犬獣人は愛されたいのに

水都(みなと)

文字の大きさ
29 / 30

15-1.いつも傍に

しおりを挟む
 翌朝、ルーカスの腕の中で目覚めた。
 ルーカスの寝息が耳にかかり、心地よい。じっと見つめていると、ルーカスが目を覚ました。

「おはようございます、ご主人様」
「……ああ」
「今日は朝ご飯食べますか? 僕、作ってきます」
「まだいいだろ」

 立ち上がり掛けたところを再びベッドに引きずり込まれる。
 駄々っ子のようなルーカスが可愛く見えて、しばらく腕の中に包まれていた。

 朝陽がすっかり昇った頃、ようやくキッチンへ向かった。
 料理ができあがるとルーカスを起こし、2人で食事を摂る。シェルの尻尾はリズミカルに揺れていた。

「お前はメシ食うとき、いつも嬉しそうだな」
「ご主人様と一緒だからですよ。一緒に食べるのは嬉しいです」
「そんなことで……」
「大事なことです」

 そうか、と頷いてルーカスはコーヒーを啜った。しばし何か考えているようだったが、ふいに口を開く。

「……他に何か、俺にして欲しいことはあるか?」
「え」

 照れ隠しのようにルーカスは目を伏せた。思いがけない言葉に、シェルは緩む頬に両手を当てる。
 それから、もじもじと切り出した。

「あ、あの……なでなで、してほしいです」

 まるで子犬のようだと思いながらも、シェルは撫でてもらうことが好きだった。それは犬の性なのか、かつての思い出がそうさせるのか。

 ルーカスは手を伸ばすとシェルの頭に触れた。優しく何度も、白銀の髪と垂れ耳を撫でられる。

「これでいいのか?」
「はいっ! お婆ちゃんに撫でてもらったことを思い出しました」

 小さくて柔らかかった老婦の手、大きく力強いルーカスの手。どちらも大切なご主人の手だ。

「ご主人様とお婆ちゃんは、よく似ていますね」
「俺が?」
「怖いところもあるけど、とっても優しいです」

 子犬の頃、よくはしゃぎすぎて家の中のものを壊し、老婦に叱られた。
 老婦のことを思い出すと悲しくもなるが、今はルーカスが傍にいる。

 ルーカスが自嘲気味に笑った。

「褒めてるつもりか?」
「もももちろんです!」

 慌てるシェルに、ルーカスは席を立ってテーブルを回り込んだ。シェルのすぐ傍で、もう1度頭を撫でる。

「後で散歩にでも行くか」
「お散歩! 嬉しいですっ」

 ちぎれんばかりに尻尾を振った。そんな様子に微笑むと、ルーカスはリビングを出て行った。
 戻ってきたルーカスの手に握られていたのは、白い首輪。

「とりあえず拾っておいたんだが、汚れてるな。買い替えるか」
「いいえ、これがいいです。ご主人様が僕に買ってくれたものだから」

 白い首輪は薄汚れ、銀十字のチャームは取れ掛かっていた。それを大切に見つめるシェルに、ルーカスが目尻を下げる。

 シェルが首を伸ばすと、丁寧に首輪がはめられた。既に身体の一部のようで、とても安心する。

「後で修理に出してやる。散歩の途中に外れたら困るからな」
「ありがとうございます、ご主人様。……あっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

処理中です...