ノラの女

五味千里

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一話 異邦人

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 ちっぽけな飛行場に、不釣り合いなハイヒールの音がよく響く。エスカレーターもない階段だけの下り通路を抜けると、壊れて反応の悪い自動ドア、動くたびに荷物がぐらぐらと揺れるコンベアー。それはどこにでもある、つまらない田舎の象徴だった。
 全てのテンポが遅いか、不規則。全てがダサくて不恰好だ。ここにいたら、何者にもなれない。なれてもダサくてテンポの遅い田舎者。それが嫌だったから此処を出た。東京に呑まれて、ブランドと化粧の鎧を纏ったはずだった。

「おーい、香澄ぃ」
 
 到着ロビーを出ると、周りも気にせず父が大声をあげて手を振る。還暦過ぎた男がこうもはしゃぐなんて。キャリーケースをコロコロと運びながら、手だけ返した。多分、表情はキツい。父は「持とうか」とケースの取っ手に少し触れたが、私が「いい」と一言呟くと引っ込めた。
 この父親はいつもそうだ。娘の前だとやたらいい人ぶろうとするけど、その実、色んなところが回っていない。キャリーケース運ぶのなんて大した力いらないんだから、持つとしたら右のボストンバックのほうでしょうに。
 父が小さくなった身体をどこか忙しそうにするのを横目で見ながら、そのもう一方の端では急に眩しい光が私を襲った。飛行場から駐車場への道は日を遮る屋根さえまともに機能していない。ただでさえ強い日差しが丸裸でやってくる。東京とは違う日光。太陽ですら、ここの図々しさと気まぐれを引き継いでいるようだった。


「まあ、色々あったけんど、気にすることねぇよ。人にはよぉ、どっかでそういうもんがあんのよ」

 ワンボックスカーを運転しながら父は言った。通り過ぎる木々の影に揺られて、禿頭が白と黒に点滅している。車内には「異邦人」が流れているけれど、あのアラビアンな雰囲気とは似ても似つかない光景だった。
 
「車、新しく買ったの。中古?」

 父の変な慰めは無視する。どうせ彼らにはわからないことなんだから。わかった気になるくらいなら、ほっといてほしい。しかし、私のそういう思いとは裏腹に、父は車に気づいてもらって満足気な笑みをしていた。

「そう! よぉ気づいた。これはなぁ———」

  私はそっと心にイヤホンを挿して、「ふーん」と相槌を打った。タイミングはズレていたかもしれないけれど、それでもいい。
 島名物の海が窓越しに広々と現れて、無意識のうちに東京のビル群と比べている私がいた。
  やっぱり「異邦人」はいい選曲なのかもしれない。東京に染まった私は、ここではまさに「異邦人」だ。

 
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