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3王立学園に入学//少年期1

3-10 2年生に進級

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 学園入学以来二回目の1の月が来た。新入生の入学式の翌日に進級式があって僕達は二年生になった。リックはAクラス入りを果たしてクラスメイトになったし、僕だって剣術のレベル試験で上級クラス入りした。これはエディとの特訓で両手が使えるようになったというのも大きいけれど、器用さだけでなく力でも負けないように鍛錬した成果だ。

「進級祝いに 今話題のカフェに行かない?」

街に詳しいフィルの提案で三階席まである町のカフェに寄り道することになった。僕達は三階の特等席に案内された。三方に窓があるその部屋は半円形のテーブルが外が良く見えるように設置されていて、案内されたテーブルから窓の外に目を落とすと沢山の人が行き来しているのが見えた。

「こうして見ると、学園の制服って目立つね」
「おう特に二人以上でいると学園の生徒だって一目瞭然だな」
「で スカート短いと平民かなって思うんだ」
「「フィル!」」

いつものように双子に叱られるけれどフィルは負けていない

「でもさ、スカートの長さを変えたのって、前理事達だよ。ネイビー伯爵夫人が言い出したんだよ、ちなみに後夜祭の服装を制服じゃなくてもいい事にしたのも前理事会だよ」
「え?お母様が?」

姉上が驚く、僕もそんなことは初めて知った。学園理事時代に母上は色々と学園内をかき回したみたいだ、運命神を攪乱させる為かな

「そうだよ。これからの学生は個性を出すことが必要だろうって、だからスカートの長さに着目してもいいとボクは思うんだ」

それでもユウとエウがフィルに言い返す

「フィル、個性を出すのはスカートだけでじゃないでしょ?」
「そうよね髪型だって個性よ、ほら例えばあの子たち、ほらピンクの髪の子分かる?」

ピンクの髪?!ユウの指さす先に一番短い長さのスカートを身に着けたピンクブロンドの少女と茶色い髪の少女が連れ立って歩いているのが見えた。リリ?

「あら、ピンクの髪なんて珍しいわね」

姉上が興味深げに窓の外を見ようとする。だから、興味をそらそうとスプーンを落とす。姉上にはリリの存在さえ、知らないままで居て欲しい。
カシャーン!!!
金属のスプーンは何かが割れたかの様な派手な音を立て 僕はフロア中の注目を集める

「ああ、ごめん、落としちゃった」

ちょっと気まずくなった場を和ませようと思ったのかエウがことさら明るい声を出す

「ピンクやブルー、紫の髪が珍しくない国もあるらしいですよ」
「そうなの?」

僕は興味深げに応える。

「南の方の国で、名前なんだったかしら? ユウ覚えてる?」
「エウしっかりしてよ。エウが覚えてないんだもの私も覚えてないわよ、フィルは?」

振られたフィルがちょっと空を見て考える。

「うーんカラヤーナかな?」
「そんな名前だった気がするわ」
「その国へ行ったら ピンク頭が標準なのか?目がちかちかしそうだな」

リックがバチバチと瞬きをするのが可笑しくて僕達は笑った。




領地で問題が起きて領地へ行っているはずの父上が昨日王都に帰ってきた。今朝から登城して城の仕事を片付けてまた数日後には領地へ戻る予定だ。朝夕に父上の顔が見られるのは嬉しいし心強い。
夜、父上の執務室を訪ねる。部屋では二人分のお茶が用意されていて父上が一人で待っていた。

「来る頃だろうと思っていたよ 僕が淹れたんだよ」

いつものようにソファに並んで座る

「父上が?」
「そう 僕が淹れたんだ。あっちのお茶は薄すぎてね……」

父上がわざとらしく不満げな顔をするのが少し可笑しい。

「今日ピンクブロンドの女生徒を見つけました」
「今日が入学式だろう、早いね……」

父上が考えるように顎の下に手をやる

「姉上はまだ見ていないと思います」
「こちらでも調べてはいるんだ。【リリ・ヤナギ(男爵令嬢)ライームの孤児院出身(2歳で預けられる。詳細不明) 7年後ヤナギ男爵家の養女となる】」

父上がいつもの紙をだして広げ読み上げた。聞きながら父上が淹れたお茶を一口飲むけど僕にはちょっと苦いな。

「ライームは王都から東の町。ヤナギ男爵が通りかかった時にたまたま孤児院の庭で洗濯物を干していたリリを見かけた。亡くなった娘に生き写しだとその場で連れ帰り養女にした。今年で男爵家に入ってから5年、それなりの御令嬢に育っていると思うよ」

 それなりの御令嬢?一番短い丈のスカートをはいた彼女はあまり貴族らしいようには見えなかったけど?

「男爵令嬢で良かった。姉上に向うから話しかける事はないでしょうから、こちらが避けていればいいですね」



 しばらくは目立つ行動を控えるように言われているけれどリリの事はやっぱり気になる。フィルに情報収集を頼んでみようかな?そう思いながら姉上がいない機会を伺っているうちに数日が過ぎてしまった。

「ねえフィル、進級式の日にさ、カフェから見たピンクブロンドの子、覚えてる?」

剣術の授業の後の更衣室でフィルと二人になった時を見計らって話しかける

「急にどうしたの?ビイああいう子がタイプなの?」
「え?あの子の事もう何か知っているの?」
「リリ・ヤナギ男爵令嬢。王都から東のライームって町の孤児院出身。8歳の時にヤナギ男爵の養女になって今年1年Cクラスに入学」

フィルはすらすらと父上と同じ情報を口にする。

「フィル 凄いね」
「ふふん。で、ビイはリリに興味があるの?ザベスとはずいぶん違うタイプだけど、どうしたの?」
「え?」

フィルが面白そうな顔でこっちを見ている。どんな理由なら納得してくれるのかな?

「えーと、故郷の話だから、あまり他の人には、言わないで欲しいんだけど」
「ああ、了解」

アーサーとの事もあって、僕が故郷の話だから人に言うなと言っても納得したらしい

「故郷に居た時に、ピンクのウサギが居て、あの髪が、そのピンクのウサギを思い出すんだ」
「ああ アイスブルーはウサギの養殖地だもんね。そっか故郷を思い出すんだね」

余計なコトは言わないで僕は曖昧に頷く

「ビイがザベス以外の女の子に興味を持つなんて初めてだよね?可愛がってたのそのウサギ」

なんで僕が女の子に興味持ってたってハナシになるんだ?なんだかとっても嫌な気分になる。
「なんだ その顔?」

フィルも変な顔をして僕のおでこをつつく

「可愛がってたんだけどさ、そのピンクのウサギ、僕が食べちゃったんだ」
「はあ?」
「今日は居ないなあって思って親に聞いたら、昨日食べたでしょ?って」
「そっかーそうだよね愛玩用の養殖じゃないもんね。そっか子供心に傷ついたんだね」
「ああ」

ちょっと興味はあるけれど近づきたくない、という話にフィルは納得したように頷いている。

「あ、もう教室に急がなくちゃ こんな話している時じゃないよ!」

ちらりと時計を見たフィルに言われて僕たちは慌てて更衣室を出て小走りで教室へ向かう。

「ぼくとしては あまりお勧めしないタイプなんだけどね」
「なんで」

「王立学園に合格したはずなのに、マナーその他が全く出来てない。わざと出来ないふりをしているのかもしれないって思うくらいなんだ。ボクは堅苦しいのとか苦手だけど、貴族を名乗るなら最低限の事はクリアすべきだっとも思ってるんだよね。物珍しさだけで近づかない方がいいよ」

フィルの意外な一面を見た気がした。
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