輪廻

YUKI

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閉ざされた心

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どんな手を使ったのか・・・祐樹が眠る病室に俺までが通された。
医者は、男に容態を告げている。
俺は傍らで耳を傾ける。
医者が去った後、男は俺に言う

「という事だ。心配ない、すぐ目を覚ますさ」

その行動は、明らかに俺が人間の言葉を理解できるとわかっての行動だ。
何者・・・警戒する俺に、ドアに手をかけ

「その子が気がついたら勝手に帰っていいぞ。支払いは済ませておくよ。犬のお前には無理だろうからな~」

馬鹿にしたような言いように、ぎりぎりと歯を噛み締める。そんな俺を可笑しそうに眺め、男はさっさとドアの外に消えていった。

俺は、男の後を追うべきか迷ったが、今は祐樹の側を離れるべきでないと思った。
俺を踏みとどまらせたのに、男とはまた会うような予感めいたものも感じたからかもしれない。

ベットの上に飛び乗り、祐樹の胸に耳を当てる。
穏やかな鼓動が聞こえる。

いつの間にか眠っていた俺の頭を優しく撫ぜる感触。
目を開ければ、祐樹が俺を見つめてる 。
しかし、優しい仕草はいつもと変わりないのに、表情からは優しさを感じない。いや、優しさだけじゃない、感情が見えない。

「祐樹・・・」
呼びかける俺の声にも反応がない。心も見えない。
「動けるなら俺達の家に帰ろう」
俺の頭を撫ぜるまま、俺の声に答えてはくれない。
仕方なく俺は、ベットを降りドアに向かう。


祐樹は、そんな俺を眼で追うばかり。

俺は、ベットに戻り祐樹の服を銜え、ベットを降りるように促す。
俺の意図を解ったのか、俺の後を無意識にとぼとぼと着いて来る。まるで、ハーメルンの笛吹き男に着いて来る子供のようだ。

家に着いてからは、ちゃんと鍵を開けベットに滑り込んだ。
日常生活は出来そうだ。
祐樹が眠ると、俺の頭に浮かんでくるのは、闇から聞こえた声とあの男の事。
俺は、自分用の出入り口から外に出、まずは公園に向かう。
あの声の主だけでも確かめねば・・・・・。

公園に着いた俺は、さっきは気づかなかった血の匂いに気付く。歩を進めていくごとに匂いは強さを増していく。
植え込みを抜け、大きな木と少しばかりの空間にたどり着いた。

顔を上げた先にあったものは・・・・思わず目を背けてしまうほどの光景だった。

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