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175 可愛い夫は新婚生活を満喫する

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腕の中で動く気配がして、条件反射で目を開ける。
“んんぅ”と小さく身じろぎするのは大好きな女性ひと、昨日俺の奥さんになったばかりの可愛いひと
情事の熱がすっかり消えてしまった為肌寒さを感じたのだろう…ぴたりと俺にくっつき暖を取る俺の奥さんの可愛いこと。
肌寒さを感じさせて可哀想だと思ったけれど…足元にあるシーツを戻そうとは思わなかった。
寝ているのに俺に擦り寄るサイカが、あんまりにも可愛くて。

「…寒い…?」

「……んぅ…」

「ごめんね。でも、可愛い…。」

シーツの代わりに俺が暖めるねと、ぎゅっとサイカを抱え込む。
まだまだ目を開ける気配のないサイカ。
結婚出来た事が、夫婦になった事がすごく嬉しくて、幸せで幸せで幸せすぎて、少し…ううん、だいぶ手加減出来なかった初夜は夜もすっかり更け、そして薄暗くなった少し前まで営まれていた。
その証拠にサイカの中にはまだ俺のモノが入っているし、出した子種でどろどろ。少しも乾いていない。
疲れ果てて眠ったサイカは気を失ってもまた意識を取り戻して、健気に限界がくるまで俺に付き合ってくれた。
陰茎の感覚が鈍くなろうと、子種を出すまでの間隔が長くなろうとサイカの中はずっと気持ち良かった。
快楽が脳に、神経にまとわり付いて、サイカの全部が気持ちよくて、時々切なくて、そしてとても幸せな気持ちになる。
何度体を重ねようと、それは初体験の時から変わらない。
何度体を重ねてもとても嬉しくて幸せで、サイカが相手だと何度愛し合っても足りない。
…尤も、サイカ以外の女なんて今まで知らないし、これからだって知ろうとも、知りたいとも思わないけれど。

「……幸せだな…」

初めて会った時はこんな女性ひとがいるのかと信じられなくて戸惑って、会話っていう会話さえ出来なくて、一生懸命話してくれているのに無視し続けた態度になってしまってサイカを困らせた。
そんな失礼な態度だったにも関わらず一つだって俺を責める事のなかったサイカ。
初めて会ったをサイカは知ろうとしてくれたのが分かった時から、ぽつぽつと温かい何かが胸に広がって、それが、“喜び”だと知った。
初めてのセックスは緊張したけれど、嬉しくて、頭も体も溶けてしまうかも知れないと思うくらいすごく気持ちが良くて、とてもとても幸せなものだった。
サイカを買うたび“嬉しい”と“楽しい”と“幸せ”が積もっていく。
だけど俺以外の男がサイカを買って、同じように嬉しくて楽しい、幸せな時間を過ごしていると思うと苦しくて悲しくて、同時に怒りがサイカを買う、顔も知らない男へ向かう。それを“嫉妬”というのだと、この時明確に知った。
それは疎まれる自分と違って家の誰からも愛され、友人も多いアレクを羨ましいと思う気持ちとはまた違った、激しい…とても激しい感情だった。
“俺以外の誰もサイカを買わないで”
“俺以外の誰も相手にしないで”
“俺のサイカなのに”
“俺だけのサイカであってほしい”
軋むように心が叫んでいた激しい感情と付き合っていくのは簡単な事じゃなくて、サイカの相手が陛下も含まれているかも知れないと感じた時は軽く絶望した。
だって相手は皇帝陛下だ。俺と同じく“醜い容姿”ではあるものの、誰よりも権力があって、財力もある。貴族と言えど、騎士団の副団長と言えど、そんなもの陛下の前では些細な事で、陛下の意思一つで俺とサイカの縁は切れてしまう。
やっと、やっと楽しみを、喜びを、幸せの意味を見つけられたのに。
どうしても、サイカを失うのは嫌だった。
どうすればサイカを失わずに済むのか、どうにかしてサイカの側にいられるようにしなければ。
例え陛下にサイカと会うなと言われようと、縁を切れと言われても、諦める事なんて出来ないくらいにサイカへの気持ちは育っていた。
そんな時に起こったのがファニーニが起こしたあの事件。
サイカを傷つけるという到底許せない事件は、俺にとってのチャンスでもあった。
もしも、あの時に何もせずただサイカの無事ばかりを祈っていたら、きっと俺とサイカの縁は本当に切れてしまっていた。
“それまでの男”だと、サイカの側にいる事を許されない存在になっていた。
一つの苦と、難を乗り越えて、俺はサイカと恋人になれた。
娼婦とただの客じゃない、恋人同士という新たな関係。
まだおおやけには言えない秘密の関係だったけれど、それでも嬉しくて幸せで仕方なかった。
プロポーズを受け入れてくれた時は天にも昇る気持ちだった。
また一つ苦と難を乗り越えて、俺とサイカは恋人から婚約者になった。
漸くここまで来たんだと、周りに隠していたサイカとの関係が、これからは堂々と、誰の目も気にせず誰を気にする必要もなくサイカといられると思うと達成感も喜びもひとしおだった。
今までもサイカが俺を幸せにしてくれた。
これからだってサイカがいれば俺はすごく幸せだ。
今だって、ただ寝ているサイカを見ているだけでこんなにも幸せ。
サイカが腕の中にいるだけで、こんなにもこんなにも幸せだ。

だけど俺は知らなかった。
“新婚期間”というものは、先にサイカと結婚した皆から自慢のように聞かされて何度も羨ましいと思っていたよりもっともっと、うんと幸せいっぱいなものだったんだ。



「…うう……何の羞恥プレイなのこれ…」

「…サイカ、可愛い…!」

結婚式を挙げた翌日、新婚初日の朝…いや、お昼前。
新妻になったサイカは俺の我が儘を聞いてくれた。
“お願いがあるんだけど、聞いてくれる?”と少し眉を下げてサイカに言えば、“私に出来る事なら何でもいいよ”と快く返事をしてくれた。
陛下の時は毎晩サイカと一緒に寝ているって事が羨ましいと思った。
お互いに皇帝と皇后としての役割や仕事があって、公私共にいられる事が羨ましくて堪らなかった。
リュカの時はサイカが甘えてくれるっていうのが羨ましかった。
恥ずかしがり屋で遠慮しがちなサイカが、リュカの仕事中でも甘えてくれると聞いてどんなご褒美だと思った。
ヴァレリアの時は俺たちがいても、サイカが誰よりも一番にヴァレリアを優先している事が羨ましかった。
ヴァレリアも堂々と見せつけるようにサイカを自分の奥さんとして扱っているのが本当に羨ましかった。
俺の番はどうしようか。俺の奥さんになったサイカとどんな風に過ごそうか。
したい事が沢山ありすぎて楽しみで仕方なかった夫婦生活。
嗚呼、新婚ってほんと、聞いてた以上にすごい幸せ。

「…カイル、これ…恥ずかしいよ…。」

「…だめ?俺以外、誰も見ないよ?」

「…いや、身支度してくれる侍女を含んでないよねそれ…。」

「彼女たちは、サイカのお世話をするのが仕事、だから。
俺とサイカが、セックスした後の、シーツとか、色々片付けてるのも、使用人たちで「あああああ!」むぐっ」

真っ赤になったサイカが俺の口を小さい両手で塞ぐ。
いつもサイカは可愛いけれど、俺の奥さんになったサイカはいっぱい可愛い。
今日サイカが着ているものは胸元が大きく開いて華奢な肩が出ていて、丈も膝上までしかない可愛いドレス。
いつだったか…あれはサイカがまだクライス侯爵家で過ごしていて…そうそう、陛下との結婚式が近付いてた時の事だ。
示し合わせた訳じゃなかったけれど、皆の都合が合って四人でサイカに会いに行ってみれば…サイカが可愛い猫ちゃんになってた。
ふわふわの猫ちゃんの耳を頭につけたサイカの可愛さったら……あれは衝撃の可愛さだったって今でも昨日の事みたいに覚えてる。
夫婦生活はどんな風に過ごそうかな、と沢山あるしたい事を思い浮かべていた時、可愛いサイカを沢山見たい気持ちが強く浮かんで…それから、俺はこつこつ空いた時間を見つけてサイカに似合いそうな“衣装”を沢山作った。
だってサイカが着れるサイズは既製品としては売ってないし。
誰に聞かなくても、俺がサイカに着て欲しいものを思い浮かべれば沢山出てきた。
あの猫ちゃんなサイカも可愛かった。もう一度見たい。
兎ちゃんなサイカも犬さんのサイカも熊さんなサイカも絶対に可愛いに違いないし、動物じゃない可愛いサイカも綺麗なサイカも当然、俄然見たい。
じゃあ全部見ればいいじゃないか、と思った。
だってリュカから聞いたんだ。世間一般には“新婚の心得”っていう新婚夫婦の常識があるって。
夫婦は長く離れてはならない、思いっきりいちゃいちゃする、人目を気にする事なく妻は夫に甘える。
心得のどれもが先の夫婦生活を円満にするものらしいと聞いた。
知らなかった。そんな素敵な心得があるなんて。
あの時知れて良かったと心から思った。
つまり、可愛い姿をした可愛い可愛い俺の奥さんなサイカを見ることは、即ち旦那さんである俺がすごく喜ぶわけで…これは絶対に夫婦円満に繋がる事は間違いない。
だってもう既に、サイカが可愛すぎてすごく幸せ。

「…だめなの…?」

「…ぅ…」

「サイカ、俺のお願い…“私に出来る事ならなんでもいいよ”って、言ってくれたから…」

「うぅ……言った…。」

「…それ、イヤ…?…サイカがイヤなら、俺、無理強いは…したくない、から、」

「……い、嫌…じゃない、嫌じゃないよ、恥ずかしいだけで、カイルが喜んでるの、嬉しいから、い、嫌じゃない…よ?」

「!ほんと…!?」

サイカは優しい。とってもとっても優しくて、可愛い。
俺がしゅんとすると優しいサイカは俺を甘やかしてくれる。
それに気付いたのはもう隨分と前の事。
俺はサイカより年上だけど、サイカが俺を“可愛い”って思ってくれているのを知っている。
そんな弱みにつけ込む俺はきっと悪い男だけど、でもサイカが関わってるなら悪い男で全然いい。
大好きなサイカが関わってるなら、遠慮なんてする方が馬鹿だ。
遠慮なんてしたらサイカのこんな可愛い姿は見れないし。
それに、サイカは優しいけど、本当に嫌な事はきちんと伝えてくれるから、俺の我が儘をサイカが聞いてくれるって事は、本当に嫌な訳じゃないって事も知ってるんだ。恥ずかしいのは本心であっても。

「…こっち、来て。俺の膝、座って。」

照れたままとことことソファーに座る俺の前まで来て、そのまますとんと背を向けて膝の上に座るサイカ。
胸元が大きく空いたドレスはサイカの綺麗な背中もよく見える。
布の面積が少ないドレスはまるで下着みたいで最高。可愛い。
背中もずっと見ていられるけどやっぱりサイカの顔が見たいから、抱えて向き合うようにして座らせる。
背中じゃなく、今度は胸の谷間が見えた。
俺がつけた赤紫色の跡も沢山よく見えて、とってもいい。
未だ恥ずかしそうにして俺から視線を反らせているサイカもすごく可愛いけど、目を合わせてもらえないのはちょっぴり寂しいな。

「…サイカ、…恥ずかしいの、ごめんね。
俺のこと、嫌いになっちゃった…?」

「!!な、なるわけないよ…!」

「…だって、目…合わせてくれない…。
俺、猫ちゃんのサイカ、すごくすごく可愛かったから、…いっぱい、可愛いサイカが、見たくなって……俺、しか知らない、サイカ、見たくて…。」

「~~~!うぅうう……!」

あともう一押し。
俺を可愛いって思ってるサイカは、俺の弱々しい姿に滅法弱い。
だったら俺は自分の使える武器は何だって使う。今までもこれからも。
だって、もっと幸せになるって決めたから。
サイカとのとっても幸せな初夜を迎えながら、これからだって自分の気持ちのまま、遠慮せず幸せを求めていくって決めたから。

「…我が儘言って、ごめんなさい…。
……嫌いに、ならないでね…?」

弱々しい俺でそう言えば、サイカは力いっぱい抱きしめてくれた。…抱きついた、とも言えるけど。
ぎゅうぎゅうと俺からしたら隨分可愛らしい力で抱きしめて、“カイルが喜ぶならこのくらい全然、いつだってするよ”と望み通りの言葉まで言ってくれた。

「…ほんと…?…じゃあ、じゃあ、遠慮、しなくていい…?俺、サイカとしたい事、して欲しい事、いっぱい…あって、それも、…遠慮、しなくて…いいの…?」

「夫婦なんだから!いいに決まってるよぉ…!」

ああもう、嬉しい、幸せ。最高。
サイカの言質も取れたから…今日の夜は、あの時みたいに“可愛い猫ちゃん”になってもらおう。
サイカの為だけに作った“衣装”はまだ沢山あるから明日は何を着てもらおうか逆に悩んじゃうな。
ああでも、今は今だ。今はこの可愛い格好をしてくれたサイカと夫婦の時間を過ごさなくちゃ、勿体ない。
仕事もない、何の予定もない新婚休暇はたったの七日しか取れなかったんだから。短い七日間の、ううん、サイカが俺の奥さんとして一緒にいられる一瞬一瞬を楽しんで、満喫しなくちゃ勿体ない。
俺の番が終わって、また俺の番に回ってくるまで…サイカと夫婦になってもままならない事はこれからだって沢山あるんだから。

「うう…カイル可愛い…。
年上だって分かってるけど本当に年上なのか混乱するくらい可愛い…!」

「…かっこいい…の方が、いいけど…サイカになら、可愛いって言われるのも、どっちも、嬉しいよ。」

「…そのにこにこの笑顔が可愛い…尊い…。」

ぎゅっと抱きついたままのサイカがよしよしと俺の後頭部を撫でる。
甘やかすのも甘えるのもサイカならどっちも好き。
リュカは多分、男なのに情けないぞって言いそうだけど、甘やかしてくれるサイカとの、こんな幸せな瞬間を逃している方が勿体ない。
男としての自尊心は勿論大切だけど、俺はこういう時まで必要だとは思わない。
サイカの可愛いは、俺の特別だ。
こうしてサイカが頻繁に甘やかしてくれるのはきっと俺だけ。
こんな幸せな時間を逃しているなんて、皆勿体ない事するな…と思う。敢えて言ったりはしないけど。

「…はぁ……幸せだ…」

「ふふ、なら良かった。」

「…サイカ。…キス、して…?」

「…もう、仕方ないなぁ。」

ちゅう、と可愛らしいキス。
可愛いサイカが、特別可愛い格好をして俺の膝の上にいて、キスもしてくれている。なんて幸せだろう。
薄い生地で作られた面積の少ないドレスはサイカの華奢だけど柔らかい体を感じる事が出来る。
普段着ているドレスよりずっと。そういう風に作ってもらった。
下着みたいなそれは一つだけ、スカートの中に沢山ひらひらがある事だけを除けば文句一つない。
ひらひらはスカートにボリュームを出す為だって作ってくれた店の人が言ってたけど、正直ボリュームは求めてなかった。
でもサンプルを見て、ふわふわを着たサイカも見たいって欲が出てそのまま何も言わなかったんだけど……ひらひらいっぱいでふわふわスカートを着たサイカもやっぱりすごく可愛い。
それに普段着ているドレスだったら俺の膝の上に座るだけで太腿が見える事もないし、触れるのだって邪魔な布を掻き分けなくちゃいけない。
その点を考えるとこのドレスを作ってもらって本当に良かった。
ちらっと目を向ければ綺麗な鎖骨、華奢な肩と腕、ふわふわな胸と太腿が見える。目にも心にも嬉しい。これはとってもいいものだ。最高。
何処かの国では貴族の女性は厳粛や貞淑が求められていて、皆が皆首まであるきっちりとしたドレスを着ている国もあるって聞いた事がある。
それはそれで良さがあるし、サイカが着ているなら何だって良いんだけど…でもやっぱり、俺としては大好きなサイカの肌が見たい。付け加えるなら、他の男は見えないでいて欲しいだけで。

「…ひゃっ!カイル…!?」

だって、こんなにも可愛くて、綺麗でいやらしいのだから。
薄い布は大好きなサイカの柔肌を感じられるし、軽く指で引っ掛けただけでぷるんと可愛い胸が姿を現してくれる。
邪魔な布を掻き分けなくてもすぐ、すべすべでぷにっとしたサイカの太腿に触れられる。

「……サイカ、…俺、したくなっちゃった…。」

「し、したく、なっちゃった、って、」

「だめ?」

「……、」

「ねえ、だめ…?」

「はぅっ…!」

ちゅ、ちゅと子供みたいな可愛いキスをした後に小首を傾げて訪ねたら、顔を赤くしたサイカが遠慮がちにそっと抱き着いた。これはいいよって合図。可愛い。
ソファーに座ったままたっぷりと可愛い格好をした可愛い俺の奥さんサイカを堪能したらあっという間に時間が過ぎてしまった。


「サイカ、お口あけて?あーん。」

「…あー………。」

「ほら、もぐもぐ。…美味しい?」

「…うん、美味しい…。」

掠れた声。俺の膝の上で凭れ掛かってぐったりしているサイカを甲斐甲斐しくお世話するのも楽しい。
されるがまま。口を開いてと言えば素直に口を開き俺に餌付けされているサイカはまるで小動物みたいで可愛い。
疲れていても美味しいものを食べればふにゃりと目尻を下げるサイカがすごくすごく可愛い。大好き。

「…お水、飲める?」

「ん…」

水の入ったグラスを口に近付けるとこくりとサイカの喉が動く。
口の端からつぅ、と垂れた水が目に入って、むらっとしたけれど我慢我慢。
少しでも元気になってもらわないと。だって夜はまだこれからなんだから。

「…まだ動けなさそうだから、お風呂、一緒に入ろ…?俺、洗ってあげる。」

ぴくりと反応するサイカも可愛い。
少し前までの時間を思い出しているのか、恥ずかしそうにじっと俺を見るサイカもとっても可愛い。
大丈夫。のぼせるといけないから洗うだけだよって伝えたら潤んだ目でじっと見られたけど、洗うだけなのは決して嘘じゃない。
だってお風呂から出たら猫ちゃんなサイカが見れるから。
本当に本当に可愛かった。可愛すぎてどうにかなりそうなくらい可愛かった。今からとても楽しみ。

二人きりでの夕食を食べ終えたらサイカを横抱きにして足取り軽く浴室へ向かう。
伝えた通り、お風呂ではサイカの体を洗うだけにした。
湯船にゆっくり浸かった後、俺は自分で着替え、侍女に身支度を整えてもらっているサイカを観察しながら待つ。
香油は付けないでと命じた。香油なんかの匂いでサイカの匂いが消えてしまうのは勿体ない。
二人の侍女によって着々とサイカの支度が整っていく。
透けた生地のネグリジェからサイカの素肌が見えているのが何ともいやらしい。
侍女はサイカにガウンを羽織らせた後、“整いました”と言って下がった。
身支度を整えてもらっている間、サイカは俺と目を合わせまいと必死な様子だった。
視線が迷子のようにあちこちに動いて、でも顔は真っ赤になっていて、そんな所もただ可愛く見えるだけなのに…と思わず笑ってしまった。

「…行こう、サイカ。」

「…は、はい、」

これからまた、俺に抱かれるってサイカは気付いてる。
ちゅ、ちゅと顔中にキスをしながら寝室に戻れば、食べ終えた食器も綺麗に片付けられ、きちんと整えられたベッドが目に入る。

「ごめんね、サイカ。…でも、俺、遠慮しなくて、いいんだよね?…俺の我が儘、聞いてくれるって、言ってくれたもんね?」

にっこり笑うと、サイカはちょっぴり涙目になって俺を見た。
結果を言うと、とっても最高だった。
猫ちゃんなサイカを見るのはこれで二回目だっていうのにやっぱり信じられないくらい可愛かった。
疲れた様子だったからなるべく無理させないようにしよう…なんて考えは猫ちゃんなサイカを見た瞬間に吹っ飛んで、我を忘れてサイカを抱いた。
涙を流しながら喘ぐサイカは本当に猫ちゃんみたいで、もう可愛くて可愛くて、めちゃくちゃにしたいくらい可愛くて、実際めちゃくちゃしてしまったので、ちょっと、反省。

「…ごめんなさい。」

「………、」

やっと一息付けたサイカは涙目でじっとりと俺を睨んでいる。
でもすごく怒っている訳じゃなくて、そんなサイカに無理させてごめんねという素直な気持ちがちょっぴりと、後は可愛いなぁという気持ちしか沸かなかった。

「サイカが可愛くて、可愛くて、大好きで、大好きで大好きで仕方なくて、止まらなかった…。
無理させて、ごめんなさい…。
旦那さんと奥さんになれたの、すごく、嬉しくて、俺、舞い上がった、今日も、ずっと。
…ごめんなさい。」

しょんぼりしながら伝えると、サイカのじっとり睨んでいたうるうるな目が仕方ないなという視線に変わる。

「…俺、多分、明日も舞い上がってる…から。
サイカと、夫婦になれたのが、嬉しくて、大好きなサイカが、俺の奥さんになったの、本当に嬉しくて。…だから、いっぱい…無理、させちゃうと、思う。…恥ずかしい思いも、させちゃうと、思う。
でも、大好きで、止まらなくて、…だって、どうしたらいいか、分からないくらい、サイカが可愛くて、大好きで、…愛してる…から。」

「うううぅ……ああ、…もう~~…!
……いいよ。カイルのする事、これからだって…全部許す。よっぽど酷い事以外は。
だって、私もカイルが大好きで愛してる。私だって、カイルと夫婦になれて嬉しいんだから。
私、カイルを幸せにするって言ったでしょう?
…それに。…し、新婚だしっ……し、新婚の夫婦がいちゃつくのは、…おかしい事じゃ、ない…でしょ…?」

どんどん小さくなるサイカの声。
照れて真っ赤になっているのに、伺うようにしながらも俺の目をじっと見て反らさない。
ああもう、本当にもう、なんで。
なんでこんなに可愛いんだろう、この人は。
何をしても可愛い。どんな事をしても可愛い。大好き。本当に大好き。

新婚って、本当に素敵なものだ。
とっても素晴らしいものだって、俺は改めて噛み締めた。
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