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第三章 信念

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  その日も迎えの車の中に、城の姿は無かった。話しやすい彼が不在だと退屈だ。というより、緊張する。
「お疲れさんでした」
 ビルへ帰り着くと、舎弟たちはうやうやしく優真に挨拶した。降りる準備をしていると、優真は、見覚えのある中年女性が月城組のビルへ入って行くのに気づいた。
(そうだ、あの人は)
 優真は、はっと思い出した。氷室と初めて会った、『わたあめ通り商店街』の喫茶店の店主ではないか。名前は、そう……『ランコントル』、といったっけ。彼女は、ひどく思いつめた顔をしている。一体ここに、何の用だろう。
「立花さん、どうかしました?」
 舎弟たちが、怪訝そうな顔をする。いえ、と言って優真は車から降りた。女店主は一階の事務所に入ったらしく、もう姿は見えなかった。
 気にはなるが、優真は取りあえず三階の氷室の部屋へ帰った。すると、コンコンとノックの音がした。氷室かと思ったが、顔をのぞかせたのは城だった。
「城さん! 今日はいらっしゃらなかったんですね」
 すると城は、思いがけないことを告げた。
「はあ。実は俺、今後立花さんの護衛から外れることになっちまって。昨日のヘマのせいっす」
「ええ!? そんな。助けてくれたじゃないですか」
 優真は眉をひそめたが、城は神妙な顔をしている。
「いやー、当然っすよ。護衛役なんて毎回やってんのに、まだまともに務めらんねえのかって」
「……毎回?」
 優真は、ふと聞きとがめた。
「ハイ。兄貴って、情が厚い人っすから。歴代のイロには、ちゃんと護衛を付けるんす」
(――歴代、か)
 当然だろう、と優真は自分に言い聞かせた。同性の自分から見ても、氷室は惚れ惚れするほどいい男だ。たとえどれほど大勢の女と付き合ってきた、と聞かされても驚きはしない。
(護衛を付けるのも、いつものことなんだ……)
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