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しおりを挟む「……俺、子供の頃は人と話せなくてさ。家では普通に喋れるのに、外では声が出なかった」
親には人見知りが激しいと言われたが、そんなもんじゃなかった気がする。
話せない俺が、まともに友達なんて作れるわけもない。話せないから何も考えないと思われる。もしくは逆に、何か不気味なことを考えてるのかと思われた。
「ずっと誤解されてた。誤解を解きたかったけど話せなくて、理解されなかった。当然だけどな」
でも心の中では、ずっと本当の自分をわかってほしいと叫んでいた。
あの日の、ヨルのように。
「お前のネタを見て、ハイエナの本当の姿を理解してほしいって叫んでるヨルが、昔の自分に重なってさ」
「そう、だったんですね」
熱に浮かされた身体が、余計に熱く感じる。目の前が滲んできた。
こんな感傷的になっているのは、全部風邪のせいだ。
「人間って、人の間って書くだろ。喋れなくて人の間にいられない俺は、人間じゃないのかと思ってた。獣人の話を聞くたびに、俺はそっち側なんじゃないかって。でも、俺は獣人じゃない」
人間でも獣人でもない。白でも黒でもない。
灰色なんだ、俺は。
「陽向さん」
ヨルが俺の肩を抱き寄せた。カランと、膝から器が落ちる。
「悪い。俺とヨルは全然違うよな。人間と獣人……正反対なのに」
「そんなことありません。人間とか獣人とか関係なく、僕と陽向さんは同じです。だから、僕を見つけてくれたんですね」
顔を上げると、ヨルが優しく微笑んでいた。
つ、と頬が濡れるのを感じる。慌ててヨルから顔を背けた。
「だ、だからっ、勝手に解散とか言うなよ。俺の覚悟を台無しにすんな」
「すみません。僕、陽向さんのこと大好きだから、迷惑掛けたくなくて」
「解散される方が迷惑だろうがっ」
叫んだ拍子に嗚咽してしまった。子供みたいに泣く俺の背中を、ヨルにさすられる。
みっともないのに、涙が止まらない。
「……あんなことしておいて、勝手に離れて行くなよ」
ヨルが驚いたように俺の顔を覗き込んだ。
カッとまた体温が上がった気がする。
「あんなことって……キス、ですか?」
「ハッキリ言ってんじゃねえよ!」
引っぱたいてやりたかったが、そんな気力はもうない。
代わりに、ヨルの服を握りしめた。
「キスしてきたのはお前の方だってのに、俺ばっか気にしてバカみてえじゃん」
「す、すみません。僕酔っていて、覚えてなくて」
「じゃあ……もう1回しろよ」
「えっ……」
ヨルが呆けた顔して俺を見つめる。こっちから言ってやってんのに、なんだその顔。
「もう1回してみろよって言ってんだよ。それとも、酔った勢いじゃないとできないのか?」
「そ、そんなことありません! でも、あの、それって……」
あんな風に襲ってきておいて、今更うじうじとなに遠慮してやがる。
「言っとくけど俺、芸人のノリでもキスなんて迫ったことないからな」
「……っ、陽向さん!」
目を閉じると、ヨルの唇が触れた。重なった。熱い。
「ん……ふっ」
少し口を開いたヨルの牙が当たる。舌でなぞってやると、ヨルが俺の背中に腕をまわした。抱きしめられ、遠慮がちに肩を押される。
「ばっか、押し倒してんじゃねえよ」
「だって陽向さんが……」
ふっ、と顔を見合わせて笑った。
獣人なんて、男なんてどうしていいのかと思ってたが、そんなこともう、どうでも良かった。
「陽向さん。僕のこと、好きですか?」
「んなこと聞くなよ」
「ちゃんと言ってほしいんです」
ホントこいつ、変なとこ拘るタイプだよな。
でも言わないと、俺の肩を押さえている手は離れなそうだ。
「……好きだよ」
「陽向さんっ!」
「ちょっ、これ以上はまだ許さねえからな! こっちは病人だぞ!」
「はぁい」
苦笑して、ヨルの手がそっと離れた。
ったく、風邪が悪化したらどうしてくれるんだ。
「そういえば、薬飲んでませんでしたよね?」
それどころじゃなかったからな。
ヨルが薬と白湯を持ってきた。起き上がろうとすると、「そのままにしててください」と止められる。
そのままじゃ飲めないだろと言い返す前に、ヨルが自分で薬を飲んでいた。
「お前が飲んでどうす……っ」
起き上がろうとしたところを押さえつけられ、口づけられた。
ぬるい白湯と薬が流れ込んでくる。
「ん……んぅ」
飲み込めなかった白湯が口の端から伝い落ちる。
ゴクリと薬を飲み込むと、やっとヨルが唇を離した。
「飲めましたか?」
「バッッッカじゃねえの! お前いい加減風邪うつるぞ」
「うつしてください。人にうつした方が治るって言いますよ」
人畜無害な顔でニコニコしてる。その頭の上ではハイエナの耳がピコピコ動き、尻尾はゆったりと揺れていた。
こいつが俺の相方、俺の……恋人か。
思わずため息が出たけど、後悔はしてない。むしろ胸が高鳴ってるのは、なんなんだろうな。
「もう寝る。熱上がりそう」
「一緒に寝ていいですか?」
「調子乗んな」
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