転生先がドッペルゲンガーだった俺。引継ぎないのに勇者の仕事なんて務まりませんよ!?

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終わりゆく日常

自分が背負うもの

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 ブーデリア伯爵に喧嘩を売った後、屋敷に戻る。

 そして、サクラを伴ってレイアの部屋に向かって事情を説明した。



「なるほど、経緯は分かった。ブーデリア卿が報復してくるかもしれないということか」



 いつもと変わらぬ涼し気な表情でレイアは言う。



「そうだ。お前にも迷惑がかかるかもしれない。本当にすまん」



「かまわんさ。それに、事実の報告のみで、謝りに行くということを言わないのは、言葉を撤回する気は無いということだろう?」



 うっと言葉に詰まる。まさにその通りだったからだ。カエデを引き渡すくらいなら俺は一人でも戦うだろう。



「いや、別に責めるつもりはない。むしろ、その逆だ。」



「私は特にこれまで守りたいと思うものは無かった。この屋敷も惰性で維持しているだけだったしな。だが、どうやら私にも守りたいというものができていたらしい。最悪、共に国賊を演じて見せようか、勇者殿」



 レイアはそれまで無表情だったのとは反対に、少しだけ楽しそうな笑みを浮かべながらそう言った。不謹慎だとは思いつつも心が温かくなる。



「ところで、サクラ殿はそれでいいのかな?貴殿は王宮との繋がりが深いだろう」



 レイアはすぐに元の無表情になると、サクラにそう問いかけた。



「かまいません。それこそ、レイア様が戦う意思をお見せくださったので、母と妹もこちらに連れてきたいと思っています。よろしいでしょうか?」



 いつもの微笑みのまま、サクラはそういう。相変わらず機嫌が良さそうな雰囲気だ。



「それはかまわない。だが、最悪ここも戦場になるかもしれんぞ?」



「お気遣いなく。理由は割愛しますが、安心できる場所とは考えていなかったので。

 ……それに、今度は本当の意味で安全な場所を見つけられるかもしれない、そう思っているんです」



 どうゆう意味だろうか?サクラは結構な高給取りらしいし、行ったことはないが、家もそれに応じたところだと思っていたが。あまり治安が良い場所ではないのだろうか。



「…………ふっ。貴方も物好きだな。いや、それは私もか」



「そうですね。お互い同じ穴の狢ということでしょうね」



 女性同士で心通じ合っている。ここら辺を理解できないところが、俺が前世で女性に振られ続けた所以なのだろうかと悲しくなってくる。

 まあ、今はどうでもいい。罪の無い騎士や兵士を殺したいとは思わないが、交渉のテーブルにつかせられる程度にはやらせてもらおう。

 そうやって、俺は戦意を高めつつあった。















 戦う覚悟を決めた直後、カエデが罪の意識を持たないようにぼかしつつ、姉妹に対し、貴族に喧嘩を売ってしまったことを説明した。



 外に出すと相手が攫う可能性があるので、最悪逃げたいと言ったら急いで国外まで送り届けようと思っていたが、屋敷を出ていくつもりは全く無いようだった。

 危機感を感じられていないのかと思い再度念押しでかなりの危険があることを伝えたが、それはわかっていたようだった。



「危ないのは分かっています。でも、勇者様は守ってくれるんですよね?」



「それはそうだが、逃げることもできるんだぞ?」



「いいえ。私達は気にしないでください。今はこの屋敷が我が家だと思っていますから」



「…………分かった。絶対守るよ」



「はい。信じています」



 どうやら俺は何が何でも負けられないらしい。少し前までサラリーマンだったやつが、剣を握って戦う覚悟をする。

 随分遠いところまで来てしまったようだと思った。







 翌日、使用人たちを逃がしつつ、門の前にアインと立って戦に備えていると、たくさんの馬車がこちらへ近づいてくる。

 剣を強く握って魔力を高めるが、どうやら様子がおかしい。



「これは勇者様。ちょうどよかった。こちらは勇者様及びヴァルキア公爵様へのお詫びの品でございます。主人に申し付けられ、お届けに上がりました」



「これは……もしかしてだが、ブーデリア伯爵から?」



「左様でございます。手紙も預かっておりますのでお確認ください。主人も本当は自ら足を運ぶつもりだったようなのですが、足腰に力が入らず立つのもままならないものでして」



 そう言って使用人らしき彼から手紙を受け取る。



「あ…ああ。少し、待ってくれ。今読ませてもらうよ」



 手紙には謝罪の言葉が山のように綴られており、最後に命だけは助けて欲しいというようなことが書いてあった。

 どうやら、怒りよりも、恐怖のが大きかったようだ。



 とりあえず、戦は無さそうだと、謝罪の品を受け取ると馬車の車列は来た道を戻っていった。



 そして、手紙をレイアとサクラにも見せると二人も事情が飲み込めたようだった。



「よかったな、勇者殿」、「よかったですね、勇者様」



「ちょっと肩透かしな気持ちもあるが。俺の早とちりでよかったよ。二人ともありがとう」

















 騒動がひと段落して数日後、使用人も戻りすっかり平常運転となっていた屋敷で俺も元のルーティンに戻っていた。

 しかし、王国の騎士が屋敷を訪れ、レイアに面会を求めてきたらしい。



 俺はもともと名指しされていなかったようだが、レイアが関係ある話だし一緒に聞いていた方が話が早いと言ったらしく呼び出された。

 また、何か厄介事かなー。と思いつつ応接間に向かう。





 既にレイアは中にいるようだった。 

 そして、その前には立派な甲冑を着込んだ騎士、どうやら話を持ってきたのは彼のようだ。



「勇者様。お初にお目にかかります。近衛騎士団所属、一番隊総隊長のテぺス・レイ・デイラインと申します。本日はお忙しい中お時間をお取りいただき誠にありがとうございます」



 剣闘士達の戦いを毎日のように見続けたおかげで、盗賊戦の時はあまりわからなかった強さの判定がだいたいできるようになってきたようだ。

 彼は強い、それが分かった。 



「いや、気にしないでくれ。それで、何の話なんだ?」



 とりあえず、続きを促す。



「はっ!この度、勇者様ご一行に前線への復帰と反攻作戦への従軍要請が下りました。つきましては、出立のご準備をお願い致します」



 あれ?戦力の立て直しとやらは終わったのだろうか?と疑問に思う。

 不思議な顔をしている俺に気づいたのかレイアが補足するように伝えてくる。



「どうやら、ブーデリア伯爵の一件は思ったより影響が大きかったらしい。

 勇者支援を目的として前線に物資やら傭兵戦力やらを大量に送り付けているらしい」



 あー。そうゆうことか。それで余裕ができ、逆に反攻作戦を行うと。

 有難迷惑と言いたいところだが、戦うのが俺の仕事だ。平和が早く訪れるというのなら俺はそれをやらなければいけないだろう。



「わかった。準備をしよう」



「ありがとうございます。詳細はヴァルキア公爵閣下に既に伝えております」



「了解だ。ありがとう」



「はっ!これで失礼いたします」



 騎士が去っていく。そして、それを見送るとレイアの方に向き直った。



「出立か。こういうのはレイアのところに報告が来るのか?」



「いや、やつが私の元部下だっただけだ」



「なるほどな」



「出立自体はフェアリス殿に知らせる必要もあるので、五日後を予定している。それまで準備をしていてくれ」



 あー。そういえばエルフの姫様の事すっかり忘れてた。未だに関係は最悪だから正直憂鬱になってくる。

 王都では優しく接せられた経験ばかりだったから、今の俺にあの冷たい視線が耐えられるのだろうかと若干不安になる。



「わかったよ。みんなに出立の挨拶をしてくる」



「そうしてくれ。ところで、姉妹はどうする?連れて行くのか?」



「まさか。置いていくよ。それに、アインには彼女たちを守るよう伝えようと思ってる」



「そうだな。それがいいだろう。戦場では何が起こるかわからん」



「ああ。そもそも、子供を連れて行くところじゃないだろう」



「そうかもしれんな」



 とりあえず、今日の夜にでも二人には伝えよう。















 その夜。アオイが俺の部屋に来る前に姉妹の部屋を訪れると、出立することを伝えた。



「え!?勇者様どこか行っちゃうの?私達を置いて?」



 アオイがだんだんと泣きだしそうな顔になっていく。

 最初は他人行儀だった彼女も随分懐いてくれたものだなと感慨深くなる。



「ああ。戦場は危ないからな。お前たちを連れていけないんだ」



 アオイは何か言葉を発しようとして、口を固く結ぶと下を向いた。

 我慢強い子だ。これくらいの年なら癇癪を起してもおかしくないだろうに。

 頭を撫で優しく伝える。



「大丈夫だ、みんな無事に帰ると約束するよ。それまで、カエデとアオイ、それにアインでこの家を守っていてくれるかい?」



 アオイは涙を零しそうになりながらも無言で頷く。



「ありがとう。カエデもこっちにおいで」



 カエデは少し躊躇いながらもこちらに寄ってくる。

 妹の手前、この子は絶対に悲しい表情を見せないだろう。

 不自然なほどの無表情が、逆にそれを伝えてくる。



 そして、改めて二人の頭を優しく頭を撫でた。



「俺は帰ってくる、絶対にだ。祭りの時の魔法を見ただろう?勇者は最強だ、誰にも負けない」



 二人は我慢していたようだが、声を出して泣き始めた。

 宥めるように頭を撫でる。既に親の死を経験してきた彼女たちに、泣くなというのは酷だろう。



 どれだけそうしていただろう。

 どうやら泣き疲れたのか二人とも寝てしまったようだ。



 濡れた服の重さに、俺は自分が背負っているものの大きさを感じた。

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