっ!!」
「何を言う。サイカは俺と一緒にいる時が一番可愛いに決まっているだろうが。」
「侯爵様と一緒にいるお嬢様は最早尊いの化身!!大好きっ!!」
「そうだろうそうだろう。」
サイカお嬢様に会えるというとんでもないご褒美にテンションがぶち上がったその翌日、休暇に同行する残り三十五人を決める為男たちの熱い戦いがあった。
何も言わなくとも俺たちの表情を見てサイカお嬢様が来る事を察したのだろう。
そして当然のように…運命の女神に微笑まれた俺たち五人と同行が決まった三十五人は留守番組から毎度お馴染み『腹下せ』と負け惜しみの呪いを吐かれる事となる。
俺はもう楽しみで楽しみで仕方なかった。
問題児たちの態度が悪かろうと舐められていようと心は毎日穏やか。自然と笑顔になっちゃう。
しかし。
うきうきだった俺を怒り狂わせた事件が起こる。
別荘へ向かう前日。
クライス侯爵の計らいで屋敷と周辺を警護する人間を残し、残りは休みとなった。
休みにした目的は留守番組への気遣いだったので留守番組と新人は全員休みで仕事をしているのは同行組。
俺とシグルド、それから数人の同行組は侯爵邸の料理長と使用人のリリアナさんを手伝う為町に来ていたんだ。
別荘に一月滞在するからには必要な物も多い。
現地で調達出来る物以外で必要な物を準備する作業は前々から進めていたけれど、それでもやっぱりギリギリで今日が最終調達。俺たちはその手伝い。まあ、荷物運びが仕事かな。
屋敷と近いこの町には巡回する兵だけじゃなく休みになった仲間たちも多くいて“レナードは当日下痢になっちまえ”と物騒な言葉を向けられる。
何で俺だけ!?といつものように返事をしていると、少し離れた所から見間違えるはずのない存在が目に入った。
「え。……え!?」
「何だ。どうしたレナー……お嬢様!?」
黒髪じゃなくて赤毛だし、素朴な服装をしているし遠目から見ても少しふっくらとしているけれど俺がお嬢様を見間違えるはずがない。
明らかに一人だけ美しく光輝いているのは間違いなくサイカお嬢様で、俺はお迎えが来たのかと本気で思った。変装?しているサイカお嬢様も可愛い。あれ変装してるんだよね?全然美しさが隠れてないですけど?
お嬢様のすぐ近くには確か専属侍女だったはず…の三人の女性と、周りには護衛と思わしき男たちがちらほらと。でも全員平民スタイルじゃないか。どゆこと?
食い入るようにお嬢様を見ていると見知った顔の男が俺に気づいた。
帝国騎士団の元精鋭部隊に所属していた騎士で、騎士団にサイカ様教を布教したのは自分と豪語する六人の信者の一人だ。
「レナード、久しぶりだな。」
「お久しぶり!…ねえ、お嬢様や皆さんのその格好何…?」
「変装だけど?」
「いや、見りゃ分かるから。理由を聞いてるんですけど。」
「ああ、クライス侯爵領に向かう際にいくつかの町や村を通るだろう?
折角だから視察しながら向かおうって妃殿下が仰ってな。
フルプレートを着た騎士…しかも結構な人数が村や町の中を歩くんだ。かなり仰々しだろ?」
「確かに。」
「妃殿下はなるべく皆が自然体で過ごしている所が見たい。…が、フルプレートを着た俺たちが護衛をしていると周りが警戒するし畏まってしまう。
じゃあフルプレートを脱いで変装しようって話になったんだ。そしたら何故か妃殿下も変装していた。」
「お嬢様の美しさと神々しさは変装してどうにかなるものじゃない。全く隠れてないよ。」
「知ってる。妃殿下は女神だぞ。変装くらいで隠れるもんか。
けどな…変装して楽しそうにしている妃殿下のお顔を見ると……ただ可愛いだけで忍んでいませんとは言えないだろう?」
「分かる。でもさ、いいの?
お嬢様は皇妃でしょ?」
「問題ない。陛下もお忍びで帝都へ行く事もある。クライス侯爵もあるだろ?」
「あー、あるね…ってあれ?陛下は一緒じゃないんだ…?」
「陛下は明日到着されるはずだ。
妃殿下は視察も兼ねているから陛下と一緒ではなく俺たちと先立って出発したんだ。」
「なるほど。…ああ…本物のお嬢様…超輝いてる…!あああやっぱりお嬢様は最高に美人…!!自然と手を合わせて拝みたくなるこの気持ち…まさに女神様…!!」
「分かる。俺も普段から自然と手が合わさっていつの間にか拝んでいる。」
「同士よ!!」
「共に女神を称えよう!!」
久しぶりのサイカお嬢様を目に焼き付けていると、俺に気付いたお嬢様が……お嬢様が女神の微笑みを…!!
「シグルド!レナード~!」
あああああ!?美人!!声も世界一可愛い!!
何あの輝く満面の笑顔…!嬉しそうな顔が超絶可愛い!!
俺たちに向かって子供のように大きく手を振るお嬢様が尊すぎる天に召されるレベルで可愛い何なのあの絶世の美女幸せすぎて死んでしまう寧ろ死んでない俺!?
「お嬢さ……!!」
お嬢様、と笑顔で手を振り返そうとしたその時だった。
“捕まえろ!!”と言う大きく切羽詰まったような巡回兵の声。
声のした方へゆっくりとお嬢様が振り向こうとしているその少し後ろに、走ってくる問題児たちの姿が見えた。
男たちは後ろにいる巡回兵の存在を気にしながら走っていた為、前を見ておらず、目の前にはお嬢様がという所まで迫っているのに気付いた護衛が男を六人取り押さえる…が、残る二人の男がそのまま勢いよくサイカお嬢様にぶつかった。
ガタイのいい男の体にぶつかったお嬢様の華奢な体が地面に打ち付けられ、そのまま倒れ込む。
「ああ、ああああ…!!」
倒れたまま動かないお嬢様の元へ駆ける。
抱き起こそうとした所で動かすな!と誰かの強い口調が飛び、意識のない様子のお嬢様を呼び続けた。
お嬢様の腕や足には地面で擦りむいた傷があって、見ているだけで痛々しい。
俺たちと一緒に来ていたリリアナさんがハンカチを、お嬢様の侍女の一人が近くの酒場から酒を持って来てお嬢様の手当てを始めると、意識が戻ったお嬢様が目を開けて心の底から安堵した。
「…ぅう……?」
「お嬢様…!お嬢様、私が分かりますか!?」
「……リリアナ…?」
「お嬢様、頭は痛くありませんか?吐き気はありますか?体に痛みはありますか?」
「…ん…?……えっと、…大丈…夫、……?」
「ああ…良かった…!お嬢様、直ぐお屋敷へ帰りましょう!きちんと手当てしませんと!」
「誰か!妃殿下を馬車へ運んで下さい!急いで!!」
すぐ近くにいた護衛の一人がお嬢様を抱き抱える。
護衛が向かう先にはお嬢様が乗って来た馬車があるんだろう。
小さくなるお嬢様を呆然として見送り、そして、護衛の騎士と大勢の仲間たちに囲まれ縮み上がった男たちの姿が目に映った瞬間、とんでもない怒りが沸き上がる。
あいつらが、お嬢様に怪我を。
俺の、俺たちの、大事な大事なお嬢様に。
「この糞野郎共が…ただで済むと思うなよ」
…いやぁ、もうね。自分でも止められなかったよね。俺って信者たちの中でも割りと温厚な方だと自分では思ってたんだけど実は過激派だったんだって知ったよね。仕方ないよ、うん。
“レナード、そろそろ止まれ”とシグルドの声に気付いた時にはリーダーの男がボコボコになっていた。
シグルドを見ればいい笑顔。シグルド自身も握った拳に血が付着してて、地面に転がるリーダー以外の七人もボッコボコだった。やだ過激派。
だけど、それでも腹の底から沸いて出る怒りは治まっていない。
当然だよ。だって、こいつらは俺たちが愛してやまないサイカお嬢様に怪我を負わせたんだから。
痛みで顔を歪め涙を流す男たちを見下ろして、俺は問題児たちのリーダーの前に腰を落とす。
「なあ、お前らさ、誰に怪我させてんのか分かってんの?
うちの大事なサイカお嬢様を傷付けて、一体どういうつもりなわけ?殺すぞ。」
『ヒイッ!!!』
「お前らが俺たちを舐めくさってんのはいいよ。別にどうだっていい。勝手にしろって感じだけどさ。でもサイカお嬢様に手を出すってんなら話は別なんだよ。分かる?お前らは手を出しちゃいけないもんに手を出したわけ。俺たちはさ、サイカお嬢様が大切なの。サイカお嬢様が好きで、大好きで、愛してんの。さっきお前らが怪我させた人、どんな人か知ってる?クライス侯爵様の愛娘。侯爵様の愛娘がマティアス陛下に嫁がれたのは知ってるよね?知らないはずないよな?ここで暮らしてるんだもんな?お前らが怪我をさせたのは、この国で陛下と同じく尊い方だよ。」
「な…、」
「じ、じらながっだんだ!よ、よぐ、見でなぐて、さ、さっぎの、女が、」
「“さっきの女”だあ?口の聞き方には気を付けろよ糞野郎共が。知らなかったじゃ済まねぇんだよ。全部自業自得だっつーの馬鹿かよ。ああ、態度だけは一丁前の馬鹿だったわごめんごめん。
お前らは俺たちを舐めてるくらいだからさぞ強いはずなんだよな?だから注意されても反省しなかったんだよな?散々周りに迷惑かけても態度を改めないくらいには実力があるって自信があったんだよな?なのに、ねえ、何でお前、俺に傷一つ付けれてないわけ?ねえ。」
男たちは手足を縛られている訳じゃない。
朧気にしか思い出せないけど、確かに殴り返そうとしていたし、抵抗してた。
その抵抗も全部俺に止められるくらい、目の前の男は弱いって事だ。
「糞弱じゃん。その程度なのに何で粋がってたわけ?その程度であの態度だったわけ?お前ら全員兵士の素質ねぇよ。まあ、あったとしてももう終わりなんだけどな。だってお嬢様に手を出したんだから。お前らが悪いんだよ?分かる?お前らが馬鹿にしてるクライス侯爵様は優しいだけのお方じゃねえの。ぜぇんぶ、自業自得ってやつ。」
リーダー男の前髪を付かんでにっこり笑ってやれば、男は白目を向いて気絶した。
全然怒りは治まらないけど、厳しい罰を下すのは俺たちじゃなく侯爵。
俺たちは男たちを引きずりながら屋敷へ戻った。
勿論侯爵は激怒。当然だよね。
お嬢様の怪我は軽い打ち身と擦り傷だけだったけど、とんでもない。お嬢様の怪我はどんな怪我であろうと、俺たちにとっては大怪我だ。
レスト帝国の国母であるサイカお嬢様に怪我を負わせた罪は相当重い。
奴らがどうなったかは、説明しなくとも分かるだろう。
それより大変だったのは…サイカお嬢様の護衛に付いていた彼らの方だった。
お嬢様を同じく愛してやまない彼ら信者は自分たちがお嬢様の身を守れず怪我を負わせた責任をいたく感じている様子で…その落ち込み様は酷かった。
お嬢様が手当ての後に眠った後、彼らは陛下を待った。
陛下に、自分たちへの罰を下してもらう為に。
翌日、先触れで事の顛末を聞いていたのか焦った様子の陛下がクライス邸へ駆け込み、誰と話す事もなくお嬢様の部屋へ向かわれた。
暫くして一人で現れた陛下を前に護衛の騎士たちは頭を垂れた。既に覚悟を決めた顔で。
“全員頭を上げよ。此度の件を聞こう”と言う陛下。
二十人いる護衛騎士の内、隊を任されているトップ二人が詳細を述べる。
隊長は俺と話した彼だった。
「陛下っ!我々は妃殿下をお守り出来ず怪我をさせてしまいました…!既に覚悟は出来ております。責任は、我々の死をもって償う所存です…!!」
「申し訳御座いませんっ…!命に替えてもお守りすると誓ったにも関わらずこの体たらく…!死んでも償い切れません…!
陛下!我々にどうか、自害をお命じ下さい…!」
護衛騎士たちの気持ちは痛い程よく理解出来た。
俺だって同じ立場なら死にたくなる。
サイカお嬢様を守れなかった。悔しくて悔しくて不甲斐なくて、お嬢様に申し訳なくて仕方ないだろう。
沙汰を待つ騎士たちに対し、陛下が口を開いた。
「俺が沙汰を下す訳にはいかん。
何故なら、そなたたちは帝国騎士であるが我が妃が所有する騎士団の者たちだからだ。
故に罰を下すのは俺ではなく、妃となる。」
『!!』
「それに、だ。サイカは此度の休暇をとても楽しみにしている事をそなたらも知っているだろう?」
「はっ。」
「であれば、休暇が終わるまでの間は妃が思い悩む真似は控えよ。
妃の休暇が終わるまで、沙汰を待つくらいは出来よう?」
「…っ、…畏まりましたっ…!」
詰まったような声だった。
怪我を負わせてしまっただけでなく、自分たちのせいで楽しみにしていた休暇を台無しにしてしまっていたかも知れないと、彼らは深く反省しているのだと思った。
けど、これでこの件は一旦終わり…になるかと思っ所で、サイカお嬢様が現れた。
騎士たちは上げていた頭を再び下げる。
お嬢様は部屋を出て話を聞いていたみたいで、陛下の隣に立つと“頭を上げて”と言った。
「私は、貴方たちに罰を下す気はありません。私がこの程度の怪我で済んだのも、貴方たちのお陰です。」
お嬢様は優しい。だけど、騎士たちに責任がないという事はなくて、やっぱり彼らは何かしらの責任、罰を受けなくてはいけない。
それが、道理だから。
「けれど、それではいけない事も勿論理解しています。
死んで責任を取る…というのは、自分の職務を放棄する事と同じだと、私は思っています。
貴方たちが私に対し、真実責任を感じているのだとしたら…最後まで、職務を全うして欲しい。」
『!!!』
「勿論、大きな責任を取らないと収まらない事もあると思う。だけどこの件で貴方たちが感じている責任は怪我をした私に対してで、罰を下す権利は私にあるんですよね?
罰を与えなければならないとしたら、全員私の休暇が終わった後、一ヶ月の謹慎を申し付けます。
謹慎が解けた時はまた、私を守って下さい。」
「サイカ、それで良いのか?」
「うん。私は、私の騎士たちを手放したくない。私を思って、守ってくれる優秀な騎士たちがこれからも必要なの。
私をよく思っていない人は当然いるでしょう?私にはまだまだ味方が必要だし、それに一番の理由は安心するから。」
「安心?」
「私の騎士たちが私の側にいるから、私は安心して外に出て沢山の人と触れ合えるし、暮らしを見て色々と知る事が出来る。
今回の事だって、不意に起こる出来事はこれからだって沢山あるはずだから、次また同じ事が起こった際どうすべきか考えるいい教訓になると思うの。私はそうやって学んだ事があるから。失敗して学んだ事が沢山あるから。」
サイカお嬢様は自分の護衛騎士たちににこりと笑い、隊を纏める彼の手を握った。
「私には貴方たちが必要なんです。
貴方たちがいるから、私は安心してお城の…自分の部屋から出る事が出来る。
それは他の騎士たちじゃ駄目なんです。
話をしたり、一緒に行動したり。その中で育んだ信頼があって、どんなに優秀だとしても知らない人に心から安心する事は出来ない。
信頼は直ぐに芽生えるものじゃなくて、人と接する日々の中で大きくなっていくものだから。」
「妃殿下…」
「優秀で、信頼もあるから安心出来る。貴方たちは私にとって、手放したくない騎士たち。
どうか謹慎が解けたあかつきには…再び、私の騎士として、その職務を全うして欲しい。」
「…っ、…ふ、……この、上ないっ、…この上ない喜びに御座います…!
この度の事から多くを学び、同じ事が起こらないようっ…必ず、御身を、お守り致しますっ…!」
「はい。これからも宜しくね。」
サイカお嬢様の言葉に、護衛騎士たちは涙を流していた。感極まった嬉し涙だ。分かる。俺も泣くっていうか既に泣いてる。鼻水まで出てる。
あああああああ、もおおおおおお嬢様ああああああったらああああああっ!!この人たらし!!流石は女神なサイカお嬢様だよっ!あんな嬉しい事言われてそれでも死なせてくれなんて言ったら男が廃るわ!!そんな奴いたら俺がシバく!!ううう、お嬢様が女神過ぎて尊いよ…涙が止まらない。鼻水も止まらない…!護衛騎士たち羨まし過ぎる腹下せばいいのに俺もお嬢様に“私の騎士”って言われたいいいいいぃぎいい嫉妬…!!
「マティアス、この件は終わりでいいですよね?」
「そうだな。一月の謹慎は罰としては随分甘いが…怪我を負ったそなた自身が下した沙汰だ。最早俺から言う事はない。」
そして、お嬢様がいるうっきうきパラダイスな数日間が始まる…!!
「レナード、読むか食べるかどっちかにしな。ったく。あんたがサイカ様を敬愛してるのは知ってるけどね、折角の料理が冷めちまうよ。」
「あ、ごめんごめん!」
週に一度ある休みの日。
俺は馴染みの食堂で昼ご飯を食べていた。
食堂のおばちゃんは子供の頃から知っているからか、お互いに家族のように気安い間柄だ。
「おばちゃんの料理はやっぱ絶品だな!
サイカお嬢様にも食べてもらいたいよ!」
「ばぁか言うんじゃないよ。
こんな所にサイカ様を呼べるかい。全く。」
「はは。まあ年季が入って小汚ないけどさ!落ち着くよ、この店。一番はおばちゃんの料理が旨い!だから皆来るんだ。
それにさ、お嬢様は店が小汚なかろうが気にしない方だよ。絶対。」
「小汚ないとは何だい!毎日きちんと掃除してるんだよ、失礼だね!」
「あははは!ごめん!」
サイカお嬢様が陛下に嫁がれてそろそろ一年が経とうとしていた。
陛下に嫁がれてからのお嬢様は積極的に政務に参加したり、他国との友好を深めたり色んな町や村に行って国民の声を聞いたりと忙しくされている。
お側にいられない俺は新聞の情報でサイカお嬢様の様子を得ては安堵する日々を送っている。
サイカお嬢様の情報を得る為に毎日毎日新聞を読んでいる訳なんだけど……読んでいると、色んな情報が目に入ってくるんだ。
何処かの国で続いている戦争の状況だとか部族同士の争いが多発しているだとか、それはもう色々と。
戦争なんて物騒だよな…と何処か他人事のように思うのはレスト帝国が大国であるが故だろう。
だけど、余所の国の戦争は全く他人事じゃなかった。
それは最近、このクライス侯爵領でのちょっとした問題と関わっている。
「おばちゃん、御馳走様!お金ここに置いとくね。」
「はいよ。…そうだ、レナードちょっといいかい?」
「ん?」
「あんたの所に新しいのが入っただろう?
…あれは何とかならないのかい?」
「…何があった?」
困ったように眉を下げるおばちゃんに事情を聞こうとしていたその時、店の外から悲鳴が聞こえ、慌てて外に出る。
クライス侯爵領に住む人たちは穏和な人が多く、仲間意識も強い。
困った事があればお互い様、助け合い協力し合って暮らしている。
それもこれもクライス侯爵が領地を正しく治め、守ってくれているからだって言い切れる自信がある。
皆このクライス侯爵領という自分の故郷を愛していて、そして自分たちの故郷を守ってくれるクライス侯爵が大好きな人たちだから、滅多な事では問題事なんて起こさないけれど、余所から来た人たちは違う。
今、俺の目の前では二人の男が一人の女性の腕を乱暴に掴み、言い寄っている様に見える。
「止めて下さい…!」
「ちょっとくらい相手してくれてもいいじゃねぇかよぉ!」
「俺たち寂しいんだ。姉ちゃんが相手してくれたら大人しくなるぜ?」
男たちはつい最近クライス侯爵領に移住してきた難民。
このレスト帝国は大国というお陰で今も平和だけど、世界の何処かでは戦争中の国も多々あって、大国の庇護を受けたいとこの国を目指す難民は多くいる。
彼らも国が敗戦してしまい生活に困った為、レスト帝国で生活しようとやって来たらしい。
故郷で暮らせなくなった事は同情するし、気持ち的には彼らが穏やかに、平穏に暮らせるように協力したいんだけど……この難民の一部が問題児だったんだ。
「そこまで。」
『ああ?』
「クライス侯爵領で暮らし続けたいなら問題を起こすのは止めた方がいいよ。
クライス侯爵はこういう揉め事を特に嫌う方だ。
か弱い女性を怯えさせるなんてみっともない。」
「…チッ。へいへい、悪かったですよ~。」
「すいませんねぇ。寮に戻って反省しまーす。」
なんて。ちっとも反省なんてしてない謝罪の言葉。
これさ、俺絶対舐められてるよな?知ってたけど。
「あの、ありがとうございます…。」
「こっちこそごめん。怖かったよな。」
それからすぐに町を巡回している奴らが来たので後は彼らに任せて食堂に戻る。
おばちゃんの相談というのは、さっきみたいな事が増えてきたって話だった。
幸い、物を壊したり人を殴ったりはまだないらしいけど、態度が悪いし乱暴だしで皆いい気持ちはしてないって。当然だと思う。あんな奴らがうちの領地にいるなんて俺だって嫌だ。
兵士になりたいと志願した彼らを受け入れたのは雇い主であるクライス侯爵だけど、優しいだけの方ではないとも知っているから、ただ無条件に受け入れたわけじゃないはず…と思いたい。
折角の休日なのに何だか憂鬱な気持ちだ。
切実にサイカお嬢様に会いたい。
お嬢様の笑顔を見ればこんな憂鬱な気持ちなんてすぐに吹っ飛ぶのに…と脳内でお嬢様の笑顔を何度も思い返しながらこの日は帰宅した……んだけど、俺の憂鬱な日は続いた。
「いい加減ぶん殴ってやろうかと思ってるんだが。」
「あー…、あいつら?」
「レナードなら分かるけど完全に僕たちの事舐めてるよね、あれ。」
「んん?俺お前たちからも舐められてる?俺たち仲間だよね?毎日共に切磋琢磨してる仲間だよねえ!?」
「なあシグルド。手っ取り早く俺たちが相手するってのはどうよ?
コテンパンにしてやったら生意気な事も言わなくなるだろ?」
「……止めておけ。」
「え、無視?ねえ俺の疑問は無視なの?」
先日の休日から数日経っても、奴らの態度は変わらないので仲間たちの苛々は日々募っている。
うちは基本的に兵士の経験があろうと新人は体力作りや筋力を増やすトレーニング、剣術の基礎を三ヶ月程やってから実力を判断するんだけど、問題児たちはここに来る前に自警団にいたりだとか自分たちの領地の兵士だったらしく…まあ態度がデカい。
そんな態度の悪い連中が当然俺たちに馴染む訳がないので、奴らは問題児同士で親しくしているんだけど、リーダーっぽい男が一番偉そうなんだよな。
確かに八人の中では一番強いとは思うけど、あくまでも“八人の中で”ってだけ。
これは一緒に鍛練していた時に帝国騎士たちが言ってたんだけど、ほんの十年そこら前までは帝国騎士全体の実力はそこまでじゃなかったらしい。
変わったのは王太子だった頃の陛下が騎士たち一人一人の能力、実力の質を上げる為の政策を打ち出してから。
そこから騎士たちの質はぐんと上がったそう。
『クライス侯爵様は友人であり、様々な事を教えてくれた師だとも陛下は仰っていた。
お前たちの質が俺たち同等に高いのも、クライス侯爵様の元にいるからだろう。』
この時は良く分からずに“へえ”と返事をするだけだったけど、今になってこの言葉の意味が分かったんだ。
つまり、奴らのいた国の騎士や兵士の色んな水準が帝国騎士に比べてうんと低いという事。
体力だとか技術だとか、個々の能力だけの話じゃなくて、資質も含めて。
回想は“ダン!”とアレスが机を叩いた事で終了した。
「ああいう奴らは手っ取り早く絞め上げた方がいいんだ。
大した実力もないくせに粋がってる連中だぜ?」
問題児たちが来て一月と少し経つけれど、何かあるたび形だけの謝罪をするだけで反省もしてないから評判も頗る悪いまま。
少しも態度を改めない奴らに俺たちも町の皆も嫌な感情ばかり大きくなっている。
「あいつら多分、クライス侯爵の事も舐めてるよ。」
「侯爵様の容姿で、だろ?俺もそう思ってたんだ。」
「クライス侯爵様が優しいからそこも勘違いしてるんだろうね。
侯爵様の優しさが、自分たちに下手に出ている風に見えてるんだ。」
「はあ?下手ぇ?ジェイク、どういう事だ?」
「容姿の醜さも差別の対象だからだよ。
ここではマシだけど差別はどこにでもある。あいつらがいたのは小さな国だよ?閉鎖的な場所で暮らしている人たちは“異物”を嫌う。狭い世界でしか生きてないから。」
「…あー…?」
「大勢が集まっている所ならまだ他にも目が行くんだろうけど、小さな村なんかはそうじゃない。一点に集中してしまう。
差別されてきた人はさ、小さくなって生きようとするじゃない。怖いから。
一日一日をなるべく平穏に過ごせるように人の言いなりになったり、抵抗だとか反論なんてしない。そういう人が多いでしょ?」
「ああ…なる程。
つまりなんだ?あいつらは侯爵様が周りの人間を怖がっている奴らと同じ…と思ってんのか?いや馬鹿だろ。領主だぞ?大国の、しかも国の中でも一、二を争う広大な土地を治めてんだ。そんな柔な人間じゃねぇって分からねぇもんかね。」
「だから馬鹿なんじゃない?俺だってずっとここで暮らしてるけど、ああまで酷くない。
きっと余程狭い世界で生きてたんだよ。」
「…クライス侯爵様はお優しいだけの方ではない。
何事にも過程がある。
過程を通り結果が生ずる。…とのお言葉だ。
察するに。今はまだ、過程なのだと思う。」
『…?』
翌日、俺たちはクライス侯爵に呼ばれ執務室に集まっていた。
「新しく入った者たちはどうだ?」
「…今は新人が行う基礎メニューしかしていないからだとも思いますが…同職の経験があるからか、やる気というものを感じません。」
「怠いって感じで態度も悪い。その癖自信だけはあるって顔してやがりますよ。」
「町でも評判良くないですね。僕も休みの日に町に行くと色んな人からどうにか出来ないのかって言われます。」
「窃盗だとか暴力沙汰とかは今の所ないみたいだけど…時間の問題じゃないですか?」
「クライス侯爵様、処罰しないんですか?」
俺がそう聞くと、クライス侯爵はふう…と溜め息を吐いて、『まだ弱い』と呟いた。
「お前たちも知っているだろう。未だそこかしろの国で戦争がある世の中において、難民の対処はデリケートな問題だ。
難民とは戦で平穏な暮らしを奪われた弱者。大国であるレスト帝国では難民を積極的に受け入れている。」
「はい。存じております。」
「だが、無条件に受け入れれば元々この国で暮らしている多くの者たちへ大きな負担がいく事は明らかだ。
救済というのはただの言葉の綾で、国としては人手が欲しい。
労働力が増えれば生産性も上がる。当然、人が増える分のデメリットも多々あるがな。」
「……。」
「国を発展させていくには労働力が必要不可欠だが難民の全てが労働力になるかと言うとそうではない。
新天地へやって来たものの…大切なものを失った現実に向き合えず無気力になる者もいれば、単純に何をすればいいのか分からないという者も。
…奴らのような放漫な者も決して少なくない。」
「なら…!」
「だが。建前でも救済という言葉を使っている以上は無下には出来ん…というのが国の方針だ。何故なら、難民という言葉の根本が“弱者”であるからだ。
処罰するにも処罰に値する過程が必要であり、今はその時ではない。」
「町の皆が困っている事は理由にならないんですか?
あいつらがここで暮らし始めてからまだ一月程度しか経ってないですけど…迷惑しか掛けてないじゃないですか…。
俺は、今すぐにでもあいつらを追い出して欲しいと思ってます。」
「レナード…。」
あの日の女の人が頭に過った。
俺や巡回している兵が間に合わなかったら、周りも気付かなかったら、あの女は強姦されていたかも知れない。
それだけじゃなくて、誰かが怪我をするだけじゃなく死ぬかも知れない。
なら、大変な事が起こる前にここからいなくなって欲しいと思った。
ここからあいつらを追い出して欲しいと思っている事をクライス侯爵に伝えてみたけれど、侯爵は左右に首を振った。
「レナード。お前の気持ちも良く分かる。
ここがお前の故郷であるように、俺の故郷で俺の治める地だ。領民は皆守るべき存在だ。
俺とて民の苦しむ姿は見たくない。取り返しのつかない事が起こる前に追い出せというお前の言葉も尤もだ。」
「なら…」
「だがな、レナード。
この地から追いやったとしても、他の地で同じ事が起こるだろう。
そして恐らく、他の所であれば尚、奴らの蛮行は酷くなるはず。
領主という立場にいる人間も様々だ。
皆が皆、厳しい目で見るとは限らない。分かるか、レナード。」
頭の良くない俺でも今の話は流石に理解出来た。
ここから追い出しても、絶対に他の所で同じ事をする。
クライス侯爵が領地を正しく治めようとしてくれる領主な分、ここはとても恵まれているけれど、そうでない所は沢山ある。
多くの貴族は平民の事なんて気にしちゃいない。
自分たちさえ良ければ平民がどうなろうと構わない、そんな貴族もいる。
クライス侯爵と行動を共にしている内、そういう貴族を何人も見た。
そんな貴族たちが治める領地にもし、あいつらが行ったとしたら…。
ここではクライス侯爵や俺たちが目を光らせているけれど、それがない分枷が外れて何をするか分からない。
その場で取り押さえる事が出来たらいいけど、そうでなければまた別の場所に逃げて、繰り返し問題を起こすだろう。
クライス侯爵は罰を下すなら徹底的にと考えているんだ。
ただ追い出すだけじゃなく、どうしようもないと判断したその時には厳しい罰を。
「俺はクライス侯爵領の領主だ。
だが、同時に国を守る貴族の一人で、サイカの父だ。
この地だけを守れば良いという訳ではない。
ああいう輩を放っておくという事はその分国の犯罪率を上げてしまう事になる。
犯罪が増えれば当然、国母となったサイカにも何かしらの負担が掛かるだろう。」
「あ…、」
「只でさえ大変な立場にいるんだ。
貴族としてもだが、一人の親として…ここで摘める芽は摘んでおきたい。
いいか。過程を積み重ねていく事でまた結果が変わってくるんだ。
大義名分のない戦はただの殺戮になる。
厳しく罰するには、まだ理由が弱い。」
「…なら、数が集まれば…。
小さな事でも沢山の数が集まれば…厳しい罰を与えられるんですよね…?」
「その通り。集まるにはまだ時間が必要だろう。取り返しのつかない事が起こらないよう目を光らせておく労力もだ。」
「この話を他の者たちに伝えても宜しいでしょうか。」
「構わん。但し、気付かれんように気を配る必要はある。」
「ならば問題ありません。
暫くの間は犯罪が起こる前に対処すべく少しばかり町に人員を増やし、厳しい罰という結果を下せるよう過程を集めたいと思います。」
シグルドの言葉に、クライス侯爵は“大変宜しい”と頷いた後、まだ別の話があると笑顔を見せた。
「実はな。今年は別荘で一月、休暇を取ろうと思っている。
大きな川と湖がある西の別荘だ。今年はルイーザや子供たちがいるからな。何処かに連れて行ってやりたいと思っていたんだ。」
「きっと喜ばれましょう。」
「え…でも、大丈夫なんですか?」
「ベンジャミン、寧ろその方がいいんだよ。
何かしないかって俺たちに見られてるのは分かってると思うんだ、あいつらも。
気を付けないといけないのは自分たちに重い罰が下るかも知れないって警戒される事だから、侯爵様と一緒に俺たちも屋敷を離れるのは警戒心を下げるって意味で丁度いいと思う。」
「なるほど~!ジェイクって意外に頭いいよね!」
「…それ褒めてる…?」
「何名程同行致しましょうか。」
「西の別荘にある宿舎は大きいから大人数で行っても問題ないだろう。過程を集める為の人手と屋敷の警護も必要…と考えると四十程か。二十ずつ交互に休憩を取るなりしてお前たちも気分転換をするといい。」
「気分転換…!」
「うおお…!ありがてえ!!」
「そ、それって!別荘にはお嬢様も来られるんですか!?」
『!!!』
「…レナード……お前という奴は…。
先程までの真面目なお前は何処に行ったんだ。申し訳御座いません、侯爵様…。」
「ははは!シグルド、構わん。
喜べレナード。流石に一月は無理だが十日程度であれば予定を空けると返事があったぞ。」
「いやったああああああああ!!
神に感謝ーーーーーー!!!」
「これ誰が行くかで絶対揉めるやつ。
…絶対下痢にならないように気を付けなきゃ。」
「よっしゃあ!!俺たちは同行決定だな!」
「わあ…わああ…!久しぶりにお嬢様に会えるんだ…!」
「…俺もレナードの事を悪く言えないな…。」
サイカお嬢様に会える!!
それだけでここ最近の鬱々だとか苛々が一気に吹っ飛んだ。
お嬢様!お嬢様に会える!お嬢様に会えるーー!!もう限界だったんだ。色々本当に限界だったんだ俺は!!
新聞に載っている姿絵を切り抜いてお嬢様不足をどうにかしようとしたけど姿絵は動いたりしないんだ。俺の名前を呼んでくれたり表情が変わる事もないんだ。それに姿絵より実物の方が何倍も美しいし可愛い。
俺は!動いている!お嬢様を!見たい!!
そりゃ妄想の中のお嬢様は動くし色んな表情を見せてくれるけど。
本物!の!お嬢様が!一番に!決まってる!!
自給自足も楽じゃないんだ。自給自足じゃ足りないんだ。
現物の!お嬢様を!寄越してくれ!!
「まあ、漏れなくマティアスも着いてくるだろうが。」
「陛下が一緒でもいい!陛下と一緒にいるサイカお嬢様は可愛いの権化!!
照れてるサイカお嬢様は最高に可愛い!!大好きっ!!」
「何を言う。サイカは俺と一緒にいる時が一番可愛いに決まっているだろうが。」
「侯爵様と一緒にいるお嬢様は最早尊いの化身!!大好きっ!!」
「そうだろうそうだろう。」
サイカお嬢様に会えるというとんでもないご褒美にテンションがぶち上がったその翌日、休暇に同行する残り三十五人を決める為男たちの熱い戦いがあった。
何も言わなくとも俺たちの表情を見てサイカお嬢様が来る事を察したのだろう。
そして当然のように…運命の女神に微笑まれた俺たち五人と同行が決まった三十五人は留守番組から毎度お馴染み『腹下せ』と負け惜しみの呪いを吐かれる事となる。
俺はもう楽しみで楽しみで仕方なかった。
問題児たちの態度が悪かろうと舐められていようと心は毎日穏やか。自然と笑顔になっちゃう。
しかし。
うきうきだった俺を怒り狂わせた事件が起こる。
別荘へ向かう前日。
クライス侯爵の計らいで屋敷と周辺を警護する人間を残し、残りは休みとなった。
休みにした目的は留守番組への気遣いだったので留守番組と新人は全員休みで仕事をしているのは同行組。
俺とシグルド、それから数人の同行組は侯爵邸の料理長と使用人のリリアナさんを手伝う為町に来ていたんだ。
別荘に一月滞在するからには必要な物も多い。
現地で調達出来る物以外で必要な物を準備する作業は前々から進めていたけれど、それでもやっぱりギリギリで今日が最終調達。俺たちはその手伝い。まあ、荷物運びが仕事かな。
屋敷と近いこの町には巡回する兵だけじゃなく休みになった仲間たちも多くいて“レナードは当日下痢になっちまえ”と物騒な言葉を向けられる。
何で俺だけ!?といつものように返事をしていると、少し離れた所から見間違えるはずのない存在が目に入った。
「え。……え!?」
「何だ。どうしたレナー……お嬢様!?」
黒髪じゃなくて赤毛だし、素朴な服装をしているし遠目から見ても少しふっくらとしているけれど俺がお嬢様を見間違えるはずがない。
明らかに一人だけ美しく光輝いているのは間違いなくサイカお嬢様で、俺はお迎えが来たのかと本気で思った。変装?しているサイカお嬢様も可愛い。あれ変装してるんだよね?全然美しさが隠れてないですけど?
お嬢様のすぐ近くには確か専属侍女だったはず…の三人の女性と、周りには護衛と思わしき男たちがちらほらと。でも全員平民スタイルじゃないか。どゆこと?
食い入るようにお嬢様を見ていると見知った顔の男が俺に気づいた。
帝国騎士団の元精鋭部隊に所属していた騎士で、騎士団にサイカ様教を布教したのは自分と豪語する六人の信者の一人だ。
「レナード、久しぶりだな。」
「お久しぶり!…ねえ、お嬢様や皆さんのその格好何…?」
「変装だけど?」
「いや、見りゃ分かるから。理由を聞いてるんですけど。」
「ああ、クライス侯爵領に向かう際にいくつかの町や村を通るだろう?
折角だから視察しながら向かおうって妃殿下が仰ってな。
フルプレートを着た騎士…しかも結構な人数が村や町の中を歩くんだ。かなり仰々しだろ?」
「確かに。」
「妃殿下はなるべく皆が自然体で過ごしている所が見たい。…が、フルプレートを着た俺たちが護衛をしていると周りが警戒するし畏まってしまう。
じゃあフルプレートを脱いで変装しようって話になったんだ。そしたら何故か妃殿下も変装していた。」
「お嬢様の美しさと神々しさは変装してどうにかなるものじゃない。全く隠れてないよ。」
「知ってる。妃殿下は女神だぞ。変装くらいで隠れるもんか。
けどな…変装して楽しそうにしている妃殿下のお顔を見ると……ただ可愛いだけで忍んでいませんとは言えないだろう?」
「分かる。でもさ、いいの?
お嬢様は皇妃でしょ?」
「問題ない。陛下もお忍びで帝都へ行く事もある。クライス侯爵もあるだろ?」
「あー、あるね…ってあれ?陛下は一緒じゃないんだ…?」
「陛下は明日到着されるはずだ。
妃殿下は視察も兼ねているから陛下と一緒ではなく俺たちと先立って出発したんだ。」
「なるほど。…ああ…本物のお嬢様…超輝いてる…!あああやっぱりお嬢様は最高に美人…!!自然と手を合わせて拝みたくなるこの気持ち…まさに女神様…!!」
「分かる。俺も普段から自然と手が合わさっていつの間にか拝んでいる。」
「同士よ!!」
「共に女神を称えよう!!」
久しぶりのサイカお嬢様を目に焼き付けていると、俺に気付いたお嬢様が……お嬢様が女神の微笑みを…!!
「シグルド!レナード~!」
あああああ!?美人!!声も世界一可愛い!!
何あの輝く満面の笑顔…!嬉しそうな顔が超絶可愛い!!
俺たちに向かって子供のように大きく手を振るお嬢様が尊すぎる天に召されるレベルで可愛い何なのあの絶世の美女幸せすぎて死んでしまう寧ろ死んでない俺!?
「お嬢さ……!!」
お嬢様、と笑顔で手を振り返そうとしたその時だった。
“捕まえろ!!”と言う大きく切羽詰まったような巡回兵の声。
声のした方へゆっくりとお嬢様が振り向こうとしているその少し後ろに、走ってくる問題児たちの姿が見えた。
男たちは後ろにいる巡回兵の存在を気にしながら走っていた為、前を見ておらず、目の前にはお嬢様がという所まで迫っているのに気付いた護衛が男を六人取り押さえる…が、残る二人の男がそのまま勢いよくサイカお嬢様にぶつかった。
ガタイのいい男の体にぶつかったお嬢様の華奢な体が地面に打ち付けられ、そのまま倒れ込む。
「ああ、ああああ…!!」
倒れたまま動かないお嬢様の元へ駆ける。
抱き起こそうとした所で動かすな!と誰かの強い口調が飛び、意識のない様子のお嬢様を呼び続けた。
お嬢様の腕や足には地面で擦りむいた傷があって、見ているだけで痛々しい。
俺たちと一緒に来ていたリリアナさんがハンカチを、お嬢様の侍女の一人が近くの酒場から酒を持って来てお嬢様の手当てを始めると、意識が戻ったお嬢様が目を開けて心の底から安堵した。
「…ぅう……?」
「お嬢様…!お嬢様、私が分かりますか!?」
「……リリアナ…?」
「お嬢様、頭は痛くありませんか?吐き気はありますか?体に痛みはありますか?」
「…ん…?……えっと、…大丈…夫、……?」
「ああ…良かった…!お嬢様、直ぐお屋敷へ帰りましょう!きちんと手当てしませんと!」
「誰か!妃殿下を馬車へ運んで下さい!急いで!!」
すぐ近くにいた護衛の一人がお嬢様を抱き抱える。
護衛が向かう先にはお嬢様が乗って来た馬車があるんだろう。
小さくなるお嬢様を呆然として見送り、そして、護衛の騎士と大勢の仲間たちに囲まれ縮み上がった男たちの姿が目に映った瞬間、とんでもない怒りが沸き上がる。
あいつらが、お嬢様に怪我を。
俺の、俺たちの、大事な大事なお嬢様に。
「この糞野郎共が…ただで済むと思うなよ」
…いやぁ、もうね。自分でも止められなかったよね。俺って信者たちの中でも割りと温厚な方だと自分では思ってたんだけど実は過激派だったんだって知ったよね。仕方ないよ、うん。
“レナード、そろそろ止まれ”とシグルドの声に気付いた時にはリーダーの男がボコボコになっていた。
シグルドを見ればいい笑顔。シグルド自身も握った拳に血が付着してて、地面に転がるリーダー以外の七人もボッコボコだった。やだ過激派。
だけど、それでも腹の底から沸いて出る怒りは治まっていない。
当然だよ。だって、こいつらは俺たちが愛してやまないサイカお嬢様に怪我を負わせたんだから。
痛みで顔を歪め涙を流す男たちを見下ろして、俺は問題児たちのリーダーの前に腰を落とす。
「なあ、お前らさ、誰に怪我させてんのか分かってんの?
うちの大事なサイカお嬢様を傷付けて、一体どういうつもりなわけ?殺すぞ。」
『ヒイッ!!!』
「お前らが俺たちを舐めくさってんのはいいよ。別にどうだっていい。勝手にしろって感じだけどさ。でもサイカお嬢様に手を出すってんなら話は別なんだよ。分かる?お前らは手を出しちゃいけないもんに手を出したわけ。俺たちはさ、サイカお嬢様が大切なの。サイカお嬢様が好きで、大好きで、愛してんの。さっきお前らが怪我させた人、どんな人か知ってる?クライス侯爵様の愛娘。侯爵様の愛娘がマティアス陛下に嫁がれたのは知ってるよね?知らないはずないよな?ここで暮らしてるんだもんな?お前らが怪我をさせたのは、この国で陛下と同じく尊い方だよ。」
「な…、」
「じ、じらながっだんだ!よ、よぐ、見でなぐて、さ、さっぎの、女が、」
「“さっきの女”だあ?口の聞き方には気を付けろよ糞野郎共が。知らなかったじゃ済まねぇんだよ。全部自業自得だっつーの馬鹿かよ。ああ、態度だけは一丁前の馬鹿だったわごめんごめん。
お前らは俺たちを舐めてるくらいだからさぞ強いはずなんだよな?だから注意されても反省しなかったんだよな?散々周りに迷惑かけても態度を改めないくらいには実力があるって自信があったんだよな?なのに、ねえ、何でお前、俺に傷一つ付けれてないわけ?ねえ。」
男たちは手足を縛られている訳じゃない。
朧気にしか思い出せないけど、確かに殴り返そうとしていたし、抵抗してた。
その抵抗も全部俺に止められるくらい、目の前の男は弱いって事だ。
「糞弱じゃん。その程度なのに何で粋がってたわけ?その程度であの態度だったわけ?お前ら全員兵士の素質ねぇよ。まあ、あったとしてももう終わりなんだけどな。だってお嬢様に手を出したんだから。お前らが悪いんだよ?分かる?お前らが馬鹿にしてるクライス侯爵様は優しいだけのお方じゃねえの。ぜぇんぶ、自業自得ってやつ。」
リーダー男の前髪を付かんでにっこり笑ってやれば、男は白目を向いて気絶した。
全然怒りは治まらないけど、厳しい罰を下すのは俺たちじゃなく侯爵。
俺たちは男たちを引きずりながら屋敷へ戻った。
勿論侯爵は激怒。当然だよね。
お嬢様の怪我は軽い打ち身と擦り傷だけだったけど、とんでもない。お嬢様の怪我はどんな怪我であろうと、俺たちにとっては大怪我だ。
レスト帝国の国母であるサイカお嬢様に怪我を負わせた罪は相当重い。
奴らがどうなったかは、説明しなくとも分かるだろう。
それより大変だったのは…サイカお嬢様の護衛に付いていた彼らの方だった。
お嬢様を同じく愛してやまない彼ら信者は自分たちがお嬢様の身を守れず怪我を負わせた責任をいたく感じている様子で…その落ち込み様は酷かった。
お嬢様が手当ての後に眠った後、彼らは陛下を待った。
陛下に、自分たちへの罰を下してもらう為に。
翌日、先触れで事の顛末を聞いていたのか焦った様子の陛下がクライス邸へ駆け込み、誰と話す事もなくお嬢様の部屋へ向かわれた。
暫くして一人で現れた陛下を前に護衛の騎士たちは頭を垂れた。既に覚悟を決めた顔で。
“全員頭を上げよ。此度の件を聞こう”と言う陛下。
二十人いる護衛騎士の内、隊を任されているトップ二人が詳細を述べる。
隊長は俺と話した彼だった。
「陛下っ!我々は妃殿下をお守り出来ず怪我をさせてしまいました…!既に覚悟は出来ております。責任は、我々の死をもって償う所存です…!!」
「申し訳御座いませんっ…!命に替えてもお守りすると誓ったにも関わらずこの体たらく…!死んでも償い切れません…!
陛下!我々にどうか、自害をお命じ下さい…!」
護衛騎士たちの気持ちは痛い程よく理解出来た。
俺だって同じ立場なら死にたくなる。
サイカお嬢様を守れなかった。悔しくて悔しくて不甲斐なくて、お嬢様に申し訳なくて仕方ないだろう。
沙汰を待つ騎士たちに対し、陛下が口を開いた。
「俺が沙汰を下す訳にはいかん。
何故なら、そなたたちは帝国騎士であるが我が妃が所有する騎士団の者たちだからだ。
故に罰を下すのは俺ではなく、妃となる。」
『!!』
「それに、だ。サイカは此度の休暇をとても楽しみにしている事をそなたらも知っているだろう?」
「はっ。」
「であれば、休暇が終わるまでの間は妃が思い悩む真似は控えよ。
妃の休暇が終わるまで、沙汰を待つくらいは出来よう?」
「…っ、…畏まりましたっ…!」
詰まったような声だった。
怪我を負わせてしまっただけでなく、自分たちのせいで楽しみにしていた休暇を台無しにしてしまっていたかも知れないと、彼らは深く反省しているのだと思った。
けど、これでこの件は一旦終わり…になるかと思っ所で、サイカお嬢様が現れた。
騎士たちは上げていた頭を再び下げる。
お嬢様は部屋を出て話を聞いていたみたいで、陛下の隣に立つと“頭を上げて”と言った。
「私は、貴方たちに罰を下す気はありません。私がこの程度の怪我で済んだのも、貴方たちのお陰です。」
お嬢様は優しい。だけど、騎士たちに責任がないという事はなくて、やっぱり彼らは何かしらの責任、罰を受けなくてはいけない。
それが、道理だから。
「けれど、それではいけない事も勿論理解しています。
死んで責任を取る…というのは、自分の職務を放棄する事と同じだと、私は思っています。
貴方たちが私に対し、真実責任を感じているのだとしたら…最後まで、職務を全うして欲しい。」
『!!!』
「勿論、大きな責任を取らないと収まらない事もあると思う。だけどこの件で貴方たちが感じている責任は怪我をした私に対してで、罰を下す権利は私にあるんですよね?
罰を与えなければならないとしたら、全員私の休暇が終わった後、一ヶ月の謹慎を申し付けます。
謹慎が解けた時はまた、私を守って下さい。」
「サイカ、それで良いのか?」
「うん。私は、私の騎士たちを手放したくない。私を思って、守ってくれる優秀な騎士たちがこれからも必要なの。
私をよく思っていない人は当然いるでしょう?私にはまだまだ味方が必要だし、それに一番の理由は安心するから。」
「安心?」
「私の騎士たちが私の側にいるから、私は安心して外に出て沢山の人と触れ合えるし、暮らしを見て色々と知る事が出来る。
今回の事だって、不意に起こる出来事はこれからだって沢山あるはずだから、次また同じ事が起こった際どうすべきか考えるいい教訓になると思うの。私はそうやって学んだ事があるから。失敗して学んだ事が沢山あるから。」
サイカお嬢様は自分の護衛騎士たちににこりと笑い、隊を纏める彼の手を握った。
「私には貴方たちが必要なんです。
貴方たちがいるから、私は安心してお城の…自分の部屋から出る事が出来る。
それは他の騎士たちじゃ駄目なんです。
話をしたり、一緒に行動したり。その中で育んだ信頼があって、どんなに優秀だとしても知らない人に心から安心する事は出来ない。
信頼は直ぐに芽生えるものじゃなくて、人と接する日々の中で大きくなっていくものだから。」
「妃殿下…」
「優秀で、信頼もあるから安心出来る。貴方たちは私にとって、手放したくない騎士たち。
どうか謹慎が解けたあかつきには…再び、私の騎士として、その職務を全うして欲しい。」
「…っ、…ふ、……この、上ないっ、…この上ない喜びに御座います…!
この度の事から多くを学び、同じ事が起こらないようっ…必ず、御身を、お守り致しますっ…!」
「はい。これからも宜しくね。」
サイカお嬢様の言葉に、護衛騎士たちは涙を流していた。感極まった嬉し涙だ。分かる。俺も泣くっていうか既に泣いてる。鼻水まで出てる。
あああああああ、もおおおおおお嬢様ああああああったらああああああっ!!この人たらし!!流石は女神なサイカお嬢様だよっ!あんな嬉しい事言われてそれでも死なせてくれなんて言ったら男が廃るわ!!そんな奴いたら俺がシバく!!ううう、お嬢様が女神過ぎて尊いよ…涙が止まらない。鼻水も止まらない…!護衛騎士たち羨まし過ぎる腹下せばいいのに俺もお嬢様に“私の騎士”って言われたいいいいいぃぎいい嫉妬…!!
「マティアス、この件は終わりでいいですよね?」
「そうだな。一月の謹慎は罰としては随分甘いが…怪我を負ったそなた自身が下した沙汰だ。最早俺から言う事はない。」
そして、お嬢様がいるうっきうきパラダイスな数日間が始まる…!!
53
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる