俺の相方はハイエナです

水都(みなと)

文字の大きさ
19 / 34

10-2

しおりを挟む

「……俺、子供の頃は人と話せなくてさ。家では普通に喋れるのに、外では声が出なかった」

親には人見知りが激しいと言われたが、そんなもんじゃなかった気がする。
話せない俺が、まともに友達なんて作れるわけもない。話せないから何も考えないと思われる。もしくは逆に、何か不気味なことを考えてるのかと思われた。

「ずっと誤解されてた。誤解を解きたかったけど話せなくて、理解されなかった。当然だけどな」

でも心の中では、ずっと本当の自分をわかってほしいと叫んでいた。
あの日の、ヨルのように。

「お前のネタを見て、ハイエナの本当の姿を理解してほしいって叫んでるヨルが、昔の自分に重なってさ」
「そう、だったんですね」

熱に浮かされた身体が、余計に熱く感じる。目の前が滲んできた。
こんな感傷的になっているのは、全部風邪のせいだ。

「人間って、人の間って書くだろ。喋れなくて人の間にいられない俺は、人間じゃないのかと思ってた。獣人の話を聞くたびに、俺はそっち側なんじゃないかって。でも、俺は獣人じゃない」

人間でも獣人でもない。白でも黒でもない。
灰色なんだ、俺は。

「陽向さん」

ヨルが俺の肩を抱き寄せた。カランと、膝から器が落ちる。

「悪い。俺とヨルは全然違うよな。人間と獣人……正反対なのに」
「そんなことありません。人間とか獣人とか関係なく、僕と陽向さんは同じです。だから、僕を見つけてくれたんですね」

顔を上げると、ヨルが優しく微笑んでいた。
つ、と頬が濡れるのを感じる。慌ててヨルから顔を背けた。

「だ、だからっ、勝手に解散とか言うなよ。俺の覚悟を台無しにすんな」
「すみません。僕、陽向さんのこと大好きだから、迷惑掛けたくなくて」
「解散される方が迷惑だろうがっ」

叫んだ拍子に嗚咽してしまった。子供みたいに泣く俺の背中を、ヨルにさすられる。
みっともないのに、涙が止まらない。

「……あんなことしておいて、勝手に離れて行くなよ」

ヨルが驚いたように俺の顔を覗き込んだ。
カッとまた体温が上がった気がする。

「あんなことって……キス、ですか?」
「ハッキリ言ってんじゃねえよ!」

引っぱたいてやりたかったが、そんな気力はもうない。
代わりに、ヨルの服を握りしめた。

「キスしてきたのはお前の方だってのに、俺ばっか気にしてバカみてえじゃん」
「す、すみません。僕酔っていて、覚えてなくて」
「じゃあ……もう1回しろよ」
「えっ……」

ヨルが呆けた顔して俺を見つめる。こっちから言ってやってんのに、なんだその顔。

「もう1回してみろよって言ってんだよ。それとも、酔った勢いじゃないとできないのか?」
「そ、そんなことありません! でも、あの、それって……」

あんな風に襲ってきておいて、今更うじうじとなに遠慮してやがる。

「言っとくけど俺、芸人のノリでもキスなんて迫ったことないからな」
「……っ、陽向さん!」

目を閉じると、ヨルの唇が触れた。重なった。熱い。

「ん……ふっ」

少し口を開いたヨルの牙が当たる。舌でなぞってやると、ヨルが俺の背中に腕をまわした。抱きしめられ、遠慮がちに肩を押される。

「ばっか、押し倒してんじゃねえよ」
「だって陽向さんが……」

ふっ、と顔を見合わせて笑った。
獣人なんて、男なんてどうしていいのかと思ってたが、そんなこともう、どうでも良かった。

「陽向さん。僕のこと、好きですか?」
「んなこと聞くなよ」
「ちゃんと言ってほしいんです」

ホントこいつ、変なとこ拘るタイプだよな。
でも言わないと、俺の肩を押さえている手は離れなそうだ。

「……好きだよ」
「陽向さんっ!」
「ちょっ、これ以上はまだ許さねえからな! こっちは病人だぞ!」
「はぁい」

苦笑して、ヨルの手がそっと離れた。
ったく、風邪が悪化したらどうしてくれるんだ。

「そういえば、薬飲んでませんでしたよね?」

それどころじゃなかったからな。
ヨルが薬と白湯を持ってきた。起き上がろうとすると、「そのままにしててください」と止められる。
そのままじゃ飲めないだろと言い返す前に、ヨルが自分で薬を飲んでいた。

「お前が飲んでどうす……っ」

起き上がろうとしたところを押さえつけられ、口づけられた。
ぬるい白湯と薬が流れ込んでくる。

「ん……んぅ」

飲み込めなかった白湯が口の端から伝い落ちる。
ゴクリと薬を飲み込むと、やっとヨルが唇を離した。

「飲めましたか?」
「バッッッカじゃねえの! お前いい加減風邪うつるぞ」
「うつしてください。人にうつした方が治るって言いますよ」

人畜無害な顔でニコニコしてる。その頭の上ではハイエナの耳がピコピコ動き、尻尾はゆったりと揺れていた。

こいつが俺の相方、俺の……恋人か。
思わずため息が出たけど、後悔はしてない。むしろ胸が高鳴ってるのは、なんなんだろうな。

「もう寝る。熱上がりそう」
「一緒に寝ていいですか?」
「調子乗んな」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...