人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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四章 -近づく関係-

氷室 誠 四章⑤

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 あれは、勘違いだったのだろうか。片手間に早希を相手にしながらぼっーとした頭で考え事をする。


「また負けた~!!もうちょっと手加減してよ~」

「あー、わるい。確かに、こりゃないわ」


 画面にはノーダメージで勝利のポーズを取る俺のキャラ。さすがにちょっとやり過ぎたかもしれない。

 
「まぁ、いいけどさ。どうせ、透ちゃんのことが気になるんでしょ?」


 早希がこちらの顔を下からニタニタした顔で覗き込んでくる。癪に障る顔ではあるが、その通りなので肩を竦めて観念する。


「…………よくわかったな」

「だって、それくらいしか理由ないもん」

「お前に気づかれる日が来るとは、俺も落ちたもんだ」

「ふふふふふ、もう、お兄ちゃんの時代は終わってるのだよ」


 また、アホ話が始まるのかと身構えていると、何故か、早希が少し真面目な顔をして髪をくるくると弄り出した。


「でも、確かに気になるよね。なんていうか、最後の方、なんか透ちゃん変だったし」

「…………そうだったのか?」


 俺が掴みかねていたものの手がかりを、早希はもう見つけているのだろうかと感心する。


「うん。怒ってる?寂しい?必死?なんて言っていいのかよくわかんないんだけど、そんな感じみたいな風なやつ」

「えらくフワフワした回答だな」

「だって、よくわかんないもん。というか、お兄ちゃんもそうだったんでしょ?」

「まぁな」


 彼女が何を思っているのかは分からない。むしろ、ほとんど遊んだこともないのだから、そんなにすぐに相手のことを分かるはずも無い。

 それこそ、仲の良い友達でさえ、その心の内がすべて手に取るように分かるわけでは無いのだし。


「でも、一つだけはっきりしてるよね」

「ふーん、なにが?」

「そりゃ、あれでしょ。透ちゃんは、お兄ちゃんのことが気になっている!!」


 突然立ち上がり、こちらに指を突き付けてくる早希の手をよける。


「人に指さすんじゃありません。それに、そりゃ良いように考えすぎだろ。たぶん、俺の反応が淡白過ぎて距離感が珍しいとかじゃないのか?」
 
「いや、名探偵早希にはお見通しだから。というか、あれで気づかないとかお兄ちゃん鈍すぎ」

「そうか?でもなぁ、正直、男女の関係ってよくわかんないしな」

「はぁ、困った兄を持つと妹は大変だ」

「いや、お前も彼氏とかいないじゃん」

「私は、いいの。漫画の中でモテモテだから」

 
 見てくれはいいのだから、もう少し頭の中をどうにかすればいいのにと考えて気づく。
 それは、早希じゃない誰かだと。


「…………強く生きろよ」

「え?あ、うん。いや、そうじゃなくて!とりあえず、私の見立てでは、透ちゃんはお兄ちゃんのことが気になってるの!好きかまでは分からないけど」

「はいはい。それで?」

「だから、もし透ちゃんが告白してきたらはっきりしなきゃダメだからね。中途半端とか曖昧なのが一番いけないんだから」

「ないない」

「あるかもしれないでしょ!」

「まぁいいや。とりあえず、覚えとく」

「よろしい」


 永遠ループになりそうなので頷いておく。あまり、信じてはいないが。

 だって彼女は交友関係が広いし、俺と特別仲がいいわけでもない。

 隣の席で仲良くなった、普通の友達ってのが正直なところだろう。
 
 それに、隆と健と遊んでいたときにあいつらも話していた。










『そういや、桐谷千佳と狩谷雄哉のグループは夏休み泊りで旅行らしいぜ?蓮見さんも行くらしいし、ほんとリア充って羨ましいよな~』

『マジかよ!?めちゃショックなんだけど。蓮見さんにはそこにいて欲しく無かった……』

『だよな~。学校でほとんど男と話さないから蓮見さんはそこら辺のビッチとは違うと思ってたのに。まぁ、あんだけ可愛きゃ仕方ないか』

『クソ!学校の外では男とかと全然話すとか思えてくるとなんか、あーあって感じだわ』

『僻むな僻むな。男の嫉妬は情けないぞ。なぁ、誠?お前もゲームに集中して無いでなんか言ってやれよ』

『んー?別に、いいじゃないか。誰かに迷惑をかけないなら、彼女のしたいことをすればいい。楽しいのが一番だ』

『かー。この枯れ男には何を言っても無駄か。でも、そうだよな。ほら、隆、俺らも男だけの夏休みを楽しもうぜ!』

『いやだー。俺は、女の子と遊びたいんじゃ~!』

『『ん?ギャルゲーならそこにあるぞ?』』

『喧嘩売ってんのか!!』


 





 

 席は隣だったが、遊んだのは、というか連絡先を交換したのもここ最近だ。

 遊ぶ約束をしたのもたまたまで、むしろ一度も会わずに夏休みを終えていた可能性のが高い。

 だから、彼女が俺を気になっているというのは少し飛躍し過ぎだと思う。

 早とちりして気まずくさせるのも悪いし、早希の言っていたことはテキトーに流しておこう。

 

「ただいまー」



 そんなことを考えていると、どうやら、親父が帰ってきたらしい。



「もうそんな時間か」

「確かにね。そう言われるとお腹空いてきた」

「だな、結局透は手伝ってるのにお前は行かなかったし」

「ふふん。味見し過ぎてお母さんに立ち入り禁止を申し渡されてるからね」

「おい、自慢することじゃないだろうが」


 いつもの日常、いつもの家。透がいるにも関わらず、我が家は何も変わらず回り続けているようだった。
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