人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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四章 -近づく関係-

蓮見 透 四章④

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 キャラクターを選択する画面に戻ると、そのキャラをいつも使っているのか、彼がチャイナ服を来た小さな女の子を迷わず選んだ。



 短髪でボーイッシュな感じの、幼い顔をした女の子。


 
 そんなつもりは無いのだろうが、私の外見は好みじゃないと言われているような気がして、ムカムカしてくる。
 

「ふーん、誠君はそういうのが好きなんだ。私とは全然違うよね、それはもう全くってくらい」


 不機嫌さも隠さずにそう言うと、彼は呆れるほどに鈍感な台詞を返してきた。


「あーそういうこと。動き早いキャラは好きだよ。けど、キャラタイプの相性とかほとんど関係ないに等しいから安心してくれ」


「そうじゃないんだけど…………もういい、ふん」

 
 彼の中ではまだ私は友達の枠を越えられていないのだと思い知らされてさらに怒りが燃え上がった。

 やっぱり、妹と仲が良すぎて、異性を特に意識していないことが最大の要因な気がする。


「あー、とりあえず始めていいか?」

「……負けないから」



 



 ゲームが始まり、相手の思考を読みながら操作する。

 基本、こういった勝負事でズルはしないが、明らかに経験が違うので今回はそれをさせて貰うことした。


 さすがにまだ無意識に動かせる域には達していないので、操作と心を読むという並列思考はなかなか大変だ。それに、頭を最大限回しているからか、とっても暑い。


 だけど、それでも彼はまだまだ余裕があるようで、その底が全く見えない。本気でやればなんとかなるかもと思っていたけど、考えが甘かったようだ。


 
 そして、第一ラウンドが私の勝利で終わると、未だ涼しい顔をした彼がこちらに声をかけてきた。



「ほんとにやるの初めてか?まさか負けるとはな」



 彼が手加減してくれたのは知っている。当然、それが私を楽しませるためにしたことも。

 だけど、私はもっと彼の深い所に足を踏み入れたいのだ。だったら、本気になってもらわなきゃ困る。



「でも、誠君まだ本気じゃないよね。次は、本気でいいから」
 
「よくわかったな。初めて俺とやるのに」


 心を読んだとは言えないので、少し考え、当たり障りのない台詞を返す。
 

「…………なんとなくね。あんまり悔しそうじゃないから」


 どうやら私は、彼の前では取り繕うのも下手になるようだ。いつもなら平然と誤魔化せるはずのそれを、彼の目を見ながら言うことはできなかった。
 
 







 本当にどうしたら彼の心に近づけるのだろうか。

 ありのままの自分をさらけ出せない私には、それは決して手に入らないものなのだろうか。


 
 私は、本当に、どうしようもないほど誠君のことが好きなのに。彼しかいないと思っているのに。

 彼の中ではまだ私はただの友達のままで、異性としての意識もあまりされていないことがとても悔しかった。



 


 それからのラウンドは最初以上に集中して臨んだ。それこそ、最大限ズルをして、何もかもを出し切る勢いで。

 でも、けっきょく彼に翻弄されるばかりで勝つことはできなかった。




 そして、怒りと、嫉妬、疲れなど様々なものでこんがらがった頭は余分なことを考え出した。

 全てを尽くしても、近づけない。それが私達の距離を表しているのではないか。そんなことを考えてしまう。


「でも、透はやっぱ強いよ。けっこーヒヤッとさせられた」
 

 彼の声が耳に入り、完全に思考が逸れていたことに気づく。いけない、しっかりしないと。


「そう?ぜんぜん顔には出てなかったけど」


 平静を装って何とか言葉を返す。何とか持ち直さなければいけない、そう思って。








「ああ。特にフェイントに一切引っかからないから心でも読まれてるのかと思ったよ」

 
 だけど、次に彼が軽い雰囲気で出した言葉を聞いた時、私の心臓は大きく跳ねた。





 それは、私にとって最も深い所にある闇だった。

 絶対に知られたくなくて、今まで誰にも、それこそお祖母ちゃんにも打ち明けられなかったもの。

 それでいて、誰かが受け入れてくれることをずっと夢見ていたもの。









「……………………もし、心が読めるって言ったら――――誠君はどうする?」





 普段の私なら絶対に言わないそれを、何故かその時の私は口に出した。




「え?」




 そして、すぐに後悔する。彼の顔はとても戸惑った顔をしていたから。

 私は、何をしようとしていたんだろう。今の自分はダメだ。すぐに距離を取らないと何をしてしまうかわからない。






「あははっ、冗談だって!驚いた?」


 痛いほどに手を握り締めて、必死の思いで笑顔を作る。


「あ、ああ。驚いた」


 彼に嘘をついていることに、自分で勝手に傷つきながら。







「ふふっ。私、女優になれるかも。あ、けどそろそろ夕飯の準備始まってもおかしくない時間だよね?ちょっと手伝えることあるか見てきていい?」


 今すぐにここを去らないと、きっと私は致命的なミスをする。そう思ったから、強引に話を進める。



「え?いや、お客さんなんだからそんなんしなくていいんだぞ?」

「ううん。私がしたいから。ダメかな?」

「いや、ダメってわけじゃないけどさ」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

 
 
 トイレから戻ってくる早希ちゃんが視界の端に映るが、気づかなかったフリをして背を向けた。









 そして、階段を少し降り、近くに誰もいないことを確認した私は、壁に寄りかかる。


「切り替えなきゃ。こんな顔見せるわけにはいかないし」


 深呼吸をして気持ちを落ち着けると、私の顔に暗い笑みが浮かんだのが分かった。
 






「ほんとに、何を言おうとしていたんだろう。そんなの、気持ち悪いに決まってるのにね」

 
 煌めく光に誘われて虫は火に近づく。人にとってただ温かいだけのそれは、だけど、自分が触れるにはあまりに強すぎて、瞬く間に身を滅ぼす。

 彼が教えてくれた幸せは、もしかしたら、それに近いのではないかと弱り切った心で私は思った。
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