俺の相方はハイエナです

水都(みなと)

文字の大きさ
7 / 34

4.新コンビ始動

しおりを挟む

コンビ名を決めた後は、本来だったら事務所に報告だ。
ただ、何の実績もないヨルをいきなり相方として所属させてくれと言っても、すんなりOKとはいかないだろう。

となれば、まずは実績を作らないと。
地下ライブでもなんでも出て、ウケたという結果を出す。そのためにはまず、ネタが必要だ。

ヨルの部屋から帰ったあと、夜中に一気にネタを書き上げた。
キューブでは佐野と2人で書いたネタか、佐野が1人で書いたネタしかなかった。俺1人で書き上げた初めてのネタ。
朝方書き終わり、バイトまで寝ようと思ったのに興奮して眠れなかった。朝日がやけに眩しく感じる。

バイト終わりにすぐヨルを公園に呼び出した。
事務所の稽古場は使えないから、ここでネタ合わせをするしかない。

やって来たヨルにネタ帳を渡して反応を待った。
おもしろいのかつまらないのか、ずっと真顔で表情が読めない。耳も尻尾も立てているが、これがどういう意味なのかはよくわからなかった。

「……どう?」
「僕がボケなんですね」
「俺、ずっとツッコミやってたから。逆がよかった?」
「いえ、これで大丈夫です」

特に不満というわけではないらしい。ヨルがネタ帳を突き返してきた。

「1回やってみましょうか」
「お、おお。セリフ見ながらでいいぞ。俺書きながらだいたい覚えたから」
「僕も覚えたので大丈夫です」

マジかよ。
涼しい顔してすごい自信だな。

俺らの初ネタはコント漫才、美容院。ベタな設定だが、ハイエナなんて飛び道具がいるんだからベタな方がいいだろう。
「俺、美容師になりたいから練習させて」という、これまたベタなやり取りをしてからコントに入る。
客のヨルは「お任せで」と言うくせに「耳には触らないで」「そのブチ模様はよく見えるようにカットして」と注文が多く、俺はそれに振り回されていく……という流れ。

ヨルのやつ、本当に一言一句間違わずにセリフを言ってる。俺の方が怪しい。

「椎名さん、さっきからめちゃくちゃですね。美容師向いてないですよ」
「お前は客に向いてねえよ!  いい加減にしろ。どうも、ありがとうございましたー」

誰もいない公園に2人で頭を下げる。
約3分、少し息が上がったのは久しぶりの漫才だからってだけじゃないだろう。

「お前すごいな。ホントにセリフ全部覚えたのか」
「陽向さんのネタがおもしろかったので、夢中で読んだら自然に覚えられました」

おもしろかった? 夢中で?
淡々とした表情からは、そんな熱は感じられない。

「それ、本気で言ってんの?」
「もちろんです。これが漫才なんですね。すごい、ちゃんとおもしろい」

そりゃお前のネタはネタにすらなってなかったからな。
すごく低レベルなところで褒められてる気もするが、「おもしろい」と言われて悪い気はしない。

「獣人の耳のこととか、ハイエナの特徴が組み込まれていて、見た人にハイエナのことを理解してもらうことができますね。単なるステレオタイプのハイエナに書かれていなくて、本当に考えられたネタで」
「分析すんな! 恥ずかしいわ!」

ヨルの耳と尻尾が限界までピンと立ち上がっていた。

ヨルの要望があろうがなかろうが、せっかくの獣人の相方を活かさない手はない。地味だった俺と佐野のコンビに比べて、獣人という花形を手に入れたことは大きい。

「ありがとうございます、陽向さん」

表情を崩さなかったヨルに急に微笑まれ、俺の顔まで緩みそうになる。咳をする振りをして誤魔化した。

「それより、セリフ覚えはいいけど間とか喋り方はめちゃくちゃだったからな。本番までに直せよ」
「そうでしたか。すみません、頑張ります」

また真顔に戻ったヨルは、上着のポケットからメモ帳とペンを取り出した。

「ダメ出し、お願いします」
「おう、よく聞いとけよ」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...