犬獣人は愛されたいのに

水都(みなと)

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 草の擦れる音が聞こえた。
 誰かがこちらに近づいて来ている。

 掴まれていた手が解かれ、シェルはルーカスに触れていた右手を左手で触った。
 
 揺れる草の中から顔を出したのは、茶の髪をした青年だった。
「こんにちは」とにこやかに声を掛けられ、シェルも挨拶を返す。

「へえ、こんなところがあったんだ。これ、湧水?」

 物珍しそうに池に近づき、湧水を見上げている。
 勢いよく落ちる湧水に触れようとしているのか、爪先立ちになって腕を伸ばした。

 足元がグラリと揺れる。

「危ない!」

 咄嗟に青年に飛びつき服を引っ張ると、勢い余って2人共後ろにひっくり返った。
 シェルの上に乗ってしまった青年が慌てて起き上がる。

「すみません! 怪我はない?」
「は、はい。大丈夫です」
「うっかりしてました。助けてもらって、ありがとうございます」

 まだ幼さを残す顔で青年が頭を掻いた。

「僕はトビー。あなたは犬の獣人ですよね。散歩の途中?」
「はい。僕はシェルといいます」
「キレイな毛並みだ。すごく素敵です」
「そ、そんなことは……」
「僕にも昔、獣人の友達が居たんです。あなたは彼にすごく似てる。懐かしいなぁ」

 ストレートな褒め言葉に、シェルは何も言えず口籠った。
 そして、獣人の友がいたというトビーに興味が湧く。

 自然と尻尾が揺れると、トビーがそれを見て笑った。

「尻尾もふさふさで、友達そっくりだ」
「その犬さんは、そんなに僕に似ているのですか?」
「ええ、すごく」

 トビーの腕がシェルの頭に伸びてきた。そっと撫でられると、犬としての喜びが湧き上がる。

 もっと撫でてほしいと尻尾を振ると、おい、と低い声が飛んで来た。
 振り返ると、ルーカスがリードを持って立っている。無言で首輪にリードを繋がれ、引っ張られた。

「帰るぞ」
「え、でも……」
「シェルさん!」

 呼び止められて振り向くと、トビーが駆け寄ってきた。
 シェルより少し背の低い彼が口を開きかけたが
 
「うちの犬に近づくな」

 ルーカスによって遮られる。
 有無を言わさずリードを引かれ、ルーカスについて行くしかなかった。

 佇んでいるトビーが、じっとこちらを見つめていた。
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