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第四章 真実

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「水瀬さんなら、絶対似合いますよ。……それに麻生さん、前に言ってましたもん。『真凜のドレス姿を見てみたい』って」
 ミカは、後半を小声で言った。そういえば、以前フレンチ店でも彼はそれらしいことを言っていた。
(類人には、何もしてあげられなかったものな。それくらいで、喜んでくれるなら……)
「わかりましたよ。着ましょう」
 そう答えると、神谷は満足そうにうなずいた。
「そうこなくっちゃ。じゃ、ミカちゃんは先に着替えようか」
 神谷は、ミカを試着室に案内すると、真凜の元へ戻ってきた。
「真凜さんは、どれがいい?」
「別にどれでも」
 女装して写真を撮るだけでも、清水の舞台から飛び降りる思いなのだ。この上選ぶなんて、恥ずかしくてできっこない。
「なら、俺がセレクトするよ。……ほら、これなんかどう?」
 神谷が手に取ったのは、フリルやリボンで飾られた、ピンクのドレスだった。内心げっと思うが、どれでもいいと言った手前、文句は言えない。神谷は、真凜の沈黙を肯定と捉えたらしく、さっさと先に立って歩き出した。仕方なく、後に続く。
「ここで着替えて。着替え終わったら、声かけてね」
 試着室は、カーテンで仕切られただけの簡易なスペースだった。ドレスを押し付けられて、真凜は渋々中に入った。
 さて、どうやって着るのだろう。上は全て脱いだ方がよさそうだ。真凜はトランクス一枚になると、ドレスを身に付け始めた。ご丁寧に、ペチコートまで付いている。サイズはあつらえたようにぴったりで、何だか悔しい。
「着れた?」
 不意に、カーテンの向こうから声がした。真凜はドキリとした。どうやら神谷は、すぐ前にいるようだ。
「はい、まあ……。後は紐だけです」
 ドレスは、後ろを紐で結ぶデザインになっていたのだ。真凜はそれに苦戦していた。
「なら、手伝ってあげよう」
 言葉と同時に、突如カーテンが開く。神谷は真凜の姿を見て、好色そうな笑みを浮かべた。
「可愛いじゃん。俺の見立ては当たったな……。でもそのドレス、服の上から羽織るんでよかったのに」
「……そうだったんですか?」
 それなら言ってくれればいいのに、と真凜はむっとした。
「ま、いいや。じゃ、後ろ向いて。紐、結んであげるから」
 神谷は、するりと入り込むと、後ろ手でカーテンを閉めた。狭い試着室は、二人入ればいっぱいだ。至近距離で無遠慮に見つめられ、真凜は決まり悪くなった。
「……あの、一人で着れますから」
「遠慮しないで。男同士なんだから、恥ずかしがることないでしょ?」
 神谷はにやりと笑うと、真凜の肩をつかんで、強引に後ろを向かせた。
「やっぱり、自分でやりますから……」
 言いようのない嫌悪感を覚えて、真凜は彼を振りほどこうとした。だが、間に合わなかった。あっという間に、背後から抱きすくめられる。むき出しの背中に唇を這わされて、真凜は鳥肌が立つのを感じた。 
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