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10-1.風邪
しおりを挟むずぶ濡れで家に戻って、やけ酒飲んで倒れるように寝てしまった。
……それが完全に悪かった。
翌日、頭の痛みで目を覚ました。
二日酔いか……いや、なんだか寒気がする。珍しくクシャミまで連発して鼻をすすった。
まさか……
熱を計ると、37.8°C。ガッツリ風邪引いた。
それもこれも全部社長の……ヨルのせいだ。
ちょっと事務所で反対されたくらいで解散とか、そんな覚悟で俺と組んだのかよ。俺のネタ好きだとか、組めて嬉しかったとか言ってたくせに。
俺のためにとか聞こえの良いこと言って、どうせ俺と本気で組む気なんてなかったんだろ。
バイト先に休むと連絡して、ベッドに潜り込んだ。
今日は1日寝ていよう。考えるのは全部後まわしだ。
――どれだけ寝たんだろう。
ぼんやりと目を覚ますと、スマホから着信音が聞こえた。
手を伸ばして見ると、表示は『ヨル』。
放り投げようと思った瞬間、切れてしまった。
「なんだよあいつ、今更」
履歴を見ると、何十件もヨルからの着信が残されていた。
「何回掛けてきてんだよ。怖……」
またスマホが鳴りだした。もちろん『ヨル』。
拒否することもできたが、これ以上掛けられてもうっとうしい。
「……もしもし」
『あっ、陽向さん! よかった! 出てくれて!』
大音量のヨルの声が頭に響く。
「うるせえな。何回掛けてきてんだよ」
『すみません……ちゃんとお話、しておきたくて』
「解散の話なら後にしろ。俺今そんなメンタルじゃ……ゲホッ」
立て続けに出る咳が止まらない。
『陽向さん、風邪引いたんですか!?』
「そうだよ。だから話は後で……」
『薬は飲みましたか? あ、でもその前に何か食べないと。食べられるものありますか?』
「……お前、まさか看病しに来るんじゃないだろうな」
『今行きますから、よく寝ててください! スマホいじってちゃダメですよ!』
お前が電話してきたんだろ……とツッコむ前に、電話が切れた。
マジで来る気なのか、あいつ。
宣言通り、ヨルは本当にやって来た。
チャイムを連打されても困るので、仕方なくカギを開けてやる。
「陽向さん! 起きて大丈夫なんですか!?」
「起きなきゃカギ開けられねえだろ」
ヨルはスーパーだか薬局だかのでかいビニール袋を提げていた。
しまった、こいつ爆買いしてくるんだった。
「何か食べられるものありますか? おかゆとうどんとリンゴ買ってきました」
「……おかゆ」
「わかりました! 今作りますね! キッチンお借りします!」
と言って、レトルトのおかゆを持ってレンジに飛んで行く。温めるだけだろ。
ヨルが買ってきたのは、たまごがゆ。病人らしく、ベッドの上で食べた。
風邪引いて誰かにおかゆ用意してもらうとか、実家にいた頃以来だな。
「……ありがとな、わざわざ」
「いえ、僕のせいですから」
「は?」
「僕が急に解散なんて言ったから、陽向さんが体調を崩して……」
ベッドの横に正座したヨルの耳が、力なく垂れていた。
パシッと、耳に当たらないように頭を叩く。
「いたっ、えっ?」
「お前が原因で寝込むわけないだろ。調子乗んな」
「す、すみません……」
さっきまでヨルのせいだと思っていたが、本人に言われるとなんか腹立つ。
「……で、マジで解散すんの?」
「その方が、いいと思うんです」
ヨルが膝の上で拳を握り締めた。
「この前、俺に解散されると思って慌ててたくせに。あれ嘘かよ」
「嘘じゃありません! 本当に僕、ずっと陽向さんとコンビでいたいと思って」
「じゃあなんで、そっちから解散とか言い出してんだよ」
「それは、陽向さんにとってその方が良いと……」
「俺がなんの覚悟もなくハイエナと組んだと思ってんのかよ」
ヨルがグッと押し黙った。
俺は獣人のこともハイエナの事情もロクに知らない。それでも誘ったのは俺だ。
芸人のコンビは夫婦に例えられることもある。ずっと傍にいて、助け合いながら仕事をしていく。だからそれなりに、覚悟を持って相手を決めるものだ。
獣人だろうが人間だろうが、それは関係ない。
「陽向さんは……どうして僕を誘ってくれたんですか?」
まっすぐな視線をかわして、膝に乗せたおかゆの器に目を落とした。
それを説明するには、俺の話をしなきゃならない。
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