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 兄さんがシャンパングラスを片手に、みんなの前に立つ。
 俺も主役なのだからと前に押し出され、横に並んだ。

「本日は私のかわいい弟、フレデリックの誕生日だ。皆も知っての通り、最近のフレデリックは見違えるように変わった。皆にはこれからも、温かい目で見守っていてほしい。……フレディ」

 急に兄さんの視線が俺に向けられ、みんなの注目も集まる。
 慌てて背筋を正し、グラスを握り直した。

「皆も私も、そして兄上も、いつでも君を大切に思っている。そして君には、無限の可能性がある。フレディはなんでもできる、なんでも叶う。君はひとりじゃない。それを忘れないでいてほしい」

 また拍手が起こった。嬉しいが恥ずかしすぎる。

 これまではこんな輝かしい希望に満ちた言葉なんて、素直に受け止められなかった。けど今なら、少しだけ信じられる気がする。

「フレデリックの新しい門出に、乾杯!」
「乾杯!」

 兄さんの音頭でグラスが掲げられた。明りに反射して、シャンパンがキラキラと輝く。

 独り引きこもっていた暗闇では見えなかった光。こうしてまた明りの下にいることになるなんて、少し前までは考えもしなかった。

「おめでとうございます。フレディ」
「ありがとう、ノア」

 ノアの銀色の髪はいつも以上に美しく見えて、まるで天の川のようだ。
 誕生日にみんなに囲まれ、隣には推しがいる。これ以上の幸せがあるだろうか。

 しばらく歓談の時間が続き、俺は使用人たち1人1人に感謝を伝えてまわった。

 俺のことを考えてくれる人がこんなにいたのに、なぜあんな孤独に苛まれていたんだろう。悲しみと惨めさと怒りで、完全に周りが見えなくなっていた。
 
 その感情が完全になくなったわけじゃない。それでも――

「皆様、吟遊詩人のノア殿にフレデリック様の誕生日を祝して歌をお贈りいただきます」

 ノーマンが紹介すると、三日月型の竪琴を持ってノアが麗しい足取りで前に出る。

 竪琴を胸に抱えて一礼すると、深々とお辞儀を返したくなる。この月の天上人より自分の身分が上だと、まだしっくりこない。

「フレデリック様、改めましてお誕生日おめでとうございます。本日は私のような旅芸人をお招きいただき、大変な光栄にございます。フレデリック様の未来が希望と幸福に満ち溢れますよう、祈りを込めて」

 豪華なシャンデリア、華美な調度品に赤い絨毯、アンティークな洒落た椅子。
 劇場でこそないが、今のノアにとっては一番の舞台だ。
 
 ゆったりと椅子に腰掛け、胸に抱いた竪琴に指を添える。

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