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第十章 異世界召喚された僕、牢獄に入りました

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「ルチアーノ。さっぱり、話が見えてこぬのだが。ある人だの、そのような行為だの、一体何の話だ?」

 国王が、困り切った表情になる。すると、王妃が素早く答えた。

「国王陛下。この件は、後日にいたしませんこと? ルチアーノ殿下は、アントネッラさんを脅迫なさっているとしか思えません。彼女が、かわいそうですわ」

 禁呪を持ちかけたと暴露されてはまずいと思ったのだろう。だがアントネッラは、国王の前に進み出た。これ以上できないほど、深々と平伏する。

「国王陛下、申し訳ございません! 先ほど私は、嘘の証言をいたしました。フィリッポ様の証言が、真実です。ご子息のご遺体を、私は確かにこの目で見ました」

 ミケーレ二世は、眉をひそめた。

「何ゆえだ。誰の指示で、嘘の証言を? それに、セアン殿がここに居る以上、その遺体は誰のものだ」
「それは……」

 言っていいものか、判断しかねたのだろう。アントネッラの目が泳ぐ。ルチアーノは、そんな彼女の腕をそっと取ると、立ち上がらせた。

「怖いのであれば、無理に今言わずともよい。ただ、反省はするのだぞ。二十一年前も今も、そなたは誤った選択をした。そなたの目的は、わかっている。大切な人物を守るためだ。だが結果として、他の者を傷つけた。そんな真似をして、その人物が喜ぶと思うか?」

 アントネッラが、涙ぐむ。ルチアーノは、そんな彼女に冷たく告げた。

「その人物がそなたを選ばなかったのは、その辺りに理由があるのではないかな」

 アントネッラには酷だが仕方ないな、と真純は思った。現に、フィリッポは彼女のせいで貶められた。二十一年前も、アントネッラが見聞きしたことを語っていれば、諸々の真相は、もっと早く明らかになったことだろう。ジュダの運命だって、変わっていたかもしれない。 

「今ひとつ、全貌が見えぬが……。ひとまず、フィリッポ殿に後ろ暗い所は無いということだな」

 取りあえず話を締めくくる必要があると思ったのか、ミケーレ二世が念を押す。フィリッポは、明瞭な口調で答えた。

「はい。私は正統な魔法を用いましたし、ご子息のご遺体についても、正直なところを語りました」
「さようか。……しかしだな」

 ミケーレ二世は、困り顔になった。

「先ほどセアン殿が決定したように、宮廷魔術師は彼が務める。フィリッポ殿の処遇は、いかがしようか……」

 一同は、完全な疑惑の目で王妃を見つめているというのに、国王はまたもや頭を抱えてしまった。すると意外にも、フィリッポはこう答えた。

「国王陛下。私としては、師から教わった魔法が正統と認めていただければ、それで十分。その師のご子息が意欲をお持ちである以上、宮廷魔術師は彼に務めていただきたく存じます」

 すると、ルチアーノも同調した。

「ええ、国王陛下。悩まれる必要はございません。私も、当初から申している通り、ファビオ殿下が新王太子となられるべきと考えております。無実の者たちの嫌疑が晴れれば、それで十分。皆、ご足労ありがとう」

 そう言ってルチアーノは、メリチェラの聖女や馬丁、グレゴリオ、元騎士たちに微笑みかけた。恐縮したように返礼して、彼らが退室する。するとルチアーノは、改めてミケーレ二世の方へ向き直った。

「さて、陛下。私の到着が遅れましたのは、聖女たちを出迎えていたから、だけではございません。実は、クシュニアへ行っておりました」

 クシュニアといえば、パッソーニが不法入国者殺しを行った場所だ、と真純は思い出した。その件を明らかにするのかと思ったが、ルチアーノは意外なことを言い出した。

「ファビオ殿下がお倒れになった日、私はクシュニア領主から急ぎの書簡をもらったのです。ホーセンランドに、不審な動きが見えると。兵器類を増強し、誇示するように軍事訓練を行っている、もしや攻め込んで来るかもしれぬと、たいそう焦っておられるご様子でした。そこですぐに向かい、防御法を指示いたしました。本日、ようやく戻って来た次第です」

 クシュニアといえばホーセンランドと国境を接している地域だ、と真純は思い出した。そんな不穏な事態になっていたのか。道理で五日間、ルチアーノから音沙汰が無かったわけだ。

(でも……。そんな時でも、僕やボネーラさん、フィリッポさんを気に懸けてくれた……)

「そうであったか。ご苦労」

 ミケーレ二世は、安堵したように頷いた。

「いえ、当然の対応をしたまでです。未だ、油断はできませぬが……」

 ルチアーノがそう答えかけたその時、広間の扉がバタンと開いた。衛兵が、血相を変えて走り込んで来る。

「何事だ」

 ミケーレ二世は、眉をひそめた。衛兵が、敬礼する。

「申し訳ございません。ですが、緊急事態です。パッソーニが、自害いたしました」
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