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第十二章 価値観は、それぞれなんです

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「たいそう、時間がかかってしまいましたが」

 フィリッポが、照れくさそうな顔になる。ジュダは、そんな彼を慰めるように語りかけた。

「いやいや、教えられてないんだから、わかるわけ無いって」
「それにしたところで……。それにしても、ルチアーノ殿下が光属性までお持ちだったとは」

 フィリッポは、尊敬の眼差しでルチアーノを見つめた。

「全く気づきませんでした。もはや殿下は、万能でいらっしゃいますな」
「ああ、でも、そういえば」

 真純は、思い出した。かつてモーラントの宿で、ルチアーノが近付いた時、視界がパッと明るくなった気がしたこと。パッソーニの隠し部屋の鍵を捜しに、川へ飛び込んだ時、水面が明るく輝いたこと。その話をすると、三人は興味深げに耳を傾けてくれた。

「なるほど。恐らくは、呪いの効力が弱まるにつれて、属性の片鱗が現れたのでしょう」

 フィリッポが頷く。ルチアーノも、合点したような顔をした。

「そして、昔から月を愛でるのが好きだった。属性と関係していたのかもしれぬな」

 真純がこの世界へ召喚された時も、まばゆいばかりの月光に包まれた。ルチアーノの持つ光属性に呼び寄せられたのかもしれないな、と真純は思った。

「おかげでセバスティアーノ国王を倒せて、本当によかったです。……そういえば国王は、結局どうなったんですか? 影、ずいぶん小さくなったようですが」

 ジュダが尋ねる。ルチアーノは、説明してくれた。

「闇魔法の根源だったあの影に光を当てることで、消失寸前まで追い込んだのだ。あそこまで小さくすれば、もう闇魔法を駆使することはできない。ただ、セバスティアーノ国王の魂が影に移っている以上、完全に消すことはしなかった。そうなれば、彼は死んでしまうからな」

 ジュダが、微妙な表情になる。彼の考えを悟ったのか、ルチアーノはふっと笑った。  

「あえて、生かしたのだ。ホーセンランド国王は、切り札になる……。さて、顔を見に行くとするか」

 ルチアーノが、席を立つ。ジュダは、すかさず尋ねた。

「私も、ご一緒しても?」
「僕も、行きたいです」
「では、私も」

 真純とフィリッポも、口々に言う。四人は、セバスティアーノのいる地下牢へと向かった。

 地下牢ではセバスティアーノが、鎖に繋がれていた。首やその他負傷した箇所には、治療した痕があるが、口には布が噛ませられている。呪文を詠唱させないためだろう。

「布を取ってやれ。ただし、妙な真似をしたら、直ちに喉をかき切るように」

 ルチアーノが、ジュダに命じる。ジュダは、言いつけ通りにすると、セバスティアーノの首筋に剣を突きつけた。セバスティアーノが、自嘲気味に言う。

「アルマンティリアの王太子は、光属性をお持ちだったとはね……。さすがに、恐れ入った。だが、なぜ影を完全に消さなかった? この期に及んで、決着は剣でつける、などとクソ真面目なことを考えていたのか?」
 
「その通り。魔法を戦争に持ち込むのは、邪道だ」

 ルチアーノが、涼しい顔で答える。セバスティアーノは、ハッとせせら笑った。

「お笑い草だな。このような甘い人間が次期国王とは、アルマンティリアも将来が危うかろう」
 
  言ったとたん、セバスティアーノはうっとうめいた。首筋からは、一筋の血が流れている。ジュダは、けろりと言った。

「失礼を。手が滑りました」

 一方ルチアーノは、セバスティアーノの嘲笑に動じること無く、堂々と言い放った。

「同じ言葉をそっくりお返ししよう、セバスティアーノ陛下。今、ホーセンランドで何が起きていると? あなたに代わって国内を任されている、弟君のヴァレンティ-ノ殿下は、著しく統治能力に欠けたお方のようですな。国内はただ今大混乱中、出入国管理もすら杜撰になっていると、ご存じではありませんか?」

 そういえば魔術師たちが言っていたな、と真純は思い出した。

「そのうちに、落ち着くであろうよ。第一、ルチアーノ殿下の知ったことでは無かろう」
「『そのうち』は訪れませんよ」

 セバスティアーノは、怪訝そうな顔をした。

「何だと?」

 ルチアーノは、微笑した。

「あなたが『お笑い草』と表現した、戦争における魔法使用問題。周辺各国は、どうやら私と同じ考えのようですよ。近隣五カ国は皆、戦争において魔法を用いるという禁忌を犯したホーセンランドに、たいそう憤っています。制裁を加えるべき、とね。というわけでアルマンティリアは、それら五カ国と同盟を結びました。私がホーセンランド国王・すなわちあなたの首を取った暁には、ホーセンランドを解体し、六カ国で分割統治することで話はついています」
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