異世界で吟遊詩人のパトロンになりました

水都(みなと)

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 慌てて身を捩って避けると、 俺が立っていた地面がへこんでいる。 
 もし当たっていたらと考えると、血の気が引いた。

「てめえ、ロストラータ家の穀潰し三男だろう。家の金で男を囲って、貴族様は優雅なもんだな。呑気な風来坊が」

 穀潰しを肯定したくはないが、残念ながら事実だ。
 こいつからノアを攫って、パトロンになれたのも全部家の金のおかげ。この男が自分で働いて稼いだ金を使っていたなら、俺は文句を言える立場にない。

「いくらだ?」
「は……?」
「いくらであいつを買ったんだ。俺だって散々貢いでやってたのに、伯爵様が太客になったら一瞬で用済みとはな」

 男の目が鈍く光り、下卑た笑みを浮かべた。

「毎晩あいつとヤッてんだろ? あいつは金で誰とでも寝るやつだからな。歌なんて歌って腰振って男漁り。乞食の淫売め」

 俺の中の何かが、ピキッと音を立てた。
 文句を言える立場じゃないだの、そんな謙虚な気持ちが崩れ去る。

「ふざけんな」

 自分でも驚くほど低い声が出た。
 ああ? と凄まれるが、縮み上がりそうになる気持ちをグッと堪える。

「俺はあいつの歌に惚れ込んだんだ。身体目当てじゃない」
「歌ぁ? バカ言え。身体目当てじゃなきゃ誰があんな乞食に金なんて払うかよ」
「ノアの歌を聞いてなかったのか? あいつは天才だ。あんな場末の酒場じゃなくて、もっと大きな場所で大勢の人の前で歌うべき人間なんだ」
 
 だから俺があいつの背中を押してやる。広い場所で、ノアに相応しい場所で輝けるように。

「ごちゃごちゃうるせえな。さっさとノアを出しやがれ」

 男が鉄パイプを握り直した。
 
 逃げないと殺されると本能が告げている。 
 でも俺が逃げられても、ノアが見つかったら? ノアがこいつに報復されるかもしれない。それは絶対に避けなければ。

 元はと言えば、俺が勝手にこの男からノアを奪ったんだ。責任は俺が取る必要がある。

 俺はあいつのパトロンなんだから。

 震える足を踏ん張って、男を見上げた。
 
「殴れよ。俺のことは好きなだけ殴っていい。その代わり、これからはノアに近づかないでくれ。頼む」

 男がカッと三角になった目を見開いた。その目を逸らさないよう、強い眼差しで迎え撃つ。

 俺が殴られて手打ちにしてくれるなら、それが一番だ。あいつを守るには、今の俺にはこれしかない。

 はっ、と男が吐き捨てるように笑った。

「いい根性してんじゃねえか!」
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