俺の相方はハイエナです

水都(みなと)

文字の大きさ
17 / 34

9-3

しおりを挟む

「ああ、くっそ」

コンビニで酒を買えるだけ買って、ムシャクシャしながら家に急ぐ。
空はどんよりと暗い雲に覆われていて、今にも雨が降りそうだ。

同期のやつらも社長も、ヨルがつまらないから反対するならわかる。でもそうじゃない。

ロクにハイエナと絡んだこともないくせに、バカで卑怯で意地汚いってイメージを鵜呑みにしてやがる。
まだ獣人はダメというなら100万歩譲ってわかるが、犬猫ならいいけどハイエナがダメってそりゃもう差別だろ。

……ヨルはいつも、こんな気持ちを味わってるのか。

売れない芸人が、バイト先や合コンでいじられたりバカにされたりすることなんて日常茶飯事だ。社会的信用なんてないに等しい。
けど、同じような売れない芸人はわんさかいる。
愚痴をこぼすことも傷を舐め合うことも、ムカつくやつの悪口を肴に酒を呑むこともある。

ヨルはどうなんだろう。そんな愚痴や弱音を言い合える仲間は、いるんだろうか。

ポケットの中でスマホが震える。見ると、ヨルから着信だった。
一瞬迷って、画面をスライドさせる。

「……ヨル?」
『陽向さん、お疲れさまです。あの……事務所、行ってきたんですか?」
「ああ、さっきな」
『どうでしたか?』
「うちの社長、ホント頭固いわ。話になんねえ」

ため息交じりに語気を荒げると、ヨルにはすべて伝わったらしい。

『そう、ですか……』
「だから俺、事務所辞める」
『えっ!?』
「お前と組むにはそれしかないんだよ。俺もフリーになって、一緒にやってく」

ヨルを誘ったとき、事務所を辞めるまでは考えてなかった。
でも何度もネタ合わせをしたときの楽しさ、舞台に立ったときの高揚感。キューブでいたときに味わえなかったとは言わないが、それとはモノが違った。

ネタをやる度、もっとこいつとネタをやっていきたい、相方でいたいという思いが募っていた。

『考え直してください』
「は……?」
『フリーでやっていくのって、想像以上に大変ですよ』

俺の決意とは裏腹に、ヨルの返事は重かった。

「じゃあ、どうしろって言うんだよ。社長説得しろって?」
『陽向さんには、きっと良い人間の相方が見つかると思います』
「待てよ。それって」
『解散、しましょう』

解散。
この短期間で2度も聞くハメになるとは思わなかった。

「はあ!? 何言ってんだよお前! 本気で言ってんのか!?」
『僕のせいで陽向さんの夢を壊したくないんです。僕とじゃなければ、きっといつか陽向さんは売れます』
「ヨルはどうすんだよ! お前も、売れてハイエナのイメージ変えたいんじゃなかったのか?」
『それは僕の都合ですから……陽向さんまで、巻き込みたくないんです』

ポツリ、と鼻に水が当たった。降ってきた。

「……巻き込まれる覚悟がなかったら、ハイエナと組みたいなんて言うかよ」

俺の名前を呼ぶヨルの声が聞こえたが、構わず通話を切った。

所詮俺は人間だ。獣人の気持ちも立場も、本当のところは俺にはわからない。
どんなに傍に居たくても、その絶対的な境界線を越えることなんてできない。越えさせてはもらえない。

ポツポツと降り始めた雨が、あっという間に本降りになった。傘を持たない通行人たちが雨の中を駆け抜けていく。
俺は指先ひとつ動かす気になれなくて、ただ雨に打たれていた。

激しい雨が俺の身体に打ちつける。
このまま濡れて、溶けて、消えてしまえればいいのに。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...