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4.新コンビ始動
しおりを挟むコンビ名を決めた後は、本来だったら事務所に報告だ。
ただ、何の実績もないヨルをいきなり相方として所属させてくれと言っても、すんなりOKとはいかないだろう。
となれば、まずは実績を作らないと。
地下ライブでもなんでも出て、ウケたという結果を出す。そのためにはまず、ネタが必要だ。
ヨルの部屋から帰ったあと、夜中に一気にネタを書き上げた。
キューブでは佐野と2人で書いたネタか、佐野が1人で書いたネタしかなかった。俺1人で書き上げた初めてのネタ。
朝方書き終わり、バイトまで寝ようと思ったのに興奮して眠れなかった。朝日がやけに眩しく感じる。
バイト終わりにすぐヨルを公園に呼び出した。
事務所の稽古場は使えないから、ここでネタ合わせをするしかない。
やって来たヨルにネタ帳を渡して反応を待った。
おもしろいのかつまらないのか、ずっと真顔で表情が読めない。耳も尻尾も立てているが、これがどういう意味なのかはよくわからなかった。
「……どう?」
「僕がボケなんですね」
「俺、ずっとツッコミやってたから。逆がよかった?」
「いえ、これで大丈夫です」
特に不満というわけではないらしい。ヨルがネタ帳を突き返してきた。
「1回やってみましょうか」
「お、おお。セリフ見ながらでいいぞ。俺書きながらだいたい覚えたから」
「僕も覚えたので大丈夫です」
マジかよ。
涼しい顔してすごい自信だな。
俺らの初ネタはコント漫才、美容院。ベタな設定だが、ハイエナなんて飛び道具がいるんだからベタな方がいいだろう。
「俺、美容師になりたいから練習させて」という、これまたベタなやり取りをしてからコントに入る。
客のヨルは「お任せで」と言うくせに「耳には触らないで」「そのブチ模様はよく見えるようにカットして」と注文が多く、俺はそれに振り回されていく……という流れ。
ヨルのやつ、本当に一言一句間違わずにセリフを言ってる。俺の方が怪しい。
「椎名さん、さっきからめちゃくちゃですね。美容師向いてないですよ」
「お前は客に向いてねえよ! いい加減にしろ。どうも、ありがとうございましたー」
誰もいない公園に2人で頭を下げる。
約3分、少し息が上がったのは久しぶりの漫才だからってだけじゃないだろう。
「お前すごいな。ホントにセリフ全部覚えたのか」
「陽向さんのネタがおもしろかったので、夢中で読んだら自然に覚えられました」
おもしろかった? 夢中で?
淡々とした表情からは、そんな熱は感じられない。
「それ、本気で言ってんの?」
「もちろんです。これが漫才なんですね。すごい、ちゃんとおもしろい」
そりゃお前のネタはネタにすらなってなかったからな。
すごく低レベルなところで褒められてる気もするが、「おもしろい」と言われて悪い気はしない。
「獣人の耳のこととか、ハイエナの特徴が組み込まれていて、見た人にハイエナのことを理解してもらうことができますね。単なるステレオタイプのハイエナに書かれていなくて、本当に考えられたネタで」
「分析すんな! 恥ずかしいわ!」
ヨルの耳と尻尾が限界までピンと立ち上がっていた。
ヨルの要望があろうがなかろうが、せっかくの獣人の相方を活かさない手はない。地味だった俺と佐野のコンビに比べて、獣人という花形を手に入れたことは大きい。
「ありがとうございます、陽向さん」
表情を崩さなかったヨルに急に微笑まれ、俺の顔まで緩みそうになる。咳をする振りをして誤魔化した。
「それより、セリフ覚えはいいけど間とか喋り方はめちゃくちゃだったからな。本番までに直せよ」
「そうでしたか。すみません、頑張ります」
また真顔に戻ったヨルは、上着のポケットからメモ帳とペンを取り出した。
「ダメ出し、お願いします」
「おう、よく聞いとけよ」
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